DNA脱メチル化 DNA demethylation ←→DNAメチル化/メチル化解析
- メチル化されたシトシンからメチル基をはずすことにより、サイレントだった遺伝子を働かせる機構
- Tetタンパク質ファミリーはDNA脱メチル化酵素として機能する可能性がある。Gadd45Gが直接Rループに結合し、TET1を動員することによって局所的なDNAの脱メチル化を仲介する。
- 等先生らは、脳ができていく一番最初の過程でDNAの脱メチル化が必要なこと、そしてDNA脱メチル化にGcmが必須であることを初めて証明した。
Gcm遺伝子のノックアウトマウスでは、DNAの脱メチル化が起きないためにHes5遺伝子が活性化されず、その結果として神経幹細胞が形成がされない。 [PubMed/参考1/2]
- DNA脱メチル化には受動的な機構と能動的な機構とが存在する。
受動的なDNA脱メチル化 passive DNA demethylation
- ゲノムの複製に依存して起こるDNA脱メチル化
- DNAが複製される時、親鎖側のメチル基を娘鎖側にコピーする「維持メチル化」が起こらないことにより、娘鎖DNAにシトシンが取り込まれ5-メチルシトシンが減少するものである。
- 細胞分裂時にゲノムが複製されると、新規に生合成されたDNA鎖は当初はメチル化されていないが、DNAメチルトランスフェラーゼDnmt1の働きにより鋳型となったDNA鎖のメチル化の状態を反映してすみやかにDNAメチル化されていく。
- Dnmt1のはたらきが抑制されると新規に生合成されたDNA鎖のメチル化は低下するため、数回の細胞分裂の後にDNAは脱メチル化された状態になる。
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能動的なDNA脱メチル化 active DNA demethylation
- ゲノムの複製なしに起こるDNA脱メチル化
- 受精直後の精子ゲノム、始原生殖細胞のゲノムや細胞分化後の一部の遺伝子プロモーターでこのようなDNA脱メチル化が観察されている。
- 早期胚の細胞ではDNAがメチル化されているが、マウスの胎生7.5~8.5日にGcm遺伝子がNotchシグナルの標的であるHes5遺伝子のプロモーターを脱メチル化すると、Notchシグナルが伝わるようになり、神経幹細胞が誘導される。この脱メチル化は能動的脱メチル化である。
- 提唱されている有力なモデル:メチルシトシンがAID/Apobec1などのデアミナーゼの作用でチミンに変換され、その結果、相補DNA鎖とG::Tミスマッチ状態になる。
- このミスマッチのチミンがMBD4やTDGのはたらきで除去され、DNA修復機能によりもとのシトシンになることでDNAが脱メチル化されるという説
- しかしすべての能動的なDNA脱メチル化がこの分子機構で起こっているのか、ほかの分子機構があるのかはわかっていない。
- TETは能動的DNA脱メチル化機構において、脱メチル化酵素として働くタンパク質
- Gadd45-Aが直接Rループに結合し、TET1を動員することによって局所的なDNA脱メチル化を仲介する。
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細胞記憶 cell memory ←→記憶 参考1/2
- 各細胞の「その細胞らしさ」を決めている情報。細胞分裂を経ても維持される(=記憶される)。遺伝情報を設計図と見なすなら、細胞記憶は設計図のどの部分を読むか、すなわち遺伝子の発現パターンを決めている。
- DNAメチル化パターンは、細胞が分裂しても親細胞から娘細胞へと正確に受け継がれていくため、細胞固有の性質を記録している「細胞記憶」の一つと考えられている。
- 高等生物では、各器官・組織へと分化した細胞が、それぞれの役割に応じて正常に機能する必要がある。各組織構成の基盤となっている多能性幹細胞ひとつひとつは、自己の遺伝子発現プロファイルの変化を「記憶」しながら、次第にその終末的姿へと分化してゆく。
- 多細胞生物の各細胞における個々の遺伝子発現パターンの差異は細胞分裂を経ても維持され(細胞記憶)、細胞分裂停止後もその記憶は長期に渡り維持される必要がある。この細胞の「記憶」が何らかの原因で破綻すれば生物体は甚大な障害に直面するので、生物はその進化の過程において、この「記憶」を整理し、維持してゆくためのシステムを獲得したものと考えられている。
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DNAアルキル化 alkylation ←→アルキル化薬
- アルキル化とは、一般には置換反応または付加反応により化合物にアルキル基を導入する化学反応の総称である。広義には反応形式としてアルキル基が置換される反応も含める。
アルキル基 alkyl group
- アルカン(メタン系炭化水素)から水素原子一個を除いた残りの原子団の総称
- 脂肪族飽和炭化水素から水素原子1個を除いた残りの炭化水素基の総称
- 炭素原子数3以上のものでは,同じ炭化水素から取除かれる水素原子の位置により,構造の異なった別種のアルキル基ができる。
- たとえばプロパンからは n -プロピル基 CH3CH2CH2- とイソプロピル基 (CH3)2CH- とができる。前者の末端 CH2- のC を第一級炭素原子といい、後者の末端 CH- のC を第二級炭素原子という。
- アルキル基はがん細胞などのDNAに結合しDNAの複製を阻害する作用をあらわす。またアルキル基が結合した状態で細胞が分裂や増殖を続けようとするとDNAの破壊がおこり、細胞はアポトーシスを起こす。これらの作用により、アルキル化薬は抗腫瘍効果をあらわす殺細胞性抗がん薬となる。
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- DNA のアルキル化は全ての塩基で起こり細胞毒性を示す。その主なアルキル化傷害の一つにグアニンの6位がメチル化されて生じるO6-メチルグアニン (O6-meG) があり、それは塩基誤対合やアポトーシスを引き起こすことが知られている。この傷害塩基を修復するために、ほとんど全ての生物種がO6-alkylguanine-DNA alkyltransferase (AGT) という酵素を持っている.この酵素は自身の活性部位のシステイン残基側鎖へアルキル基を転移させることによりDNA 中のO6-meG 傷害を直接的にグアニンへ修復する。
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Notch
1914年 | John S.Dexterがキイロシロショウジョウバエ Drosophila melanogasterの羽に羽に切り込み(ノッチ)を持つ変異体を同定した。 |
1917年に | Thomas H, Morganがノッチの遺伝子は劣性の対立形質として特定した。 |
1980年代 | 遺伝子産物の生化学的な解析や遺伝子の配列解析は1980年代にSpyros Artvanis-Tsakonas と Michael W. Youngによって独立に行われた。 |
1983年 | Spyros Artvanis-TsakonasがNotchの原因遺伝子をクローニングした。 | |
細胞系譜決定
剛毛の形成では、1つの細胞系譜からシャフト細胞、ソケット細胞、グリア、ニューロンが分化するが、Notchシグナルが欠損するとニューロンのみが分化する。 |
境界形成
翅の縁でNotchシグナルが働き、背側と腹側の境界をつくる。この過程においてNotchシグナルが欠損すると、その部分にへこみ(Notch)が生じる。
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側方抑制 lateral inhibition 参考*
- 発生過程で細胞の運命決定が行われる時、細胞間シグナル伝達経路を介して隣接する細胞が特定の運命を辿ることを抑制する現象
- ハエの感覚毛の基となる細胞はNotchシグナルを介して周囲の細胞が同じ運命を辿ることを抑制することにより、感覚毛と表皮の細胞の運命決定が微調整されている。
- ショウジョウバエの腹側神経予定域では、ニューロンに分化する細胞はDeltaリガンドを強く発現し、隣接細胞が発現するNotch受容体を活性化することで、周囲の細胞がニューロンに分化するのを抑制している。
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トランス活性化 transactivation ←→トランス因子
- 遺伝子が他の遺伝子にコードされる転写活性化因子で発現を亢進される現象
- 隣接細胞からのリガンドとNotch受容体の相互作用を誘導するシグナル伝達経路の活性化(トランス-活性化)、同じ細胞から配位子との相互作用を阻害するシグナル伝達(シス阻害)。トランスとの間の適切なバランス-活性化とcis-抑制は、ノッチは動物の開発時にいくつかのコンテキストにおけるシグナル伝達の最適なレベルを確立するのに役立つ。
- 転写因子は高度にモジュール化された構造を持つ。転写制御に関与する様々な機能を持った領域(ドメインとも呼ばれる)が、一つの転写因子の中に組み込まれている。各機能領域の配列や数は転写因子によって異なり、シグナル検知とトランス活性化機能は同じ領域に含まれることが多い。
トランス活性化領域 transactivation domain:TAD
- 他のタンパク質(共役転写調節因子など)と結合するための領域
- この部分は「活性化機能(activation functions)」と呼ばれることが多い。
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シス阻害 cis-inhibition ←→シス因子 参考*
- Notchシグナルは細胞間でリガンドと受容体が結合することでシグナルが伝わる。しかし、リガンドと受容体が同一の細胞に共発現していると、リガンドは受容体がシグナルを受けとることを阻害し、受容体はリガンドがシグナルを送ることを阻害する。この阻害をcis-inhibitionという。
- 24〜29番目のEGFリピートを介して起こる。
- EGFリピート4〜6が、Serrateを介するシス阻害に必要
- 膜貫通型受容体であるNotch受容体が、近傍細胞(シグナルを送る細胞)上に存在するその膜貫通型リガンドの1つと結合することでプロテアーゼによる切断が生じ、膜からNotch細胞内ドメインが放出される。これが核内移行して、シグナルを受容する細胞で標的遺伝子の発現を促進することができる。しかし、同一細胞に存在するリガンドにNotchが結合すると、シグナル伝達は阻害される。
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- Notchは哺乳類やそのほか多くの多細胞生物に広く保存されている。
- ほ乳類には4つのNotch受容体と5つのリガンド(DSLリガンド:Jag1, Jag2, DII1, DII3, DII4)を持つ。
- 後生動物で進化的に保存された分子機構があり、動物の様々な臓器の発生過程、成体でのホメオスタシス、幹細胞機構、腫瘍形成などに関与している。
- 発生過程における細胞運命の指定とパターン形成に関与する。
- Notchタンパクは細胞膜に結合して、細胞外からの情報を細胞内に伝達する役割を果たす受容体であると考えられている。
- 試験管内の神経幹細胞でNotchシグナルを活性化すると、ニューロンへの分化が抑えられ、アストロサイト分化が誘導される。
NOTCH遺伝子
- Notch遺伝子は局所的な細胞-細胞相互作用を通して細胞の運命を制御する機能をもち、線虫からヒトまで進化的に保存されている。
- 心血管系においても、多くのNotchシグナル因子(リガンド・受容体・標的因子)が血管に発現し、それらの遺伝子改変動物の多くが血管形成異常を呈する。Jagged1の変異が原因のAlagille症候群とNotch3変異によって起こるCADASIL症候群は血管系の異常を呈し、血管平滑筋の異常がその病因であると考えられている。
- ほ乳類に4つのNOTCH遺伝子:NOTCH1、 NOTCH2、 NOTCH3 および NOTCH4があり、それぞれ約50%程度の相同性が認められている。
- 4種類のNOTCHとも同じリガンドでシグナル伝達が活性化されることから、発現の時期や局在がその機能に深く関係している可能性がある。
NOTCH1はおもに神経細胞や造血細胞の分化を、NOTCH2はグリア系細胞の増殖に関係していることが報告されている。またNOTCH1およびNOTCH2ノックアウトマウスは中胚葉分節形成異常により致死となるが、NOTCH3およびNOTCH4ノックアウトマウスでは発生や形態的異常は認められず正常であるので、NOTCH1およびNOTCH2は胚発生に重要な働きを担っていると考えられる。
