□様々な痛み |
│腹痛 stomache, abdominalgia│ ←→内臓/内臓痛/がん浸潤による痛み ←参考1
急性腹症 acute abdomen
- 腹痛は、消化器疾患における代表的な症状、自覚症状の一つである。
- 原因は、 腹腔内臓器の障害とは限らない。
- 腹痛には、内臓痛、体性痛とがある。そして、内臓痛に伴う関連痛があるが、実際の臨床の場では、明確に区別することは困難である。
| 腹 痛 | 関連痛 |
内臓痛 |
体性痛 |
発生原因 |
管腔臓器壁や腹側壁膜の急速な伸展・拡張や、攣縮性収縮や実質性臓器の腫脹による皮膜の伸展、牽引など |
壁側腹膜や腸管膜、横隔膜への物理あるいは化学刺激 |
内臓痛を生じた部位と同一レベルの感覚入力 |
発生時期 |
多くは病期初期 |
多くは病期進行後 |
内臓病の増悪期 |
求心性神経 |
無髄C侵害受容神経 |
AδおよびC侵害受容線維 |
ー |
疼痛症状 |
灼熱痛や鈍痛として訴えられる。痙攣・伸展が激しい場合は、周期的、間欠的で差し込むような疝痛となる。 |
持続性の指すような鋭い痛みで、腹膜刺激症状を伴うことが多い。 |
強い内臓痛に伴って皮膚や筋肉に生じる限局性の鋭い痛み |
疼痛部位 |
非限局性で、腹部正中に対称性に生じる。(障害臓器が両側性の神経支配のため。) |
障害臓器の近傍に限局し、非対称性で、疼痛部位が明瞭。圧痛点を認める。 |
刺激を受けた体性感覚神経の支配領域の皮膚節。(Headの感覚過敏帯) |
迷走神経症状 |
伴うことが多い(嘔吐、発汗など)。 |
一般に伴わない。 |
ー |
体動や体位の影響 |
あまりない。(疼痛が軽快する場合もある。) |
体動で悪化する。(特定の体位のまま動かないことがある。) |
ー |
疼痛管理 |
鎮痙薬が有効。 |
鎮痙薬は無効。鎮痛薬が有効。 |
鎮痙薬、鎮痛薬ともに使用。 |
治療方針 |
内科的治療 |
外科的治療の適応となる例が多い。 |
内科的治療 |
カーネット徴候 Carnett's test 参考1/2
←→腹痛の圧痛/筋痛の圧痛
- John B. Carnettが1926年に考案したテスト法
- 腹痛の原因が、腹壁(筋肉、骨、神経)にあるか、腹腔内にあるかを鑑別するサイン
【方法】
- 患者に仰臥位で、両腕をクロスさせて胸に置く。
- 患者の腹部の圧痛点を押さえた状態で、患者に頭部を挙上し腹部の筋肉を緊張させる。
【判定】
- 陰性:圧痛減弱 → 腹腔内臓器(内臓)由来の疼痛を示唆
- 陽性:圧痛不変 → 腹壁性の疼痛を示唆
- 強陽性:圧痛増強 → 腹壁性の疼痛を強く示唆
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筋性防御 muscular defense, muscular guarding
- 炎症による内臓体性反射
- 壁側腹膜の炎症を示唆する所見:腹部を軽く押した時に反射的に腹壁が緊張する。急性腹膜炎や虫垂炎などの診断に有用。
- 炎症が腹膜に波及すると、腹壁筋肉の反射性緊張により、腹筋が不随意性に硬直し、触知することができる。
- 初期では軽い触診で腹壁の筋肉の緊張として触知されるが、病状が進行すると腹筋は硬く緊張し、腹壁反射は消えて板状硬と呼ばれる状態になる。
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- 腹痛の原因となる疾患と緊急性
頻度 | 緊急を要する疾患 | 緊急を要しない疾患 |
よく遭遇 する疾患 |
- 急性虫垂炎
- 絞扼性イレウス
- 消化管穿孔
- 急性胆嚢炎・胆管炎
- 急性壊死性膵炎
- 子宮外妊娠破裂
- 卵巣膿腫茎捻転
- S状結腸軸捻転
- 心筋梗塞
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比較的 まれな 疾患 |
- 腸管膜血管閉塞症
- 腹部解離性大動脈瘤
- 腹部大動脈瘤切迫破裂
- 上腸間膜動脈塞栓症
- 潰瘍性大腸炎
- 中毒性巨大結腸症
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- 腹痛の部位・正常と主な疾患 (Year Note 2004 論文集)
| 強い痛み | 鈍痛 |
右季肋、 側腹部 |
- 胆石症
- 胆嚢・胆管炎
- 十二指腸潰瘍
- 腎結石
- 肝膿腫
- 急性腎盂腎炎
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- 急性肝炎
- 肝癌、胆嚢がん
- 右胸膜炎・肺炎
- 膵頭部痛
- 大腸がん
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心窩部 |
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 急性胃炎
- 急性虫垂炎初期
- 急性膵炎
- 心筋梗塞
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左季肋、 側腹部 |
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臍部 |
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右腸骨 窩部 |
- 虫垂炎
- 右尿管結石
- 卵巣膿腫茎捻転
- 子宮外妊娠破裂
- 子宮付属器炎
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下腹部 |
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左腸骨 窩部 |
- 急性腸炎
- 左尿管結石
- 虚血性大腸炎
- 卵巣膿腫茎捻転
