・プロテインキナーゼ A Protein kinase A:PKA
サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ
- セリン・スレオニンキナーゼ
- Gタンパク:GsによってcAMPの産生が促進され、Giによって抑制される。
- Gタンパク共役受容体(Gs)にリガンドが結合→細胞内cAMPが増加→PKAの核内への移行(活性化)→核内でCREBのSer133(133番目のセリン残基)がリン酸化を受け活性化される。
- 大小2つのドメインからなり、小ドメインはβシート、大ドメインはαヘリックスを含む。
- 基質とATPの結合部位は2つのドメインの間隙にある。
- ATPと基質が結合すると、2つのドメインは互いに回転するように動き、ATPの末端リン酸基と基質のターゲットアミノ酸が近寄って反応が起きやすい位置となる。
- 通常、4量体(調節サブユニット2個と触媒サブユニット2個:R2C2)からなり、調節サブユニットが触媒サブユニットの活性中心を封鎖している。
- cAMPが調節サブユニットに結合すると、2個のRCに解離し、これが活性を有する。また触媒サブユニット自体もリン酸化によって調節される。
- 活性薬:8-Bromo-cAMP
- 阻害薬:H89、KT5720
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プロテインキナーゼ A Protein kinase B:PKB
=胸腺腫ウイルスがん原遺伝子1 AKR mouse strain thymoma:Akt
- Aktはがん原遺伝子産物として発見された。
- セリン・スレオニンキナーゼ
- Akt/PKBはがん、糖尿病、ラミノパシー(Laminopathy)、脳卒中、及び神経変性疾患の治療の重要な標的として考えられている。
- がんの進行やインスリンの代謝などの多様な細胞の過程において重要な調節的役割を果たす。
- Aktカスケードは、受容体チロシンキナーゼ、インテグリン、B及びT細胞受容体、サイトカイン受容体、Gタンパク質共役型受容体やPI3Kによるホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸 (PtdIns(3,4,5)P3) の産生を誘導するような他の刺激によって活性化される。
- これらの脂質は、Aktやその上流の活性化因子であるPDK1など、プレクトストリン相同 (PH) ドメインを持つタンパク質の、細胞膜上のドッキング部位として機能する。
- Aktには非常によく関連する3種類のアイソフォーム (Akt1、Akt2、及びAkt3) があり、これらはPI3Kの主要なシグナル伝達経路に相当する。
- Aktはインスリンシグナル伝達及びグルコース代謝にとって重要であるが、マウスを用いた遺伝的な研究によって、これらの過程にはAkt2が中心的な役割を担うことが明らかになった。
- AktはCDK阻害因子のp21及びp27に対する直接作用や、サイクリン D1及びp53のレベルに対する間接的な作用によって細胞周期と細胞分裂を調節するとともに、mTORとp70 S6キナーゼ経路に対する効果を通じて細胞増殖を調節する。
- Aktは、BadやForkheadファミリーの転写因子のようなアポトーシス促進性のシグナルを直接阻害することによって、細胞の生存を媒介する、主要なメディエーターである。
- Tリンパ球の流れは、Aktの下流にある接着因子の発現によって調節される。
- AktはGABA受容体やAtaxin-1、及びハンチンチン (Huntingtin) タンパク質のような神経機能に関与するタンパク質を調節することが示された。
- AktはFGF、TGF-βシグナル伝達を調節するSmad分子と相互作用することが証明された。
- AktによるラミンAのリン酸化は、核タンパク質の構造的な組織化にとって重要な役割を果たしているかもしれない。
PI3K/Akt経路 PI3K / Akt Signaling
- PI3K(ホスファチジルイノシトール-3 キナーゼ)とその下流のAkt(セリン-スレオニンキナーゼ)によるシグナル伝達系
- 細胞増殖、分化、 生存シグナル制御にリン脂質代謝系を介するシグナル経路できわめて重要な役割をはたしている。
- ホスホイノシチド3-キナーゼ :PI3Kは、細胞膜の構成成分であるイノシトールリン脂質をリン酸化する酵素で、産生したPI3,4,5-三リン酸(PIP3)がAktをリン酸化する。がん遺伝子であるAktは多くのがん組織で活性していて、Aktの生存促進作用ががん化に重要な貢献を果たす。
- 成長・増殖・糖代謝・血管新生・抗アポトーシス作用などさまざまな作用が報告されているが、この経路の阻害が逆に抗老化に働くことが明らかとなり注目されている。
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・ホスファチジルイノシトール-3 キナーゼ、ホスホイノシチド3-キナーゼ:PI3キナーゼ Phosphoinositide 3-kinase:PI3K 参考1/1
- 非タンパク質キナーゼ:ほとんどのキナーゼはタンパク質をリン酸化するのに対し、PI3Kは脂質をリン酸化するのが大きな特徴である。
- 膜の構成成分であるイノシトールリン脂質のイノシトール環3位のヒドロキシル基(-OH基)のリン酸化を行う酵素
- 受容体型チロシンキナーゼが増殖因子刺激などにより活性化されると、細胞膜直下にリクルートされる。
- イノシトールリン脂質は、PI3Kなどのキナーゼの触媒作用を受けてホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸:PtdIns(3,4,5)P3となり、PKB/Aktを活性化を起こす。このシグナル伝達経路はPI3キナーゼ-Akt経路と呼ばれ、様々な生理作用の発現に関与する。特にインスリンの分泌促進に深く関与することから、新たな糖尿病薬の開発が示唆されている。
- ほ乳類ではクラスIA、クラスIB、クラスII、クラスIIIの4つのサブクラスに分類される。
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・プロテインキナーゼC Protein kinase C:PKC
- 1977年に神戸大学名誉教授の西塚泰美先生らが、牛の脳細胞から発見したプロテインキナーゼ
- カルシウム依存性タンパクリン酸化酵素
- 活性化されたPKCは、標的タンパク(セリン/スレオニン)をリン酸化させるセリン・スレオニンキナーゼである。
- Gタンパク:Gq/G11の活性化により、PLCが活性化され、膜リン脂質のPIP2がイノシトール3リン酸(IP3) と ジアシルグリセロール(DAG)に分解される。
