アストロサイト(astrocyte)=アストログリア(astroglia)=星状神経膠細胞
=マクログリア(macroglia)=大神経膠細胞 ←→前駆細胞/視神経アストロサイト/分化制御因子 参考1
- 脳と脊髄に特異的な星型のグリア細胞
星を意味するギリシャ語「astron」+細胞を意味するギリシャ語「cyte」
- Mihály von Lenhossék*(ミカエル・レンホサック 1863/8/28〜1937/1/26 ハンガリーの組織学者) が1895年に命名した。
- 灰白質で最も数の多いグリア細胞、灰白質に典型的なアストロサイト:原形質アストロサイト
- オリゴデンドロサイトが希突起膠細胞と呼ばれるのに対し、Cajalはアストロサイトを突起を持つ細胞として観察していた。
- アストロサイトの形状は様々で、アメーバ状の形をしたタイプ I アストロサイトや線維状の形態をとるタイプ II アストロサイトの他、小脳のベルクマングリア Bergmann glia や網膜に存在するミュラー細胞 もアストロサイトと同種の細胞と考えられている。
幹突起 ←→神経突起
- アストロサイトは約1.15μm径の数十本の「突起」をほぼ全方向性に出している。
- この突起は中間径フィラメントであるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)によって構造的に支えられている。
- GFAPが発現する突起の部分はGFAPを発現する「幹突起」と呼ばれることがある。
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微細突起、末梢突起 perisynaptic astrocyte processes:PAP 参考1
- 幹突起からさらに分岐した突起部
- PAPでシナプスや樹状突起に触れ、神経細胞との相互作用を行う。PAPは細胞膜の80%を占める。 PAPは太さ1μm未満や、50nm未満と定義されることもある。
- PAPの少し膨らんだ部分や分岐する箇所にはミトコンドリアがあり、細胞体から離れた箇所においてもmGluR関連代謝等の機能を支えていると考えられている。
- 蛍光色素を注入してアストロサイト原形質全体を可視化すると、その幹突起からさらに薄板状(lamellae)、さらにそこから, 足糸状(fiopodia)の微細突起が無数に分岐し、肺胞のように雲状に微細突起が空間を埋めている。
- 微細突起の驚異的な構造上の特徴、特にシナプス周囲を埋め尽くしている微細突起の様態は、アストロサイトの機能の本質が細胞体やGFAPを発現する幹突起ではなく、むしろシナプス周囲のニューロン突起と直接、あるいは近傍で接触する微細突起にこそあるのではないかと予測させる。
- このような構造的・機能的関係に基づき、シナプスは①シナプス前終末,②シナプス後要素,および、③それらを取り囲むグリア細胞(その本態はアストロサイト微細突起)の3者からなるとする「三者間シナプス」という概念が提唱された。
アストロサイトは三者間シナプスにおいて細胞外環境維持の役割を果たす。
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アストロサイトは三者間シナプスにおいて栄養供給の役割を果たす。
乳酸シャトル仮説
- 神経活動が亢進した領域のアストロサイトが血中のグルコースを取り込み、代謝産物である乳酸をエネルギー源として神経細胞に供給する。
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アストロサイトからニューロンへの乳酸の供給は海馬に依存的な長期記憶の形成に必須である 参考1/2
- 記憶形成時にアストロサイトにおいてグリコーゲンから産生された乳酸のニューロンへの供給が長期記憶の形成に必須である。
- グリコーゲン分解酵素阻害剤の海馬への直接の投与は長期記憶の形成変、長期増強変、さらに記憶形成に関与するタンパク質の発現やリン酸化を阻害する。これらの阻害は乳酸の投与により回復することも発見された。
- 乳酸のアストロサイトからの放出に関与するトランスポーターであるMCT1およびMCT4の発現を抑制した場合にも長期記憶の形成阻害が観察され、この阻害は乳酸の投与により回復する。
