クロルプロマジン chlorpromazine:CPZ(Thorazine®、ウィンタミン Wintermin®、コントミン Contomin®)
2-chloro-10[3(-dimethylamino)propyl]phenothiazine、化学式:C17H19ClN2S
- ベンゼン環3つを持つ最初の抗精神病薬 ←→三環系抗うつ薬
- フェノチアジン系(プロピル側鎖)の定型抗精神病薬:世界初の統合失調症治療薬
- 第1世代のD2受容体遮断薬:脳のD2受容体を遮断することで、ドーパミン神経の過剰な活動により発現する陽性症状をおさえるが、陰性症状に効きにくく、また錐体外路症状などの副作用がでる。
- 抗ドーパミン作用として、制吐作用もある。
- ムスカリン受容体遮断作用
- ヒスタミンH1受容体遮断作用
- 麻酔前投与剤(ヒベルナシオン hivernation)としても使われていた。
1950年 | Paul Charpentier(フランスの製薬会社Laboratoires Rhône-Poulenc(現サノフィ・アベンティス)の主任化学者)が、ヒスタミンのアナログとして、新種の抗ヒスタミン薬4560RPを開発した。Rhône-Poulencはヒスタミン作用を目指してエチレンジアミン系の10-dimethl laminoethylphenothiazineを合成したところ、予想通り強力な抗ヒスタミン作用を示した。10位の側鎖を延長してpropylamino基とするとヒスタミン作用は低下し、一方精神安定作用が現れることがわかり、さらに強力な同族体の探求の結果、クロルプロマジンが発見されるに至った。クロルプロマジンは1951年12月11日に合成され、1952年5月から臨床研究のために放出された。当初は抗ヒスタミン薬と制吐薬として販売したが、抗ヒスタミン作用が少ないのに、予想以上に鎮静作用が強すぎると評価されていた。 |
1952年 | Henri Laborit(P 1914〜1995, フランスの外科医、生化学者)がクロルプロマジンの鎮静効果を発見した。Laboritが第二次世界大戦のヨーロッパ戦線で海軍軍医として従軍していた時、特にひどい戦傷もないのに、自律神経のアンバランスによりショックに陥る兵士に、抗ヒスタミン薬(プロメタジン)が有効であることを見いだしていた。戦後、Laboritはパリ郊外のVal de Grace 海軍病院で、外科手術や麻酔によるショックを減少させるために、「人工冬眠 artificial hibernation」の研究もしていた。
外科手術の前に体験する不安は、肥満細胞から大量のヒスタミンを放出させると考え、高用量の抗ヒスタミン薬を投与すると、患者の精神状態を変化させ、麻酔薬の量も減らせることを発見した。LaboritとPierre Huguenard(麻酔科医)はさまざまな抗ヒスタミン薬を試し、患者を穏やかにするものを見つけようとした。promethazinesとオピエートの meperidineとのカクテルは有効であった。1949年にRhone–Poulencから譲り受けたクロルプロマジンには鎮静効果があり、精神病患者に有効であるに違いないと考え、義理の弟の精神科医のPierre Deniker↓に勧めたところ、躁鬱病と統合失調症患者の鎮静と幻覚を抑えることが見いだされた。 |
1952年 | Henri Laborit↑のすすめにより、Jean Delay↓(P 1907/11/4〜1987/5/29, パリSaint-Anne’s hospital の精神科医)とPierre Deniker(1917年〜 フランスの精神科医)は、クロルプロマジンの統合失調症に対する治療効果を初めて正しく評価した。クロルプロマジンの大量投与は、非常に扇動され攻撃的になった統合失調症症状や躁鬱症状をもっている患者を穏やかにすることを確認した。単なる鎮静剤ではなく、精神病の経過そのものに対して作用する抗精神病薬であることを指摘した。 |
1952年 | Smith-Kline & French (現GlaxoSmithKline)はRhone-Poulecからクロルプロマジンの販売権を取得し、当初は抗ヒスタミン薬と制吐薬として販売した。当時は抗ヒスタミン作用が少ないのに、抗精神病薬として販売した。 |
1954年 | 米国FDAはクロルプロマジンを精神病治療薬として承認された。 |
1956年 | 医学雑誌「脳と神経」のWintermin®の広告には「冬眠療法剤」という言葉が大きく描かれている。雪の結晶の図案は「冬眠」からの連想。4560 は開発コードナンバーで、R.P.は開発元のローヌ・プーラン Laboratoires Rhône-Poulenc社の略。* |
1960年 | 日本では、クロルプロマジンの迂回発明が大阪地方裁判所(昭35.9.11言渡:判例時報162号23頁)で認められ、吉冨製薬がその迂回発明に拠る製法特許を取得し、市場の西半分は吉冨製薬の「コントミン」が占有し販売されている。サンド社(SANDOZ、現ノバルティス)の輸入品は「ウインタミン」(塩野義製薬取次)の商標を使用している。 |
1960年代 | クロルプロマジンが精神病院をの「閉鎖病棟」解放する効果は、感染症に対するペニシリンの効果と比較されるほど画期的な薬であった。100万人以上の患者に使用されたが、1960年代の後半に、重篤な錐体外路症状と遅発性ジスキネジアの副作用が見つかり、使用数は減少した。 |
- クロルプロマジンは世界初の抗精神病薬であり、すべての精神科領域薬剤の元祖といって言い過ぎではなく、クロルプロマジンの発明が病院の神経科の「閉鎖病棟」を開放するきっかけとなったことは良く知られている。
- クロルプロマジンが開発された1950年代初頭の精神科疾患の治療には、電気ショック療法、インシュリンショック療法、カルジアゾールけいれん療法、ロボトミーなどの方法しかなかったので、「薬で治す」ということ自体が革新的であった。クロルプロマジンは「切らないロボトミー」などとも呼ばれ、有効な難治性精神疾患の治療薬がなかった時代に、新しい光を投げかけた。