- 神経障害性疼痛における熱痛覚過敏や機械刺激によるアロディニアに、脊髄後角侵害受容ニューロンのCa2+依存性PKC:PKCγが関与している。
- セリン・スレオニンキナーゼであるPKCは、NMDA受容体のタンパクのセリン・スレオニンあるいはチロシン残基をリン酸化する。その結果、Mg2+の遮断作用が取り除かれて、NMDA受容体のイオンチャネルの開放が促進され、wind up(脊髄でのwind up)も生じる。
- Malmbergらは、PKCγのノックアウトマウスでは、通常の痛み行動は野生型と同じであるが、ニューロパシックペインに対する動物の行動がほとんどなくなった。[PubMed]
- 細胞増殖、遺伝子発現、受容体制御、イオンチャネル・ゲーティングなど広範な生理機能に関与する。
- 生理活性物質が細胞表面にある受容体に捉えられると、細胞膜のリン脂質から分解されるDAGによって、細胞内のPKCが活性化される。リン脂質の分解でできる別の物質によって増加したCa2+とPKCが協調して、外部からの情報を増幅させる。
- PKCが細胞の分化、増殖、そしてがん化にも関係している。発がん物質であるフォルボールエステルが、PKCを活性化することによって、Ca2+と協調し、細胞分裂を起こさせる。
- PKCは大脳の記憶の中枢とされる「海馬」に多く存在していて、記憶に重要な役割を果たしている。
- 哺乳類では少なくとも12種類のCキナーゼが見つかっていて、3つのサブファミリーに分けられる。
| 活性化因子 PKC activator |
conventional PKC(α, β, γ) 在来型↓ | Ca2+、DAG、PMA、TPA、ホスファチジルセリン依存性 |
novel PKC(δ, ε, η, θ) 新型 | Ca2+非依存性、DAG依存性
新型PKCはカルシウムイオン結合活性を失っている。 |
atypical PKC (ζ, λ) 非典型C | ホスファチジルセリン依存性のみ |
conventional PKC---在来型PKC
PKCα, PKCβ, PKCγ
- PKCのサブタイプの一つ
- N末端側の調節ドメインと、C末端側の触媒ドメインからなる。
- 在来型PKCは主に2+、ジアシルグリセロール:DAG、あるいはホスファチジルセリン:PSなどのリン脂質によって活性化される。
- TPAなどの細胞の癌化を促進するプロモーターや、Ca2+、DAG、リン脂質によって活性化される。
- モルヒネの精神依存では側坐核のNMDA受容体サブユニットのNR2BのC末端領域のPKCγが活性化されている。
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- DAGはリン脂質からホスホリパーゼCによって作られるので、conventional・novel の両Cキナーゼはシグナル伝達経路においてホスホリパーゼCの下流に位置することになる。
- Cキナーゼは活性化されると、RACKタンパク質(活性化[Activated] Cキナーゼ[Kinase]に対する膜結合受容体[Receptor]の意)によって細胞膜に移動される。
- Cキナーゼの活性は長時間持続し、最初の活性化シグナル(Ca2+波と呼ばれる)が終わったあとも活性を保持している。これはおそらくホスホリパーゼによってホスファチジルコリンから生成されたDAGによるものと思われ、また脂肪酸も関わっている可能性がある。
- 調節領域には、Ca2+結合部位、susteine rich domain、偽基質配列がある。
- 選択的PKC阻害剤:チェレリスリン---PKCに対する選択的な細胞膜透過性阻害薬、PKCの触媒ドメインに作用、リン酸受容体に対する競合的な阻害作用を示し、ATPに対しては非競合的な阻害作用を示す。
- PKC阻害剤:カルホスチンC(calphostin C)---補因子の結合を阻害するために調節ドメインに結合
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・プロテインキナーゼG Protein kinase G:PKG
サイクリックGMP依存性プロテインキナーゼ cGMP-dependent protein kinase
- 細胞内信号伝達経路に関与する酵素で、cGMPによって活性化され、他のタンパク質をリン酸化して活性化するタンパク質
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・カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ Calmodulin- dependent protein kinase:CaMキナーゼ ←→カルモデュリン
- セリン・スレオニンキナーゼである。
- すべてのセルタイプにおいて遊離カルシウムは主要なセコンドメッセンジャーである。Ca2+がその作用を示す一つのメカニズムとして、17kDaのタンパク質カルモデュリンとの結合による作用発現があげられる。
- 4つのカルシウムイオンの結合によりCaMに構造変化が起こり、カルシウム/カルモジュリン複合体により活性化されるいくつかのクラスのプロテインキナーゼなど、多のタンパク質との相互作用を促進させる。
- 脳におけるカルシウムイオン依存性シグナル伝達にもCaMキナーゼが重要な役割を演じている。
- さらに近年、CaMキナーゼをリン酸化して活性化するCaMキナーゼキナーゼ:CaMKKが発見された。Ca2+を介するシグナル伝達系にこのプロテインキナーゼカスケードが重要な役割を果たしている。
- CaMキナーゼIIは記憶の記銘と保持機構に関与している。
- サブタイプがある。脳では主にαサブタイプとβサブタイプが存在する。
特異型CaMキナーゼ
- ミオシン軽鎖キナーゼがある。これはミオシンをリン酸化して筋肉を収縮させる。
ミオシン軽鎖キナーゼ myosin light-chain kinase:MYLK、MLCK
- ミオシン軽鎖、すなわちミオシンIIの調節軽鎖をリン酸化するセリン・スレオニンキナーゼ
- MYLKにはATP結合ドメインを持つ触媒コアドメインが存在する。触媒コアの両側にはカルシウムイオン/カルモジュリン結合部位が存在する。このドメインへのカルシウムイオンの結合は、MYLKのミオシン軽鎖に対する結合親和性を高める。ミオシン結合ドメインはMYLKのC末端に位置する。MYLKのN末端にはアクチン結合ドメインが位置し、アクチンフィラメントとの相互作用によってMYLKは適切な位置に維持される。
- MYLKには4つの異なるアイソフォームが存在する。
MYLK1 平滑筋で発現 |
MYLK2 骨格筋で発現 |
