・電位依存性Na+チャネル voltage-dependent sodium channel, voltage-gated sodium channel ←→チャネルブロッカー/局所麻酔薬/抗不整脈薬/抗痙攣薬 →参考1
- 電位依存性Na+チャネルは、膜電位の変化に応じて開閉するチャネル。
電位依存性Na+チャネルは、 |
┳活動電位の発生 |
| ┗活動電位の伝導 の両方に関わっている。 |
- 細胞膜の脱分極に伴って、電位依存性のNa+チャネルが活性化されてチャネルが開き、細胞内にNa+イオンが流入し(内向き電流)、活動電位をが発生する。
- 発生した活動電位は、神経線維を伝導する。この伝導にもNa+チャネルが関わっている。
- 従来は活動電位の上昇相を担っていると考えられていたが、閾下の興奮の制御や細胞外Na+イオン濃度の調節など、様々な細胞機能に関わっている。
- Na+チャネルは、釣り鐘型の形状をしていて、その内部に2種類の空洞がある。
中心部に貫通する太い空洞であるが、出入り口は細胞の内外にそれぞれ4つの小さい孔が開口して、Na+の通路と考えられている。
もう一つの空洞は、周辺部の4隅にあり、親水性の構造から、活性化ゲート(S4セグメント)の移動に関与すると考えられている。
- Na+チャネルの大部分を担うαサブユニットといくつかのβサブユニットで構成される。
αサブユニット =主要構成要素 | βサブユニット =修飾的 |
- 約260 kDaの大きなサブユニット
- 巨大な糖タンパクで、約2000個のアミノ酸
- 相同性のある4つのドメインが繋がっている。
- 各ドメインは6つの膜貫通型のセグメントから構成されている。
=6回膜貫通のドメインが4つ繰り返される。 =6カ所の膜貫通領域を持つドメインI〜IVからなる。
| - αサブユニットよりやや小さい。
- 1から2個のβサブユニット(β1、β2)からなる。
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- 電位変化を感知する部分がある。
- Na+イオンが通過するチャネルポアはS5セグメントとS6セグメントで形成され、この連結部位がイオン選択フィルターの役割を果たす。
- TTXはチャネルポアの入り口付近に結合し、局所麻酔薬はチャネルポアの内部に結合する。
- S4セグメントが膜電位の変化を感知する電位センサー。
- PKAあるいはPKCでリン酸化される部位があり、この部位がリン酸化されることで、電位依存性Naチャネルの機能は変化する。
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- αサブユニットの細胞内輸送やチャネル機能の調節などに関わっている。
- N末端にconstactin類似の構造を持つことから、Naチャネルの発現・調節に関与すると推測されている。
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- ラットの脳のナトリウムチャンネルは、α,β1, β2 の各サブユニットで三量体を形成しているが、骨格筋ではαとβ1で構成される。
- αサブユニットは、10種類のアイソフォームががクローニングされている。比較的ホモロジーが高く、Naxという特殊なアイソフォームを別にすれば、唯一のサブファミリーNavからなる。各サブタイプのアミノ酸配列の相同性はかなり大きな幅がある。
- アコニチンは、αサブユニットに結合し、ナトリウムチャンネルの不活性化を抑制する。過度の脱分極を持続させ、興奮性の低下、伝達物質の遊離を抑える。
- Na+電流は、フグ毒テトロドトキシン(TTX)に対する感受性によって、分類される。 参考
┏ TTX感受性 TTX-sensitive (TTX-s)
┗ TTX抵抗性 TTX-resistant (TTX-r) に大別され、それを薬理学的性質から再分類される。
- 侵害受容器は、TTXsとTTXrの両方を持つので、TTX-rは痛みに深く関わっていると考えられる。
活動電位の発生は、2種類のNa+チャネルが支えている。
- 細胞膜の脱分極が閾値に達すると、TTX-sとTTX-rの両方の電位依存性Naチャネルが活性化されて開き、活動電位を発生させる。
- 開放されたNaチャネルはすぐに閉じ、不活性化されてしまう。不活性化の原因は活動電位による大きな脱分極である。
| TTX-sensitive sodium channel TTX感受性Na+チャネル:TTX-s |
TTX-insensitive sodium channels TTX-resistant sodium channels TTX抵抗性Na+チャネル:TTX-r↓ |
活性化の閾値 | 低い | TTX-rNa+のほうが高い。 |
Na+チャネルの半数が活性化される脱分極の大きさ | 9〜16mV | 25〜40mV |