- 一方ニューロンへの乳酸の取り込みに関与するトランスポーターMCT2
の発現を抑制した場合にも同様に記憶形成の阻害が観察されたが、乳酸の投与による回復は観察されなかったことから、アストロサイトからニューロンへの乳酸の輸送が記憶形成に必須であることが示された。
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アストロサイトは三者間シナプスにおいて情報伝達の役割を果たす。
- アストロサイトの「Ca2+興奮」
- アストロサイトの神経伝達物質受容体
グリア伝達 グリオトランスミッション
- アストロサイトはin vitro, in vivoで神経活動依存的、あるいは自発的な細胞内Ca2+上昇を示す。
- 神経活動依存的なアストロサイト内Ca2+上昇の機構としては、イノシトール三リン酸(IP3)誘発性Ca2+放出(IP3-induced 2+ release:IICR)がある。これは「神経伝達物質によるアストロサイト細胞膜上のGq型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の活性化→IP3の産生→小胞体(細胞内Ca2+ストア)のIP3受容体2型(IP3R2)の開放→細胞質へのCa2+放出」という機序で起こる。
- 自発的なアストロサイト内Ca2+上昇の機構としては、TRPA1チャネルを介した細胞外からのCa2+流入が報告されている。
グリオトランスミッター gliotransmitter
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- アストロサイトとオリゴデンドロサイト/ミエリン間における細胞間情報伝達にコネキシンタンパクが重要な役割を果たしている。アストロサイトにCx30/Cx43、オリゴデンドロサイトにCx32/Cx47が主に発現してギャップ結合を形成する。
- アストロサイトは神経系の構築、細胞外液の恒常性維持、血液脳関門の形成などの重要な役割を果たしている。
- 脳及び脊髄アストロサイトは、各種刺激に応じてATPを放出することによりグリア自身及び周辺神経細胞及び血流量をコントロールしている。
- アストロサイトは血液脳関門から脳内へ透過してきたエネルギー代謝物を神経細胞に供給する。
- アストロサイトの終足が毛細血管壁の近くを取り巻いて血液脳関門のperivascular endfeetを形成する。
perivascular glial process
- アストロサイトは突起の一部が血管終足となって血管の周りを取り巻き、グリア境界膜を形成している。
足突起 foot processess
- アストロサイトは足突起を内皮細胞に向かって伸ばし、この足突起末端は布状に広がって毛細血管周囲を覆うとともに、内皮細胞の基底膜と強固に付着する。
- 足突起にはアクアポリン4(AQP4)が発現していて、glymphatic systemに関与している。
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終足 endfeet, astrocyte end-food, vascular foot
- アストロサイトの突起先端部の膨らんだ部分
- 血管、軟膜やニューロンと接触する突起先端部
- 終足が毛細血管壁の近くを取り巻いて血液脳関門のperivascular endfeetを形成する。
- アストロサイトの終足が接触しているシナプスは安定性が高い。
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- 胎生中期には、アストロサイトへの分化は抑制されている。
- 胎生中期の神経幹細胞はGFAPなどのアストロサイト特異的遺伝子のプロモーター領域が高頻度にメチル化されているので、LIFにより刺激してもSTAT3が認識配列に結合できないためアストロサイトへは分化せずにニューロンへのみ分化する。
↓
- 生後の脳で神経幹細胞がアストロサイトを産生する。
- レチノイン酸がアストロサイト分化誘導因子であるLIFと相乗的に働くことで、神経幹細胞のアストロサイト分化を促進する。レチノイン酸はヒストンアセチル化の亢進によるクロマチン構造の脱凝縮を誘導し、LIFによって活性化されたSTAT3のアストロサイト特異的遺伝子GFAPプロモーターへの結合を増強させることにより、神経幹細胞のアストロサイト分化を促進する。