- ヒトのゲノムにはNOTCH2遺伝子と4つのNOTCH2NL遺伝子が存在する:NOTCH2NLA遺伝子、NOTCH2NLB遺伝子、NOTCH2NLC遺伝子、NOTCH2NLR遺伝子
- ヒトに固有なNOTCH遺伝子:NOTCH2NLB遺伝子
参考1 ヒトに固有なNOTCH2NLB遺伝子はNotchシグナルの制御を介して大脳皮質のニューロンを増加させる@鈴木郁夫先生 Cell. 2018 May 31;173(6):1370-1384.e16 1/2/3 /a/b/c /d/e
Notch homolog 2 N-terminal-like:NOTCH2NL
- NOTCH2NL遺伝子はNOTCH2遺伝子のN末端側の領域ときわめて高い相同性を示す遺伝子として発見された。
- ヒト特異的NOTCH2NL遺伝子の3つのパラログはradial gliaに高発現している。
- ヒトのゲノムにはNOTCH2遺伝子に加え、NOTCH2NLA遺伝子、NOTCH2NLB遺伝子、NOTCH2NLC遺伝子、NOTCH2NLR遺伝子の4つのNOTCH2NL遺伝子が存在する。
- Notchシグナルの受容体をコードするNOTCH2遺伝子は脊椎動物に広く保存されているが、タンパク質をコードするNOTCH2NL遺伝子はヒトにだけ存在することが類人猿のゲノムの比較解析から明らかにされた。
- 4つのNOTCH2NL遺伝子は完全に同一ではなく少数のアミノ酸置換や欠失があり、もっとも高く発現するNOTCH2NLB遺伝子がもっとも長いタンパク質をコードする。NOTCH2NLBはN末端側から順に、シグナルペプチド、6つのEGFリピート、機能未知の24アミノ酸残基、の3つのドメインから構成される。
- このうち、シグナルペプチドおよびEGFリピートはNOTCH2とのあいだにきわめて高い保存性をもち、機能未知の24アミノ酸残基はNOTCH2NL以外のいかなるタンパク質とも配列の類似性はなかった。
- 脳の発生異常や、統合失調症、自閉症などと関わる染色体領域1q21.1領域に全部で3種類の遺伝子重複で発生した遺伝子が並んでいる。
NOTCH2 N-terminal like B:NOTCH2NLB
→Notch homolog 2 N-terminal-like protein B
- NOTCH2NLB遺伝子はヒト以外の生物種には存在せず、ヒトのゲノムにおいて脳の容積の異常と関連するゲノム領域にコードされている。
- オランウータンとゴリラが分離するとき、NOTCH2から重複して、PDE4DIP遺伝子と結合した偽遺伝子として生まれた。その後400万年前、NOTCH2とNOTCH2NL間の組み換えが起こり、偽遺伝子から機能的NOTCH2NLがヒトで発生し、その後2回の遺伝子重複でNOTCH2NLBとNOTCH2NLCが生まれることで、組み替えによる遺伝子変異が起こりやすい遺伝子座ができあがった。
- ヒトはチンパンジーと分岐した後に、NOTCH2NLB遺伝子を獲得したことにより、より長期間にわたりニューロンの産生が続くようになり、その結果より多くのニューロンにより構成される大きな大脳皮質を獲得したと考えられた。
- ヒトのES細胞は30日で皮質細胞に分化する。培養20日でクローンサイズは倍になり、クローン中の皮質前駆細胞マーカーであるSOX2陽性細胞の割合は減少するが、NOTCH2NLB発現クローンでは3倍になるので、SOX2陽性細胞の割合はそれほど減らない。
- NOTCH2NLB遺伝子はヒトの大脳皮質の前駆細胞においてNotchシグナルを活性化することにより、前駆細胞を未分化なまま維持する効果をもつ。30日目にレンチウイルスでNOTCH2NLBをヒトの皮質細胞に過剰発現させ、7日目の免疫組織化学染色では、PAX6陽性細胞(前駆細胞のマーカー)をコントロールよりも増加させたが、βIIItubulin(未成熟ニューロンのマーカー)は増加させなかった。クローンの増幅に対するNOTCH2NLBの効果は自己複製能の亢進によるものである。
- NOTCH2NLA/Bは、皮質サイズを爆発的に増加させることと関連するouter radial glia:oRG細胞でも高く発現している。
- NOTCH2NLBはN末端側から順に、シグナルペプチド、6つのEGFリピート、機能未知の24アミノ酸残基、の3つのドメインから構成される。NOTCH2NLBはEGF様リピートを介してヒトの皮質前駆細胞の維持を促進させる。
- 4つのNOTCH2NL遺伝子は完全に同一ではなく少数のアミノ酸置換や欠失があり、もっとも高く発現するNOTCH2NLB遺伝子がもっとも長いタンパク質をコードする。NOTCH2NLBはN末端側から順に、シグナルペプチド、6つのEGF様リピート、機能未知の24アミノ酸残基、の3つのドメインから構成される。
- NOTCH2NLBを発現する神経前駆細胞においては,NotchのリガンドであるDLL1の機能が抑制されるためNotchシグナルのレベルが高まり,結果として、ニューロンへの分化が抑制され、前駆細胞として維持される傾向が強まる。
- NOTCH2NLA遺伝子、NOTCH2NLB遺伝子、NOTCH2NLC遺伝子は第1染色体の染色体領域1q21.1領域にコードされる。1q21.1領域における重複および欠失は脳の大きさの異常と関連するという複数の報告がある。脳の発生に異常を示すヒトにおいて少なくとも1つのNOTCH2NL遺伝子にコピー数の異常のあり、NOTCH2NL遺伝子が脳の発生に関与する可能性が示唆された。
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Notchシグナル伝達系 参考1/2/3/4
- Notchシグナルは、ショウジョウバエから哺乳動物にまで広く保存されたシグナル伝達経路の一つである。このシグナル伝達の特徴は、細胞間の物理的な接触を必要とする近距離間でのシグナル伝達経路である。
- Notchシグナル伝達経路は、多細胞生物において進化的に保存された経路で、発生の過程及び幹細胞において細胞の運命の決定を調節する。
- Notchシグナル伝達系は細胞間シグナル伝達を担う主要なシグナル伝達系のひとつであり、隣接する細胞のあいだの受容体とリガンドとが相互作用することにより互いの状態を伝達する。
- Notch経路は、神経、心臓、免疫及び内分泌系の発生において、多様に整列した細胞の運命が制御される、隣接する細胞間の接触分泌型(Juxtacrine)シグナル伝達を媒介する。
- Notchは細胞の表面において隣接する細胞に発現したリガンド(DeltaあるいはSerrate/Jagged)と結合し、続いてタンパク質切断酵素の作用により活性化される。これにより、Notchの細胞内ドメインは切り離されて核へと移行し、コアクチベーターや転写因子と相互作用することにより標的遺伝子の転写を促進する。
- 個々の神経前駆細胞はリガンドであるDll1(Delta Like 1)と受容体であるNotchをさまざまなレベルで発現する。
- となりあう細胞どうしはつねにNotchシグナルをやりとりとし、周囲の細胞よりも高いレベルでNotchシグナルを受容した細胞はニューロンへの分化が抑制され前駆細胞として維持される。NotchシグナルはDLL1の発現を抑制するため、相対的に高いレベルのNotchシグナルを受容した細胞はとなりの細胞へ伝達するNotchシグナルのレベルが低下する。
- 逆に、DLL1を高く発現する細胞はとなりの細胞へ伝達するNotchシグナルのレベルが上昇するため、結果として、自らが受容するNotchシグナルのレベルが相対的に低下しニューロンへと分化しやすくなる.実験的にDLL1を少数の神経前駆細胞において過剰発現するとニューロンへと分化する傾向が強まり、逆に、DLL1をノックアウトした神経前駆細胞は前駆細胞として維持されやすくなる。
- Notchシグナルは神経幹細胞の維持に関わっている。 参考1
- 神経幹細胞の自己複製能にはNotchシグナルが重要な役割を担っている。
- Gcm遺伝子がDNAを脱メチル化させることによって、Hes5遺伝子が動きだし、Notchシグナルを活性化させて、神経幹細胞が生成される。
- ゴルジ体膜タンパク質であるRer1をマウスの脳形成時に欠損させると、脳内のγ-セクレターゼが減少することによりNotchシグナルが低下し、神経幹細胞の量が減少する。
- Notchシグナル活性の減弱によって成体脳の神経幹細胞が維持できなくなる。
- 細胞間シグナル伝達を担う主要なシグナル伝達系の一つであり、隣接する細胞間の受容体とリガンドとが相互作用することにより互いの状態を伝達する。
- Notchシグナル伝達系は発生においてさまざまな形態形成および臓器形成についての指示を伝達する役割のほか、成体においても幹細胞の維持や分化およびニューロンの機能にかかわる細胞間シグナル伝達において重要な役割を担う。
- マウスやヒトの発生期の皮質前駆細胞において、Notchシグナルは自己複製能を促進し、分化を阻害 (Kageyama et al., 2009, Lui et al., 2011)する。
- ニューロンが過剰に誕生することから、Notchシグナルは幹細胞からニューロンへの分化を抑え、アストロサイトの分化を促進すると考えられている。
- 大脳皮質形成においてNotchシグナルが神経細胞の分化と神経幹細胞の維持に関与していることが示されている。
canonicalシグナル伝達経路
- Notchシグナルは隣接細胞間における膜タンパク質NotchとDeltaによる相互作用によって伝達されるシグナル伝達経路である。
- 細胞表面上で起こるNotchリガンド(DeltaやJagged)とNotchとの相互作用によって、Notchタンパク質が細胞膜から切り出される。
- Deltaにより活性化されたNotchは膜から切り出され、細胞内ドメイン:NICDが核内へと輸送され、標的遺伝子(Hes遺伝子など)の発現を誘導する。
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- Notch受容体は細胞外に位置するEGF様リピートでDSLリガンド分子と結合する。
- DSLリガンド分子は膜貫通タンパク質であり、細胞表面につなぎ止められていることから、Notchシグナル伝達は隣接する細胞の間で行われる。
- リガンド結合に起因するγセクレターゼ切断(S3分離)によってNotch細胞内ドメイン(NICD)は細胞膜から遊離する。
- NICDは核へ移行し、DNA結合因子CSLと直接的な結合をする。
- CSLはNotchシグナル不活性化(NICD上在化)ではSMRT(転写コリプレッサー)やHDACなどの転写抑制因子とともに働き、下流遺伝子の発現を抑制している。
- 下流遺伝子の内でbHLHタイプの転写抑制因子Hes1とHes5はニューロン分化を促進する遺伝子群の発現を抑えることが報告されている。
- Mib、Neurはユビキチン修飾によりDeltaリガンドの活性制御を行う。
- mRNAから翻訳されたNotch受容体タンパク質はFurin様プロテアーゼ(TACE)によって切断(S1分離)され、Fringeによる糖修飾を受けることで機能的に成熟し細胞表面に提示される。
- Notchシグナル伝達は細胞分裂前に作用し神経前駆細胞の非対称分裂と細胞運命決定を促す 参考 1
- 細胞内分子Numbは非対称分裂時に上均一に分配され、Numbを含む娘細胞ではNotch分子のエンドサイトーシスとユビキチン化によってシグナルが抑制される。
- ユビキチンリガーゼであるDeltexはショウジョウバエの遺伝学的解析からNumbとは逆にNotchシグナルを正に制御していることが示されている。
- Notchは隣り合う細胞に存在するリガンドよりシグナルを受け取ると、その細胞内領域を細胞質中へと切り離し、切り離された細胞内領域(NICD)は核内へ移行し、転写因子CSL (RBPJκ/Su(H))及び転写共役因子Mastermindと三者複合体を形成し、標的遺伝子の転写を活性化する。 参考
- 隣接する他の細胞の膜に存在する「Delta」や「Jagged」と呼ばれるタンパク質と結合することにより活性化し、細胞内のタンパク質産生を促したり、抑制したりする。
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Notch受容体
- ほ乳類には4つのNotch受容体と5つのDSLリガンドファミリーを持つ。
- 1回膜貫通型の膜タンパク質として作られたNotchはFurinという分解酵素によって切断され、二量体として細胞膜上で機能する。
- Notch受容体は1回膜貫通型タンパク質で、機能的な細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインからなる。
- NotchのリガンドのDelta(1回膜貫通型タンパク質)と細胞接触にて結合して、細胞分化や維持に関わっている。
- Notch受容体は細胞外に位置するEGF様リピートでDSLリガンド分子と結合する。