MYLK3 心筋で発現 |
MYLK4 novel、詳細は未解明 |
M13 ペプチド M13 Skeletal Muscle Myosin Light Chain Kinase Peptide
- カルモジュリン依存性酵素の1つである骨格筋ミオシン軽鎖キナーゼに由来する26アミノ酸のペプチドを示す。
- GCaMPは主として緑色蛍光タンパク(EGFP)、カルモジュリン(CaM)、ミオシン軽鎖フラグメント(M13)を遺伝子工学的に結合させたカルシウムセンサータンパク質
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多機能型CaMキナーゼ =CaMキナーゼII:CaMKII
- 神経伝達物質の分泌、転写因子の制御、グリコーゲン代謝など様々な場面で働く。
- 脳のタンパク質の1ないし2%がCaMキナーゼIIである。
- CaMKIIはシナプス可塑性に必要なセリン・スレオニンキナーゼである。
- CaMKIIは、CaMKIIα、CaMKIIβ、CaMKIIγ、CaMKIIδの4種類より構成され、脳では主にαサブタイプとβサブタイプが存在する。βサブタイプは、αサブタイプと複合体をつくる。
- CaM キナーゼIIは記憶の記銘と保持機構に関与している。
- CaMKIIは、複数の相同なサブユニットから構成された多量体として存在する。細胞内Ca2+の上昇によって活性化したカルモジュリン(Ca2+/カルモジュリン)が結合すると、その立体構造に変化が生じて、活性部位が露出し、ATP存在下で隣接するサブユニットのリン酸化(自己リン酸化)と基質タンパクのリン酸化を起こす。自己リン酸化を起こしたCaMKIIはCa2+/カルモジュリンをトラップし、活性化状態が一定期間持続することが知られている。
- 神経活性化マーカーの一つであるArcはCaMKIIβとの相互作用により不活性なシナプスに集積し、AMPA型グルタミン酸受容体のエンドサイトーシスにはたらく。
利根川Labのalpha-CaMKIIノックアウトマウス *
- 1992年
- α-CaMKII遺伝子の欠損は、シェファー側枝CA1シナプスでのLTPの欠損と空間学習の障害を発生させる。
- 海馬のスライスを用いた研究では、α-CaMKⅡの阻害剤を加えると、記憶に関連するLTPが阻害され、α-CaMKⅡ遺伝子のノックアウトマウスでは、LTPが空間記憶に必要である。@利根川研1
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CaMKIIα(K42R)ノックインマウス、B6-CaMKII alpha (K42R) 1/2
- 山肩葉子先生, 柳川右千夫先生作製のCamk2a K42Rノックインマウス
- CaMKIIαのキナーゼ活性ドメインにあるアミノ酸のうち、ATPの結合に必要な42番目のリシン残基(Lys-42)をアルギニン残基(Arg-42)に置き換えることにより、キナーゼ活性を失ったK42Rノックインマウス
- CaMKII alpha ゲノム遺伝子のエクソン2内の核酸の点変異 (AAG→AGG) に加えて、下流のイントロン2内にloxP配列が残存
- タンパクとしてのCaMKIIは発現しているが、キナーゼ活性のみが消失しているという不活性型CaMKIIα(K42R)ノックインマウス
- 一見では野生型と見分けがつかないが、成体において、軽度のてんかん発作をまれに示す。
- 海馬神経細胞に、シナプス可塑性を引き起こす高頻度反復刺激(テタヌス刺激)を与えてても、シナプス後神経細胞の樹状突起の増大も、シナプスの長期増強(LTP)も起こらない。
- 恐怖条件付け学習において、contextual learningは全く成立しないが、cued learning(海馬非依存性、扁桃体依存性学習)は、野生型に比べると少ないながらも、一定程度認められる。
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CaMKIIβ
- ドレブリンはCaMKIIβも細胞骨格であるアクチン線維に結合する分子としていて、ドレブリン/CaMKIIβ/アクチン繊維)は複合体は、シナプス活動時に細胞外からカルシウムが流入すると、ドレブリンとCaMKIIβとアクチン繊維は分離し、アクチン線維が再構成されてシナプスの形態が変わる。
- CaMKIIβはカルシウム濃度が上昇すると活性化しアクチン繊維から離れることから、CaMKIIβはドレブリン/CaMKIIβ/アクチン線維複合体のカルシウムセンサーの役割を担うと示唆されている。 参考
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- CaMKIIはシナプス後肥厚画分中に多量に含まれていて、ほとんどの構造タンパク質と同じ程度の量が存在する。CaMKIIがアクチン線維を束化し、 LTPにおいてF-actinを修飾する。CaMKIIは興奮性シナプスで情報伝達分子であるばかりではなく、構造タンパク質しても重要な役割を果たしている。 参考
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CaMキナーゼIII
- CaMKIIは神経細胞に豊富に存在し、神経伝達物質合成酵素やシナプス小胞結合タンパク、イオンチャネル、神経伝達物質受容体などをリン酸化することによって、それらタンパク機能を調節し、記憶・学習をはじめとする神経機能の変化を担うと考えられている。
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CaMKIV
- 長期増強と恐怖条件付けに関与する。
- CaMKIVは核内に非常に多く、神経活動依存的に転写因子CREBをリン酸化し活性化する。その結果、c-fosやArc、zif268(egr-1)、脳由来神経栄養因子(BDNF)等の最初期遺伝子群など、長期的な可塑的変化に必要なタンパク質の転写を神経活動依存的に促進するとされる。
- 遺伝子改変マウスを用いた研究が進められ、細胞機能と合致し、ノックアウトマウスにおいて海馬長期増強障害、小脳LTD障害とともにCREBリン酸化の低下が、行動レベルでは小脳機能障害および長期恐怖記憶の異常が報告されている。先に述べたCaMKIIを介した短期シナプス可塑性に加えて、シナプス刺激によってもうひとつのCaMキナーゼ経路であるCaMKK-CaMKIV経路が活性化されることが、長期シナプス可塑性を引き起こすために必要であり長期記憶の成立に寄与すると考えられている。
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CaMキナーゼキナーゼ:CaMKK