- アストロサイトのマーカー:GFAP、S100B
←→放射状グリアマーカー/神経幹細胞のマーカー
- Martin C. Raffらが1980年代初頭にラットの網膜神経を培養して、アストロサイトを分類した。 ←→視神系
- 形態学的特徴からTypeⅠアストロサイトとTypeⅡアストロサイトに大別されたが、現在ではそれらの呼称は用いられなくなった。
TypeⅠアストロサイト:A2B5陰性を示すアストログリア ←→視神系TypeⅠ
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Type Ⅱアストロサイト:A2B5に陽性を示すアストロサイト ←→視神系TypeⅠⅠ
- TypeⅡアストロサイトは線維型アストロサイトに相当する。
- 抗原性はA2B5+, GFAP+, FGFR3-, Ran 2-
- TypeⅡアストロサイトはin vitroで育てることができ、tripotential GRP(おそらくO2Aを経由する)からも、bipotential O2A/OPC細胞からも、またin vivoでも始原細胞を損傷部位に移植することにより分化するが、少なくともラット網膜神経には通常の発生ではない。
- TypeⅡ細胞は一部の組織(BSA存在下のO2A細胞から生じた、生後すぐの培養網膜神経)では主な構成要素であるが、生体中には存在していない。
- ラット胎児視神経を培養するとモノクローナル抗体A2B5に陽性を示す細胞がみられ、この細胞は培養液にウシ胎児血清を培養液に加えるとGFAP+/A2B5+アストロサイトに分化し、無血清培地で培養するとミエリン脂質であるガラクトセレブロシド;GalC陽性オリゴデンドロサイトに分化する。
A2B5
- 発育中の胸腺上皮細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞および神経内分泌細胞において発現される細胞表面ガングリオシドエピトープ
- ニワトリ胚網膜細胞を免疫抗原として作成されたモノクローナル抗体
- c系列ガングリオシドと特異的に反応する。
- A2B5は細胞内抗原内で反応するため、生細胞、未固定細胞、非透過性細胞に使用する必要がある。
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- 脳内ではアストロサイト、末梢ではシュワン細胞において、グルタミン酸はグルタミンシンターゼによって、グルタミンに変換される。
- 虚血時の低酸素や低グルコースに対してきわめて脆弱であるニューロンや他のグリア細胞とは対照的に、アストロサイトは虚血に対して強い耐性を示す。脳損傷時には神経細胞を守る働きをするようになる。血管周囲のグリア境界膜を介して循環系からのグルコース取り込みを最初に行う。その貯蔵形であるグリコーゲンを大量に脳細胞内に勿、活発な解答を行い、ピルビン酸や乳酸などのエネルギー代謝物を周囲のニューロンに供給する。虚血に際しても、イオン濃度勾配を保ち、グルタミン酸興奮毒性にも、強い抵抗性を示す。
- PETで脳活動をイメージングすると、活発な活動部位で脳血流量、酸素消費量、グルコース取り込みが増加する。
⇒神経損傷時のグリアの変化
原形質アストロサイト protoplasmic astrocytes
- アストロサイトの形態は潅木状に細かく分岐し、その末端に微小突起を形成する。この微小突起は神経細胞間の接合部位であるシナプスを被覆する。
- アストロサイトは近隣の血管に巨大終足を形成する。
- 個々のアストロサイトの輪郭は楕円体に近似され、独自の支配領域を保有する。近接するアストロサイトの共有領域はわずかであり、個々のアストロサイトは灰白質にくまなく配置されている。
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反応性アストロサイト reactive astroscyte 参考1
- 中枢神経の外傷、感染、虚血、変性疾患などのさまざまな病態において、アストロサイトは突起が伸長しかつ細胞体が肥大した、反応性アストロサイトと呼ばれる細胞へと変化する。
- GFAP、ビメンチン、ネスチンの発現が増強することも特徴の1つである。