- Notch受容体は、細胞膜につながれた転写因子として働き、NotchリガンドのDelta、Serrate、Lag-2ファミリーの構成要素によって活性化される。この活性化は、2回連続するタンパク質分解による受容体の切断により起こる。2回目の切断により、Notchの細胞内ドメインが放出され、これが核に移動して転写調節因子のCSLファミリーと相互作用し、Notch標的遺伝子活性化複合体の一部を形成する。
- DeltaがNotch受容体に結合すると、NotchはTACE(メタロプロテアーゼ)によって細胞外部分で切断された後、γセクレターゼにより細胞内部分で切断される。
- 切断されたNotchは自身の持つ核内移行シグナル(NIS)で核へと移行してその作用を示す。
Notch細胞外ドメイン Notch extracellular domain:NECD
- Notch受容体は細胞外に位置するEGF様リピートでDSLリガンド分子と結合する。
EGF様リピート epidermal growth factor (EGF)-like repeats
- Notch受容体の細胞外領域は36個のEGFドメインがタンデムに並んだリピート構造(EGFリピート)をとっていて、その多くのEGFドメインがO-フコース型修飾を受ける。
- Notch受容体の細胞外ドメインには、29〜36個のタンデムにつながったEGFリピートがあり、この領域でリガンドと相互作用する。隣接細胞間とのシグナル伝達(trans-interactions)は、11番目と12番目のEGFリピートによってなされる。
- また、同一細胞内におけるリガンド分子との相互作用(cis-inhibition)においては、24〜29番目のEGFリピートを介して起こる。EGFリピートの多くはカルシウムイオンと結合することが知られているが、これらのカルシウムイオンはNotchレセプターの構造やリガンド分子との親和性を制御することによって、シグナル伝達効率を制御していると考えられている。
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→膜貫通ドメイン transmembrane domain:TM, TMD |
Notch細胞内ドメイン Notch intracellular domain:NICD
- Notch分子はDeltaやJaggedと結合すると、γセクレターゼによってNICDが切断され核内へと移行する。
- 細胞表面上で起こるNotchリガンド(DeltaやJagged)とNotchとの相互作用によって、Notchタンパク質が細胞膜から切り出される。NotchのNICDは、核内へと輸送され、RBPj/CSLなどのDNA結合タンパク質と複合体を作り下流の標的遺伝子の発現を誘導する。
- 移行したNICDはRBPjやMastermindと複合体を形成し、標的遺伝子の転写を制御する。
- 抗cleaved Notch1抗体でNICDが染色される。
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DSLリガンド Delta/Serrate/LAG-2
- Notchの主要なリガンドで、Notchの細胞外ドメインにあるEGF様リピート領域に結合し、Notchホモ二量体の形成に関与する。
- DSLリガンド分子は膜貫通タンパク質であり、細胞表面につなぎ止められていることから、Notchシグナル伝達は隣接する細胞の間で行われる。
- DSLリガンドはショウジョウバエの Delta/Serrate/LAG-2にその呼称を由来する。
- NotchはDeltaとSerrate/Jaggedとを分子的に見分けていて、それには糖転移酵素の一つであるFringeによるNotchの糖鎖修飾が重要な役割をはたしている。
- ヒトにはDelta-like1(Dll1)、Dll2、Dll4と、Jagged1、Jagged2の5つのNotchリガンドが存在する。
Delta-like protein 1:Dll1
Delta Like Canonical Notch Ligand 1
- Notch Deltaリガンドのヒトホモログで、DSL(Delta / Serrate / Lag-2)ファミリーに属する。
- 分子量90〜100 kDaのⅠ型膜貫通糖タンパク質
- 成長過程および成人組織の形態形成や再形成において重要な働きをする。
- E7.5に神経上皮細胞にHes1 およびDll1が発現する。
- 様々ながんで過剰発現していることが確認されていて、腫瘍形成への関与も示唆されている。
- DLL1はNotchファミリーに属する4種類のレセプターを介して活性を示す。これらのレセプターは,他のcanonicalシグナルNotchリガンド(DLL3 / 4, Jagged-1 / 2)に対する応答も仲介する。
- DLL1と非カノニカルリガンド(Contactin-1 / Contactin-2, DNER, MAGP-1 / 2, NOV, Pref-1など)とは構造が異なるが、いずれもNotch活性を調節する役割を有す。
- 成体の脳で神経幹細胞を維持するニッチシグナルである:Dll1を成体脳で人為的に失くすと、神経幹細胞は維持されなくなる。
- Dll1は分裂中に偏った局在し、非対称分裂でニューロンに分化する娘細胞に上とされる。Dll1のシグナルは神経幹細胞が分裂後に休眠状態に戻るのにも必要である。 参考
- Hes1によるAscl1の抑制がquiescentに関与する。 参考1/2
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Delta-llike protein 2:Dll2 |
Delta-like protein 4:Dll4 |
Jagged1:Jag1 |
Jagged2:Jag2 |
- これらのリガンドのほかに、非典型的Notchリガンドと呼ばれ、Notchシグナルにさまざまな様式でかかわるタンパク質の存在も知られている。
- これらは、EGF様リピートをもつものともたないもの、膜貫通型、
GPIアンカー型、分泌型と、多様なタンパク質のを含んでいる。
- 一般に、受け手側の細胞とは別の細胞から(transに)提示されるDSLリガンドはNotchシグナル伝達に促進的に、受け手側の細胞自体から(cisに)提示されるDSLリガンドは抑制的に働くとされる。
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CSL:CSL (CBF1/Su(H)/Lag-1) ファミリー転写因子複合体
- 転写因子複合体
- centromere binding factor 1:CBF1
- Suppressor of hairless:Su(H)
- Vertebrate CBF1, fly Su(H) and worm Lag-1 proteins share striking sequence conservation over a central region of 412 amino acids
- Notchシグナルによる遺伝子発現の制御は、CSL(転写因子)とその共制御因子により行なわれている。
- CSLはNotchシグナルに関連する遺伝子発現の抑制と促進を両方とも行なっている。
- Notchシグナルがないときには、CSLは標的遺伝子の発現を抑制する。CSLが転写抑制因子と複合体を形成し、DNAの構造を転写が起こりにくい状態に変化させることで引き起こされると考えられている。
RBP-J:Recombining binding protein suppressor of hairless =CBF1:centromere binding factor 1 ←→CSL
- DNA結合タンパク質、Notchシグナルの中枢分子
- 核内へと輸送されたNICDはRBPj/CSLなどのDNA結合タンパク質と複合体を作り下流の標的遺伝子の発現を誘導する。
- RBP遺伝子がコードするタンパク
- ショウジョウバエの遺伝子Suppressor of Hairlessのヒトのホモログ
- RBP-Jのプロモーター領域は古典的にはNotch1 シグナルに使われる。
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Mastermind:Mam
- 共役因子 コアクチベーター、活性化補助因子
- MastermindはNotch細胞内ドメインと、核内でRbp-jと三量体を形成し、標的遺伝子を活性化する。
- Mam遺伝子のうちMamL1のヘテロ欠失マウスが、ヒト統合失調症症状の一部を構成するドパミン反応性の亢進を示す。
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Hairy and enhancer of Split:Hesファミリー 参考1
- ショウジョウバエにおいて神経分化を抑制する哺乳類相同遺伝子群
- hairy and enhancer of splitの頭文字からHESと名付けられた。
hairy
- ショウジョウバエの発生の間に少なくとも2つの異なる段階で機能するbHLH型転写因子タンパクをコードする:1)体節の形成における primary pair-rule geneとして関与する胚形成期、および 2)成体のハエの感覚毛 sensory bristlesのパターン決定に否定的に機能する幼虫段階に機能する。
- proneural gene achaeteの転写を直接抑制する。proneural gene achaeteの異所性発現と剛毛の異所性形成を防止するために、羽と脚のimaginal discsの広い領域において必要とされる。
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enhancer of split:Espl
- bHLH型転写因子
- prepattern geneとして、proneural gene achaeteの転写を直接抑制する。
- Espl複合体遺伝子の活性化は、胚期と成体の神経新生における速報抑制のプロセスでのNotchシグナルによって活性kされる神経原性遺伝子である。
- Espl遺伝子を活性することによって、proneural clustersの大部分の細胞における大量のproneural proteinの蓄積がブロックされ、それによって神経細胞に運命づけることを妨げる。
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- 転写を負に制御する抑制型のbHLH型転写因子であり、多くはNotchシグナルのエフェクターである。ホモあるいはヘテロ二量体を形成して機能する。
- Hesは主に分化促進型のbHLH因子を抑制することによって、幹細胞や未分化性細胞の維持に機能していると考えられている。
- bHLH、Orange、WRPWの三つのドメインで構成される。
- Hesは次の二つの異なるリプレッサー機能がある。
active repression
- ホモ二量体、あるいは、他の抑制型bHLH転写因子とヘテロ二量体を形成し、ターゲットDNA配列に結合する。WRPWドメインでコリプレッサーであるTLEと結合し、TLEに結合しているヒストン脱アセチル化酵素をリクルートすることによってクロマチン構造変化を引き起こし、ターゲット遺伝子の転写を抑制する。
Transducin-like Enhancer of Split:TLE
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Passive repression
- 活性化型のbHLH型転写因子と結合して認識DNA配列への結合を阻害することにより、間接的にターゲット遺伝子の転写を抑制する。例えば、構成的に発現しているbHLH転写因子であるEタンパク質と結合し、認識配列であるE-boxへの結合を阻害する。
- ショウジョウバエにおいて神経分化を促進するachate-scute遺伝子のマウスホモログMash1は、Eタンパク質とヘテロダイマーを形成して機能する活性化型の転写因子であるが、HesはEタンパク質との結合によるpassive repressionと、Mash1のプロモーターのclass C siteに直接結合するactive repressionの二つのメカニズムで、二重にMash1の活性を制御している。
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Hes1
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Hes5
- Notchシグナルの標的遺伝子
- Hes5遺伝子プロモーター領域のDNA脱メチル化は、ゲノム複製を必要としない能動的DNA脱メチル化
