線維芽細胞増殖因子 fibroblast growth factors:FGF ←→線維芽細胞
- 血管新生、創傷治癒、胚発生に関係する成長因子の一種
- FGFはヘパリン結合性糖タンパク質で、細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用を持つことがFGFのシグナル伝達に上可欠なことが明らかになっている。
- FGFは広範囲な細胞や組織の増殖や分化の過程において重要な役割を果たしている。
- FGFファミリー:ヒトでは22種類(ヒトFGF15のマウス相同分子種であるFGF19を別種とすれば、23種類)のFGFが同定されており、その全てが構造類似性を持つシグナリング分子として知られている。
- 胎生初期(マウスではE8.5)に神経幹細胞はFGFに反応して、増殖細胞に分化する。
FGFシグナル伝達経路
による分化誘導の機構 参考1
- マウスES細胞の多能性を規定するLIFシグナル伝達経路:
LIFにより活性化される第3の細胞内シグナル伝達経路としてMAPキナーゼ経路
- MAPキナーゼ経路は,マウスES細胞自体が発現するFGF4により刺激されるFGF受容体の細胞内シグナル伝達経路でもある。このMAPキナーゼ経路は多能性の維持に拮抗して分化を誘導する方向にはたらき,Fgf4あるいはErk2の欠損によりこの経路の活性化を阻害すると,マウスES細胞の自己複製は安定化し自発的な分化が抑制される。
- MAPキナーゼはNanogおよびTbx3の核への移行に抑制的にはたらくことが報告されている。しかしこれまでにMAPキナーゼ経路における機能的な標的タンパク質は報告されていない。
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FGF受容体 Fibroblast growth factor receptor:FGFR
- 3つのドメイン:免疫グロブリン様ドメイン、1回膜貫通ヘリックスドメイン、およびチロシンキナーゼ活性を有する細胞内ドメインからなる細胞外リガンドドメインからなる。 これらの受容体は、 線維芽細胞成長因子 、最大22ファミリーのメンバーからなる成長因子リガンドファミリーのメンバーに結合する。
- 哺乳類の線維芽細胞増殖因子受容体ファミリーはFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4の4種類からなる。
- FGFR-1は脳内の広い領域の神経細胞に発現している。
- FGFR-2は脳内ではオリゴデンドロサイト、FGFR-3はアストロサイトに特異的に発現している。
- FGFR-4は視床上部の内側手網核のコリン作動性ニューロンでのみ発現している。
- FGFRの遺伝子異常はがん細胞の増殖、生存、遊走、腫瘍血管新生、薬剤耐性などに重要な役割を果たしていることが知られている。
- 肺がんや乳がん、胃がん、脳腫瘍など様々ながん種でFGFR遺伝子異常が認められることから、がん治療の有望な治療標的として注目されている。
- FGFR遺伝子異常を有する進行・再発固形がんに対する医師主導の治験が行われている。*
- エーザイはFGFR1、2、3を選択的に阻害し、そのシグナルを遮断することにより、FGFRの遺伝子異常を有するがんに対する新たな分子標的治療薬として、E7090の臨床第Ⅰ相試験を実施中である。*
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増殖因子受容体結合タンパク質2 growth factor receptor-bound protein 2:Grb2 参考
- 1990年代、Grb2は他のタンパク質と結合する以外に活性を持たない「アダプタータンパク質」に分類されていた。
- 線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)を介して正常なシグナル伝達を制御するスイッチ
- 増殖因子がFGFRに結合してこの分子経路を活性化する前から、Grb2が細胞の恒常性(安定した状態)をコントロールしている。
- Grb2はFGFRの細胞内のシグナル伝達部位に結合して、FGFRが他の経路を活性化するのを防ぐと同時に、別のタンパク質の力を借りてシグナル伝達を開始するには不十分なレベルのFGFRのリン酸化を可能にしている。このベースラインレベルのリン酸化は、増殖因子が受容体を活性化させなくても生じ、Grb2がFGFRに結合している場合にのみ起きる。
- 増殖因子FGFが受容体に結合して受容体が活性化すると、
・FGFRが、自らを抑制していたGrb2にリン酸基を付加する。
・リン酸化されたGrb2は受容体から離れる。
・内部のシグナル伝達領域からGrb2が離れると、FGFRはその領域の形状を変えることができ、他のタンパク質をリン酸化してシグナル伝達が可能となる。