- 脊髄損傷において,反応性アストロサイトはグリア瘢痕を形成し正常部と損傷部の境界を画することで炎症の拡大を阻止する。
- 一方で物理的にも化学的にも軸索の伸長を阻害し、神経再生を阻む主要な原因の1つであると考えられている。
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肥胖型アストロサイト hypertrophic astrocyte, gemistocytic asutrocyte
- 組織障害に反応し、アストロサイトの中間径フィラメントが増生し、細胞質が腫れた状態のアストロサイト
- 比較的急性期のアストロサイトの反応性変化である。
- 変性過程では、アストロサイトの数が増加するとともに、個々の細胞の核は明るく大きくなり、細胞体は肥大してエオシンに赤く染まって見える。
- 核縁が厚く、明るい核と好酸性の豊富な細胞質をもつアストロサイト
- グリアフィラメントが高度に増加し、強くGFAPが発現している。
- 肥大したアストロサイトは経過とともに核や細胞体は収縮し、四方に細い突起が延びる線維性アストロサイトとなる。
- クロイツフェルト・ヤコブ病や進行性多巣性白質脳症では非常に大きな肥胖性アストロサイトが認められるが、どのような組織障害でも観察できる。
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線維型アストロサイト fibrilary astrocyte =Type Ⅱアストロサイト
- 細胞質には乏しいが突起内の線維成分が豊富なアストロサイト
- グリオーシスに至る前段階と考えられている。
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グリオーシス、神経膠症、膠細胞増多症: gliosis
- 組織反応として線維性アストロサイトの突起が伸展して、障害された組織を埋め尽くす修復、瘢痕化の状態
- 神経組織の病変部におけるアストロサイトの増生
- 脳や脊髄などの中枢神経系に炎症や細胞の壊死などが起こる時に、異物の除去などのためにグリアが増えること
- 初期には肥胖型アストロサイトの増加がみられ、慢性期ではグリア線維の増加がみられ、グリア性瘢痕の形成に至ることが多い。
- 炎症、循環障害、脱髄、及び変性性疾患でみられる。
- 陳旧化するとグリア線維:GFAPが増える:線維性グリオーシス
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グリア瘢痕: glial scar ←→参考1
- 損傷を受けた中枢神経系では、損傷周囲部に反応性アストロサイトが集積して形成される、グリアによる高密度の瘢痕組織
- 脊髄損傷における反応性アストロサイトはグリア瘢痕を形成し、正常部と損傷部の境界を画することで炎症の拡大を阻止する。
- 軸索再生を妨げる物理的な障害となり得る。
- グリア瘢痕に集まる細胞から産生される因子は、化学的に軸索の再生を妨げる。損傷部位に集積する反応性アストロサイトは、軸索伸長を阻害するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン:CSPGを産生する。
- CSPGsは長大な糖鎖である硫酸グリコサミノグリカンとコアタンパク質からなる分子で、Aggrecan、Brevican、Neurocan、Versican、Phosphacan、NG2などが知られており、軸索伸長阻害作用を示す。
- 脊髄損傷後、CSPGsのコアタンパク質からグリコサミノグリカンを除去するコンドロイチナーゼABCを投与すると、CSPGsが分解され、感覚神経線維と運動神経線維の再生および、運動機能、固有感覚の回復が認められた。CSPGsはEGF受容体を介して軸索伸長阻害作用を示すことが示唆されている。
- 脊髄損傷モデル動物に対して、EGF受容体の阻害剤を投与すると、縫線核脊髄路のセロトニン作動性神経線維の再生、及び運動機能、膀胱機能の回復が認められた。
- 瘢痕組織の線維芽細胞からは、再生反応を阻害するSema3Aが産生されることが知られている。
- グリア瘢痕には、損傷治癒や機能回復を促す方向に作用するという面もある。
