■基礎の基礎

│視覚、目│　←→視覚失認/嗅覚

●網膜

• 網膜は眼球の周辺に位置する薄いシート状の組織で、明確な層構造が形成されている。
• 網膜は単に視覚の感覚受容細胞である視細胞があるだけでなく、ネットワークが形成されている。
• 眼球は脳の前方が突出してできたにもかかわらず、視覚野は脳の後方にある。
  
  →網膜の層構造　→網膜神経幹細胞

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○網膜の層構造　←→大脳皮質/嗅球/

• 網膜は、組織学的に10層に分けられる。
• 眼杯内板由来で、色素をもたない神経網膜（＝感覚網膜）と、眼杯外板由来の網膜色素上皮層があり、網膜色素上皮層のさらに外層に脈絡膜と強膜が覆っている。
• 神経網膜は内側から、内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層が並んでいる。
  
  

  光 ↓

  神経網膜 neural retina＝感覚網膜 sensory retina いわゆる網膜、眼杯内板由来の色素をもたない層 　 内境界膜 inner limiting membrane 薄膜状：ミュラー細胞の内側端が広がって結合してつくる薄板 　 神経線維層 retinal nerve fiber layer：RNFL 視床への出力細胞である神経節細胞の軸索突起（＝視神系）が後極に向かって走行する層 網膜中心動静脈も走行 　 神経節細胞層 ganglion cell layer：GCL 神経節細胞の細胞体が局在する。１〜数層 　 内網状層 inner plexiform laye：IPL 双極細胞と神経節細胞がシナプスを形成し、アマクリン細胞も介在する。 　 内顆粒層 inner nuclear layer：INL 双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞の細胞体が局在する。 ミュラー細胞の核が局在する。 　 外網状層 outer plexiform layer：OPL 視細胞が双極細胞にシナプス接続し、水平細胞も介在する。 　 外顆粒層 outer nuclear layer：ONL 視細胞の細胞体が局在する。 　 外境界膜 external limiting membrance, outer limiting layer of retina 視細胞の内節とミュラー細胞の外側端との間の接着複合体が並ぶ層 薄膜状：連続する線にみえる。 　 視細胞層 photoreceptor layer：PHL 感覚受容細胞である視細胞の外節があり、光刺激を電気信号に変換する。

  網膜色素上皮層 retinal pigment epithelium：RPE　←→hTERT-RPE1細胞/色素上皮由来因子：PEDF/上皮細胞 脈絡膜に接する最外層 眼杯外板由来：発生中の脳胞に由来する眼胞から眼杯を経て形成される。 メラニン色素を含んだ単層立方上皮 単層の角柱状の色素細胞（メラニンの一種フスチンを含む。） 神経網膜の外側に接して覆い、神経網膜の多層構造の発生や機能維持に必須である。 血管系と網膜との隔壁であるばかりでなく、視細胞外節を概日リズムをもって貪食する。 光が乱反射するのを防ぐ。

  脈絡膜

  強膜

  
  
  
• 神経網膜の光が届きやすい部位に、出力細胞である神経節細胞があり、最下層に感覚受容細胞である視細胞が位置するという、おかしな配列である。
• 網膜には縦方向と横方向の情報処理機構がある。

  神経節細胞（ON、OFF型）
  ↑	↑
  ↑	アマクリン細胞
  ↑	↑
  双極細胞（ON、OFF型）		水平細胞
  	↑	↑↓
  視細胞（錐体、杆体）

  
  
  