- LIFシグナルはJak-Stat経路、PI3キナーゼ-Akt経路、Grb2-MAPキナーゼ経路の3つのシグナル伝達機構を活性化し、異なる入力を転写因子ネットワークに与える。
- Grb2は受容体チロシンキナーゼ:RTKシグナル伝達において正の役割を果たすことが従来から知られている。Grb2の負の調節における役割があることの発見は、このアダプターがRTKシグナル伝達の調節において両刃の剣として働くことを示している。
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塩基性線維芽細胞増殖因子 basic fibroblast growth factor:bFGF =FGF2
- 線維芽細胞、血管内皮細胞および上皮細胞の増殖を促進する作用がある。
- 神経組織、下垂体、副腎皮質、胎盤などから単離される。
- 神経分化、生存、再生を誘導すると共に、胚発生や分化を調節することが 知られている。
- 細胞増殖因子、血管新生因子、神経栄養因子 として幅広い機能を有し、ES細胞やiPS細胞を始めとする様々な細胞に対して、増殖活性を示す。
- 遺伝子組み換えbFGを含有する創傷治療薬は肉芽形成促進作用、上皮形成促進作用を有し、熱傷、褥瘡、外傷などによる皮膚欠損や難治性、皮膚潰瘍に使用されている。
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上皮成長因子 Epidermal Growth Factor:EGF ←→上皮細胞 参考1
- 1962年にCohenによってマウス新生仔に注射すると早く目が開き切歯が生えてくる唾液腺抽出物に含まれる活性として報告された。
- その後、胃酸の分泌を抑制する小腸粘膜由来の物質としてウロガストロンという名前で分子として同定された。
- EGFはTGFα、amphiregulin、heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)、betacellulin、neu differentiation factorとともにEGFファミリーを形成している。
- EGFの主要な受容体は、受容体型チロシンキナーゼ・上皮成長因子受容体(EGF receptor、EGFR、HER1、erbB-1とも呼ばれる)である。
ベータセルリン betacellulin:BTC
- 膵β細胞分化誘導因子
- 上皮細胞から分泌される EGF様ドメインを持つサイトカインの一つ
- マウス膵臓β細胞由来細胞株BTC-3から単離されたEGFファミリーの増殖因子
- 細胞膜貫通型タンパク質として産生され、プロセシングにより80アミノ酸の成熟型となる。
- ラット膵臓がん由来AR42J細胞のインスリン産生能を誘導するほか、線維芽細胞、血管平滑筋細胞、網膜色素上皮細胞などの増殖促進作用を示す。
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EGF様ドメイン EGF-like domain ←→EGF様リピート
- EGFドメインは,30〜40アミノ酸からなり、6個の保存されたシステイン残基によって3組のジスルフィド結合をつくることで定義される後生動物に特有なタンパク質の基本モジュールである。
- 免疫グロブリンスーパーファミリー
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色素上皮由来因子 igment Epithelium-Derived Factor:PEDF、SERPINF1 ←→網膜色素上皮層
- 培養網膜色素上皮から同定されたタンパク
- 神経保護因子であるとともに強力な血管新生阻害因子である。
- 色素上皮由来因子は抗血管新生、抗腫瘍活性を有する約50kDaの多機能性分泌タンパク
- SEZのニッチ因子の一つである。
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幹細胞因子 Stem Cell Factor:SCF
- 164アミノ酸からなる分子量18,300のタンパク質
- 造血機能の初期段階で働く造血細胞成長因子
- 骨髄培養において骨髄前駆細胞、赤芽前駆細胞、リンパ前駆細胞の増殖を促進する。
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血管内皮細胞増殖因子 vascular endothelial growth factor:VEGF ←→血管内皮細胞/受容体/ベバシズマブ
- 脈管形成 vasculogenesis および血管新生に関与する増殖因子
- 血管内皮細胞表面にある血管内皮細胞増殖因子受容体にリガンドとして結合し、細胞分裂や遊走、分化を刺激したり、微小血管の血管透過性を亢進させたりする働きをもつが、その他単球・マクロファージの活性化にも関与する。
- 正常な体の血管新生に関わる他、腫瘊の血管形成や転移など、悪性化の過程にも関与している。