- 抗生物質起因性出血大腸炎
- 子宮付属器炎
- 子宮外妊娠破裂
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腹部全体 |
- 急性胃腸炎
- 汎発性腹膜炎
- 腹部大動脈瘤破裂
- 腸管膜血管閉塞
- 腸閉塞
- Henoch-Shonlein紫斑病
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[疝痛 Colic] =繰り返される間欠性の腹部痙攣痛
疝痛をきたす疾患
- 腸疝痛 colic of the intestine
急性腸炎 acute enteritis
腸閉塞 intestinal obstruction
- 胆石疝痛 biliary collic
- 腎性疝痛 renal colic
- 卵巣疝痛 ovarian colic
- 子宮疝痛 uterine colic
- 急性間欠性ポリフィリン症 intermittent acute pophuria :
AIP
- 鉛疝痛 lead colic
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- 典型的な疝痛発作は、間欠的な波状の痛みで、休止期を伴うことが多い。痛みが次第に強まった後、次第に弱まる「クレッシェンド・デクレッシェンド」を反復する。これがはっきりしているのは、腸の通過障害である。
- 胆石症の疝痛は普通速やかに最大になり、その後あまり変わらない。疝痛は痙攣性の持続痛になりがちである。
- 腎性疝痛でも「クレッシェンド・デクレッシェンド」がみられる。
- 腎盂・尿路結石の疝痛と胆石症の疝痛は、何秒、何分のうちに最大になる。
- 膵臓炎、胆嚢炎などの痛みは1時間あるいはそれ以上かかって最大になる。
- 虫垂炎や憩室炎の痛みはさらに遅れて最大になる。
- 腎盂・尿路結節の場合、患者は発作がいつ始まったかを正確に覚えていない。
- 虫垂炎の患者はある時間帯に起こったとしか覚えていない。
- 膵臓などの病変が後腹膜腔におよべば、仰臥位で寝ていると痛みが強まり、身体を前屈すると楽になる。
- 腹膜炎が発生すると、身体の動きが痛みを増悪させるので、患者はじっとこらえていて、咳や深呼吸を控える。
- 腎盂・尿管、胆道、腸などからの管腔臓器に通過障害がある場合は、どのような姿勢にしても、痛みが楽になる姿勢はない。脂汗を浮かべて呻吟し、七転八倒する。
- 疝痛に苦しむ患者は腹部を押さえる。
[通過障害による痛み]
- 鈍く疼く痛み、あるいは疝痛
- 輪状筋の強い収縮による痛み
- 収縮が強まって血流が阻害され、虚血に陥ると痛みが強くなる
- 腸の内容物を移送する蠕動運動は、反射活動である。
- 管腔が充満すると、遠位側(肛門側)では、輪状筋が弛緩し、縦走筋が収縮して管腔が拡がる。近位側では、輪状筋が収縮し、狭くなる
- 管腔の内容物が増加して、腸壁の伸展が増すと、輪状筋の収縮が強くなる。
- 腸にがんが浸潤して管腔が狭まると、内容物が蓄積して、管腔壁が伸展される。伸展された管腔壁が輪状筋と近位側の輪状筋が反射性に収縮する。しかし、通過障害があるため、伸展された管腔壁の輪状筋は収縮しても短縮できない。(=等尺性収縮)
- 収等尺性収縮によって大きな張力が発生して、管腔壁に分布する痛覚線維を刺激し、痛みを生じる。
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○前皮神経絞扼症候群 Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome (ACNES) Abdominal Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome (ACNES) ←→絞扼性末梢神経障害 参考1
○虫垂炎 appendicitis
- 虫垂は右下腹部にある盲腸から出ている細長い器官である。
- 何らかの原因で虫垂が閉塞し、内部で細菌が増殖して感染を起こした状態である。炎症が進行すると虫垂は壊死を起こして穿孔し、膿汁や腸液が腹腔内へ流れ出して腹膜炎を起こす。
- 重症化すると死に至ることもある。
[症状]
- 虫垂炎の痛み←→Morleyの腸膜皮膚反射説
最初の痛み | |
進行後の痛み | - 関連痛
壁側腹膜が侵され、痛みは病変に侵された虫垂に対応する部位に現れて、より表在性で、より局在が明瞭。
- 筋肉の固縮、圧痛、皮膚の痛覚過敏を伴う。
|
- 心窩部痛、下腹部痛(内臓痛)、発熱、悪心、嘔吐で発症。この時点の疼痛は、虫垂内圧の上昇による。
- 炎症が腹膜に及ぶと疼痛は右下腹部(体性痛)に限局する。
- 発熱:腹膜炎の併発で高熱となる。
- 圧痛:右下腹部に圧通を伴う。虫垂の位置によりMac Burney圧痛点か、Lanz圧痛点等やその周囲に最も強い圧痛を有する。また圧痛を加えるときよりはむしろ手を離すときに強い痛みを訴える反動痛(Blumberg sign)や、触診時に腹壁が硬直する筋性防御は、腹膜に炎症がおよんでいる所見であり重要である。そのほかに、左下腹部を圧すると右下腹部の痛みが増すRovsing徴候や、左側臥位で右下腹部の圧痛が増強するRosenstein徴候も、急性虫垂炎の診断に有用である。
圧痛:押して痛いこと。 ←→カーネット徴候/筋痛の圧痛/神経痛の圧痛(ヴァレーの圧痛点)
虫垂炎の圧痛点:McBurney点、Lanz点、Lenzmann点、Lothlissen点、Kummel点、Dietrich点、Mottis点、Clado点 |
McBurney点の圧痛 |
- 右前腸骨棘と臍とを結ぶ直線上で、右前腸骨棘から4〜5cmの間
- 虫垂炎のRosenstein徴候:仰臥位より左側臥位で強い。虫垂間膜緊張や、腹壁から虫垂への圧迫がしやすくなることによる。