速いNa+チャネル | 遅いNa+チャネル |
活動電位が発生するとき、まずTTX-sNa+チャネルが開き、遅れてTTXrNa+チャネルが開く。 |
- 侵害受容器はTTX-sNa+チャネルとTT-rNa+チャネルの両方を持つので、
活動電位の持続時間は、TTX-sNa+チャネルだけをもつ非侵害受容器よりも、侵害受容器のほうが長い。
- 膜電位を固定して、電位依存性Na+チャネルの50%が不活性化される膜電位を測定すると、
TTX-sNa+チャネル:-65mV TTX-rNaチャネル:-39mV
- 静止電位の正常値は約-70mVだから、膜電位のわずかな変化が、不活性状態から回復して活動電位の発生に再び寄与できるTTX-sNa+チャネルの数、さらにTTXsNa+電流とTTX-rNa+電流の比に大きく影響する。この比がニューロンの興奮に影響を及ぼす。
---不活性状態からの回復はTTXrNa+チャネルでより早く起こる。
- 炎症によって産生されたNGFに誘導されて、TTX-rNa+チャネルの割合が高くなる。そのため、侵害刺激による脱分極が続いたとき、活動電位の列をより長く発生できるようになる。
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☆痛み関連Na+チャネルに、TTX抵抗性のチャネルが含まれている。
- ラットの培養DRG
TTX抵抗性Na+チャネル: TTXr ↑
TTX-resistant sodium channels、TTX-insensitive sodium channels
- マイクロモル濃度のTTXでもチャネル活性が阻害されることない。
- 低い単一チャネルコンダクタンスと遅い活性化および不活性化過程を持つ。
- 他のNa+ チャネルに比べてより脱分極側の活性化閾値を示し活性化閾値が高い。
1978年 | 松田好弘先生と吉田繁先生らが哺乳動物のナトリウムチャネルにフグ毒テトロドトキシン抵抗性のものがあることを発見した。(S. Yoshida, Y. Matsuda and A. Samejima, Tetrodotoxin-resistant sodium and calcium components of action potentials in dorsal root ganglion cells of the adult mouse, Journal of Neurophysiology, 41, 1096-1106, 1978.) |
1981年 | Platon Grigorovich KostyukらがDRGニューロンがTTX-sのNa+電流とTTX-rのNa+電流を発生することを報告した。 |
1996年 | John Woodらが小径C線維性体感覚神経に特異的に発現するTTX非感受性Na+ チャネルをクローニングし、SNS↓(Sensory Neuron Specific)と名付け、Lakshmi Sangameswaran(Palo Alto (Roche))らは同じ遺伝子をPN3と名付けた。(SNSとラットの心筋のTTX-rNa+チャネルとは、アミノ酸レベルで65%の相同性を有する。) |
1997年 | John C. Hunter(Palo Alto (Roche))とGail Mandel(New York州立大学)らがそれぞれ別々にPN1↓(Peripheral sodium channel 1)をクローニングした。これらはDRGや上頸神経節など末梢神経にのみ発現していて、脳、骨格筋、心筋などの発現は見られない(しかしJohn Hunterの報告では、RT-PCRによる検索で脳や心臓でも発現していた。)(PN1は、ヒトのhNE-Na(human neuroendocrine Na channel)やウサギのNaS Na+channel (rabbit Schwann cell Na channel) とアミノ酸レベルで93%の相同性を有している。ラット脳のtype I〜IIIのものとは70%代の相同性しかない。PN1によるNa+電流はTTXによりブロックされ、そのIC50は約4nMで、TTX感受性であり、ラット脳のNa channelや骨格筋のものとほぼ同様であるが、PN3/SNSに比較すると非常に感受性が高いと言える。PN1は、全てのDRGニューロンに発現している。 |
1998年 |
Stephen G. Waxmanらのグループが、DRGの小径細胞に発現する新たなTTX非感受性Na+チャネルを同定し、NaNと名付けた。Clifford J. WoolfらのグループもNaNと同じ遺伝子を報告し、SNS2と名付けた。1 |
- Na+の名称は統一されていなかったが、2000年に命名法の統一が提唱された。
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新規名 | 従来の慣用名 | 遺伝子名 | ゲノム配座 | ホモロジー | TTX感受性 | 発現部位 | DRGの局在 | ゲート開閉 |