- CaMKをリン酸化する2種類の上流キナーゼであり、CaMKKαとCaMKKβのサブタイプがある。
- CaMKKβは空間記憶形成に関与する。
- BDNFやCREBの関与
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⇒Calcium-binding-protein :CPG
カルモデュリン/カルビンディン
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・マイトジェン活性化プロテインキナーゼ:MAPキナーゼ Mitogen-activated protein kinase:MAPK
参考:1
マイトジェン mitogen
- マイトジェンとは、分裂促進物質、有糸分裂促進物質
細胞に有糸分裂を起こさせる活性をもつ物質。
- マイトジェン活性とは、細胞の分裂促進活性
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- MAPキナーゼは真核生物に高度に保存されているセリン/スレオニンキナーゼである。
- ERK、JNK、および p38 キナーゼを含むMAPキナーゼスーパーファミリーがある。
- 活性化にともなって核内へと移行することから、細胞外のシグナルを核内へと伝える鍵分子として機能しているものと考えられている。
- MAPキナーゼファミリーは、MAPKカスケードにより、細胞膜表面のシグナルを核内に伝達する:細胞内シグナル伝達に中心的役割を演じている。
- MAPキナーゼファミリーは、有糸分裂誘起物質、成長因子や様々な形のストレスに応答し、転写因子をリン酸化して活性化する。
- MAPKスーパーファミリーは、成長因子、化学薬品、浸透圧ストレス、放射線、細菌感染、炎症性サイトカインなど、多種な刺激に対する細胞内シグナル伝達カスケードネットワークを形成している。
- MAPキナーゼは、MAPキナーゼ・キナーゼ(MEK)により活性化され、pTXpY配列
上のスレオニンとチロシン残基がリン酸化される。
- MAPキナーゼの活性化には、キナーゼサブドメイン7,8の間に存在するT(スレオニン)残基とY(チロシン)残基の両方の残基がリン酸化されることが必要である.これらのMAPキナーゼの活性化機序はお互いに異なる。
MAPKカスケード
- MAPキナーゼカスケードは細胞の増殖、分化、死、ストレス応答など多くの細胞機能の制御に関わり、酵母から高等植物や哺乳動物に至るまで高度に保存された細胞内シグナル伝達経路である。
- MAPキナーゼは、MAP キナーゼキナーゼ(MAPKK)によるリン酸化を受けて活性化さる。
- MAPKKはMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)によるリン酸化を受けて活性化される。
- このキナーゼカスケードは、MAPキナーゼカスケードと呼ばれ、AP-1の活性化などを含むさまざまな細胞内シグナル伝達系で働いている。
- 哺乳類では4つのMAPKファミリー分子(ERK1/2 (古典的MAPK)、ERK5、JNK/SAPK)、p38経路に分類されていて、それぞれが独立したカスケードを形成していることが知られている。
| EGF、NGF インスリンなど | | IL-1、TNF-α UV照射、熱ショックなど |
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| ↓ | ↓ | | ↓ | ↓ |
| MEK1/2 | MEK5 | | MKK4/7 | MKK3/6 |
| ↓ | ↓ | | ↓ | ↓ |
| ERK1/2 | ERK5 | | JNK1/2/3 | p38α/γ/δ |
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classical Ras-Raf-MEK1/2-ERK1/2 signalling cascade↑
- 古典的MAPキナーゼのカスケード(Raf→MEK→ERK)はRas、Rap1などによって活性化される。
- ERKは活性化すると転写因子などをリン酸化し、遺伝子発現を調節することで細胞の分化や増殖などを制御していると考えられている。
- RasはRaf(=MAPキナーゼキナーゼキナーゼ:MAPKKK)を活性化する。
- RafはMEK(=MAPK/ERK kinase:MAPキナーゼキナーゼ:MAPKK)を活性化する。
- MEK1/2はERK1/2(=MAPK)ををリン酸化して活性化させる。
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MAPKKK:MAPKキナーゼキナーゼキナーゼ=MEKキナーゼ
Rafキナーゼ:RAF proto-oncogene serine/threonine-protein kinase
RAF:Rapidly Accelerated Fibarusarcoma
- セリン/スレオニンキナーゼ、MAPKKK
- レトロウイルスがん遺伝子に関連する3つのセリン/スレオニンキナーゼファミリー
- Raf遺伝子(Virus-induced Rapidly Accelerated Fibrosarcoma:v-Raf)は1983年にマウス肉腫ウイルス3611(mouse sarcoma virus 3611)から単離された。mouse sarcoma virus 3611は維肉腫 fibrosarcoma 誘導を増強するRAFキナーゼ関連がん遺伝子を含む。
- RafはGTP結合型(活性型)のRas(がん遺伝子産物)をはじめとする低分子型GTP結合タンパク質やPKCなどによって活性化され、下流のMEKキナーゼをリン酸化して活性化する。
- RAFキナーゼはRAS -RAF- MEK - ERKシグナル伝達カスケードに関与る。
- 原がん遺伝子(c-raf)産物として同定されたものである。
- RafにはヒトでA-Raf, B-RafおよびC-Rafの3種類のparalogが存在する。
A-Raf
- ヒトARAF遺伝子にコードされている酵素
- ステロイドホルモン関連のアイソフォーム
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B-Raf
- B-Raf (v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1)タンパク質は 766個アミノ酸より成る約74kDaのセリン/スレオニンキナーゼ
- B-RafはEGFRなどの受容体型チロシンキナーゼにより活性化されたRASタンパク質と直接結合し、 B-RafやC-Rafと二量体を形成することで活性化され、下流のMEK-ERK経路を活性化、細胞増殖や生存に関与する。
