ニチニチソウアルカロイド(ビンカアルカロイド vinca alkaloids) 参考1
- キョウチクトウ科ニチニチソウ Catharanthus roseus に含まれるアルカロイドのうち、抗腫瘍作用を有するインドールアルカロイド
- ビンカアルカロイドとは、ニチニチソウの古い学名Vinca roseaに因んでつけられたもので、天然物化学や生薬学では用いられず、今日ではニチニチソウアルカロイドと称されている。
- ニチニチソウは欧州では何世紀もの民間療法で糖尿病に用いられてきた。ジャマイカでもごく最近まで「糖尿病によいお茶」としてニチニチソウが飲用されてきた。
- 抗がん剤、微小管機能阻害薬:がん細胞の有糸分裂の際にチュブリンの重合を阻害することで分裂中期の紡錘体形成を阻害し、有糸分裂を妨害する。↑
- ピンカアルカロイドを投与された患者のほとんどすべてに、不快な痛みと異常感覚が現れる。
- 灼けつく感じとジンジンビリビリ感が、四肢の末端部に始まって、次第に体幹に近位に拡がる。
ビンクリスチン vincristine:VCR(オンコビン Oncovin®)
- 1961年に単離された。
- 白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍などに用いられている。
- 米国ではビンクリスチンには催奇性があるとして妊婦に対する使用は禁忌とされている。
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ビンブラスチン vinblastine:VLB(エクザール exal®)
- 1958年に単離された。
- 二重分子インドールアルカロイド、ビンクリスチンの構造中のホルミン基がメチル基に変わったもの
- 腫瘍細胞の有糸分裂を中期停止
- 主に悪性リンパ腫に対して有効である。その他、カポジ肉腫、神経芽腫、乳がんにも有効とされている。
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ビノレルビン vinorelbine:VNR(ナベルビン Navelbine®)
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タキソイド taxoid(タキサン taxane)系抗がん剤 参考1/2/
- イチイ Yews (Taxus spp., Taxaceae) の木の樹皮からとれるアルカロイド
- 植物化学領域では基本母核を命名の基準とする傾向の強いので、タキソールをアルカロイドとみなすことはほとんどない。窒素原子を含むが、基本骨格のタキサン上ではなく、エステル結合した複合置換基の中に含まれている。この含窒素部だけを取り上げれば非アミノ酸由来のプソイドアルカロイド(あるいは不完全アルカロイド)であるが、臨床薬理学ではビンクリスチンやカンプトテシンなどとともにしばしば植物アルカロイドと呼称されている。
- イチイの木に多くの薬理活性のある物質が含まれていることは古くから知られていた。Julius Caesar (BC102〜144) の「ガリア戦記」に、イチイの木からの抽出物を毒薬として使ったという記述がある。
- タキサン系抗がん剤は非小細胞肺がん、乳がん等多くのがん腫に対する高い有効性が確認されている。
- 作用機序↑:微小管を標的として作用することによりがん細胞の抑えるため、神経細胞の微小管も傷害され、神経障害を引き起こす。
- タキサン化合物は微小管に結合して チュブリンの重合を促進し、微小管を安定化・過剰形成させる。微小管重合の動的平衡状態を破壊することにより、微小管の正常の働きを妨げ、細胞周期を分裂期(M期)に停止させて細胞増殖を抑制し、がん細胞を殺す。
- 副作用:白血球減少、好中球減少、末梢神経障害、悪心嘔吐等がある。
パクリタキセル paclitaxel:PTX (タキソール taxol®) 参考1/2/3
- タキサン系に類する抗がん剤:卵巣がん、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、子宮体がん
- 発見当初はTaxolと呼ばれていたが、1990年にBristol-Myers Squibb (BMS)社がこの名を商標として登録し、商品名TAXOL® として使用するようになったので、特定の企業商品を連想させないように、薬学系の研究者を中心に一般名であるpaclitaxelが物質名としても使用されるようになった。
- FDAはエイズによるカポジ肉腫(Kaposi's sarcoma)の治療に対しても承認した。
1856年 | Lucas H(ドイツの薬学者)が初めて純粋なかたちでタキソイド系の化合物を単離した。イチイの葉からタキサン taxaneという物質を非結晶性の白い粉として取り出した。(Archiv der Pharm., 1856, Vol. CXXXV, p. 145) |