Nav1.1 | type I, rat I, Scn1a HBSCI, GPBI | SCN1A | M: 2 H: 2q24 | 87 | +(nM) | 中枢神経・末梢神経 | + | 速い(数ms) |
Nav1.2 | type II, rat II, HBSCII, HBA | SCN2A | M: 2 H: 2q23-24 | 100 | +(nM) | 中枢神経 | + | 速い(数ms) |
Nav1.3↓ | type III, rat III | SCN3A | M: 2 H: 2q24 | 87 | +(nM) | 中枢神経(胎児型) | axotomy後 に発現 | 速い(数ms) |
Nav1.4 | SkM1, μ1 | SCN4A | M: 11 H: 17q23-25 | 69 | +(nM) | 骨格筋 | - | 速い(数ms) |
Nav1.5 | SkM2, rH1, H1 | SCN5A | M: 9 H: 3q21 | 61 | -(μM) | 心筋 | - | 速い(数ms) |
Nav1.6 | typeIV, Na6, Nach6, PN4, Scn8a, CerIII | SCN8A | M: 15 H: 12q13 | 75 | +(nM) | 中枢神経・末梢神経・ランヴィエ絞輪・グリア細胞 | +++ | 速い(数ms) |
Nav1.7↑ | PN1, hNE, Nas | SCN9A↓ | M: 2 H: 2q24 | 75 | +(nM) | DRG(nociceptive)、交感神経・シュワン細胞 | +++ | 速い(数ms) |
Nav1.8↑ | SNS, PN3, NaNG | SCN10A↓ | M: 9 H: 3p22-24 | 55 | - | 末梢神経(感覚ニューロン特異的)(心筋↓) | +++ | 遅い(数ms) |
Nav1.9 | SNS2, NaN, NaT, SCN12A | SCN11A | M: 9 H: 3p21-24 | 51 | - | 末梢神経 | +++ | 著しく遅い(数100ms) |
Nax | Nav2.1, Nav.2.2, Nav2.3, CL11, NaG | SCN11A | M: 2 H: 2q21-23 | 48 | - | 心筋・子宮・平滑筋・末梢神経・グリア細胞 | + | 電位非依存性 |
- 痛み情報の伝達には、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8が関与している。Nav1.8がC線維の神経伝導に関与する。
- 神経損傷などの動物モデルでは、Nav1.9が減少し、その代わりにNav1.3が出現する。従って、神経損傷時の異所性自発放電は、TTXで消失する。
- アミトリプチリンやカルバマゼピンに、axotomy後に発現するNav1.3↑阻害作用がある。
- 去痰薬のアンブロキソールはNav1.8↑の活性を有するので、痛みの治療薬としても期待が持たれている。
- 炎症によりNGFの産生が増加され、DRGのTTXrNaチャネルmRNAの増加し、Nav1.9が増加する。
- 炎症によって局所に遊離されるプロスタグランジン、アデノシン、セロトニンは、TTXrNa+チャネルをリン酸化して、このチャネルを流れるNa+電流を増加させる。それに伴って活動電位を発生させる脱分極の閾値の低下、Na+チャネルの活性化と不活性化の速度上昇が起こる。モルヒネ様作用をもつμオピオイドはTTXrNa電流の増加に拮抗する。
- カラゲニンモデルラットで、SNS-1のmRNA、フロインドアジュバントラットで、SNS-2mRNAが増加する。
Nav1.7↑遺伝子の変異
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Nav1.8↑遺伝子の変異
- 感覚神経にだけ発現していると思われていたNav1.8が、心筋細胞にも発現している。
- SCN10A:sodium channel, voltage-gated, type X, alpha subunit
- イギリス在住のインド系アジア人の心電図異常とSNP解析の結果から、Nav1.8をコードしているSCN10Aにおけるnonsynonymous SNP, rs6795970がPR異常と深い関係にあることがわかった。心房から心室への伝導に異常が認められ、不整脈発症リスクが上昇する。
- Nav1.8ノックアウトマウスではPR間隔が有意に短縮している。
- PCRでは心臓由来のサンプルでNav1.8mRNAが増幅されることがマウス、ヒトで確認された。[PubMed]
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