- Gcm1およびGcm2によるHes5遺伝子プロモーター領域のDNA脱メチル化がNotchシグナルの活性化に先行し、神経幹細胞の形成に重要である。
- 脊髄後角にHES5を発現するアストロサイトが局在し(Hes5-CreERT2マウスによる解析)、これらのアストロサイトは青斑核から脊髄に投射する下行性ノルアドレナリン神経で刺激すると、痛覚過敏が生じる。選択的にノルアドレナリン神経シグナルを抑制したマウスでは、カプサイシンによる痛覚過敏反応が顕著に抑制されたことから、これまで痛みを抑える作用が常識であったノルアドレナリン神経に、まったく逆の作用があることがことがわかった。@津田先生1/2/3
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- Hes1、Hes3、Hes5は発生期の脳に発現し、神経分化を抑制して神経幹細胞/前駆細胞の増殖、維持に働く。
- Hes1、Hes5は放射状グリアの維持に、Hes1、Hes3、Hes5は神経上皮細胞の維持に必須であることが示されている。
- Hes1, Hes3, Hes5は発生期の脳の境界構造の維持にも重要である。間脳の前視床と視床を区切る境界構造であるzona limitans intrathalamica:ZLIは、Hes1、Hes5がないと構造自体が失われる。
- Hes1、Hes3、Hes5がないと、中脳と後脳の境界構造である峡部:isthmusで、また、神経管の左右を区切る境界構造(背側側の蓋板、腹側側の底板)で、遺伝子発現や構造の異常が生じる。この異常は、これらの領域でHesにより抑制されていた神経分化が昂進することによると考えられる。
Hes1の発現のオシレーション
- 神経幹細胞においてHes1、Ascl1タンパク質は2〜3時間周期で、Olig2タンパク質は5〜8時間周期で振動発現(オシレーション)している。 参考1
- Hes遺伝子の発現は、特徴的なネガティブフィードバックループを形成している。
- Hes1、Hes7は自身のプロモーター配列に複数のN-box配列を持っており、自身の転写発現を抑制することができる。しかし、Hes1、Hes7共にmRNA、タンパク質が上安定で速やかに分解されるため、転写抑制が解除される結果、再び発現が誘導される。
- この繰り返しによって、Hes1、Hes7の発現は、特徴的な短周期の周期的オシレーションを示すことが報告されており、マウスでは約2時間の周期性を示す。
- この周期的な発現パターンは、胚発生の過程において重要な役割を担っていることが分かってきた。
- Hes1は神経分化における未分化細胞の維持や分化のタイミングの制御に、Hes7については周期的な体節形成のタイミングを測る時計として機能する。
- Hes1については、線維芽細胞での発現振動や、ES細胞での発現振動が報告されており、線維芽細胞では細胞の増殖に、ES細胞では分化の上均一性に寄与している。
- 神経幹細胞においてHes1タンパク質は2〜3時間周期で振動発現している。
Hes1によるAscl1の抑制がquiescentに関与する 参考1/2
- 成体脳に内在するquiescentの神経幹細胞ではHes1の発現が持続しているが、Ascl1はHes1によって持続的に抑制されるために発現していない。
- ウイルスベクターを用いて休眠状態の神経幹細胞にAscl1を導入すると、成体脳に内在する神経幹細胞を活性化し、神経細胞を産生する。
- Hes1の発現が振動するとき(Ascl1の発現も振動)に神経幹細胞は活性化し、持続するとき(Ascl1は発現しない)には神経幹細胞が休眠化する。
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■関連 遺伝子/タンパクなど ←→遺伝子/タンパク/増殖因子
Glial cells missing:Gcm 参考1/2/3/4/5/6/Resources
- ショウジョウバエの神経幹細胞からグリアと神経細胞を分化させるスイッチ遺伝子
- 細谷俊彦先生、堀田凱樹先生らが1995年に発見した。
- 等誠司先生ら(当時生理研)は、脳ができていく一番最初の過程でDNA脱メチル化が必要なこと、そしてDNA脱メチル化にGcmが必須であることを初めて証明した。
- Gcm1/2遺伝子はNotchシグナルの下流で働くHes5遺伝子のプロモーター領域でDNAを脱メチル化することによりエピジェネティックに遺伝子発現制御を行なっている。
- Gcm2:副甲状腺だけに限られて発現する唯一の転写因子 Nature
- 副甲状腺の発生過程は副甲状腺に特異的に発現する Gcm-2遺伝子によって制御されていて、 Gcm-2 遺伝子を欠いたヒトやマウスでは副甲状腺が欠損して生まれる。
- JAK/STAT経路が下流で働く。
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Bre1 = Ring finger protein 20:RNF20 ←→RING フィンガードメイン 参考1
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Krüppel-like factor:KLF 参考1
- Krüppel:ショウジョウバエの形態形成遺伝子
ショウジョウバエ体節構造形成に関連する分節遺伝子(segmentation genes)には3種類ある。 参考1
→ギャップ遺伝子/ペアルール遺伝子/セグメントポラリティー遺伝
ギャップ遺伝子 gap genes
- 体節形成に重要な遺伝子
- 胚を大まかに区分けする働きがある。
- Kruppel遺伝子は胸部第1節から腹部第5節までの8節の形成に関与している。
- hunchback遺伝子は下唇と胸部3節の形成に関与している。
- これらの突然変異体では、該当する体節を欠いた胚が生じる。
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ペアルール遺伝子 pair-rule genes
- ギャップ遺伝子群のはたらきによって大まかに分けられた各部域に体節構造を作り上げることに関与している。
- ftz(fushi tarazu)の突然変異によって奇数番の体節を欠いた胚が生じ、eve(even-skipped)遺伝子の突然変異によっては偶数番の体節を欠いた胚が生じる。
- hairy(@HES)はペアルール遺伝子として働くbHLH型転写因子
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セグメントポラリティー遺伝子 segment-polarity genes
- 体節の数は正常だが、それぞれの体節の一部が欠失したり、ミラーイメージのものに置き代わったりする。
- gooseberry突然変異体では、それぞれの体節の後半がすぐ直前の体節のミラーイメージになる。
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- Krüppel-like factor (Krüppel様因子):KLF:Krüppelに相同性を持つファミリー遺伝子
- マウスおよびヒトでは17遺伝子群から構成される。
- KLFファミリーはC末端惻にジンクフィンガードメインを有する転写因子として機能している。
- KLFファミリーは細胞分化、がん化、生活習慣病など多彩な生理局面に関与
Krüppel-like factor 2: KLF2 参考1
- 肺の発達、胚赤血球形成、上皮組織の完全性、T細胞の生存能などの様々な生化学プロセスに関与する。
- 胸腺細胞やT細胞の移動の調節因子として機能する。
- Sp1はKlf2およびKlf4の発現を直接に制御している。
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Krüppel-like factor 4: KLF4 参考1
- iPS細胞誘導に用いられる。
- Klf4はYamanaka factors(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4)の1つ
- 山中4因子の中でもKlf4は初期胚発生およびES細胞の未分化性維持には必ずしも必須ではない。
- Klf4はES細胞の分化を抑制するが、Klf5とは異なり、増殖は抑制的に作用する。
- Klf4はLIF非存在下でマウスのES細胞の分化を抑制する。
- ES細胞においては特にKlf2,Klf4およびKlf5が重複した機能を持つことにより自己複製能を維持している。
- 未分化なマウスES細胞では、Klf4だけでなくKlf2、Klf5が高発現しているが、分化に伴って減弱していく。
- それぞれ単独のKlf遺伝子ノックダウンでは、未分化性維持に影響はないが,3遺伝子のノックダウンにより未分化性の指標であるアルカリホスファターゼ活性の消失が認められ、未分化性の破綻が示唆された。
- KLF4は食道を含む胃腸管の分化状態の上皮細胞で発現している。KLF4は食道上皮分化に不可欠な多くの遺伝子を調節し、食道扁平上皮がんではKLF4の発現が減少している。*
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Krüppel-like zinc-finger transcription factor 5: KLF5
=Basic transcription element-binding protein 2:BTEB2
- KLF5/BTEB2:ジンクフィンガー型転写因子
- C2H2タイプのzinc fingerが3個並ぶチトクロームP 450のCYP1の転写制御研究から同定されていた。
- Cyp1a1遺伝子のプロモーター近傍に存在する構成的転写制御に関わるBTEに結合する。
- BTEB2/KLF5は血管狭窄、臓器線維化、心肥大、炎症反応、血管新生等の臓器リモデリングに関与する。
- KLF5は腸上皮幹細胞から腫瘍が発生するのに必要なスイッチの役割をする分子である。参考1/2
- KLF4は食道を含む胃腸管の分化状態の上皮細胞で発現するのに対し、KLF5は食道を含む胃腸管の増殖細胞に見出される。*
- KLF4とKLF5は多くの場合、細胞増殖に対して対照的な効果を発揮する。KLF4は細胞の増殖を阻害するのに対し、KLF5は増殖を促進する。*
- KLF4は水痘症を引き起こす。 参考
- 幹細胞の未分化性維持に働く遺伝子:Klf5ノックアウトES細胞は未分化状態を維持できず分化してしまう。
- Klf5は内部細胞塊からのES細胞樹立過程に必須である。Klf5がES細胞の分化を抑制すると同時に増殖を促進することで、ES細胞の自己複製を制御している。一方iPS細胞誘導に用いられるKlf4は、ES細胞の分化を抑制する点に関してはKlf5と同様な機能を有するが、増殖に関しては抑制的に作用する。 *
- AzamiらはKlf5はFGF4-ERK経路を抑制することで、エピブラストの発生を制御していることを報告した。Klf5を欠損した胚盤胞期胚では、多能性を有するエピブラストが消失している。Klf5KO胚ではエピブラストを分化誘導するFGF4-ERK経路が活性化している。 参考1/2
- AzamiらはKlf5 KO胚の内部細胞塊ではNanog陽性細胞が消失しているが、この経路の遮断によりNanog陽性細胞が出現したことに加え、ES細胞を樹立することに成功した。参考1
- KLF5遺伝子は、MAPキナーゼカスケードに位置する。
- ERK5はSp1を介してKlf2およびKlf4の発現を制御している。参考1
- DNA chip解析により、統合失調症死後脳前頭前野において13qに位置するKLF5遺伝子の発現量が減少 参考1/2/3
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Krüppel-like zinc-finger protein Gli-similar 1:Glis1
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myelin proteolipid protein ミエリン・プロテオリピドタンパク: PLP 参考1
- 1951年にJordi Folch(1911〜1979, ハーバード大)とMarjorie B Lees がラットの脳で発見した、水に難溶性のリポタンパク質(276 to 280 アミノ酸)
- 中枢神経系のミエリン(髄鞘)の細胞膜の主要なタンパク質
- 中枢神経系のミエリンには、PLPとミエリン塩基性タンパク(myelin basic protein:MBP)の2つの主要構成タンパク質がある。
- PLPは細胞膜に、MBPは細胞質に局在する。
- PLP1は発現量依存的にオリゴデンドロサイトの分化を抑制する。
- PLP過剰発現トランスジェニックマウスはミエリンの再生が阻害され、脱髄疾患のモデル動物となる。
- Wntタンパク:脊髄背側から分泌されるオリゴデンドロサイト発生を抑制する因子