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オリゴデンドロサイト、希突起膠細胞、乏突起神経膠細胞 oligodendrocyte:OLG
←→オリゴ/OPC/分化制御因子/MO3-13(セルライン) 参考1
- Pío del Río Hortega ピオ・デル・リオ-オルテガ(1882/5/5〜1945/7/1, Santiago Ramón y Cajalの弟子、グリア研究の大家)が1919年に炭酸銀法(silver carbonate)を開発して、オリゴデンドロサイトやミクログリアを発見した。
- Cajalは金昇汞法によってアストロサイトを詳細に記載していた。しかし神経組織内には、突起を持たない小さな細胞が多数あることがわかり、Cajalは1913年にこれらを神経組織の第三要素と呼んだ。第一がニューロン、第二がアストログリア、第三がこれらの細胞という分類した。
- Hortegaは炭酸銀法で染めると、突起がないとされていた第三要素にも突起があることを証明した。突起の性質や数によって、突起がきわめて細くて数の少ないオリゴデンドログリアと、突起が特有の屈曲を示すミクログリアとを同定した。
- Hortegaは第三要素を1919年には「interfascicular glia(束間オリゴデンドロサイト)」 と名づけた。しかしアストロサイトもinterfascicular gliaであり、第三要素は束間以外にもあることから、1921年には「oligodendroglia」と呼んだ。
oligo = few, dendro = tree
- Hortegaはグリアを4タイプに分類していた。
protoplasmic:灰白質のグリア |
neuroglia:白質のグリア |
mesoblastic microglia |
interfascicular glia ↓(=オリゴデンドロサイト) |
白質内:intrafascicular oligodendrocyte(束間オリゴデンドロサイト) |
灰白質内に位置してニューロンの細胞体と密着しているもの :perineuronal oligodendrocyte(衛星オリゴデンドロサイトもしくは傍神経オリゴデンドロサイト) |
- Wilder Penfield(1891/1/26〜1976)は1924年の春にスペインに渡り、Pío del Río Hortega ピオ・デル・リオ-オルテガ(1882/5/5〜1945/7/1, Santiago Ramón y Cajalの弟子、グリア研究の大家)とCajalと共同研究した。5ヶ月間の実りある研究が行われ、Cajalの「第3の要素」古典的な神経グリアとの関係を報告した。
- Hortegaはグリアはニューロンと同じく外胚葉起源と考え、中胚葉起源説をとるCajalに反論した。
- Cajalのニューロン説とGolgiの網状説との論争では、軍配はCajalに上がった一方で、CajalはHortegaとの論争には敗れたが、HortegaはCajalに破門され、スペイン内乱(1936年)後にブエノスアイレスに移った。
- 細胞体は小さく卵円形で、核は丸く細胞質が少ない細胞
- ギリシャ語で、 oligo- は「少数の〜」、dendro- は「木」、-cyte- は「細胞」という意味:アストロサイトより少ない突起を持つグリア細胞
- 胎生後期から神経幹細胞によって産生される。
- オリゴデンドロサイトの最終分化やミエリン形成は一般的に、神経回路形成が終わった後に始まる。 →胚期 E17
- 末梢神経線維に髄鞘(ミエリン鞘)を作るシュワン細胞と同種の細胞である。
- 中枢神経系ではオリゴデンドロサイトが突起を伸長させ、神経軸索の周りを何重にも巻いて包んでいて、その細胞膜が層状に重なって髄鞘を形成している。
- ニューロンの軸索周囲に髄鞘という分厚い絶縁層を作ることによって活動電位の跳躍伝導を可能にし、情報伝達速度を増すなどの役割を果たすだけではなく、軸索を強固に保護している。
- 中枢神経系全体に広く分布する。
- オリゴデンドロサイト系譜に特異的なbHLH型転写因子 :Olig2
- 異なる成熟段階にあるオリゴデンドロサイトのマーカー
→オリゴデンドロサイトの発生
- ミエリン形成の三過程
Stage I:増殖・遊走期
- 軸索上でグリア細胞が遊走・増殖する時期