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C-Raf =Raf1
normal cellular Raf gene
- MAPキナーゼキナーゼキナーゼ:MAPKKKであり、膜結合型GTPaseのRasファミリーの下流で機能し直接これに結合する。
- 活性型RAF1は二重特異性タンパク質キナーゼのMEK1とMEK2をリン酸化して活性化し、これが次々とセリンスレオニン特異的キナーゼのERK1とERK2をリン酸化し活性化する。
- 活性化ERKsは細胞生理機能において多面的な作動体であり、細胞分裂周期、アポトーシス、細胞分化および細胞遊走に関与する遺伝子の発現調節において重要な役割を担う。
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・Transforming growth factor-activated kinase: TAK1
- MAPKKKファミリー
- TAK1はTGFやBMPによるシグナル伝達を媒介するセリン/スレオニンキナーゼである。
- TAK1は、IL-1に応答してTAB1とキナーゼ複合体を形成し、この複合体は核内因子κB(NfκB)の活性化に必要である。
- TAK1はMAPK8/(JNKやMAP2K4/MKK4も活性化し、環境ストレスに対する細胞応答において役割を担う。
- Tak1は胸腺細胞発生に必須であり、TAK1の活性化や欠損によりCD4やCD8を呈するシングルポジティブな胸腺細胞の成熟が阻止される。
- TAK1を欠損した胸腺細胞ではNfκBやJNKの活性化が行えず、刺激を受けた際にアポトーシスを起こしやすい。
- 神経損傷後の脊髄アストロサイトにおけるTAK1の発現上昇が機械痛覚過敏に寄与する。 参考
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Mosキナーゼ
- セリン/スレオニンキナーゼ
- Mosは動物卵の減数分裂で特異的に発現し、その活性(下流のMEK-MAPK-p90Rskを含む)は減数分裂の進行及び減数第二分裂での分裂停止(ヒトデ等の無脊椎動物は減数分裂直後のG1期停止)に必須とされる。
- 原がん遺伝子(c-mos)産物として同定されたものである。
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MAPKK=MAPKキナーゼキナーゼ
=MAPK/ERK kinase:MEK
- MAPKキナーゼによってスレオニン残基(T)とチロシン残基(Y)がリン酸化されるが、ERKではThr-Glu-Tyrモチーフ、JNKではThr-Pro-Tyrモチーフ、p38ではThr-Gly-Tyrモチーフにおいてリン酸化を受ける。
- RafはMEKを活性化する。
MEK Inhibitor:U0126/PD98059
- ある種のがんにおいて、しばしば過活動であるMAPK/ERK経路に影響を及ぼすために使用れる。
トラメチニブ trametinib(GSK1120212)(メキニスト)
- 分子標的薬に分類される抗がん剤の一つ
- BRAF変異メラノーマ治療薬としてFDA承認
- 2013年5月、トラメチニブは単剤でV600E変異またはV600K変異を有する悪性黒色腫に対する治療薬として米国でFDAに承認され、2014年1月には、BRAF阻害薬ダブラフェニブとの併用療法が迅速承認された。また2014年4月には欧州でEMAから「切除不能または転移性のBRAF V600変異陽性メラノーマを有する成人患者」に対しての承認を取得した。
- 日本では2016年3月に「BRAF 遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」について承認された。
- 転移のある悪性黒色腫の内、BRAF・ V600E変異陽性の腫瘍をターゲットとした第III相臨床試験でトラメチニブは良好な結果を示した。
- MEK阻害効果により、細胞の増殖に寄与するMAPK/ERKシグナル伝達経を阻害して抗腫瘍効果を発揮する。
- MEK1およびMEK2を阻害する。
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U0126
1,4-diamino-2,3-dicyano-1,4-bis[2-aminophenylthio]butadiene
- MW= 426.5
- MEK1/2の選択的阻害剤:MAPKの活性化を阻害する。
- MEKに非競合的に結合して触媒活性を阻害することにより、ERKのリン酸化による活性化を妨げる。
- MEK1およびMEK2を同等に阻害する。
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PD98059
- MEK1の選択的阻害剤(MEK2の阻害効果はほとんどない。)
- RafによるMEK1の活性化を妨げる阻害剤
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Selumetinib
- PFSの改善を示した非小細胞肺がん(NSCLC)の第2相臨床試験を受けており、KRAS突然変異陽性NSCLC(SELECT-1、NCT01933932)のフェーズⅢ開発に進んでいる。 進行中のその他のph 3臨床試験には、ブドウ膜黒色腫(失敗)および甲状腺分化がんが含まれる。
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PD0325901
- 選択的で、かつ非ATP競合的なMEK阻害物質
- 乳がん、結腸がん、およびメラノーマについて進行性非小細胞肺がんの第II相試験は、「その主要有効性エンドポイントを満たさなかった」。
- CHIR 99021(GSK-3阻害物質)と共に使用することにより、ES細胞の分化を抑制し、自己複製能の維持に有用
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MAPK
ERK extracellular signal-regulated kinase(細胞外シグナル調節キナーゼ)
- ほ乳類の代表的なMAPキナーゼ(:MAPK)ファミリーに属するシグナル伝達分子で、ERK1/2はもっとも早くに発見されたことから古典的MAPキナーゼとも呼ばれる。
- ERKファミリーとして5つのアイソフォーム(ERK1∼ERK5)が報告されている。
- MAPKキナーゼによって、ERKのThr-Glu-Tyrモチーフがリン酸化される。
ERK1/2(古典的MAPK)