- 統合失調症、躁病、神経症における不安・緊張・抑うつ、悪心・嘔吐、吃逆、破傷風に伴う痙攣、麻酔前投薬、人工冬眠、催眠・鎮静・鎮痛剤の効力増強などに使われた。
- 抗精神病効果、鎮静作用、錐体外路系に対する作用はいずれも中程度。
[副作用↓]
- 血圧降下、頻脈、不整脈、再生不良性貧血、腸管麻痺、肝障害、錐体外路系症状、縮瞳、SIADH、錯乱、不眠
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レボメプロマジン levomepromazine(ヒルナミン®、レボトミン®、ソフミン®、レバル®、プロクラジン®、レボホルテ®)
- フェノチアジン系抗精神病薬
薬力価は塩酸クロルプロマジンと同等とされるが、坑幻覚作用は弱い。
- ノルアドレナリン系の遮断が強く、著しい衝動性の興奮や錯乱状態における異常行動を抑制する鎮静作用は強力である。
- 脳内のドーパミン2受容体を遮断することにより、不安、興奮、イライラ、不眠などの症状を改善する。
- 力価が低いため、D2受容体への選択性は低く、幻覚、妄想などを抑える効果は低い。
- ノルアドレナリン神経系への作用が強く、思考を抑制し、強力な鎮静作用を発揮する。
- α受容体の遮断や抗ヒスタミン作用などが強く、その分、血圧降下やめまい・眠気・判断力の低下が強く出ることがある。
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チオリダジン thioridazine(メレリル®)
- フェノチアジン系(ピペリジン系)抗精神病薬
- ドーパミンD2受容体遮断薬
- 鎮静作用が強い。
- チオリダジンはチトクロームP 450のCYP2D6によって代謝される。同じCYP2D6によって代謝されるアミトリプチンなどの併用により競合的な代謝阻害を示し、両剤の血中濃度が上昇する。
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フルフェナジン(フルメジン®、フルデカシン®)
- フェノチアジン系抗精神病薬
- ドーパミンD2受容体遮断薬
- 比較的賦活するような作用がある。
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ハロペリドール Haloperidol(セレネース®、リントン®)
[副作用↓]
- 本来の標的である中脳辺縁系以外の神経伝達を遮断してしまうことによって生じる。
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チミペロン timiperone(トロペロン®)
- ハロペリドールを元に日本で開発されたブチロフェノン系の旧来の抗精神病薬
- 1973年に第一製薬株式会社(現 第一三共株式会社)研究所において創製された国産初のブチロフェノン系抗精神病薬で、1976年から臨床試験を開始し、1983年に「統合失調症」の効能・効果で承認を得て、1984年に発売した。
- 開発当初、抗精神病作用と関連すると考えられる自発運動抑制作用、抗メタンフェタミン作用等が強力であり、また錐体外路系の副作用の指標と考えられているカタレプシー惹起作用との間に乖離が認められた。
- 臨床試験により、幻覚・妄想,興奮に対し優れた臨床効果を示すことが認められた。
- ドーパミン、アンフェタミン・アポモルヒネに対して強い拮抗作用をもつ。
- セロトニン受容体に対しても低い親和性を持つアンタゴニストである。
- 制吐作用があるが、健康保険上には制吐目的に限った適応項目がない。
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塩酸ピパンペロン pipamperone hydrochloride
=塩酸フロロピパミド floropipamide hydrochloride(プロピタン propitan®) 参考1
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スルピリド Sulpiride(ドグマチール Dogmatic®、ミラドール Miradol®、アビリット)
- ベンザミド誘導体系の定型抗精神病薬 Typical antipsychotic
- ドーパミン受容体遮断薬で、抗うつ薬でもある。我が国でのみ抗うつ薬として使われている。
1967年 | フランスのDelagrange社のSESIF研究所(現Sanofi-Aventisグループ)が開発したベンザミド薬物 |
1973年 | 日本では、胃潰瘍・十二指腸潰瘍治療薬として発売された。 |
1979年 | うつ病・うつ状態及び統合失調薬として効能・効果が拡大された。 |
- ドーパミンD2受容体遮断作用があるが、その他の生体アミン(アドレナリン、セロトニンなど)に対する作用はほとんど示さない。
- 視床下部交感神経中枢に作用し、交感神経の興奮により起こる血管攣縮を抑制し、胃・十二指腸粘膜の血流改善作用などにより抗潰瘍作用を示す。
低用量 |
- 低用量では抗うつ効果が期待される。
- 低用量では、シナプス前部のD2受容体を遮断し、ドーパミン放出を促進する?
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高用量 |
- 高用量では抗精神病薬として効果が期待される。
- シナプス後部のD2受容体遮断により抗精神病作用を示す?
- 血液脳関門通過性が原因となり、胃潰瘍・十二指腸潰瘍治療よりも抗うつ作用を発現させるためには高用量が必要となり、さらに統合失調症の治療のためにはさらに高用量が必要となる。
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- 鎮静催眠作用・筋弛緩作用はなく、意識水準の低下・精神活動の抑制・脱力倦怠感などの副作用もないといわれている。
- 三環系抗うつ薬でみられる抗コリン作用に基づく自律神経系の副作用は少なく、また抗不安薬にみられるような鎮静効果も少ない。
[副作用↓]
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