- OPCのマーカーである抗NG2抗体で染まる。
- 大部分が単極性または双極性の形態を示す。
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Stage II:分化期
- グリア細胞の突起が伸長し始める分化時期
- 分化途中のオリゴデンドロサイトのマーカーである抗O4抗体で染まる。
- 分化が進行するにつれて主枝から伸びる分枝数が増加する。
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Stage III:ミエリン形成期
- 軸索のまわりに幾重もの層を形成していくミエリン成熟時期
- 成熟したオリゴデンドロサイトのマーカーである抗MBP抗体で染まる。
- 分子が融合してシート状構造をとる
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Stage IとStage II前期における中枢グリア細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞
CdK5はオリゴデンドロサイトの遊走・分化経路に介在する。
- 気分障害患者の死後脳の研究では、前頭極灰白質のオリゴデンドロサイト系譜細胞が減少 参考1/2
- オリゴデンドロサイトは軸索のミエリン形成と代謝維持の両方を行っているため、その病理は神経変性疾患に関わると考えられるようになってきている。
- マウスでは、脊髄由来のオリゴデンドロサイトは生得的に皮質由来のオリゴデンドロサイトよりも長いミエリン鞘を作り出している。
- 多発性硬化症:MSでは中枢神経系の脱髄が神経変性につながるが、オリゴデンドログリアの不均一性が関連する可能性がある。死後脳白質領域の単一核RNA塩基配列解読では、非罹患対照者のヒト白質で、オリゴデンドログリアのサブクラスターが複数見つかった。その一部はマウスのものに類似している。MS組織には一部のサブクラスターはあまり存在しないが、多く存在するサブクラスターもある。成熟オリゴデンドロサイトサブクラスター間に見られるこのような差異は、MS病変部でのオリゴデンドロサイトの機能状態の違いを示す可能性がある。 Nature 566, 7745 ,2019 参考
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NG2グリア=ポリデンドロサイト polydendrocyte=サイクリンググリア前駆体 ←→OPC- 第4のグリア細胞
- コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(cspg4)(neuron-glial antigen 2; NG2)抗原を発現するオリゴデントロサイトと類似のグリア細胞
- 発生中および、成熟した中枢神経系に豊富に存在する。
- 発生中はオリゴデントロサイト前駆細胞として存在する。NG2グリアを培養すると、グリア細胞が生み出される。
- 成熟細胞ではオリゴデントロサイトと区別ができない。
- NG2グリアには、ミエリン鞘形成に関わるものと、ミエリン鞘を形成しない種類がある。
- 白質にも灰白質にも分布しており、時にはアストロサイトのような形態をとっていることもある。しかし、アストロサイトのマーカータンパク質であるGFAPは発現しない。
- NG2グリアはオリゴデントロサイトやアストロサイトだけでなくシュワン細胞に分化できる。
- 中枢損傷部位に集まり、グリア瘢痕、グリオーシスを作る。このような性質からこの細胞はsynantocyte(synant :ギリシャ語で:接触することを意味する言葉)と命名されたこともあるが、その後この名前はあまり使われていない。
- 生後/成体期に上衣下層に発現するNG2細胞はC型細胞様であり、海馬のGABA含有抑制性介在ニューロンを生み出す。 参考1
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ミクログリア microglia、小神経膠細胞
- Pío del Río Hortega ピオ・デル・リオ-オルテガ(1882/5/5〜1945/7/1, Santiago Ramón y Cajalの弟子、グリア研究の大家)が1919年に炭酸銀法(silver carbonate)開発して、オリゴデンドログリアやミクログリアを発見した。