- Nkx2.2はPLPのプロモーターに結合してその発現を調節する。
- PLP遺伝子:ペリツェウス・メルツバッハー病( PMD)や伴性劣性家族性痙性対麻痺SPG-2の責任遺伝子
ジンピーマウス jimpy mice ←→マウス 参考1/2
- ジンピーマウスはPLP遺伝子の点突然変異のため正常PLPが発現されず、その結果中枢神経系でのみ髄鞘形成が障害される。
- ジンピーマウスは生後約3週で強直性痙攣で死ぬ。
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ペリツェウス・メルツバッハー病(Pelizaeus-Merzbacher disease:PMD) ←→脱髄性疾患
1885年 | Friedrich Pelizaeus(1850〜1917, ドレスデン)が3世代家系5例を報告した(Arch Psychiatr Nervenkr)。 |
1910年 | Ludwig Merzbacher(1875〜1942, チュービンゲン大、Robert Gauppの助手)がPelizaeusの患者の1例を剖検し、9臨床例を追加した。 |
1989年 | Hudson LD (NIH ベセスダ)らがX染色体長腕にあるプロテオリピドタンパク遺伝子の異常であることを発見した。 |
- 中枢神経系におけるミエリン形成の異常により発症する遺伝性脱髄疾患
- 小児おける中枢神経系の先天性髄鞘形成不全症(白質と髄鞘の形成不全):白質ジストロフィー症の1型
- 欧米での頻度は20〜50万人出生に1人の割合で発症と報告されている。日本での患者数は約100例程度と推定される
- X染色体上のPLP1遺伝子の異常による:X連鎖劣性遺伝病
- 乳児期に出現する眼振、筋緊張低下、発達遅延で発症し、重度の形成麻痺や運動失調へと進行する。
- PLP遺伝子の発現低下と過剰発現のどちらもが原因となりうる。
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myelin basic protein ミエリン塩基性タンパク: MBP ←→MAG
←→methyl-CpG-binding proteins:MBPとは別物
- ミエリン及びミエリン形成細胞であるオリゴデンドロサイトやschwann細胞に局在するタンパク質
- 成熟オリゴデンドロサイトマーカー
- ミエリンの細胞質に局在するタンパク質 ←→PLP
- 神経線維から髄鞘が剥がれると、MBPが髄液中で増加する。多発性硬化症(MS)の診断目的で髄液MBP濃度を測定する。MSではMBPに反応するT細胞が高頻度で存在し、MBPに対する自己免疫が働いていることが示唆されている。
シバラー(shiverer)マウス :ミエリン形成障害マウス shiverer:shi ←→マウス
rodent Mbp gene mutations that cause dysmyelination
参考1/2/3
- 常染色体劣性突然変異
- ミエリン形成の障害の原因:オリゴデンドロサイトやschwann細胞自身の障害
- ミエリン塩基性タンパク質:MBPの4-7エキソンが欠失
- 20〜22週齢という若さで、運動失調、非協調(dyscoordination)、痙縮および痙攣により死亡する。
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振戦マウス quaking mice 参考1
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DNA polymerase subunit gamma:POLG
- ヒトのミトコンドリアDNA複製酵素 DNAポリメラーゼ・ガンマ:POLGは、現在までにミトコンドリアにおいて見つかっている唯一のDNAポリメラーゼ
- ヒトのmtDNAの複製酵素POLGは、POLG (POLG1)遺伝子にコードされた140 kDaのcatalytic subunit:p140と、POLG2遺伝子にコードされた55 kDaのaccessory subunit:p55によるヘテロダイマーとして存在する。
- 気分障害を併発する慢性進行性外眼麻痺症候群:CPEO原因遺伝子の一つである
- PolgAに変異をもつheteroノックインマウスの脳と筋において、加齢とともに指数関数的な欠失mtDNAの蓄積促進が観察された。脳と筋特異的なmrDNA欠失蓄積はheteroマウスがCPEOモデルマウスとして妥当なことを示唆する。また、このheteroマウスは一般行動解析においては異常を示さなかったが他のモデルマウスと同様の行動の日内リズムに障害が見られ、脳での欠失mtDNAが気分障害を引き起こす可能性が示された。 参考1
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fucosyltransferase9: FUT9 参考1
- α1,3-フコース転移酵素遺伝子
- Lewis X抗原がES細胞や神経幹細胞の未分化性と深く関わる。
- 幹細胞の未分化性に深く関わる糖鎖
→FUT9/FUT10/FUT8/
フコース fucose
- 糖鎖を構成する単糖の一つ
- デオキシ糖の一種である6-デオキシ-ガラクトース
- 天然にはL型がL-フコシドの形で、動椊物に幅広く存在する。
- 名前の由来:ヒバマタ Fucus(海藻)の細胞壁多糖類であり、昆布のねばねば成分としても知られるフコイダン Fucoidanで発見された。
- 哺乳類と植物では細胞表面のN結合糖鎖上で見つかる。 O型糖鎖?
- ヒトではABO式血液型のH抗原やルイス抗原として存在する。
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フコース転移酵素 fucosyltransferase
- 糖鎖の根元のアセチルグルコサミン(GlcNac)にフコースを付加させる酵素
転移酵素 transferase
- 一方の基質から他方の基質へと原子団〈転移基〉を移動させる反応を触媒する酵素
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糖転移酵素 glycosyltransferase
- ゴルジ体や小胞体の中に存在する酵素群
- 糖供与体である糖ヌクレオチドから糖をタンパク質に付加する酵素
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- 3種類のフコース転移酵素と遺伝子がクローニングされている。
α1,2-フコース転移酵素(α1,2FUT)
- FUT1、FUT2
- 1型糖鎖(Galβ1, 3GlcNac)のガラクトース残基にα1,2結合でフコースを転移することにより、H1型糖鎖を合成する。
- 2型糖鎖(Galβ1,4GlcNAc)のガラクトース残基にα1,2結合でフコースを転移することによりH2型糖鎖を合成する。
- H抗原を生合成するα1,2-フコース転移酵素遺伝子が後根神経節の小径神経細胞に特異的に発現する。フコシルGM1が軸索伸長の抑制に関与する。
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α1,3-フコース転移酵素(α1,3FUT)
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a1,6フコース転移酵素(a1,6FUT)
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FUT1=H 酵素
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FUT2=Se酵素:secretor enzyme
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FUT3=Le酵素:Lewis enzyme
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FUT4〜FUT7
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FUT8
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FUT9
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Fut10
- 新規のα1,3-フコース転移酵素遺伝子
- 幹細胞におけるLewisX抗原の生合成に関わる
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シアル酸転移酵素:ST酵素 ←→シアル酸
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フコシル化 ←→ガングリオシド
- フコースを付加する反応
- フコシル化はゴルジ体で起こる。ゴルジ体でフコース転移酵素がドナー基質であるGDP-フコースを利用してフコースを転移する。
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ルイス式血液型 Lewis blood groups ←→ABO式血液型
- ヒト血球と抗 Lea、抗 Leb凝集素との反応によって分けられる血液型
- Le (a+b*) 、Le (a*b+) 、Le (a*b*) の3つの型がある。その割合は約2:7:1である。
- Se式血液型と関係があり、(a+b*) 型=se型、(a*b+) 型= Se型、(a*b*) 型は大部分が Se型で、一部分が se型である。
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ルイス式血液型抗原 ←→ABO式血液型抗原
- タンパク質あるいは脂質によって輸送される糖鎖抗原で、赤血球表面では糖脂質に存在する。
- 赤血球表面だけでなく、内皮細胞や消化管など上皮細胞にも存在する。
- ルイス抗原を運ぶ糖脂質は血漿中を循環し、血漿リポタンパクに結合あるいは水分散性の形で、受動輸送により赤血球に吸収される。
- ABO式血液型糖タンパクおよびルイス式血液型糖タンパクは共通の基礎構造(ガラクトース(GAl)とN-アセチルグルコサミン(GlcNac)を持つ。
- 糖転移酵素により、1型糖鎖の基幹領域に、糖を結合して、合成される糖鎖抗原
- ルイス抗原にはLewis A抗原(Lea)、Lewis B抗原(Leb)、Lewis X抗原(Lex)、Lewis Y抗原(Ley)がある。さらにLeaおよびLexがシアリル化されたsLeaとsLexがある。
Lewis A抗原(Lea) |
Galβ1,3(Fucα1,4)GlcNAc-R |
FUT3=Le |
Lewis B抗原(Leb) |
(Fucα1,2)Galβ1,3(Fucα1,4)GlcNAc-R |
FUT2=Se |
Lewis X抗原(Lex) |
Galβ1,4(Fucα1,3)GlcNAc-R |
FUT9 |
シアリルLewis A抗原(sLea) |
NeuAc,Galβ1,3(Fucα1,4)GlcNAc-R |
ST酵素 |
シアリルLewis X抗原(sLex) |
NeuAc,Galβ1,4(Fucα1,3)GlcNAc-R |
ST酵素 |
Lewis A抗原:Lea
☆Galβ1,3(Fucα1,4)GlcNac-R
☆フコースが1個結合
- Le酵素(FUT3酵素)によって、Galβ1→3GlcNAcのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に、フコース(Fuc)を一個、1→4結合させて、合成される。
- 膵臓、胆嚢、胃、大腸のがん細胞や、少量だが正常の上皮細胞に存在する。
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Lewis B抗原:Leb
☆Fucα1,2Galβ1,3(Fucα1,4)GlcNAc-R
☆フコースが2個結合
- Se酵素(分泌型遺伝子酵素:FUT2酵素)によって、Galβ1→3GlcNAcのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に、フコース(Fuc)を一個、1→4結合させて、合成される。次いで、基幹領域のGalβ1→3GlcNAcのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)に、Le酵素により、もうひとつフコース(Fuc)を、1→4結合させ、合成される。
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Lex抗原:Lewis X Antigen:Lex =stage specific embryonic antigen 1 :SSEA-1抗原 =CD15