  視細胞 photoreceptor cell 視細胞は視覚の感覚受容細胞 photoreceptorであるにもかかわらず、網膜の深層に局在する。 外界から網膜に照射された光は、内境界膜側から網膜層を透過し、視細胞層にある錐体・杆体視細胞に到達する。 視細胞は網膜の視細胞層から外網状層にかけて存在し、光刺激を吸収し電気信号へと変換する役割を持つ。 視細胞は暗時に脱分極し、光刺激に反応して過分極応答（OFF応答）する。 視細胞はパラニューロンであるが、脱分極しても活動電位を出さずに神経伝達物質としてグルタミン酸を放出する。 視細胞には、明所で機能する錐体 (cone) と、暗所で機能する桿体（rod）の2種類がある。錐体には光吸収の波長特性が異なるものが存在する。 視細胞の細胞マーカー：Rhodopsin+/Recoverin+

  水平細胞 horizontal cell 抑制性介在ニューロン 双極細胞の中心周辺で拮抗する受容野形成に関与する。 一つの視細胞は中心窩では一つの双極細胞とシナプス接続し、複数の水平細胞とシナプス接続している。 視細胞から放出されるグルタミン酸を受けると、水平細胞は視細胞に対してGABAを放出する。 水平細胞の細胞マーカー：Calbindin+/calretinin-

  双極細胞 bipolar cell　←→双極性細胞 双極細胞は視細胞と同様、活動電位を出さずに神経伝達物質を放出する。 双極細胞にはON型とOFF型がある。 双極細胞は中心と周辺で拮抗する受容野を持つので、ON中心型はON中心OFF周辺型、OFF中心型はOFF中心ON周辺となる。 ON中心OFF周辺型双極細胞 ON-center and OFF-surround bipolar cell ON中心型錐体双極細胞とON中心型杆体双極細胞とがある。 ON中心型双極細胞には代謝型受容体mGluRがあるので、視細胞から放出されるグルタミン酸を受けて暗時に過分極している。 ON中心型双極細胞は暗時に視細胞から放出されるグルタミン酸を受けて過分極していて、明時に脱分極応答（ON応答）する。 OFF中心ON周辺型双極細胞 OFF--center and ON-surround bipolar cell OFF中心型錐体双極細胞はあるが、OFF中心型杆体双極細胞はない。 OFF型双極細胞にはAMPA/KA型グルタミン酸受容体があるので、暗時にグルタミン酸を受けて脱分極している。 OFF中心型双極細胞は視細胞と同様、暗時に視細胞から放出されるグルタミン酸を受けて脱分極し、明時にグルタミン酸の放出が減少すると、過分極応答（OFF応答）する。 緑内障：網膜神経節細胞が眼圧の上昇により障害され、やがては失明に至る重篤な疾患 NMDA誘発網膜障害モデル↓：NMDAを眼内投与すると、神経節細胞とアマクリン細胞が24時間後をピークに経時的にアポトーシスが生じるが、その後回復する。 双極細胞の細胞マーカー：Chx10+/Pax-

  アマクリン細胞 amacrine cell 単極性ニューロン 杆体双極細胞からの光情報は、AII(A2)アマクリン細胞を介することで、神経節細胞へ伝えられる。 ON中心型杆体双極細胞から放出されるグルタミン酸がAIIアマクリン細胞を脱分極させると、AIIアマクリン細胞とギャップ結合があるON型中心型神経節細胞の活動電位発射頻度は増加し、OFF中心型神経節細胞に対してはグリシンを放出することによって、OFF中心型神経節細胞を抑制する。 アマクリン細胞のマーカー：HPC-1から神経節細胞 アマクリン細胞と神経節細胞はPaxで染まる。 アマクリン細胞の細胞マーカー：Pax+/calretinin+