- 1983年マウス腹水から血管透過性を亢進させる物質として発見され、1989年ウシ濾胞星状細胞の培養液から45 kDaの糖タンパク質としてVEGF-Aが単離、クローニングされた。
- VEGFファミリー:脈管形成や血管新生、リンパ管新生に関与する増殖因子にはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PlGF(胎盤増殖因子 placental growth factor)-1、PlGF-2の7つがある。
VEGF-A
- VEGF-AはVEGFファミリーの中でもっともよく知られている因子で、血管内皮細胞の増殖/生存、透過性亢進活性や管腔形成促進、内皮細胞からの生理活性物質産生誘導がある。
- VEGF-Aにはスプライシングの違いにより、少なくとも9つのサブタイプがある。
VEGF-A165
- 165アミノ酸残基のVEGF-A
- 生体内でもっとも多く存在し、VEGFR-3を除くVEGF受容体に結合する。
- VEGFファミリーの血管新生作用に深く関わっている。
- ニューロピリン1は、セマフォリン3AおよびVEGF-A165に対する共受容体として作用し、発生および病的血管新生、動脈形成、および血管透過性を制御する。
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VEGF-A121
- 121アミノ酸残基のVEGF-A
- VEGF-A165に対してヘパリン結合領域であるエクソン6-7を欠搊している。
- 細胞外マトリックスのヘパリンとの結合が無く、拡散性がある。
- VEGF-A165受容体の一つであるニューロピリン-1には結合しない。
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VEGF-B
- VEGF-BはVEGFファミリーの一つで、スプライシングの違いにより2つのサブタイプ(VEGF-B167,VEGF-B186)が存在する。
- VEGFR-1及びニューロピリン-1を受容体とし、これらの受容体への結合を介して血管内皮細胞増殖や透過性亢進活性を示す。
- マウスを用いた研究では炎症性関節症における血管形成や虚血性障害脳の保護に、何らかの役割を果たすことが見いだされた。
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VEGF-C,EGF-D
- VEGF-C及びVEGF-DはVEGFファミリーの一つ
- VEGF-CはVEGFR-2、VEGFR-3およびニューロピリン-2を、VEGF-DはVEGFR-2およびVEGFR-3を受容体とする。VEGF-C,-DはVEGFR-3を介してリンパ管新生を誘導する作用があり、がんのリンパ節転移に関与する。
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白血病阻止因子 Leukemia Inhibitory Factor:LIF ←→HIF
- マウス骨髄性白血病細胞株M1の分化を誘導するタンパク質として同定されていたインターロイキン6ファミリーに属するサイトカイン
- 白血病細胞の増殖阻害、血小板の増加、ES細胞に対しては分化抑制や未分化造血系前駆細胞の増殖などに機能することが明らかにされた。
- Austin Smith(ケンブリッジ大学)らのグループは1988年にLIFがマウスES細胞の分化を抑制し、多能性を維持する液性タンパク質として作用することを報告した。
- Smithのグループが2008年により、ES細胞の未分化性維持に関する非常に画期的な論文を発表した。
- マウスの原始外胚葉や胚盤葉上層 には、LIF反応性の未分化神経幹細胞が存在するが、E8.5ではFGF2に反応性の増殖性の神経幹細胞へ分化する。
- マウスのES細胞はLIFの存在下では未分化性を保ちながら自己複製する。
- LIF非存在下では神経、血球、脂肪細胞などの特定の細胞系譜に従って分化する。
- LIFシグナルはJak-Stat経路、PI3キナーゼ-Akt経路、Grb2-MAPキナーゼ経路の3つのシグナル伝達機構を活性化し、異なる入力を転写因子ネットワークに与える。
- LIFはGP130 とLIF受容体βからなるLIF受容体に結合し、細胞において3つのシグナル伝達経路を作動させる。これらのうち,Jak/Stat シグナル経路が機能的に重要であることが,その機能の喪失によりLIFの存在下でマウスES細胞の分化が誘導されるこ、その人為的な活性化によりLIFの非存在下で自己複製が維持されることにより証明された。
- LIFはPI3キナーゼ-Akt経路も活性化するが、Aktの人為的な活性化によってもLIFの非存在下で自己複製は維持されることが報告されている。
- LIF:アストロサイト分化誘導因子