1966年 | 米国 National Cancer Institute(NCI)が抗腫瘍活性スクリーニングによって、L1210、P388、P1534白血病、Walker 256 carcinosarcoma、Lewis肺がん等の各種マウス及びヒト腫瘍株に対して、太平洋イチイ(英名: Pacific yew tree, 学名:Taxus brevifolia)の樹皮から抽出された植物成分に抗腫瘍活性があることが見出した。 |
1969年 1971年 | Monroe E. Wall とMansukh C. Waniが1969年にイチイの抽出物からパクリタキセルを分離・同定し、1971年にその化学構造を決定し、Taxol と名付けた。 |
1979年 | S. Horwitzらは、パクリタキセルの作用機序が微小管重合の促進・安定化作用を示すことを報告した。 |
1990年 | Bristol-Myers Squibb (BMS)社がTaxol®を商標登録した。 |
1993年 | Robert A. Holton(バージニア州立大→Florida State University)らがタキソールの史上初の全合成を完成した(発表は翌年)。 |
- 全合成は完成されたが、コストが高い。現在、医薬品としてのパクリタキセルはヨーロッパイチイ(Taxus baccata)の葉からバッカチンIII(baccatinIII)が大量に得られることがわかり、ここに側鎖を取り付けることで効率よくタキソールを合成できることがわかった。現在臨床に用いられているタキソールはこの「半合成」によって供給されている。
- パクリタキセルは、主としてCYP2C8、CYP3A4により代謝され、また薬物トランスポーターの1つであるP-糖タンパク(MDR1/ABCB1)の基質となることが知られている。
- パクリタクセルによる末梢神経障害は、投与回数に比例して発現頻度が高くなり、しびれ、刺すような痛み、感覚麻痺といった感覚異常が手足の指でよくみられる。
- パクリタキセル過敏症 paclitaxel hypersensitivity:投与中に顔面の潮紅や呼吸困難などの過敏症状が頻発 参考1
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ドセタキセル、ドセタクセル docetaxel:DTX(タキソテール®) 参考1/2
- パクリタキセルの誘導体、パクリタキセルと異なり、溶剤にエタノールを使用しなくてもよい。
- 適応:乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、頭頸部がん、卵巣がん、食道がん、子宮体がん
- しびれなどの副作用がパクリタキセルよりも少なく、臨床効果も高いという報告がある。
- パクリタキセルよりも浮腫が高頻度に認められる。ドセタキセルによる浮腫は、fluid retention syndromeと呼ばれ、毛細血管透過性の亢進が主たる原因と考えられている。総投与量が300〜400mg/m2に達すると、間質へのうっ血とリンパ管への還流障害が起こり、水分貯留の発現頻度が増加する。
- 2004年FDAは、進行性転移性前立腺がん患者の治療として、プレドニゾン(ステロイド)と組み合わせたドセタキセルの注入療法を承認した。これはホルモン不応性前立腺がんで生存の延長を証明した初めての薬剤の認可である。
- ドセタキセルはCYP3A4による代謝を受ける。
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白金錯体製剤 platinum-based chemotherapy drug
シスプラチン cisplatin : CDDP(ブリプラチン®、ランダ® など) 参考1/2
- 白金錯体に分類される抗がん剤
- 細菌の増殖を抑える抗菌薬として発見され、その後、抗腫瘍効果が確認されてがん治療に用いられるようになった。
- シスプラチンは白金に2つの塩素、2つのアンモニアが結合した極めて単純な分子で、わずか11原子からなる無機化合物
- シスプラチンの「シス」は、シス-トランス異性体のシス型に由来する。塩素同士、アンモニア同士が同じ側にある。
- 薬理作用を発現するのはシス型だけでトランス型は抗がん作用を示さない。
- シスプラチンは大腸菌だけでなくがん細胞の増殖を抑えることも発見され、広く抗がん剤として使われるようになった。