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Lanz圧痛点 |
- 左右の前腸右骨棘を結ぶ直線上で、右前腸骨棘より1/3の点
- 虫垂炎
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小野寺の圧痛点 =上殿神経の圧痛点 |
- 急性虫垂炎では右下腹部圧痛、胃潰瘍はみずおちなどに圧痛が生じる。
- 小野寺直助先生(1883〜1968, 九州大学教授、久留米大学学長、消化器内科):小野寺式圧診法の創案者。体性内臓反射に着目して、体表上のさまざまな反射点を研究した。
- うつぶせに寝て、お尻がへこむところの2ヶ所を、左右の親指で強く押した時、ふくらはぎ付近に痛みが走れば、胃潰瘍か十二指腸潰瘍の可能性がある。
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胃潰瘍 | みぞおちなどに圧痛を感じる。
CVA叩打痛 CVA tenderness | - 腎盂腎炎などで、肋骨脊椎角 cost-vertebral angle:CVAに圧痛
- 腎盂の位置関係と尿の流れ:腎臓→腎盂→尿管→膀胱
- 腎臓の叩打診=側臥位または座位でCVAに平手をおいて、反対側の手拳の尺側面で優しく叩き、叩打痛の有無を診察する。平手をおかずに直接叩打しないこと。両側やること。
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[他覚所見]
- Rosenstein徴候: McBurney点の圧痛が、仰臥位より左側臥位で強い。虫垂間膜緊張や、腹壁から虫垂への圧迫がしやすくなることによる。
- Rovsing徴候: 左下腹部の圧迫で右下腹部に疼痛が生じる現象。腸管内のガスの回盲部への移動による。
- 腹部を圧迫してから急に手を離すと、筋性防御とBlumberg's sign(痛みが強くなる症状を反跳痛)徴候が出現する。
- ダグラス窩に膿が貯留すると、直腸指診で、圧痛や炎症性腫瘤を認める。
- psoas sign, obturator sign が陽性となる。
●機能性消化管障害 functional gastro-intentinal desorder: FGID
←→機能性身体症候群:FSS
機能性腹痛症候群:FAPS
┏機能性ディスペプシア:FD
┗過敏性腸症候群:IBS
- 明確な器質的変化によらない消化器症状が長期間持続もしくは再燃寛解を繰り返す疾患群。
- 腹部は慢性疼痛の後発部位である。機能性消化管障害の多くは、明確な器質的変化が見られないことが多く、「気のせい」・「病気ではない」との診断を下されることもあり、正確な診断が難しい。
- Rome基準は機能性消化管障害全体の診断基準であり、がんや潰瘍などの器質的疾患が症状の原因ではない疾患群を定義する。
1989年 | Rome criteria:世界の専門家がローマ会議において、機能性消化管障害の診断基準を「Rome I」として発表した。 |
1999年 | Rome IIとして、診断基準をA〜Gに分類し、2000年に本として出版された。 |
2006年 | Rome III 5月の米国消化器病週間において発表された。 |
- 機能性消化管障害では、脳腸相関 brain-gut interactionsが病態の中心をなす。
脳腸相関 Brain-gut interaction ←→腸内細菌叢
生理活性物質
- 脳と腸の両者の組織において、多くの共通の生理活性物質が作用する。
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神経−免疫相関
- 脳においては感染やさまざまなストレスによって単球由来のミクログリアやアストロサイトなどが種々の炎症性サイトカインを産生し、神経機能に影響している。
- ある種のサイトカインは神経成長因子または分化制御因子としての機能もはたしている。
- 消化管内腔は常に外界からの異物の直接的な侵入にさらされているため、免疫機能が高度に発達しており、免疫系細胞が多数分布している。
- 粘膜層には多数のマクロファージが存在し、粘膜バリアー機構の要として機能している。
|
脳 ↓ 腸 |
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腸 ↓ 脳 |
- 逆に腸からの信号が脳に伝わり、大脳辺縁系の情動に関係する領域が活性化され、精神的不安定さを増す。
- 消化管内腔の粘膜細胞が刺激されると、消化管壁内に存在する内在性感覚ニューロンがインパルスを発生する。
- 消化管で発生したインパルスは、迷走神経内の求心性線維を上行し、迷走神経下神経節:nodose ganglionを経由して、延髄孤束核に伝えられる。
- 消化管で発生したインパルスは、交感神経と共に走行する脊髄神経でも伝えられ、脊髄後角を経由して、視床、皮質へ伝えられる。 →内臓感覚
- 消化管の機械刺激と嫌悪感を誘発するストレスは共に、右側前部島皮質や前頭眼窩皮質を活性化させるという報告がある。
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- この悪循環が患者さんのQOLを低下・悪化させる要因になる。このような図式から、ストレス・脳・消化管という関係は脳腸相関と呼ばれている。
→IBSにおける脳腸相関
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○機能性腹痛症候群 functional abdominal pain syndrome:FAPS
- 概念:他の痛みを伴うFGID (FD, IBSなど)とは区別される特徴的な腹部に限局する慢性疼痛障害である。