レチノイン酸がLIFと相乗的に働くことで、神経幹細胞のアストロサイト分化を促進する。レチノイン酸はヒストンアセチル化の亢進によるクロマチン構造の脱凝縮を誘導し、LIFによって活性化されたSTAT3のアストロサイト特異的遺伝子Glial fibrillary acidic protein(GFAP)プロモーターへの結合を増強させることにより、神経幹細胞のアストロサイト分化を促進する。
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オンコスタチンM:OSM
- オンコスタンチンMは、ヒトのOSM遺伝子をコードした成長因子である。OSMは、IL-6グループに属するサイトカインであり、構造と機能の両方に置いて白血病阻止因子 :LIFに非常に良く似ている。
- 完全活性を示す196アミノ酸残基のOSMは、活性化単球およびTリンパ球から分泌される主要な型で、28Kdaの糖タンパク質です。
- 胚発生や造血、炎症や中枢神経系発生において重要な役割を果たしており、骨の形成や再吸収に関与している。OSMは内皮細胞由来のIL-6やG-CSF、GM-CSFを含むサイトカインの産生を制御し、細胞増殖の抑制と刺激の両方を行うことができる。OSMはタンパク質GP130を含む細胞表面受容体を介してシグナル伝達を行う。
- クローン病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)などの炎症性腸疾患(IBD)患者由来の炎症を起こした腸組織が、健常な対照群に比べるとサイトカインであるオンコスタチンMとその受容体(OSMR)をずっと多く発現していて、それが組織病理学的な疾患重症度と密接に相関することを示す。
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トランスフォーミング増殖因子 transforming growth factor:TGF ←→GDNF
┏TGF-α
┗TGF-βスーパーファミリー:3つのサブファミリー
┏TGF-βファミリー:TGF-β1〜TGF-β
┣BMPファミリー
┗アクチビンファミリー
- TGF-βスーパーファミリーは細胞の増殖や、分化、アポトーシスの制御などに重要な役割を果たしている。
- 1995年にSmadがタンパク質性転写因子として同定されたことによって、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の古典的な(canonical)シグナル伝達経路が解明された。
- TGF-βや BMPは2種類のセリン-スレオニンキナーゼ型レセプターに結合し、Smadを介して細胞内にシグナルを伝達する。
TGF-β
- TGF-βは多くの細胞の増殖を抑制するほか細胞外マトリックスの産生などに関与している。
- 血小板、胎盤、肺、脾、骨髄、脳、臍帯などから、産生される。
- TGF-βは、主に免疫抑制的に作用する、抗炎症性サイトカイン
- TGF-βは、多くの組織で、細胞外基質タンパクを産生し、分解酵素を抑制し、創傷治癒を促進する。
- TGF-βは、上皮細胞や血管内皮細胞細胞の増殖や新生を促進する。
- TGF-βは、単球からのTNF-α産生、IFN-γの産生を抑制する。
- TGF-βには、TGF-β1〜TGF-β2の5種類が存在する。
- TGF-β1は、免疫担当細胞が産生する。
- TGF-β1は、リンパ球(T細胞やB細胞)の増殖・分化を抑制する。
- TGF-β1は、NK細胞活性を抑制する。その結果、免疫応答、炎症反応、造血が、抑制される。
- Smad:TGF-βスーパーファミリーによる細胞内シグナルの伝達を担う転写因子
- アレルギー疾患の治療薬であるトラニラストはヒスタミン遊離を濃度依存的に抑制する他、TGF-β1産生・放出を濃度依存的に抑制する作用などもある。
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骨形成因子、骨形成タンパク質 Bone Morphogenetic Protein: BMP ←→骨転移
- TGFβスーパーファミリーに属するサイトカイン
- Marshall R. Urist(1914〜2001, 米国の整形外科医)は1965年、塩酸で脱灰した骨基質をラットの皮下に移椊すると同部に異所性の骨形成が誘導されることを明らかにし、1971年にはこのような活性を有する骨基質中のタンパク性因子をBone Morphogenetic Protei: BMPと命吊した。
- 1988年にJohn Wozney(ボストンの Genetics Institute 社)らは、4種類のヒトのBMPのcDNAのクローニングに成功した。BMPは1種類ではなく、類似した構造体が数種類あることが示された。