1965年 | シスプラチンの抗がん作用は1965年に偶然に発見された。大腸菌の増殖の変化に対する電場の影響調べていたBarnett Rosenberg (1926〜2009/8/8, 米国ミシがん州立大学の細菌学者) が、白金電極のまわりでは電場なしでも大腸菌の増殖がストップすることを見つけた。この現象に興味を持ち、白金化合物をいろいろと合成して調べると、シスプラチンが最も効率よく菌の増殖を抑えることを発見した。 |
1984年 | 作用機序が解明された。DNAの二重らせんにシスプラチンががっちりと結合して変形させ、DNAがほどけなくなれば細胞分裂もできなくなる。 |
1984年 | 日本でシスプラチンが認可された。 |
- シスプラチンは、DNAの構成塩基であるグアニン、アデニンのN-7位に結合する。2つの塩素原子部位でDNAと結合するため、DNA鎖内には架橋が形成される。シス体に比べ、トランス体は架橋が形成されにくいため、投与量の制限により臨床的に用いることはできない。
- 睾丸腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞腫、胃がん、小細胞肺がん、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)
- シスプラチン投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)の抑制するために、オンダンセトロンやグラニセトロンなどの制吐剤が投与される。
- 白金錯体製剤は、神経細胞を直接傷害する結果、二次的に軸索障害をきたしていると考えられている。
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カルボプラチン carboplatin : CBDCA(パラプラチン®) 参考1
- シスプラチンの抗腫瘍活性を弱めることなく、腎毒性および嘔気・嘔吐などの副作用を軽減することを目的にJohnson Matthey社が合成し、英国のがん研究所、米国の国立がん研究所(NCI)、米国のブリストル・マイヤーズ スクイブ社が開発した抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)。
- 頭頸部がん、肺小細胞がん、睾丸腫瘍、卵巣がん、子宮頸がん、悪性リンパ腫、非小細胞肺がん
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オキサリプラチン Oxaliplatin : L-OHP(エルプラット ELPLAT®) 参考1
- 抗がん剤として用いられる白金製剤。白金錯体の一種である。
- 進行・再発大腸がん(特に結腸がんと直腸がん)に対する抗がん剤治療
- パクリタクセルとともに治療上の有用性が高いが、副作用として末梢神経障害を起こしやすく、ひどい場合には治療を中止せざるを得ない。
1976年 | 喜谷義徳(名古屋市立大学薬学部名誉教授)らがシスプラチンに耐性となった腫瘍への効果、およびシスプラチンに特徴的な腎毒性の軽減を目的として見出したが、国内では臨床試験に入ることなく、開発は断念された。 |
1996年 | フランスのGeorges Mathé(1922-2010, 実験腫瘍学の教授)等が臨床上の開発をおこなった。開発はスイスのDebiopharm社 1996年フランスにおいて結腸・直腸癌に対する治療剤として承認され、米国では2002年に承認された。 |
2005年 | 3月治癒切除不能な進行・再発の結腸がんおよび直腸がんに対し、承認を取得、4月から国内で発売開始された。 |
- 特徴的な副作用:手・足や口唇周辺部の感覚異常や知覚不全であり、ほとんど全例に表れる。
- 投与直後に見られる著明な冷感過敏が特徴的であるが、慢性投与によりパクリタクセルと同様な末梢神経症状が見られる。
- オキサリプラチン誘発機械的アロディニアは八味地黄丸(補陽剤)では抑制されないが、牛車腎気丸(補陽剤)投与により抑制される*。(安東嗣修先生@倉石lab) ←→漢方治療
- オキサリプラチンにによる急性末梢神経障害は、一次求心性神経のTRPA1の感受性増大によって発生する。 参考1(京大薬学中川先生ら)
- オキサリプラチンによる末梢神経障害ー痛覚過敏を高脂血症治療薬であるHMG-CoA還元酵素阻害剤(シンバスタチン)が軽減 (Biomedicine & Pharmacotherapy 148, April 2022, 112744 1/2
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フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬 fluoropyrimidine anti-metabolites
フルオロウラシル fluorouracil(5-FU)
- これまで乳がんや消化器がんの治療に最も多く使われてきた抗がん剤の一つ
- フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤で、抗悪性腫瘍薬。ウラシルの5位水素がフッ素に置き換わった構造をしている。
- 1956年にDushinskyらによって合成され、その後Heidelbergerらを中心として基礎及び臨床にわたる広範な研究で抗悪性腫瘍剤としての評価が確立された。
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レボホリナート Levofolinate(レボホリナートカルシウムの注射剤:アイソボリン Isovorin®)
- フォリン酸の 6S 体のカルシウム塩
- フルオロウラシル の効果を増強させる薬剤である。
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テガフール tegafur
- フルオロウラシルの誘導体で、肝臓でフルオロウラシルに変換され、これがDNA生合成を阻害する。
- フルオロウラシルの代謝物もRNA機能を阻害する。
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1®)
- 胃がんなどに使用される経口の抗悪性腫瘍剤の一種で、代謝拮抗剤に分類される。
- ギメラシル:テガフールがフルオロウラシル以外に代謝されることを防ぐ作用がある。すなわち体内でのフルオロウラシルの濃度を上げて効果を高めるためのものである。
- オテラシルカリウム:フルオロウラシルの消化器毒性を軽減する。
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UFT
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ドキシフルリジン
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カペシタビン capecitabine(ゼローダ® Xeloda®など)
- 手術不能又は再発乳がんを適応症として発売を開始した経口フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤
- 海外では1998年に初めて米国、スイス、カナダで、2001年に欧州で承認され、本邦では2003年6月に発売
- フルオロウラシル:5-FUの誘導体。がん細胞内でフルオロウラシルに変換されてから効力を発揮する(プロドラッグ)。フルオロウラシルそのものよりも効果が高く、副作用の軽減も期待できる。
- 骨髄細胞や消化管では活性体になりにくく腫瘍組織内でより選択的に5-FUを生成することを目的として、日本ロシュ研究所(現中外製薬株式会社鎌倉研究所)で創製された。
- 大腸がんの治療では、カペシタビンとオキサリプラチンとの併用療法(XELOX療法)が標準治療の一つとなっている。さらに分子標的治療薬のベバシズマブ(アバスチン点滴静注用)を追加併用することでより高い効果が望める。
- 重大な副作用:脱水症状、手足症候群、心障害、肝障害、黄疸、腎障害、骨髄抑制、口内炎、間質性肺炎
- 作用機序:肝臓でカルボキシルエステラーゼにより5'-deoxy-5-fluorocytidine (5'-DFCR) に代謝される。次に主として肝臓や腫瘍組織に存在するシチジンデアミナーゼにより5'-deoxy-5-fluorouridine (5'-DFUR) に変換される。さらに、腫瘍組織に高レベルで存在するチミジンホスホリラーゼ (TP) により活性体である5-FUに変換され、抗腫瘍効果を発揮する。
手足症候群 hand-foot syndrome
- 抗悪性腫瘍剤の副作用としてみられる皮膚症状
- カペシタビン、UFT、5-FU、TS-1、ドセタキセル、レボホリナートなどの各種の抗悪性腫瘍剤で起こり得るが、特にカペシタビンに多い。
- 症状:手足や指先、足底などの四肢末端部に、しびれ、皮膚知覚過敏、ヒリヒリ感・チクチク感、発赤、色素沈着、腫脹等があらわれる。 重篤になると、湿性落屑、潰瘍、水疱、強い痛みがあらわれ、歩行障害、ものがつかめないなど日常生活を遂行できなくなることもある。
- 機序:現在は、発現機序は不明であるが、表皮の基底細胞の増殖能阻害されること、またはエクリン汗腺からの薬剤の分泌などが原因として考えられている。
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カルモフール(ミフロール) |
ドキシフルリジン(フルツロン) |
シタラビン(キロサイド) |
→メトトレキサート(リウマトレックス) |
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