- MAPKファミリーの中でも最初に同定されたので、古典的MAPKとも称される。
- ERK1:分子量 44kDa
- ERK2:分子量 42kDa
- ERK1とERK2のタンパク質のアミノ酸配列は互いに85%の相同性がある。
- 上流のMAPKKKはRafやMos、MAPKKはMEK1/2で、ERK1/2はEGF刺激などの結果MEK1/2にリン酸化されて活性化すると、Elk1やc-Mycなどの転写因子、またはRSKなどのリン酸化酵素をリン酸化することで細胞増殖シグナルを活性化する。
- 活性化されたERKは細胞質から核内へ移行しDNAのserum response element:SREにserum response factor:SRFとともに結合しているErk-1をリン酸化し、SREの下流にある遺伝子fosの転写を促進する。
- ERK1/2が神経系に及ぼす多くの影響が報告されている。神経伝達物質によってERKが活性化されることが知られていて、興奮性神経伝達を担うグルタミン酸受容体においては、NMDA型と代謝型の受容体が共にERK1/2の活性化に寄与していると言われている。グルタミン酸受容体の活性化に伴うカルシウムの細胞質への流入やPKAの活性化によって活性化されたERK1/2はCREBのリン酸化などを通して様々な遺伝子の発現制御を行っている。
- シナプス可塑性とERK1/2の関連性も報告されている。マウス海馬ではNMDA型グルタミン酸受容体が活性化されるとと呼ばれるシナプス可塑性現象が起きるが、このときにシナプス後神経細胞ではERK1/2が活性化されており、逆にERK1/2の活性を阻害することでNMDA型受容体依存的な長期増強が抑制される。
- ラットにおいても海馬のシナプスを高頻度電気刺激することで長期増強が誘導されるが、この時にもERK2が活性化され、その阻害によって長期増強が阻害される。一方、小脳プルキンエ細胞においては、平行線維の活動とプルキンエ細胞の脱分極が同時に起きることによって平行線維ープルキンエ細胞シナプスのおいて長期抑圧(Long-term depression: LTD)という、長期増強とは逆方向のシナプス可塑性が起きる。この際にもプルキンエ細胞においてERK1/2が活性化され、逆にERK1/2を阻害すると長期抑圧は起きない。その他、ERKの活性がAMPAグルタミン酸受容体の輸送や樹状突起の構造変化において重要な役割を果たすという報告もなされている。
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BMK1/ERK5
- 古典的MAPKであるERK1/2と近縁のMAPキナーゼ
- ERK5はC末端側に転写活性化領域を併せ持つ特異な構造を有しているため、他のファミリー分子に比べて分子量が大きくなっていることから、Big MAPK (BMK)とも呼ばれている。
- 上流のMAPKKKはMEKK2とMEKK3、MAPKKはMEK5であり、酸化ストレスや血清刺激、EGF刺激によって活性化されるとSap1a, c-Myc, RSKなどの基質をリン酸化し、ERK1/2同様に細胞増殖シグナルを活性化する
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- EGF受容体などのチロシンキナーゼ受容体にリガンドが結合することでシグナルが流れた結果、ERKの活性化ループに存在するTEYモチーフがリン酸化されて活性化する。
- インスリン、アンギオテンシンII、エンドセリン、細胞増殖因子などの増殖刺激により最も典型的に活性化される。
- 炎症時に放出されるNGFとTrkAのホモ2両体が形成されると、Rasを介して、MAPKを活性化する。
- ERK5は発生初期の脳において発現が強く見られ、脳の皮質幹細胞が神経細胞に分化する過程にその活性が重要であることが示されている。また、ERK1とERK2は脳においてcAMPや神経栄養因子、皮質ニューロンの活性化によって活性化されるが、ERK5は神経栄養因子によってのみ活性化される。神経栄養因子とERK5の関係については、神経栄養因子飢餓状態の脳の皮質ニューロンにBDNFを添加することでBDNFによる神経保護が引き起こされるのだが、この過程においてERK5の活性化によってMEF2を介した遺伝子発現が誘導されることが重要であると示唆されている。その他、自殺者の視床下部においてERK5とその上流のMAPKKであるMEK5の活性が低下傾向にあること、ERK5のmRNAとタンパク質の量が減少していることなどが示唆されている。ERK7、ERK8に関しては、脳において機能的な役割を果たしているという報告はなされていない。
- 侵害刺激によっても、刺激強度に依存して、DRGの小型ニューロンでERKのリン酸化が誘導される。
- ERKのリン酸化は、終末や2次ニューロンでもみられ、痛みの過敏化に関わっている可能性がある。
- ラットの足蹠にカプサイシンを投与する
- 投与直後、DRGの小型ニューロンにERKのリン酸化。リン酸化のピークは2分
- 一次求心性神経終末でもERKのリン酸化
- 脊髄後角でのERKのリン酸化のピークは2分
- 急性炎症
- DRGのTRPV1受容体発現ニューロンにERKの活性化
- ホルマリン刺激直後に、脊髄後角NMDA受容体が発現している脊髄後角侵害受容ニューロンに、ERKの活性化し、ERKリン酸化阻害薬により、ホルマリン反応の2相が抑制される。
- BDNF発現に、ERKのリン酸化が必要。
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○JNK/SAPK
JNK:c-JuN N-terminal kinase(c--Jun N-末端タンパクキナーゼ):Junキナーゼ |
- ほ乳類の代表的なMAPキナーゼ
- MAPKキナーゼによって、JNKのThr-Pro-Tyrモチーフがリン酸化される。
- c-Junリン酸化によって、転写因子活性化を起こすセリン/スレオニンキナーゼ
- JNKとp38は当初、細胞死応答に関連したストレス活性化タンパクキナーゼ(SAPK)として同定された。
SAPK:ストレス活性化タンパクキナーゼ(stress-activated protein kinase)
---高浸透圧、熱ショック、紫外線照射どの物理化学的ストレス、虚血、炎症性サイトカインなどの生理的ストレスによって活性化される。 |
- JNK/SAPKカスケードは浸透圧ショックを与える試薬(ソルビトールなど)、タンパク質合成阻害剤(アニソマイシンなど)、成長因子によっても活性化される。
- JNKの主要なアイソフォーム:p46/JNK1、 p54/JNK2、 p49/JNK3