- その後の研究により、20種類のBMPのcDNAがクローニングされBMP-1 以外のBMPはすべてトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)スーパーファミリーに属することが明らかにされている。
- BMP-2、BMP-4B、MP-6およびBMP(OP-1)は、強力な骨増加作用を示す。BMPの骨増加作用は、未分化間葉系細胞の骨芽細胞への分化を促進することによる。また、BMPは軟骨細胞への分化も促進する。
- 元来は骨や軟骨の形成を促進する因子として見つかったが、BMP様の因子は無脊椎動物にも存在し、腹側の中胚葉の誘導など形態形成に重要な役割を持っていることから、現在では発生学の分野では欠かせない因子となっている。
- BMPの作用は、Ⅰ型およびⅡ型BMP受容体(セリン/スレオニンキナーゼ受容体)が2分子ずつ会合したヘテロ4量体を介して細胞内にシグナルを伝達する。
- II型受容体にBMPが結合すると、I型受容体がリン酸化、活性化される。活性化されたI型受容体は、smad(転写因子)群をリン酸化する。
- Smadは、機能の違いにより、特異型R-Smad(BMPに対するSmad 1.5および8)、共有型Co-Smad (Smad4)、抑制型I-Smad (Smad 6および7)の3種類に分類される。
- BMP I型受容体は、Smad1、Smad5あるいはSmad8のセリン残基をリン酸化する。リン酸化されたSmadのホモ2量体(Smad1/5/8)は、Smad 4とヘテロ3量体を形成して核に移行し、標的遺伝子の発現を調節する。(転写を誘導する。)
- 標的遺伝子の1つとして、骨形成に必須の転写因子Runx 2があり、SmadはRunx 2と協調して骨芽細胞分化を促進する。
- これら2つのサイトカインファミリーによるシグナル伝達経路の下流で活性化されるSTAT3とSmad1は転写共役因子p300を介して複合体を形成することでアストロサイト特異的遺伝子の相乗的な転写活性化を誘導する。
- ユビキチン/プロテアソーム経路によるBMPの作用調節に関与する。Smad 1あるいはSmad 5、またはSCFがSmad 4を分解することによりBMPシグナルを抑制する。
- 血管の形成にも重要な役割を果たす。
- 神経系の初期発生では主としてパターンの形成に関与している。BMPは非神経外胚葉で発現し、それに隣接する領域の神経堤細胞の誘導に関与していて、体幹部神経堤の移動開始を促進する。背側神経管で発現し、神経上皮細胞に背側特異的な遺伝子発現を誘導する。これにより、神経管背側ではそれに対応したサブタイプのニューロンが分化してくることになる。大脳の発生期においても、BMP4/5/7が背側領域に発現し、大脳の背側領域のパターン形成に働いている。発生が進むにつれてBMPの大脳背側での発現領域は狭まり、海馬采や脈絡叢に限局する。
- 成体マウスの海馬においては、神経幹細胞がゆっくりと増殖しながら分化したニューロン(顆粒細胞)を産生しているが、BMPシグナルのレベルを下げてしまうと神経幹細胞が一時的に増殖を早める一方でゆっくり増殖する幹細胞のプールが枯渇してしまい、結果的に産生するニューロンの数が減る。したがって、この場合ではBMPは神経幹細胞の維持をおこなっていると考えられる。
- 上衣細胞はBMPシグナルを阻害するNogginを産生しており、神経幹細胞の維持やニューロン産生の制御に関与している。
- BMPに結合する分泌性タンパク質
ノギン noggin
- β-カテニンなどの作用によって合成されるタンパク質である。β-catは胞胚期においては、胚の予定背側で発現するタンパク質である。ノギンとコーディンは神経を誘導する物質であることが明らかになっている。
- BMPによるシグナル伝達を抑制する。
- 上衣細胞は骨形成因子:BMPシグナルを阻害するNogginを産生していて、神経幹細胞の維持やニューロン産生の制御に関与している。
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コーディン chordin
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- BMPファミリーはBMP-2/4グループ (BMP-2, 4), osteogenic protein-1 (OP-1) グループ (BMP-5, 6, 7, 8), BMP-9/10グループ (BMP-9, 10), GDF-5グループ (GDF-5, 6, 7) から構成される。
増殖分化因子 growth differentiation factor:GDF
- TGF-βスーパーファミリー
- GDF1 is expressed chiefly in the nervous system and functions in left-right patterning and mesoderm induction during embryonic development.