- 他のFGID同様に、症状は現代の診断法による形態的あるいは代謝異常によって説明がつかない。
[FAPSのRome III criteria (Gastroenterogy 130-5) ↑]
B1 | 機能性腹痛症候群の診断基準*
機能性腹痛症候群では以下のすべての項目を満たしていなくてはいけない。
- 持続性あるいはほとんど持続しているといってもよい腹痛
- 痛みと生理現象(例えば接触、排便あるいは生理)との関連はないか、あったとしても時たま似すぎない。
- 日常機能のある程度の喪失
- 痛みは装れたもの(例えば、仮病)ではない。
- 痛みを説明しうる例の機能性消化管障害の基準に合致する症状を満たしていない。
*:診断される6ヶ月以上前に症状が発現し、診断前の3ヶ月間に対して基準を満たしていることが必要。
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○functional dyspepsia:FD=機能性ディスペプシア、機能性胃腸症、上部消化管機能障害 = non-ulcer dyspepsia:NUD ←→参考1
pepsis=消化(ギリシャ語)
dys-pepsia=上腹部愁訴
- 胃潰瘍などの器質的な疾患を認めないが、主として上腹部の正中に痛みや不快感、さらに膨満感、悪心嘔吐など上腹部消化管に由来すると考えられる症状が慢性的に持続する症候群
- NUDの疾患概念は、1987年の米国消化器病学会のworking partyのひとつにdyspepsiaが取り上げられて以来広まり、1990年にはFDという概念が生まれた。
- 従来、胃下垂、胃アトニー、神経性胃炎などと言われていた疾患。
- 心窩部痛、胃部不快感、心窩部膨満感、食後早期の満腹感、食欲低下、嘔気、嘔吐、胸やけなどの上部消化管症状(dyspepsia症状)を呈する。
ローマIII分類によるFD の定義
The presence of symptoms thought to originate in the gastroduodenal region, in the absence of any organic, systemic, or metabolic disease that is likely to explain the symptoms. |
ディスペプシアの症状Epigastric pain : 心窩部痛
Epigastric burning : 心窩部灼熱感
Postprandial fullness : 辛いと感じる食後のもたれ感
Early satiation : 早期飽満感
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B1. FDの診断基準
項目1のうちの1つ以上と、項目2の両者を満たさねばならない。
項目1 |
a. 辛いと感じる食後のもたれ感
b. 早期飽満感
c. 心窩部痛
d. 心窩部灼熱感 |
項目2 |
上部消化管内視鏡検査などにて症状を説明可能な器質的疾患がない
以上が、半年以上前からあり、少なくとも最近3ヶ月に上記診断基準を満たす | |
- 胃もたれなどのディペプシア症状に胃酸が関与している。←→上部消化管症状(uninvestigated dyspepsia)を訴える患者さんを対象とした臨床試験の結果を見ると、プロトンポンプ阻害薬PPIを中心とした酸分泌抑制薬は、胸焼けだけではなく胃もたれや胃痛などのディスペプシア症状に対して改善効果を示している。
- 胃酸が十二指腸に流入するとディペプシア症状を感じる。
ディスペプシア症状の発現機序- ストレスや食事刺激が酸分泌を誘発する。
- 過剰に分泌された胃酸が十二指腸に流れ込むと、膵液や胆汁酸などによる中和が間に合わなくなり、その信号が脳に到達すると、ディスペプシア症状を感じる。
- さらにストレスなどにより視床下部から分泌されたCRFが胃の蠕動運動を停止させる。
- 十二指腸への過剰な胃酸の流入も直接、胃を拡張脳の定価や蠕動運動の停止を引き起こす。
- もともとヒトの胃は食物を一時的にためておくリザーバー機能があるが、胃の拡張能の低下により食事による早期の放漫間などの不快症状を感じる。
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- 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021改訂第2版 機能性ディスペプシア(FD)の治療
一次治療:酸分泌抑制薬、消化管運動機能改善薬(アコチアミド)、漢方薬(六君子湯) |
二次治療:抗不安薬・抗うつ薬、消化管運動機能改善薬(アコチアミド以外)、漢方薬(六君子湯以外) |
- 漢方では、機能性ディスペプシアを、五臓の脾や肝と関係が深い疾患と捉えている。脾は消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成し、肝は体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを持ち自律神経系と関係が深い臓腑である。消化器系の機能をつかさどる脾や、自律神経系と深い関係にある肝の失調が、機能性ディスペプシアの根本にある、というのが漢方の考え方である。
○過敏性腸症候群 irritable bowel syndrome:IBS ←→慢性一次性疼痛/痛覚変調性疼痛/機能性身体症候群 FSS 参考1/2/3/4/5
- 基質的疾患を伴わず、腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢、便秘)が長時間持続し、悪化・改善を繰り返す機能性疾患
- ストレスをはじめとする種々の病因によって引き起こされ、脳腸相関により副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンなどによって惹起された腸管運動や腸管内圧の変化が中枢に影響を与え、ストレスの悪循環となると考えられている。