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○p38MAPキナーゼ:p38 MAPK
p38分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ p38 mitogen-activated protein kinase
- MAPKキナーゼによって、p38のThr-Gly-Tyrモチーフがリン酸化される。
p38 →p38MAPキナーゼ
- p38は、サイトカイン抑制性抗炎症性薬物(Cytokine-suppressive anti-inflammatory drugs:CSAIDsのターゲットとして同定された。
- p38は、CSBP(CSAID binding protein)とも呼ばれていた。
- 分子量約 38kDaのタンパク質
- p38はα, β, δ, γの4種類のアイソフォームを持つMAPKのサブファミリーで、様々な環境ストレスや炎症性サイトカインによって活性化される。
- p38を活性化するほとんどのストレスはJNKも活性化する。
- 海馬CA1ではシャッファー側枝を低頻度刺激すると長期抑圧が起きるが、この際にシナプス後部細胞においてp38が活性化され、逆にp38を阻害すると長期抑圧が起きないことが明らかになっている。
- 小脳プルキンエ細胞における長期抑圧にはp38は関与しない。神経細胞においてp38が酸化ストレスや炎症性サイトカイン刺激によって活性化すると、細胞骨格タンパク質のリン酸化、サイトカインの産生やNOSの発現を介するNOの産生によって神経変性を促進することが知られている。
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- p38MAPキナーゼは、免疫系の細胞がリポ多糖(LPS)に刺激された際にチロシンリン酸化されるタンパク質として単離されたセリン/スレオニンキナーゼ
- 酵母のp38 ホモログである HOG (High Osmolarity Glycerol response) から、 ATF (Activating Transcription Factor) をリン酸化することが確認された。
- JNKと同じMAPキナーゼファミリーの主要なメンバーであり、SAPKでもある。
- 炎症やアポトーシスの進行に重要な機能を果たす。
- p38カスケードも、熱ショック、タンパク合成阻害剤(アニソマイシン)、紫外線、浸透圧変化などの物理化学的ストレス、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、虚血などの生理的ストレスによって活性化される。
- MKK3:p38MAPKのMAP kinase kinase
- 炎症時のTRPV1受容体の活性化に関与する。
炎症刺激→末梢組織のNGFの増加→侵害受容線維の末梢自由終末のTrkAの活性化→p38MAPキナーゼのリン酸化→TRPV1受容体の発現が増加
- 慢性炎症:脊髄後角のミクログリア内で、p38のリン酸化
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・Rhoキナーゼ (Rho-kinase) ←→Rho/Rho-kinase阻害薬
- 細胞骨格を制御する重要なセリン/スレオニンキナーゼ、低分子量GTPase
- 1990年代半ばのほぼ同時期に、日本の研究グループとシンガポールの研究グループから、低分子量GTP結合タンパクRhoの標的タンパクとして同定された細胞内セリンスレオニンリン酸化酵素である。(酵素活性は自己阻害されているが、Rhoが結合することにより活性化される。)
- 細胞の形態変化や収縮・伸長を調節する鍵酵素であり、血管系や神経系疾患の治療における有望な薬物標的タンパク質である。
- Rho/Rho キナーゼ経路が、動脈硬化血管の収縮性の亢進、血管攣縮の発現や動脈硬化の成因そのものに深く関与していることが明らかになってきている。
- 参考→ Rhoキナーゼが MARCKSのSer159を特異的にリン酸化して神経障害性疼痛に関与することが報告された(Neuroscience (2005) 131, 491-498)。MARCKSは脳におけるPKCの主な基質でリン酸化により細胞骨格タンパクの再構築によりトラッフィキングや神経伝達物質の遊離に関与することが知られている。
- Rhoキナーゼ阻害薬---ファスジル、Y-27632
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・IκBキナーゼ(Inhibitory kappa B kinase):IKK 参考1
- IκBキナーゼは、NF-κB(転写因子)の主要な制御因子である。
- IκB(NF-κB阻害タンパク)がリン酸化を引き金として分解されることによって、NF-κBが活性化される。
- NF-κBに結合するIκBは、IκBキナーゼによるリン酸化により分解され、遊離したNF-κBが核に入って増殖や細胞死抑制に関与する遺伝子群や、炎症性サイトカイン遺伝子群の転写を誘導する。
- 近年、2つのグループによってIκBキナーゼ (IKK)が同定された。
- IκBキナーゼはIκBを直接結合しリン酸化する。
- IκBキナーゼは、最近同定されたキナーゼである、NF-kB inducing kinase (NIK)によってリン酸化され活性化されることが示されている。したがって、
NIK→IKKのキナーゼカスケードがNF-κBの活性化に働いていると考えらている。
- NF-κBは自然免疫応答や炎症反応のいたるところで重要な働きをしているが、一方でNF-κBは様々な組織由来のがんの成長を助長するのにも関わっている。
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・グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β Glycogen synthase kinase 3β:GSK-3β 参考1
- GSK-3はほとんどの真核細胞や動物組織で発現している多機能性のプロテインキナーゼである。
- GSK-3はプロリン指向性セリン/スレオニンキナーゼのひとつであり、最初にグリコーゲン合成酵素をリン酸化して不活化する酵素として見出された。
- GSK3βは基質タンパク質の Ser/Thr-Pro またはSer/Thr-X-X-X-pSer/Thr 配列を認識して、その Ser または Thr 残基をリン酸化し、基質タンパク質の性質を変化させることによって機能している。
- Gsk-3βは多くの活性化セグメント ・タンパクキナーゼと同様に、アミノ末端βシートドメインとカルボシキル末端αへリックスドメインを持つ。Gsk-3βはダイマーとして結晶化されることより、ダイマー構造をとっていると考えられる。