- lact-N-(neo)fucopentaeose-Ⅲ分子
- Galβ1,4(Fucα1,3)GlcNAc-R
- stage-specific embryonic antigen 1:SSEA-1:未分化性のマーカー
- 幹細胞の未分化性に深く関わる糖鎖
- SSEA-1抗原はルイス式血液型に関連する糖鎖抗原で、cluster designation 15:CD15としても知られている。
- ヒトの骨髄単球系の細胞に発現していて、好中球、好酸球、一部の単球に存在するが、正常赤血球や血小板、好塩基球やリンパ球には発現していない。
- SSEA-1はマウスにおいてはES細胞、iPS細胞において多能性を示す細胞表面マーカーとして使われている。
- ヒトにおいては初期分化段階の細胞に発現している。
- Lex抗原はLewis A抗原と相似して、フコースがN-アセチルグルコサミン(GlcNac)に結合しているが、Lewis A抗原では、基幹構造がGalβ1→3GlcNAc(1型)なのに対して、Lewis X抗原ではGalβ1→4GlcNAc(2型)
- FUT9により、Galβ1にGlcNAcを結合させる酵素
- 血漿中に存在する型前駆物質のN-GlcNacの4位にフコースを添加する酵素をコードしている遺伝子(Le)によって調節されている。
- 結節硬化型・混合細胞型・リンパ球減少型ホジキンリンパ腫の Reed-Sternberg 細胞の大部分は、抗 CD15抗体陽性となる。
- 急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病で CD15 陽性、急性リンパ芽球性白血病において低レベルの CD15 の発現が報告されている。
- さまざまな臓器由来の腺がん、扁平上皮がん、未分化大細胞がん/小細胞がんでも CD15 の発現が認められる。
- 神経幹細胞上のLewis X糖鎖は、Notchシグナル伝達系を活性化することにより、幹細胞性の維持を担う。
- 糖鎖エピトープは、細胞膜に発現する糖脂質や糖タンパク上に存在している。
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シアリルLewis A抗原:sLea:Sialyl Lewis a=CA19-9
- LeaがST酵素により、シアル酸(NeuAc)が2→3結合した構造
- 膵臓、胆管系および消化管のがんで大量に作られ、血清中に増加する。
- がん細胞表面に存在するsLeaやsLexはセレクチンリガンドとして、血管内皮細胞などのセレクチンと結合する。
- 腫瘊マーカーのCA19-9が測定する抗原
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シアリルLewis X抗原:sLex=SLX
- LexがST酵素により、シアル酸(NeuAc)が結合した糖鎖
- 肺、膵、卵巣がんなどの腫瘊マーカーとして、また転移能の評価・経過観察の指標となる。
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Ten-eleven translocationファミリー:Tetファミリー ←→Tetシステムとは無関係 参考1/2/3
- DNAの脱メチル化に関与するmethycytosine dioxygenaze (メチル化シトシン特異的ジオキシゲナーゼ=メチル化シトシンヒドロキシラーゼ)(酸素添加酵素)(水酸化酵素 DNA hydroxylases)
- 名称は、がんにおける一般的な転座にちなんで名付けられた。第10染色体と第11染色体との間で転座が起こり、mixed-lineage leukemia (MLL)-TET1融合タンパク質が生成される。
- 能動的DNA脱メチル化機構(DNA複製に依存しない脱メチル化機構)において、脱メチル化酵素として働くタンパク質
- Anjana Raoのグループが2009年に、5-メチルシトシンのメチル基を酸化する酵素を同定するために、α-ケトグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼドメインに相同性をもつ哺乳動物ホモログをデータベース検索し、Tetファミリータンパク質Tet1、Tet2、Tet3を同定した。
- いずれも1800〜2100アミノ酸残基からなり、C末端側にFe2+およびαケトグルタル酸:α-KGを補酵素とする酸化酵素に共通したドメインであるdouble stranded β-helix domain:DSBHドメインをもつ。 ←→αKG依存型ジオキシゲナーゼ
- TETはシトシンの5位のメチル基(5mc:5-メチルシトシン)を水酸化し、5hmc(5-ヒドロキシメチルシトシン)に変換するが,この反応の際にTCA回路の代謝物であるαケトグルタル酸を補酵素として利用する。
- Fe2+およびαケトグルタル酸を補酵素として、5メチルシトシン(5-methylcytosine:5mC)を、5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine:5hmC)へと酸化する。さらに5フォルミルシトシン(5-formylcytosine:5fC)、5-カルボキシルシトシン(5- carboxylcytosine:5cCaC)へと酸化するすべてのステップを触媒し、5-mCの脱メチル化を促すと考えられている。さらに、DNAグリコシラーゼのTDGにより塩基除去修復されることによって、DNAの脱メチル化が起こる。
TET1 Ten-eleven translocation methylcytosine dioxygenase 1 (TET1)
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TET2
- TET2のみCXXCジンクフィンガードメインを持たない。これは、進化の過程において、染色体逆位が起こり、CXXCドメインと触媒活性ドメインの分節が分割されたためだと考えられている。
- TET2のCXXCドメインはIDAXと呼ばれていて、各生物種において保存されていることが明らかとなっている。
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TET3 参考1
- 受精卵中の父方ゲノムは、雌雄の前核が融合する前に、能動的DNA脱メチル化を受け、同時に5-メチルシトシン(5mC)が酸化されて5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)になる。Guらは、ジオキシゲナーゼTet3の触媒活性が失われる条件的ノックアウトマウスを作製した。Tet3欠損受精卵では、父方ゲノムでの5mCから5hmCへの変換が起こらず、5mCの量が変わらないままだった。さらに、父親由来のOct4やNanog遺伝子の脱メチル化も妨げられていた。したがって、Tet3を介した5mCの酸化は、受精卵中の父方ゲノムにおける脱メチル化と遺伝子活性化に寄与している。 参考1/2
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→Tet on/offシステム
/Tet-onシステム
/Tet-offシステムとは別物
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Nanog
遺伝子
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→Oct |
→Olig2
■細胞周期 cell cycle関連、ニューロン新生関連 ←→細胞周期、ニューロン新生研究
DNA含量解析による細胞周期解析 Cell Cycle Analysis ←→1/2/3/4
- 取り込まれたBrdUの免疫蛍光染色とフローサイトメトリー分析を組み合わせると、DNAを合成している各細胞の割合と特性を高分解能で分析できる。
- BrdUによる免疫蛍光染色には、7-AADの様な全DNAに結合する色素による染色が組み合わされます。
- 2カラー染色フローサイトメトリー分析 縦軸:BrdU(FITC)、横軸:7-AAD
- 細胞周期の位置:G0期/G1期、S期またはG2/M期)ごとに、活発にDNAを合成している細胞の数と特徴を解析することができる。
- G1期は数値的には細胞周期中最も優勢な期であり、フローサイトメーターで測定した場合、最も大きなピークとして現れる。
- DNAを染色する蛍光色素 :DNA染色剤 DNA-binding dyes ←→蛍光/蛍光色素/共焦点走査型レーザー顕微鏡 参考1
色素名 | 結合様式 | コメント | 励起波長 | 蛍光 |
PI | DNA二重鎖へのIntercalations | DNA含量によく相関 | 488nm/536nm | 617nm |
7-AAD | G-C塩基対によく結合 | 多重染色に用いやすい | 546nm | 647nm |
Hoechst33342 | A-T塩基対によく結合 | 生細胞のDNA染色可 | 343nm | 483nm |
DAPI | A-T塩基対によく結合 | RNAに結合しにくい | 345nm | 455nm |
TO-PRO-3 | DNAに結合 | 多重染色に用いられる | 642nm | 661nm |
- ヨウ化プロピジウムでDNAを染色し、フローサイトメトリーを用いてDNA含量を分析することで、細胞周期を同定することができる。
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fluorescent ubiquitination-based cell-cycle indicators:Fucci ←→R26-mice
- 細胞周期を時間空間的にリアルタイムで可視化できる:G1期とS期/G2/M期を見分けることができる蛍光マーカー
- 細胞周期の特定の時期だけに発現する2つの制御タンパク質であるCdt1とGemininを利用している。
Cdc10-dependent transcript 1 protein:Cdt1
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Geminin
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cell division cycle 10:Cdc10
- 細胞周期を制御する遺伝子
- Res1(Sct1)あるいはRes2(Pct1)と複合体を形成したMCB配列に結合し、DNA合成に必要な遺伝子のいくつかを転写誘導する。
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- ヒトCdt1遺伝子の部分配列にmKO2(あるいはmCherry)の遺伝子を、ヒトgeminin遺伝子の部分配列にはmAG1(あるいはVenus)の遺伝子を融合させ、mKO-hCdt1と mAG-hGem を作製し、これら2つの遺伝子をレンチウイルスを使ってHeLa細胞内へ同時に導入して発現させると、G1期の核はオレンジ色の蛍光を示し、S/G2/M期の細胞の核は緑色の蛍光を発する。
←→エレベーター運動
- 発生初期の脳室帯で、緑色を呈する細胞(S/G2/M期)は移動して脳室面に到達すると分裂し、生じた2つの娘細胞は赤色(G1期)に変化して脳室面から中間帯へ移動する。
- 中間帯にある赤色を呈する細胞(G1期)は、脳室面へ移動を開始すると同時に黄色(G1/S期移行)を経て、緑色(S/G2/M期)に変化した。
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■レポーター遺伝子 reporter gene ←→レポーターマウス/→マーカー遺伝子/レポーターアッセイ
- 細胞内でのある遺伝子の発現を可視化するための外来遺伝子
- 目的の因子の機能を知るために代用される遺伝子
- 産物の活性が簡単に測定もしくは可視化でき、なおかつバックグラウンドが低いことが使用上の条件となる。遺伝子の発現様式を調べる場合には、目的遺伝子のプロモーター配列とレポーター遺伝子のエレクトロポレーションあるいはアグロバクテリウムを利用してトランスフェクションした後、簡便には一過性に発現したレポーター活性を測定することで、また形質転換植物を作製すれば,目的遺伝子の発現組織・時期の特定などが可能。目的遺伝子とレポーター遺伝子を融合タンパク質として発現できるようにした遺伝子を植物細胞へ導入すれば、タンパク質の細胞内局在,あるいは細胞外移行などを調べることができる。
- トランスフェクション後の遺伝子産物のアッセイを容易にするための遺伝子で、成功的に導入された細胞の選別や遺伝子発現調節の研究のためのマーカーとして、あるいはトランスフェクション効率の標準化のためのコントロールとして使用される。