- GDF2 (also known as BMP9) induces and maintains the response embryonic basal forebrain cholinergic neurons (BFCN) have to a neurotransmitter called acetylcholine, and regulates iron metabolism by increasing levels of a protein called hepcidin.
- GDF5 is expressed in the developing central nervous system, with roles in the development of joints and the skeleton, and increasing the survival of neurones that respond to a neurotransmitter called dopamine.
- GDF6 interacts with bone morphogenetic proteins to regulate ectoderm patterning, and controls eye development.
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アクチビン
- 分泌因子群であるTGF βスーパーファミリー、脳内タンパク質
- 下垂体からの卵胞刺激ホルモンの分泌を促進する分子として見つかった。
- 卵胞刺激ホルモン:FSHの合成と分泌を促進し、月経周期を調節する役割を持ったペプチド
- 赤芽球の分化促進や発生時の背側の中胚葉の誘導など、多彩な作用をもったサイトカイン
- インヒビンとは逆の作用を持つ。性腺、下垂体、胎盤や他の臓器で産生される。
- 細胞の分化および増殖を制御する因子として知られている。
- アクチビンはアクチビン受容体に結合することで、そのシグナルを伝える。
- アクチビンは2つのβサブユニットを含み、それらはインヒビン(AまたはB)と同様で、アクチビンA、AB、Bの3種類の形を取ることができる。
- 胚発生において、アクチビンが細胞の役割分化の促進に関わるということが知られる。未分化の胚の細胞群を濃度を変えてアクチビンを投与した培養液で培養すると、様々な器官の細胞へと分化する。
- 海馬の後期LTM(late long-tern potentiation:L-LTM)に伴い発現が誘導されるLTP応答遺伝子のうちの一つがコードするリガンドタンパク質
- アクチビンは分化誘導因子として機能し、海馬のL-LTMの保持やシナプス形態調節の役割を果たす。
- 恐怖記憶の再固定化と消去学習の両方を制御する。 参考1
- 結合したアクチビンーフォリスタチン複合体はアクチビン受容体に結合することができなくなる。
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フォリスタチン follistatin
- アクチビン阻害たんぱく質
- フォリスタチンも細胞から分泌され、アクチビンに特異的に結合する。結合したアクチビンーフォリスタチン複合体はアクチビン受容体に結合することができなくなる。
- フォリスタチンも卵胞刺激ホルモン:FSHを調節する因子として発見されたが、最近生殖領域のみならず細胞の分裂、分化誘導、組織修復などさまざまな生命活動にかかわっていることがわかっている。
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インヒビン inhibin
- 雌では顆粒膜細胞、雄ではセルトリ細胞から分泌される糖タンパク質ホルモンである。
- インヒビンは卵胞刺激ホルモン:FSHによって合成、放出が促進され、血中に放出されたインヒビンはフィードバック作用によって下垂体前葉に直接作用してのFSHの分泌を特異的に抑制する。
- 通常雌ではインヒビンの作用により下垂体からのFSHの放出は抑制されているが、排卵によりインヒビン分泌が抑制されることにより、FSHが急激に放出される。インヒビンの血中濃度はFSHの濃度変化と逆相関し、主席卵胞の発育とともに増加し、発情期に最高値を示し、排卵後に急激に低下する。
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インスリン様成長因子 Insulin-like growth factors:IGF =ソマトメジン(somatomedin) 参考1
(somatomedin:成長ホルモン(=somatotropin)の骨格組織に対する成長作用を仲介(mediate)する作用があることから命名された。)
- 血液中に存在する細胞成長因子の1種
- インスリンと配列が高度に類似したポリペプチド。インスリンとIGFは、50%程度のアミノ酸が同じ配列で、そのため高次構造が酷似している。