- ミクログリア以外のグリアは外胚葉由来であるが、ミクログリアは中胚葉由来で、造血幹細胞から発生する。
- ミクログリアは骨髄由来の単核細胞の前駆細胞が血液脳関門が不完全な間に脳内に移行して、そこで成熟を遂げたものである。
- ミクログリアは通常脳組織内に不活性状態のラミファイド ミクログリア(ramified microglia =分枝したグリア)として存在している。
- ミクログリアは中枢神経系における免疫担当細胞とも呼ばれ、末梢神経の損傷によって即座に応答し、細胞体の肥大化、細胞増殖を起こし、活性化型ミクログリア(activated microglia)に変化し、活発に動き回って死んだ細胞を貪食したり、修復を促進するための因子を遊離したりする。
⇒神経損傷時のグリアの変化↓
- OX42:マクロファージ/ミクログリアに特異的に発現している分子量17,000のカルシウム結合タンパク質
- Iba1:マクロファージのマーカー
- ミノサイクリンはニューロンやグリアが炎症性サイトカインや一酸化窒素を産生するのを防ぎ、損傷部位へのミクログリアの移動を抑える。
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上衣細胞、E型細胞 ependymal cells 参考1/2
- 中枢神経系に存在するグリア細胞
- 脳室の壁である上衣層(脳室帯)を構成する。脳室内で脈絡叢上皮を、脳室正中面で脳周囲器官を形成する。
- 上衣細胞は繊毛をもつ上皮細胞であり、通常状態では細胞増殖を停止しているので、神経幹細胞ではない。
- 多数の運動性繊毛を有していて、脳室系の内腔表面を覆って脳室と脳実質組織の間の境界を形成し、脳脊髄液の循環などに関与していると考えられている。
- 側脳室に面した上衣細胞の隙間からアストロサイトの形態を持つ神経幹細胞が一次繊毛を伸長している。 参考
- 上衣細胞は胎生期に放射状グリア細胞 (神経幹細胞)から産生される。
- 脳室帯の放射状グリアは、出生後約1週間までに主に脳実質のアストロサイトに分化するが、一部は脳室周囲に留まり、上衣細胞や神経幹細胞としての能力を維持した特殊なアストロサイトへと分化する。
- マウスにおいては、第3脳室の上衣細胞は胎生11〜13日、側脳室の上衣細胞は胎生14〜16日の間に最終分裂を行う。
- 出生後10日目ぐらいから多数の運動性繊毛を発達させる。
- 上衣層の内側の上衣下層(脳室下帯)には、Type B cell(アストロサイト)、Type C cell(一過性増殖細胞)、Type A cell(神経芽細胞)の3種類の細胞が存在する。上衣細胞はType E cell
- 上衣細胞はType B cellの先端突起を取り囲み、風車(pinwheel)のように配列している。この風車状の配列はニューロンの産生が行われている部位に特異的であり、側脳室の尾側内側壁や第3脳室などニューロンが産生されていない領域では観察されないことから、周囲を囲む上衣細胞と神経幹細胞の何らかの相互作用が幹細胞機能の調節に関与しているのではないかと考えられている。
- 成体脳の神経幹細胞を保持するニッチ細胞の存在する領域である側脳室壁および上衣下層 subependymal layer :SEZの脳室壁を構成する主要な細胞が上衣細胞とアストロサイトである。
- 上衣細胞は非連続性の密着結合と接着結合・ギャップ結合により結合した単層上皮を形成し、脳脊髄液で満たされた脳室脳室下帯を隔てているが、細胞の間隙や上衣細胞自体の細胞質を通って物質の交換が行われる。
- 上衣細胞は骨形成因子:BMPシグナルを阻害するNogginを産生していて、神経幹細胞の維持やニューロン産生の制御に関与している。また、上衣細胞の繊毛の協調運動によって作られる脳脊髄液の流動が、神経芽細胞の移動方向の決定に関与している。
- 上衣細胞の発生において、FoxJ1及びそれに関連する転写因子群が上衣細胞の分化過程に関与する。
- ependymal cell markers :S100β、CD133
カルシウム結合タンパク質であるS100βを強く発現している。
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