- 発現を可視化したい遺伝子の発現制御領域下に蛍光タンパクなどをコードした塩基配列を挿入することによって、その遺伝子の発現と同調して細胞が蛍光を発する。
- 理想的なレポーター遺伝子は、その研究で使用される細胞に含まれないか、天然型の遺伝子と容易に識別可能な遺伝子であり、簡便にアッセイ可能で、広範囲でリニアな検出範囲を持つものです。また、レポーター遺伝子の存在が導入された細胞の正常な生理機能や全般的な健康状態に影響しないことは重要である。
- 特定の基質と反応して発光あるいは発色する酵素や、励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質の遺伝子がレポーター遺伝子として用いられる。
- これらの光や色を測定することで、組み換え遺伝子の発現を見ることができる。
- 現在、様々な生物の遺伝子がプロモーターの活性やタンパク質の挙動を知るためのレポーター遺伝子として利用されている。
- レポーター遺伝子は、ある遺伝子のプロモーターの下流に連結し、その融合遺伝子の産生物の活性を測定することによって元の遺伝子の発現の有無や、その発現の強さを知るために用いられる。
- 逆にレポーター遺伝子の上流にランダムなDNA断片を挿入し、プロモーター活性を持つ配列を検索するためにも用いられている。
- レポーター遺伝子としての条件として、その遺伝子産物の活性の測定が容易である、細胞毒性がない、組織または個体レベルでの検出が可能性あるといったことが要求される。
- 代表的なレポーター遺伝子としては、GFP,GUS(β-グルクロニダーゼ)、LUC(ルシフェラーゼ)などがある。
- lacZ、CAT (クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)などがもレポーター遺伝子として使用されている、
Green Fluorescent Protein:GFP →EGFP/YFP/Venus
- 2008年下村脩先生のノーベル化学賞受賞
- 1962年に下村脩先生がオワンクラゲ Aequorea victoriaの発光器官から発見した蛍光タンパク質
- 紫外線(波長395nm)を当てると、黄緑色(波長508nm)に蛍光を発する。
- セリン、チロシン、グリシンの3 つのアミノ酸が、自己触媒的に環化、脱水、酸化を行い、蛍光発色団を形成している。
- 1992年にGFPの遺伝子配列が明らかになり、GFPを用いたバイオイメージングが一気に普及した。
- GFPはプロモーター解析と局在解析のいずれにも利用可能で、励起光を照射するだけで緑色の蛍光を発するので生体観察に適している。
- GFPおよび、GFP変種の蛍光タンパク質のほとんどは、約pH 6.0以下で蛍光を失うので、固定用の4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液はpH 7.4に調整する。
グリーンマウス
- GFP遺伝子を全身で発現するグリーンマウス
- 大阪大学の岡部勝教授の開発した。
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β-グルクロニダーゼ:GUS
- GUSは大腸菌由来で、プロモーター解析に最も一般的に用いられてきたレポーター解析であるGUSは大腸菌由来で、プロモーター解析に最も一般的に用いられてきたレポーター遺伝子である。
- GUS遺伝子産物は安定だが、活性の獲得に四量体形成が必要で、通常染色前には固定処理をする。
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・蛍光タンパク fluorescent protein:FP ←→細胞周期/蛍光タンパク質/レポーター遺伝子/蛍光色素/ルシフェラーゼ 参考1
Enhanced Green Fluorescent Protaion:EGFP ←→GCaMP
- 赤方偏移励起に改良されたGFP
- 緑色蛍光タンパク Green
- 励起波長:488nm, 蛍光波長:509nm
- 蛍光強化型 GFP = Enhanced GFP = EGFP
- 青色の励起光を照射すると,黄緑色に光る。
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Yellow Fluorescent Protein:YFP
- 緑色蛍光タンパク GFPの黄色変異体
- カリフォルニア大学サンディエゴ校のRoger Yonchien Tsien博士(錢永健, 1952/2/1〜2016/8/24 米国の生化学者 2008年に下村脩先生らとともにノーベル化学賞を受賞)が発見した。
- 203 番目のThrをTyrなどの芳香族アミノ酸に変換すると、発色団のフェノール基の電子配列に影響し、励起極大波長が超波長側にシフトする。
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Venus ←→Fucci2
- 宮脇敦史(理研)らが開発した改変YFP
- 夜空で最も明るい星“金星”にちなんで「Venus」と命名した。
- 黄色蛍光タンパク Yellow
- 励起波長:515nm, 蛍光波長:528nm
- 細胞膜
- 蛍光をより明るくミューテーションしたEGFPを、さらに発色団をより安定化するために、そのまわりのアミノ酸を変えた。
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monomeric Kusabira-Orange2: mKO2 ←→Fucci
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Discosoma赤色蛍光タンパク質:DsRed
- 花虫綱 (サンゴやイソギンチャクの仲間)・ホネナシサンゴ目・イソギンチャクモドキの一種 (Discosoma sp. mushroom)由来
- GFPとDsRedの相同性が19%しかないことから、一般的にGFP抗体はDsRedタンパク質を認識することはない。
- DsRedタンパク質は、その全体的な折り畳み方(β-can)及び発色団の構造の化学的性質という点でオワンクラゲのGFPと似ている。
- DsRedは発色団の成熟課程でにおいていくつかのステップを経て、4量体構造を形成する。
- 部位特異的変異誘発を用いて、DsRedタンパク質の多数のバリアントが作製され、単量体成熟した赤色蛍光タンパク質も存在している。
- DsRed単量体バリアントには、単量体ミュータント mRFP1、mBanana、mCherry,、mHoneydew、mPlum、mOrange、mStrawberry、mTangerineなどがあり、幅広い蛍光色を呈す。
フルーツ蛍光タンパク Fruit Fluorescent Proteins, mFruits
- 2004年にNathan C. ShanerとRoger Tsienが開発した、DsRedバリアントに変異を導入して得られた蛍光タンパク質
- mRFP1(単量体型のDsRedバリアント)に直接変異を導入して得られた色彩の異なる8種類のバリアント
- 長波長域の蛍光波長(553〜649 nm)、安定な発現、融合タンパク質としての有用性が特長
- tdTomato以外は単量体の蛍光タンパク質
- mPlum, mRaspberry, mCherry, mStrawberry, tdTomato, mOrange, mBanana (mTangerine, mHoneydew)
- フルーツ蛍光タンパク質シリーズだけでなく、Living Colors蛍光タンパク質シリーズが製品として販売されている。
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mCherry ←→Fucci2
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tandem dimer Tomato:tdTomato ティーディートマト ←→tdTomatoマウス@レポーターマウス 参考1/2/3/4
- 極大波長581nmを有する非常に明るい赤色蛍光タンパク質
- 赤色蛍光は波長の短い青色光などに比べて散乱しにくいので、組織中の観察に適している。
- EGFPの2.5倍の蛍光強度を示す。
- DsRedバリアント:サンゴから単離されたDsRedに改変を加えて作製された7種類のフルーツ蛍光タンパクの一つ
- Roger Tsien(錢永健, 1952/2/1 〜 2016/8/24 米国の生化学者 2008年に下村脩先生とともにノーベル化学賞を受賞)の研究室で開発された。
- dTomato(dimeric Tomato)遺伝子2つをタンデムにつなぎ合わせ、タンデム2量体を形成するよう設計されているので、非常に明るい蛍光シグナルが得られ、しかも凝集性は極めて低く抑えられている。
- 大きいので、融合タンパク質をつくると巨大になってしまうことでは不利
- 大塚正人先生(東海大学)らが独自にトランスジェニックマウスを開発した。
- CAGプロモーター下に連結したtdTomatocDNAをRosa26遺伝子座上に導入することにより作製されている。
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ミドリイシサンゴ monomeric Midoriishi: mMC
- ミドリイシサンゴの一種 (Acropara sp.) から単離されたシアン色の蛍光タンパク質であるMidoriishi Cyanを単量体化したもの
- Midoriishi Cyanと同様にシアン色の蛍光をもつ。
- mMCは代表的なシアン色蛍光タンパク質であるamFP486と62%のアミノ酸配列相同性を持つが、両者の蛍光特性には違いがあり、mMC (励起ピーク: 469 nm, 蛍光ピーク: 496 nm) はamFP486 (励起ピーク: 453 nm, 蛍光ピーク: 486 nm) よりもやや長波長側に励起・蛍光ピークがある。
- このため、mMCは一般的な緑色蛍光タンパク質とamFP486の中間の蛍光特性を持つ。
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monomeric Azami-Green1: mAG1 ←→Fucci
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Midoriishi-Cyan
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AmCyan1
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→lacZ ←→X-gal染色/lacZ α |
○蛍光カルシウムセンサー
→GECI/GCaMP/RCaMP/IP2.0
←→蛍光/蛍光色素/蛍光タンパク
←→カルシウムシグナリング/カルシウムイメージング/カルシウム指示薬/カルシウムキレーター
- 神経発火により細胞内カルシウム濃度が上昇することから、神経発火を検出する方法として蛍光カルシウムセンサーを用いて神経活動をイメージングできるようになった。
- これを応用して、数百~数千個のニューロンの活動を同時に記録することにより、脳のはたらき方の原理をはじめとして、記憶障害や精神疾患の原因を解明することが重要な課題となっている。特に遺伝子にコードされた蛍光カルシウムセンサーは特定の種のニューロンに発現させることができ長期にわたる観察が可能であることから、広く用いられている。
遺伝子でコードされたカルシウムカルシウム指示薬 Genetically Encoded Calcium Indicator:GECI ←→カルシウム指示薬
- 遺伝子でコードされたカルシウム感受性蛍光タンパク質
- GCaMPをはじめとする遺伝子にコードされたカルシウムセンサー
- GECIの性能を決めるものとして4条件(ダイナミックレンジ、高感度、Hill係数、Ca2+指示薬に比べ、1. 細胞種特異的な発現・観察が可能 2.非侵襲的であるため長期間に渡る観察が可能 という2つの大きな利点がある。
- Ca2+イメージングによる神経活動計測は1982年にRoger Tsienらが低分子蛍光色素を開発したことに端を発し、1997年に宮脇博士らが2つの蛍光タンパク質のスペクトルの変化を利用したFRET型のcameleonを開発したことによりGECIの歴史が始まった。この知見を基に、2001年に中井博士らが緑色単色のG-CaMPを開発したことにより、標準的な顕微鏡システムにおいてCa2+濃度変化の計測を可能にした。GCaMPは改変GFPとカルモジュリン(CaM)およびCa2+/CaM結合領域であるMLCK由来のM13配列からなり、Ca2+濃度の上昇に伴い蛍光強度が増加する。さらに、中井グループ、Janeliaがこれを改良し、GCaMP3–8およびjGCaMP7と順次開発し、Ca2+フリーとCa2+飽和状態のダイナミックレンジを最大化させる努力してきた。これにより、哺乳類in vivoで発火の有無を検出できるようになったが、未だ発火パターンを精密に解読するのが困難であった。