- 5HT3受容体を阻害することで、消化管運動亢進に伴う便通異常を改善する。 ←→ラモセトロン塩酸塩
機能性胃腸障害(Rome III分類より)
C 機能性腸障害(Functional bowel disorders) |
C1 過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome) |
C2 機能性腹部膨満(Functional bloating) |
C3 機能性便秘症(Functional constipation) |
C4 機能性下痢症(Functional diarrhea) |
C5 その他の機能性腸障害(Unspecified functional bowel disorder) |
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1871年 | Jacob Mendes Da Costa(P 1833/2/7〜1900/12/12, 南北戦争の従軍軍医)が、 南北戦争で戦う兵士たちの間で心臓神経症が多発することを報告した(irritable heart or DaCosta syndrome)。同時に、極端な消化器症状が出て前線に出られない兵士が続出した。粘液を伴う下痢があり、それらの症状と精神的因子との間に密接な関係、患者の直腸を調べても潰瘍などは見られないことを報告した。戦争を通して味わう「死の恐怖」が精神的な重圧になって、このような症状を起こしたと考えた。(DaCosta J. Membranous enteritis. Am J Med Sci 1871; 62:321-38.) |
1892年 | Sir William Osler(P 1849〜1919, アメリカ、内科医、医学教育者)が「Mucous colitis」と記載した。 |
1915年 | Walter Bradford Cannon(P 1871〜1945, アメリカの生理学者、William Jamesの弟子)は、動物の恐怖に対する反応としてfight or flight responseを定義した。情動が消化管活動を変化させることも観察した。 |
1929年 | S. Jordanが「過敏性大腸 irritable colon」として報告した。 |
| Henry Bockus(1894〜1982,元ペンシルバニア大学消化器科教授)の消化器病学の教科書でirritable colonが大々的に取り上げられた。 |
1936年 | Hans Selye(P 1907〜1982, ハンガリー出身のカナダの病理学者、生理学者)は、有害な因子によって体に生じた歪みと、それに対する防衛(適応)反応を「生体内の歪みの状態」、すなわちストレスと呼び、「汎(一般)適応症候群」を提唱した。 |
1973年 | James RitchieがIBS患者と健康被検者の大腸に挿入したバルーンを膨らませて、腹痛を自覚する閾値を調べた。IBS患者の方が腹痛を引き起こす閾値が低いという報告をしたが、あまり注目されなかった。[Ritchie, James. Pain from distension of the pelvic colon by inflating a balloon in the irritable colon syndrome . Gut. 1973 Feb;14(2):125–132.PubMed] |
1980年 1985年 | William E. Whitehead(North Carolina大学)が再試をし、IBS患者の大腸の感覚閾値が低下していることが広く認識された[Whitehead WF, Engel BT, Schuster MM: Irritable bowel syndrome: Physiological and psychological differences between diarrhea-predominant and constipation-predominant patients. Dig Dis Sci 25:404–413, 1980.PubMed][Whitehead, W. E., & Schuster, M. M. (1985).Gastrointestinal disorders: Behavioral and physiological basis for treatment. New York: Academic Press.] |
1990年代 | barostatが開発された。 |
- 以前は、過敏性大腸症候群 irritable colon syndromeと呼ばれていたが、近年では大腸のみならず小腸をはじめ、上部消化管をも含めた消化管全体の機能異常による症候群と捉えられるようになり、IBSの呼称が一般化してきた。
- IBSは消化器診療の中でもっとも多い疾患である。主要文明国でのIBSの有病率は概ね一般人口の10-15%、1年間の罹患率は1-2%と概算される。QOLが障害されることで、その経済的損失も無視できない規模に生ずる。
- 腹痛と便通異常を主体とする消化器症状が持続する。
- その原因としての器質的疾患を同定し得ない、機能性消化管障害の原型となる障害である。心身症の病態を呈する。
- IBSの病態は、消化管の運動異常・感覚過敏、さらに脳腸相関による修飾の結果、形成される。
- IBSは食事や腸内のガスの移動などによって悪化するが、最も明らかな増悪因子は心身のストレス。
- 明らかな器質的疾患を同定し得ないが、消化管への感覚刺激(おもに腸管の伸展刺激)に対する過敏性も認められる場合がある。
・「シコふんじゃった」の竹中直人さんの演じる青木富夫
・安部総理は???