  神経節細胞 ganglion cell 視床外側膝状体に投射するニューロン 網膜で唯一活動電位を出すニューロン 神経節細胞の軸索線維は視神経である。 神経節細胞にはON型とOFF型がある。 神経節細胞は双極細胞と同様に中心と周辺で拮抗する受容野を持つので、ON型はON中心OFF周辺型、OFF型はOFF中心ON周辺となる。 ON中心OFF周辺型双極細胞 ON-center and OFF-surround ganglion cell ON型神経節細胞はON型双極細胞の入力を受ける。 ON型神経節細胞は明時に脱分極応答（ON応答）し、スパイク発射を増加させる。 OFF中心ON周辺型双極細胞 OFF-center and ON-surround ganglion cell OFF型神経節細胞はOFF型双極細胞の入力を受ける。 OFF型双極細胞は脱分極応答（OFF応答）し、スパイク発射が減少する。 アマクリン細胞と神経節細胞はPaxで染まる。 神経節細胞細胞の細胞マーカー：Brn3+/Pax+/calretinin+

  
  

  視神経グリア細胞　←→グリア ミュラー細胞 Müller cell 網膜特異的グリア細胞 網膜の支柱をなすような形で存在し、伝達物質であるグルタミン酸の代謝など網膜細胞やその機能の維持に関与している。 網膜のほぼ全域に分布し、内境界膜から視細胞層までの広範囲をカバーする細胞 変性網膜の修復機能、神経細胞を標的とする神経栄養因子の分泌機能、血管新生作用、神経伝達物質の代謝などの機能がある。 糖尿病網膜症で血糖が高い状態が長く続くと、網膜の細い血管は少しずつ損傷を受け、変形したりつまったりする。血管がつまると網膜のすみずみまで酸素が行き渡らなくなり、網膜が酸欠状態に陥り、その結果として新しい血管（新生血管）を生やして酸素不足を補おうとする。新生血管はもろいために容易に出血を起こしやすい。また、出血すると網膜にかさぶたのような膜（増殖組織）が張ってきて、これが原因で網膜剥離を起こすことがある。 近年幹細胞としての性質が注目されている。　←→NMDA誘発網膜障害モデル ミュラー細胞の細胞マーカー：CRALBP+ サイクリンD3は網膜ではミュラー細胞に限局 視神経アストロサイト optic nerve astrocytes　←→アストロサイト　参考1 脳及び脊髄アストロサイトは、各種刺激に応じてATPを放出することにより、グリア自身及び周辺神経細胞及び血流量をコントロールしている。 Martin C. Raffらが1980年代初頭にラットの網膜神経を用いて、アストロサイトを分類した。 TypeⅠアストロサイト　←→TypeⅠアストロサイト embryonic day 16 (E16)に出現する。 オリゴデンドロサイト　←→オリゴデンドロサイト embryonic day 21 (E21)に出現する。 oligodendrocytesとTypeⅡアストロサイトはbipotential O-2Aprogenitor cellから発達する。 TypeⅡアストロサイト　←→TypeⅡアストロサイト postnatal days 7〜10に出現する。 A2B5陽性でGFAPにもGalCにも陽性を示さない段階のもの ラット視束から初めて見いだされたグリア芽細胞であり、in vitroの特定の培養条件下においてオリゴデンドロサイトとTypeⅡアストロサイトのいずれにも分化し得ることから、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトに共通する前駆細胞の存在が示唆された。