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カメレオン cameleon
- カルシウムセンサー蛍光タンパク質
- Ca2+結合能の結合に依存して相互作用する(CaM)と、M13 ペプチドを連結し、それをGFPの青緑色変異体と黄色変異体でサンドイッチした構造を持つタンパク質
- 永井健治らはCa2+の濃度に応じて青緑色から緑黄色へと蛍光色が変化するためカメレオンと命名した。
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yellow cameleon
- Ca2+の結合に依存して相互作用するタンパク質であるカルモジュリン(CaM)とM13を連結し、さらにそれを緑色蛍光タンパク質のシアン色変異体(CFP)と、黄色変異体(YFP)でサンドイッチした構造を持つタンパク質
- 黄色蛍光タンパク質YFPを、カルモジュリンを介して結合した青緑色蛍光タンパク質 CFPを励起すると、エネルギーの一部が共鳴エネルギー移動(FRET)によって近くのYFPに伝わり、CFPからの青緑だけでなくYFPの黄色蛍光も観察される。カルモジュリンはカルシウム濃度に応じて形態が変化するため、CFPとYFPの位置関係が変化し、FRETの効率が変わるために青緑と黄色の蛍光強度比が変化する。
- Ca2+の結合により、CFPからYFPへのエネルギー移動(FRET)効率が上昇し、シアン色から黄色へと蛍光色が変化する。
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yellow cameleon-Nano:YCnano
- 機能解析用のカルシウムセンサー
- 従来のyellow cameleon ではCaMとM13の間が2アミノ酸(GlyGly)からなるリンカー配列で連結されていたが、2アミノ酸で連結されたCaM-M13は立体構造的に窮屈な形をとっているため、Ca2+に対する親和性が低くなっている。リンカー長を段階的にのばした結果、リンカー長 4 アミノ酸で Kd= 30nM、リンカー長 5 アミノ酸で Kd = 15nM まで向上した。
- 最強のCa2+キレーターとして知られるEGTAよりも10倍も強くCa2+と結合するセンサー
- 世界最高のCa2+親和性を有する改良型センサーを nM レベルの Ca2+濃度を測定できることにちなんで yellow cameleon-Nano と命名された。
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GCaMP 参考1 ←→EGFP/細胞内カルシウム
- GCaMPは主として緑色蛍光タンパク(EGFP)、カルモジュリン(CaM)、ミオシン軽鎖フラグメント(M13)を遺伝子工学的に結合させたカルシウムセンサータンパク質
- GFPを人工的に改造して、カルシウムイオンが結合するとより明るく光るようしたタンパク質がGCaMPであり、GCaMP蛍光強度の変化が、カルシウムイオン濃度の変化に対応する。
- このタンパク質はEGFP)の片側(N末端側)にカルモジュリンを、もう片側(C末端側)にはミオシン軽鎖M13フラグメントを結合した形をしている。
- カルシウムイオンがカルモジュリンと結合すると、Ca2+/CaM複合体がM13と相互作用してEGFP)(蛍光団)の立体構造を変化させ、これによって蛍光強度が変化する。これを利用することによってカルシウム濃度の変化をGCaMP蛍光強度の変化として検出することができる。
- タンパク質であるため遺伝子に組み込むことが可能であり、特にモデル動物において組織・細胞特異的プロモーターと組み合わせることによって目的の組織・細胞種のみをカルシウムイメージングすることができる。
- GCaMPはLoren L. Looger(ハワード・ヒューズ医学研究所Janelia Research Campus Looger Lab)らのグループと中井淳一、大倉正道(埼玉大学脳末梢科学研究センター中井研究室)らのグループをはじめとした複数の科学者によって改変・改良されていて、現在では様々な種類のGCaMPが存在する。GCaMP3の導入された遺伝子改変動物は広く普及しており、これを用いた研究は今も発表されている。
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RCaMP
- 中井研究室では、GCaMPのGFPドメインを mApple 由来の構造に置換して作製された GECI である R-GECO1 にランダム変異を導入し、R-GECO1 よりも大きな蛍光反応を示すクローンを探索した結果、R-CaMP1.07を見出した。
RCaMP2*
- 超高感度・超高速赤色カルシウムセンサー
- 井上昌俊・尾藤晴彦ら(東京大学大学院医学系研究科 神経生化学分野)が作出した赤色Ca2+センサー。赤色GECIのR-CaMP1.07を骨格として用い、M13配列をckkap配列と置換した結果、既存の赤色Ca2+センサーに比べ感度が3倍も向上し、かつ、Hill係数が1付近であることから線形性が圧倒的に高い赤色Ca2+センサーが作出された。
- 従来の赤色GECIは脳スライス標本においてまでしか発火を検出できていなかったことから、生体内において複数細胞種の神経発火を同時にかつ精密に解読することが困難であった。
- RCaMP2は高頻度神経発火の計測も可能な、超高感度・超高速赤色Ca2+センサー
- 井上らはさらに、R-CaMP2と従来の緑色Ca2+センサーとを組み合わせることにより、マウスの大脳皮質における興奮性と抑制性の2つの異なる種のニューロンの神経活動を同時に計測することに成功した。
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inverse-pericam 2.0:IP2.0
- 従来のGECIの蛍光タンパク質のほとんどは、カルシウムイオン濃度の上昇に伴い蛍光が強くなるため、細胞内のカルシウムイオン濃度減少の計測には適していなかったが、九大の石原 健 教授のグループは「神経活動の抑制」を鋭敏に測定することができる新しいGECIの開発に成功し、IP2.0を開発した。*
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□治療薬 |
│ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬:HDAC阻害薬 Histone deacetylase inhibitor│ ←→HDAC 参考2/3 |
- HDACはがん抑制遺伝子の発現に関与し、HDAC阻害薬は抗がん活性を示すことが知られている。
- HDAC 阻害薬がiPS細胞の作製効率を向上させることも報告され、再生医療の実現におけるHDAC 阻害薬の重要性も示されている。
- ラット及びマウスのMCAOモデルでは、虚血脳全体のヒストンのリジン残基でアセチル化が抑制されるが、この変化はHDAC阻害剤の投与により梗塞体積の減少と共に回復される。ラットのMCAOモデルでは傷害後のバルプロ酸、酪酸ナトリウム、トリコスタチンの投与により、状態の改善がみられることが示されている。
- 酪酸ナトリウムを投与したMCAOラットでは虚血脳で、神経新生の増加が確認されるが、これはBDNF-TrkBの経路を遮断すると消失する。
- HDAC阻害薬の投与は虚血によって引き起こされるp53の発現上昇を抑制し、heat-shock protein 70(HSP70)の発現を誘導することが知られている。
- HSP70はマウスMCAOモデルでHSP70- I-κBα- NF-κBの安定な複合体を形成することにより、 NF-κBを不活性化することで抗炎症作用を示すことが明らかにされている。
トリコスタチンA trichostatin A:TSA 参考1
- 抗真菌抗生物質として働く有機化合物
- 1976年に、塩野義製薬の辻らによってStreptomyces hygroscopicusから単離された。
- TSAは抗がん剤としての潜在能力を有する。TSAがアポトーシス関連遺伝子の発現を促進し、がん細胞の生存率を低下させ、がんの進行を遅らせる。
- TSAはクラスIおよびIIほ乳類ヒストン脱アセチル化酵素ファミリーに属する酵素を選択的に阻害するが、クラスIII HDACは阻害しない。
- TSAは成長期の開始時期の間に真核生物の細胞周期を阻害する。
- TSAはヒストンからアセチル基を取り除く酵素の活性を妨げることによって遺伝子発現を変化させるのに使用することができるので、DNA転写因子がクロマチン内のDNA分子にアクセスする能力を変化させる。
- TSAはマウスフレンド白血病細胞に強力な分化誘導活性を示すとともに正常線維芽細胞の増殖をG1とG2で可逆的に停止させる新しい細胞周期阻害剤であり、その標的分子はヒストン脱アセチル化酵素であることが明らかになっている。
- TSAはマウスN9株化ミクログリア細胞およびラット初代ミクログリア細胞においてIL-1β)/LPS(リポ多糖)/IFNγによって誘導される一酸化窒素合成酵素 (NOS) 2の発現を抑制する。
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ボリノスタット Vorinostat:VS・(ゾリンザ®)
別名:スベロイルアニリドヒドロキサム酸 suberoylanilide hydroxamic acid:SAHA
- 世界で初めてのHDAC阻害の作用機序を有する薬剤、エピゲノム治療薬
- 2000年2月に米国で抗悪性腫瘊剤としての臨床開発され、米国で2006年10月6日に承認を取得した。
- 日本では2010年6月16日に皮膚T細胞性リンパ腫:CTCLに対する治療薬として希少疾病用医薬品の指定を受け、2011年7月に「皮膚T細胞性リンパ腫」の適応で承認を取得しました。
- 1971年にジメチルスルホキシドが赤白血病の赤血球系異常幼若細胞を分化させることが発見され、分子探索の結果、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)が発見された。
- クラスⅠ(HDAC1、2及び3)及びクラスⅡ(HDAC6)のHDACの触媒ポケットに直接結合し、その酵素活性を低濃度(IC50≦86nM)で阻害する。また、培養細胞においてヒストンアセチル化を誘導し、種々の培養がん細胞において細胞周期の停止、アポトーシス又は分化を誘導することが示されている。
- ボリノスタットはHDACの活性中心に結合し、同部位に在る亜鉛イオンをキレート化する。
- HDACが阻害されることでアセチル化されたヒストン等のタンパク質が蓄積する。その中には、細胞の分化を決定づけるのに必要な因子も含まれている。その因子の高発現の結果、脱分化(=がん化)が抑制される。
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フィンゴリモド fingolimod:FTY720(イムセラ®、ジレニア®) 参考1
- 免疫抑制剤:リンパ球がリンパ節から体液中に出るのを妨げて免疫を抑制する。
- 多発性硬化症の再発予防薬:再発寛解型MSの再発予防および身体的障害進行抑制の治療効果
- 冬虫夏草菌の一種であるIsaria sinclairii」由来の天然マイリオシンMyriocin、ISP-1)の構造変換により得られた化合物
- 京都大学の藤多哲朗教授と台糖、吉富製薬(FTYの名称は三者にちなむ)の共同研究でMyriocin、ISP-1に免疫抑制効果が見出されたことから、この化合物の構造に基づいて新たに合成され、その後三菱ウェルファーマ(現・田辺三菱製薬)等で開発が行われた。
- 腎移椊および多発性硬化症に対する治験が行われ、現在は多発性硬化症治療薬として発売されている。アメリカ合衆国では2010年9月、日本では2011年11月28日に発売された。
- 米ヴァージニア・コモンウェルス大学のSarah Spiegelらは、フィンゴリモドがヒストン脱アセチル化酵素を抑制し、過去のトラウマ的な体験の記憶を根こそぎ消し去り、患者が恐怖症や摂食障害、性的な悩みなどを克朊できる可能性を示唆する研究を行った。 ←→恐怖記憶関連薬剤 参考1
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酪酸ナトリウム Sodium butyrate:SB
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→バルプロ酸
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