[IBSのRome III ↑診断基準]
- 腹痛あるいは腹部不快感が、最近3ヵ月の中の1ヵ月につき少なくとも3日以上を占め下記の2項目以上の特徴を示す。
■腹痛あるいは腹部不快感が
■最近3ヶ月の中の1ヶ月に月少なくとも3日以上を占め
- 排便によって改善する
- 排便頻度の変化で始まる
- 便形状(外観)の変化で始まる
|
- 少なくとも診断の6ヶ月以上前に症状が出現し、最近3ヶ月は基準を満たす必要がある。
- 腹部不快感とは、腹痛とは言えない不愉快な感覚を刺す。病態生理研究や臨床研究では、腹痛あるいは腹部不快感が1週間に月少なくとも2日以上を占めるものが対象として望ましい。
[IBSのRome II 診断基準]
■腹痛あるいは腹部不快感が
■12ヶ月の中の連休とは限らない12週間を占め
■腹痛あるいは腹部不快感が
■書きの2項目以上の特徴を示す
- 排便によって経快する
- 排便頻度の変化で始まる
- 便性状の変化で始まる
| - Rome II↑においては、IBSは「腹痛あるいは腹部不快感」が12ヶ月の中の連続とは限らない12週間以上を占める。
- 腹痛あるいは腹部不快感が、1. 排便によって軽快する、2. 排便頻度の変化で始まる、3. 便性状の変化で始まる、の3つの便通異常の2つ以上の症状を伴うもの」と定義されている。
[IBSの指示症状(Rome II)]
△1. 排便回数<3回/週
▼2. 排便回数>3回/日
△3. 硬便 or 兎糞状便
▼4. 軟便 or 水様便
△5. 排便困難(排便時の力み)
▼6. 便意切迫(急激な便意)
7. 残便感 8. 粘液の排出
8. 粘液の排出
9. 腹部膨満感、腹部膨満、腹部膨隆
▼下痢型:2,4,6の1つ以上 + 1,3,5なし
△便秘型:1,3,5の1つ以上 + 2,4,6なし |
- Rome II↑の定義からは除外されたが、診断を補強する症状は、1週間に3回未満の排便回数、硬便/兎糞状便、もしくは排便困難で定義づけられる便秘、1日に3回より多い排便回数、軟便/水様便、もしくは便意切迫で定義づけられる下痢、残便感、粘液の排出、腹部膨満感、腹部膨満、腹部膨隆、である。
|
|
[典型的な症状]
- IBS患者を悩ませる一番の症状は、腹痛と、それに伴う情動である。
- 下腹部やみぞおちの痛みを伴った下痢やおよび便秘。排便によって軽快する。
- 便通異常には、下痢型・便秘型(下痢または便秘のみが持続するもの)と交代型(便秘と下痢をくり返すもの)とがある。
- 大腸の症状以外に、心窩部痛、食後膨満感、悪心、嘔吐、食欲不振、胸焼け、季肋部痛、背部痛などの症状を訴えることも稀でない。
季肋部痛 hypochondralgia, hypochondriac pain
季肋部 hypochondrium, hypochondriac region ←→胸脇
- 上腹部(hypo-:「下」、chondro-:「軟骨」という意味)
- 肋骨の下の部分 季肋の「季」は「末」を意味する。
- 医学が発達していない頃、「原因がはっきりしない病気」の病巣がhypochondrium であると信じられていたことから、「自分が病気であると思い込んで沈んだ気分になる」ことを英語でhypochondriasis(心気症)と呼んでいる。
|
- 頭痛、頭重感、めまい、動機、頻尿、月経障害、筋痛、四肢末端の冷感、易疲労感などの多彩な身体症状を呈する。
- 抑鬱感、不安感、緊張感、不眠、焦燥感、意欲低下、心気傾向、欲求不満などの精神症状を持つ。
- 飲酒や不規則な生活、心身の緊張などで増悪しやすい。
- 通常睡眠中は症状は認めらない。週末などには症状が起こりにくい例が多い。
- 症状がひどい場合には、止痢剤や下剤を濫用したり、トイレへ行きにくい状況を回避するようになり、不登校などの行動上の問題をきたす場合がある。
運動異常
- 基本的には腸管運動の異常に基づく状態である。
- 通常、消化管には各部位ごとに規則的な蠕動運動が認められるが、患者さんの多くで食道から直腸にいたるまでさまざまな運動異常がみられる。
タイプ | | 硬便または兎糞状便 | 軟便または水様便 |
Bristol便形状尺度 | 1, 2型 | 6, 7型 |
便秘型IBS (IBS-C) |
- 便秘 constipationを主とするタイプ。
- 食後も正常な蠕動運動が発生せず、遠位結腸を中心に部分的なれん縮が誘発される。
- 便秘型は女性に多い傾向がある。↓
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25%以上 | 25%未満 |
下痢型IBS (IBS-D) | - 下痢 diarrheaを主とするタイプ。
- 過度な蠕動運動が誘発されやすい状態にある。
- 軟便または水様便が便形状の25%以上、かつ、硬便または兎糞状便が便形状(=)の25%未満
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25%未満 | 25%未満以上 |
混合型IBS (IBS-M) |
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25%以上 | 25%以上 |
分類不能型IBS |
- 便形状の異常が不十分であってIBS-C, IBS-D, IBS-Mのいずれでもない(止瀉薬、下剤を用いないときの糞便で評価)
| 異常が不十分 | 異常が不十分 |
[Bristol便形状尺度]
1型 分離した硬い木の実のような便(排便困難を伴う)
2型 硬便が集合したソーセージ状の便
3型 表面にひび割れがあるソーセージ状の便
4型 平滑で柔らかいソーセージ状あるいは蛇状の便
5型 柔らかく割面が鋭い小塊状の便(排便が容易)
6型 ふわふわした不定形の小片便、泥状便
7型 固形物を含まない水様便
- 腸管の蠕動運動反射には、腸管内圧が大きく関与していて、腸管内圧の上昇が便秘の治療に有効である。
- IBSにおける腸管運動異常にcorticototropin-relating hormone:CRFや種々の消化管ホルモンの関与も推定されている。
- 岐阜大の志水泰武教授らは排便の調節機序における性差(女性に便秘が多く、男性に下痢が多い)原因のメカニズムを解明した。 参考1/2
- 侵害刺激(結腸へのカプサイシン投与)が下行性疼痛抑制経路を通して供給される神経伝達物質に性差があることが確認された。