- GSK-3のリン酸化の速度と効率は多数の因子によって調節されている。GSK-3の特定の残基のリン酸化によって、基質へ結合する能力が向上したり低下したりする。GSK-3βの216番目のチロシン残基 (Tyr216) またはGSK-3αのTyr279のリン酸化はGSK-3の酵素活性を向上させ、GSK-3βのSer9またはGSK-3αのSer21のリン酸化は活性部位の利用可能性を大きく低下させる。
- GSK3βの活性はリン酸化によって制御されている。活性化ループに存在する Tyr216 のリン酸化は自己リン酸化で活性化に必須である。この部位は合成時にリン酸化され、恒常的に活性型と考えられている。GSK3βは成長因子などにより、
Ser8 がリン酸化されて不活性化される。
- GSK-3βはWnt、Shhなどのシグナル伝達の制御に関与していて、胚発生における体軸形成や神経系の分化に重要な役割を果たしている。
- GSK-3βは細胞死、あるいは細胞増殖に関わるPI3K (ホスファチジルイノシトール-3 キナーゼ) -Akt-GSK3β-Wnt/β-カテニン系における役割、Reverb-α→Clock/BmaL1を介したサーカディアンリズム制御系、タウのリン酸化、などにおける役割を果たす。
- GSK-3βは神経新生、シナプス可塑性、アポトーシスなどに関与する脳由来神経栄養因子:BDNFおよWntシグナル伝達経路における主要なコンポーネントとしての細胞内の多様な機能制御に関与している。
- GSK-3βは転写因として働くβカテニンなどの作用を調節することにより、神経新生およびシナプス可塑性などに関連する遺伝子群の発現に対して抑制的に作用する。
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L803-mts
- グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK-3)の選択的ペプチド阻害剤
- in vivoで投与すると、マウスに抗うつ作用をもたらす。
- PKC、PKB、またはcdc2プロテインキナーゼの阻害はない。インスリン模倣活性を示す。
- HEK293細胞でグリコーゲンシンターゼ活性を2.5倍活性化する。
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・カゼインキナーゼI casein kinase I:CKI
- セリン/スレオニンキナーゼのひとつ
- 生存と増殖に必須であり、多くの細胞内基質を有することが知られている。
- がん抑制遺伝子産物APCと相互作用するキナーゼとして見出された。
カゼインキナーゼIα Casein kinase I isoform alpha:CK1
α(CSNK1A1)
- CK1αはWntシグナリング においてDishevelled、βカテニンのリン酸化、HedgehogシグナリングにおいてSmo受容体のリン酸化を通してそれぞれのシグナルの制御を行う。
- CK1-αをコードする遺伝子CSNK1A1は MDS-del(5q)で中間欠失部に局在し、反復性変異が認められる。
- 体内時計、翻訳開始因子eIF6の核外移行にも関与している事が示唆されている。
- CK1αはタウのリン酸化を行い、CK1の活性はアルツハイマー病患者の脳で亢進している。
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Casein kinase I isoform gamma:CK1γ(CSNK1G)
CK1γ1(CSNK1G1)
- 形態形成・発生に関与する。
- Wntシグナリングにおいて、LRP6受容体をリン酸化し活性を促進する。
- 神経系においてはグルタミン酸を介したシナプス伝達の制御に関与している。
CK1γ2(CSNK1G2)
- Wntシグナリングに関与する。
- 脳の発生とシナプス伝達、SMAD3転写因子のリン酸化・分解の促進によるTGFβシグナリングの抑制、COL4A3BP/CERTのリン酸化による小胞体からゴルジへのセラミド・スフィンゴミエリン輸送の抑制に関与する。
CK1γ3(CSNK1G3)
- CSNK1G3のRNAiノックダウンがAktキナーゼ阻害剤の細胞殺傷効果
を増幅させるとの報告がある。
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・mammalian target of rapamycin:mTOR 参考2
- ラパマイシンの標的分子として同定された。
- 290kDaの巨大なセリン・スレオニンキナーゼ
- 細胞外シグナル、栄養、エネルギー状態、ストレスなどに応答して、様々な細胞内プロセスを制御している。
- ribosomal S6 kinaseやPHAS-1(eIF-4E binding protein)を活性化することでリンパ球活性化を引き起こすが、silorimusはこの経路を抑制する。
- 樹状突起におけるKv1.1チャンネルのmRNA翻訳は、活性とmTORに依存して抑制される。*
- mTOR陽性線維はNF200陽性の有髄線維
- 足底へのラパマイシン投与はカプサイシン投与によるsecondery hyperalgesiaを抑制して機械刺激に対する過敏性を減弱させる。
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・Ribosomal protein S6 kinase beta-1 (S6K1):P70-S6 Kinase :p70S6K、p70-S6K
- セリン・スレオニンキナーゼ
- P70-S6 Kinase 1はヒトRPS6KB1遺伝子でコードされる。
- PIP3の下流や PI3K経路のphosphoinositide-dependent kinase-1で働く。
- リボゾームタンパク質S6とeIF4Bなどの標的タンパク質のp70 S6キナーゼによるリン酸化は、特異的なmRNAの翻訳を調節するが、一方、p70 S6キナーゼを介したIRS-1及びRictorに対する負のフィードバックは、mTORC2 (mTOR複合体2: mTOR、GβL、Rictor、PRR5、Deptor) のAktへのシグナル伝達を抑制する。
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→PTEN-induced putative kinase 1 : PINK1
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