○網膜幹細胞・網膜前駆細胞・網膜神経幹細胞　←→神経幹細胞様細胞　参考1/2

網膜幹細胞 retinal stem cell：RSC　←→ 網膜前駆細胞/ 神経幹細胞　　参考1 すべての網膜細胞に分化でき、自己複製できる細胞 RSCs/RPCsの特異的な分子マーカーは見つかっておらず、神経幹細胞や神経前駆細胞に存在する分子と同様なものや、分化した網膜細胞にも存在する分子である。 網膜幹細胞・前駆細胞の分子マーカー　これらの分子の複数の発現でもって網膜幹細胞・前駆細胞と同定する。　参考1 分子名 他の発現細胞 Pax6 神経節細胞、アマクリン細胞 Sox2 Müllerグリア細胞、網膜アストロサイト nestin グリア細胞、創傷時、内皮細胞、周皮細胞、腫瘍細胞 vimentin グリア細胞、創傷時 musashi 神経幹細胞 Chx10 (Vsx2) 双極細胞 Derek van der Kooyら ciliary epithelial cell　毛様体上皮細胞 毛様体との境界部分　Ciliary Marginal Zone：CMZに渡って未分化状態と増殖能を保つ幹細胞が存在する。 網膜辺縁部に近接する網膜先端部ではWnt2bが発現しており、網膜辺縁部の幹細胞のもつ増殖能・未分化性を維持している。 網膜共通の前駆細胞のうち、細胞分裂を終了し、視細胞の系譜を選択したものはOtx2を発現する。Otx2はCrxの発現を誘導し、視細胞へと分化する。遺伝子操作により、細胞運命決定前の前駆細胞からOtx2の発現を消失させると、視細胞の前駆細胞は細細胞運命をアマクリン細胞細胞に変更し、一部は細胞死に至る。　参考1 NMDA誘発網膜障害モデル←→　NMDA受容体　参考1/2/3*/4 NMDAを眼内投与すると、神経節細胞とアマクリン細胞が24時間後をピークに経時的にアポトーシスが生じるが、その後回復する。 神経節細胞とアマクリン細胞のマーカーであるHuとPax6が減少 回復は網膜幹細胞の網様体上皮細胞由来か、それともミュラー細胞によるのか？ 魚類や両生類では網膜が障害されると網膜色素上皮層や網膜に内在する幹細胞から網膜細胞が再生し、もとどおりに修復されることが知られていた。 鳥類でもミュラー細胞から網膜神経細胞が生み出されることが報告されているが、哺乳類ではこの現象はおこらないと考えられてきた。 理研の高橋政代博士らは2001年に網膜を生体内から取り出して器官培養することによって成体のラットでもミュラー細胞から網膜神経細胞が生み出されることを示した。　参考 網膜が障害されるとミュラー細胞が分裂を開始し、Pax6やnestinなどのマーカータンパクを発現するようになり、脱分化して神経前駆細胞のような状態となったと考えられた。 分裂したミュラー細胞はその後、本来ミュラー細胞の細胞体が位置する内顆粒層から徐々に他の層へと移動する。特に視細胞が障害されるモデルでは視細胞の存在する外顆粒層へと多数の分裂後の細胞が移動する。 そして、その後nestinなどの分化誘導因子を添加すると、一部の細胞は視細胞のマーカータンパクであるロドプシンやCrxを発現するようになった。つまり、網膜の障害時のミュラー細胞は内在性幹細胞の役割を持ち、分裂増殖したミュラー細胞が移動し、新たな視細胞を生み出す可能性が示された。

網膜前駆細胞 retinal progenitor cells：RPCs　←→網膜幹細胞/神経前駆細胞 細胞分裂能があり、ある限られた種類の網膜細胞に分化できる細胞 細胞周期レギュレーターのサイクリンD1は胚性網膜前駆細胞で発現し、細胞周期率と神経原性出力を調節する。 サイクリンD3は、通常ミュラーグリアに限局




網膜芽細胞腫　retinoblastoma：RB　←→神経芽腫　参考1 眼球内に発生する悪性腫瘍 世界で毎年約8000人の子どもが診断される、小児の網膜に発生するまれにみられるがんの1つである。 大部分は2〜3歳頃までにみられる小児がんであり、胎生期網膜にみられる未分化な網膜芽細胞から発生する。 Rb遺伝子は網膜芽細胞腫の原因遺伝子として初めて発見された。 N-myc サイクリンD3はRb遺伝子と相互作用し、Rbのリン酸化に関与している 錐体前駆細胞のような形質転換感受性網膜細胞の網膜芽細胞腫遺伝子（RB1）の両アレルが変異すると網膜芽細胞腫が発生する。




小眼球症 microphthalmia　←→小眼球症関連転写因子/Sey Chx10 の変異は小眼球症による先天性失明の原因となる。

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