- オスではドーパミンやセロトニンの働きで大腸の運動が促進されるが、メスではドーパミンが働かず、セロトニンとGABAが働き、大腸の運動が促進されない。
- IBSではGABAの作用がセロトニンの作用を打ち消して便秘を誘発するので、女性のIBSでは便秘型が多いと示唆された。
- 出産の痛みに耐えられるように、卵巣ホルモンによってGABAの働きが強化されていると推察される。
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消化管の感覚過敏 visceral hypersensitivity ←→感覚過敏
- IBSの患者では、種々の刺激に対する消化管の感覚過敏が認められる。
- 腸管の過敏性と過剰反応性がIBSの病態を構成する重要な因子となる。
- IBS患者の腸管は、健常者に比べて痛み刺激に対する閾値が低い。
- 腸管から中枢神経系へ伝達された痛み刺激の処理にされ方に異常がある。
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脳腸相関 Brain-gut interaction↑
- IBS患者では、脳腸相関反応が増大している。
- IBSにおける諸症状は、一般に精神的ストレスによって増悪する。
- 腸の機能は筋間神経叢を中心とする腸神経系(ENS) によって制御される。
- 脳腸相関の伝達物質としてCRFが重要であり、液性調節や自律神経系(ANS)の支配も受ける。
- これらによって惹起された腸管運動や腸管内圧の変化が、求心性の迷走神経路を介して延髄弧束核に伝達され、種々の腹部症状が認識される。
- この症状の発生がストレス源となって、さらにストレスの悪循環が将来されるものと考えられる。
東北大学の福土先生らの研究 ←→内臓感覚←1/2
----ストレス時に痛みを感じるのは、気のせいではなく、実際に消化管が敏感に反応している。
- 脳が消化管をコントロールするのではなく、消化管が脳をコントロールしている!
- 情動ストレスあるいは中枢興奮による副交感神経興奮を模するneostigmine( cholinesterase 阻害薬)を負荷すると、大腸の分節運動が亢進する。
- IBSは小腸運動も異常であり、その異常は脳の覚醒レベルの影響を受け、大腸拡張刺激に対する消化管感覚閾値が低く、振幅の大きい大脳誘発電位を示す。
- IBSではストレス関連物質CRF 負荷時のACTH放出と大腸運動亢進が過大である。
- IBSは高率に抑鬱と不安を呈するが、これらの心理的異常はCRFに関連している。
- 消化管腔刺激時の消化管の変化をバロスタットで、また、脳内変化を PETによるイメージング
- PETによるイメージングで、音と皮膚電気刺激を組み合わせた条件づけによる大腸運動の変化により、前帯状回、前頭前野、島の賦活化が誘発された。
- 内臓刺激により、視床、島、前帯状回、前頭前野が賦活化されたので、内臓からの感覚刺激とストレッサーは脳の身体感知領域を共有すると考えられる。
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消化管運動の研究
Barostat開発前---古典的な薄いゴム球を使った消化管内圧測定法
- 薄いゴム球には、容量を少し変えると内圧が激しく上昇し、消化管の微細な運動を正しく検出できないという弱点があった。
- このため、圧トランスデューサーで主に収縮運動を測る方法が長年採用されていた。
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Barostat法
- 1990年代にバロスタットBarostatが開発された。
- バロスタット法は、バロスタットバッグ(=ポリエチレンでできた薄いバッグ)を消化管に挿入して、被験者の感じている内臓感覚を直接測定する方法である。
- バロスタットバッグを腸や胃に挿入し、バッグの容量、圧力、コンプライアンスをコンピュータ制御下で観察する。
- バロスタット法の長所:一定の低圧を大腸に与えることにより、内腔を閉塞する収縮運動だけではなく、内腔を閉塞しない程度の軽い収縮運動、大腸壁緊張の変化、特に弛緩反応を検出できることである。
- バロスタット法がさらに優れている点は,バッグ内圧をさまざまな程度に変化させることで、消化管感覚を定量的に評価できることである。
- 腸の容量は、腸壁が緊張すれば低下し、腸壁が弛緩すれば上昇する。
- バロスタット法では、通常15分以上の基礎測定を行い、刺激を負荷して腸の容量の変化を観察する。
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●炎症性腸疾患 Inflammatory Bowel Disease:IBD
○クローン病 Crohn's disease:CD 参考1/2/3/4/
1904年 | Antoni Lesniowski(ワルシャワの外科医)が症例を報告した。 |
1932年 | Burrill Bernard Crohn(P 1884/7/13〜1983/7/29, ニューヨークの消化器内科医)と共同研究者のLeon GinzburgとGordon Oppenheimerがクローン病(終末回腸炎、限局性回腸炎 terminal ileitis)として症例を報告した。 |
- 主として若年者にみられるIBD
- 主として口腔から肛門までの消化管全域に、非連続性の炎症および潰瘍を起こす原因不明の厚生労働省指定の特定疾患。
- それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じる。
- 現在は遺伝的な素因を持ち、免疫系の異常(主としてマクロファージがTNFαを分泌して腸壁の正常細胞を傷害すること)と食餌因子などの環境的な因子が関係している可能性が示唆されている。
[症状]
- 症状は個人差が大きく、以下の症状が必ず発現するわけではない。
- 病変は消化管全域に起こりうるため、その症状は多岐にわたり、それらが断続的にみられることがある。
- 病変部位別
小腸型 | 小腸のみに病変がある。 |
大腸型 | 大腸のみに病変がある。 |
小腸・大腸型 | 小腸と大腸両方に病変がある。小腸・大腸型が多くを占めている。