- インスリンはCペプチドがプロインスリンという前駆体から切り出されて二本鎖のペプチドがジスルフィド結合(チオール残基同士が結合)しているのに対して、IGFは一本鎖のペプチドで、分子内にジスルフィド結合が存在する。
- 血中でインスリンは遊離型であるのに対して、分泌後IGFは体液中あるいは細胞近傍に存在する6種類の特異的結合タンパク質 (Insulin-like growth factor-binding proteins; IGFBP) に結合して存在する。
- IGF-2は初期の発生に要求される第一の成長因子であると考えられるのに対し、IGF-1の発現は後の段階でみられる。
インスリン様成長因子1:IGF-1 =ソマトメジンC
- 70個のアミノ酸からなるポリペプチド
- 肝臓が血中のホルモンの主な生産器官であるが、多くの臓器で作られる
- 骨及び骨以外の体細胞における成長ホルモンGHの成長促進作用を仲介する因子のひとつである。
- 成長ホルモンやインスリン、あるいは栄養状態に反応して産生・分泌が調節される。
- 人体のほとんどの細胞、特に筋肉、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺の細胞はIGF-1の影響を受ける。
- タンパク質同化作用
- インスリン様効果に加え、細胞成長(特に神経細胞)と発達そして同様に細胞DNA合成を調節する。
- ソマトメジンC の分泌はGHに依存し、種々の器官で産生される。血中では大部分が結合タンパクと結合していて、GHに比べ血中半減期が長い。
- 廃用症候群にも関与する。
- 神経損傷後に脊髄に出現するCDllc陽性のミクログリアにおけるIGF1の発現は、神経障害性疼痛からの自然回復に関与する。
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インスリン様成長因子-II:IGF-II =ソマトメジンA
- 初期の発生に要求される第一の成長因子である。脳、肝臓、腎臓の発生と機能に関しても必要である。
- IGF-2は哺乳類では脳、腎臓、膵臓及び筋肉から分泌される。
- IGF-1よりも特異的な作用をし、大人ではインスリンの600倊の濃度でみられる。
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ビトロネクチン =ソマトメジンB |
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毛様体神経栄養因子 ciliary neurotrophic factor:CNTF 参考1
- 毛様体神経栄養因子はニワトリ胚抽出物に含まれる、毛様体ニューロンの生存を維持する栄養因子として発見された。その後、様々なニューロンに対して栄養因子活性を持つ分子として知られるようになった。また、神経幹細胞に対して増殖促進活性が認められる。CNTFは障害によって活性化される因子として知られ、様々な病態で分泌されることがわかっている。
- CNTFはlong-chain α-helix-bundleサイトカインに分類され、gp130を共通の受容体複合体サブユニットとして使うインターロイキン-6(IL-6)、IL-11、白血球遊走阻止因子:LIF、 oncostatin Mと同じサブファミリーに属する。
- CNTFはシュワン細胞やオリゴデンドロサイトに発現がみられ、神経障害などの際に発現が上昇する。一方、CNTFRαは神経系に広範囲に発現している。CNTFは過度な光刺激などで障害された網膜桿体細胞や錐体細胞の再生を促す活性がある。また網膜神経節細胞に対しても、栄養因子活性を持ち、視神経の断裂によって生じる細胞死を抑制し、軸索の再生と伸長を助ける。
- ニューロスフェアの培養実験によって、CNTFやLIFが神経幹細胞の維持と増殖の促進をおこなう活性があることが示されている。このうち、CNTFのノックアウトマウスでは、海馬の歯状回や大脳側脳室といった生後脳で神経新生がおきる場所において神経幹細胞や中間増殖細胞の数の減少が見られる。
- 黒質線条体のドーパミン産生ニューロンが大脳側脳室の神経前駆細胞の増殖を制御しており、ドーパミンの欠乏や神経切断によって増殖が低下する。このことはパーキンソン病患者でも確認されており、ドーパミンと神経新生の関連が示唆されている。ドーパミンD2受容体の選択的アゴニストであるキンピロールは側脳室や歯状回における細胞増殖を促進するが、この効果がCNTFのノックアウトマウスでは認められない。
- アミノ末端に分泌やグリコシル化のコンセンサス配列を持っておらず、どのような機構で細胞外に分泌されるのか正確なところはわかっていない。CNTFα受容体(CNTFRα)、白血球遊走阻止因子β受容体(LIFRβ)とgp130の複合体を介してヤーヌスキナーゼ /signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)経路を活性化する。
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