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- 病変タイプ別
- 「狭窄型」と「穿孔型」に分類される。
- 穿孔型のほうが重症であることが多い。
- 重症例と軽症例では症状が大きく異なり、また炎症が激しい活動期(増悪期)では症状も激しく、炎症の落ち着いた緩解期では症状も落ち着く。
- ただし狭窄、穿孔や瘻孔は非可逆性の病変であるため、必ずしも緩解期に症状が無くなるわけではない。
腹痛 |
- 炎症やそれを繰り返すことによって起こる狭窄、また潰瘍によって高率でみられる。
- 重症例では腸閉塞、膿瘍、瘻孔や穿孔をきたすことがあるので重要な主訴のひとつであるといえる。
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下痢 |
- 一日に数回以上の下痢をきたす場合があり、QOLを損なうこともある。
- かなり高率でみられるが、小腸型の患者や場合によっては便秘をきたすこともある点に留意すべきである。
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体重減少 |
- 栄養素の吸収を役目とする小腸に病変が起こるため、特に小腸型では栄養不良によって体重の減少がみられることが多い。
- 若年層に高発するため、成長が阻害される恐れがある。
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その他 |
- 発熱や全身倦怠感といった症状も多い。また上部消化管に病変のある場合は下血が、下部消化管に病変のある場合では血便がみられることがある。その場合貧血をおこしていることもある。
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合併症 |
- 肛門部病変はかなり多くにみられ、難治性の痔ろうや裂肛から本疾患が判明する例もある。
- 他に関節炎、虹彩炎、壊疽性膿皮症や結節性紅斑などの腸管外合併症を伴うことがある。
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○潰瘍性大腸炎 Ulcerative colitis:UC 参考2/2
- 潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる原因不明の疾患。
- クローン病とともに炎症性腸疾患 IBDに分類される。1973年に厚生省の特定疾患に指定された。
- 特徴的な症状としては、下血を伴うまたは伴わない下痢とよく起こる腹痛。
- 病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がる。
- 病変の拡がりや経過などにより下記のように分類される。
病変の拡がりによる分類 | 全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎 |
病期の分類 | 活動期、緩解期 |
重症度による分類 | 軽症、中等症、重症、激症 |
臨床経過による分類 | 再燃緩解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型 |
[症状]
- 最も一般的な症状は、粘血便、下痢、腹痛不快感で、頻回または急激な便意を伴うことがある。活動性の高い潰瘍性大腸炎の患者は1日6回以上排便、頻拍、発熱、貧血などの症状を示す。
- 若年者でこれらの症状をみた際には潰瘍性大腸炎を疑って精査する必要がある。
- 合併症として腸閉塞、腸管穿孔をおこして緊急手術が必要となる場合がある。
- また、潰瘍が深くなって固有筋層に及び、広い範囲の腸管神経叢が露出すると腸管の収縮機能が失われ、大腸の拡張をみるようになる。この状態が中毒性巨大結腸症であり、穿孔の危険もあるため腸管摘出が必要となる。
- 罹患中、治癒後とも大腸癌の合併頻度が高い。この大腸がんは未分化で浸潤性が強く、悪性度の高いことが多い。
○急性膵炎 acute pancreatitis
- 膵臓腺房細胞の障害によって、消化酵素が流出する、外分泌組織の急性炎症。
- 中高年の男性に好発する。ほとんどが自然治癒するが、多臓器不全(MOF)やDICなどの重篤な合併症を来たすことがある。特に感染や血腫を合併した場合は外科手術の適応となる。
- アルコールの乱用や胆石などが原因で起きる病気。
- 慢性膵炎の急性再燃も含まれる。また、膵がんの比較的初期段階にも、急性膵炎が発症することもある。
- 急性膵炎は、激しい疼痛・悪心嘔吐を伴う。上腹部激痛、背部・左肩に放散痛。
- 膵には浮腫・出血・壊死などが現れ、しばしば膵周囲に血性滲出液が貯留する。
浮腫性膵炎 Edematous pancreatitis、Oedematous pancreatitis
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壊死性膵炎 Necrotizing pancreatitis
- 膵臓や周囲に出血や壊死を起こし、急激に死に至ることがある。
- 膵壊死はびまん性または限局性に膵実質が非可逆的壊死に陥ったもので、典型例では膵周囲脂肪組織の壊死を伴う。
臨床的には造影CTで膵実質に明らかな造影不良域が認められるもの
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アルコール誘発性の急性膵炎 alcoholic pancreatitis
- 独立行政法人理化学研究所、理研の御子チームと英国・リバプール大学との共同研究で、アルコール誘発性の急性膵炎の発症初期にIP3受容体がかかわっていることを発見した。 参考
- 膵臓を構成する細胞内で消化酵素が異常に活性化すると、膵臓を部分的に消化してしまい、その損傷によって炎症を起こして、急性膵炎を発症させる。
- 膵臓内の酸素濃度が低下する際にアルコールと脂質を材料として脂肪酸エチルエステル(FAEE)が作られる。この時、FAEEは膵臓細胞内のカルシウム濃度を過剰に上昇させ、トリプシンなどの消化酵素を活性化させると考えられている。
- 膵炎発症のきっかけとなる細胞内のカルシウム濃度上昇の第一段階は、アルコールの刺激によって、細胞内のカルシウム貯蔵庫に貯蔵されているカルシウムが細胞質へと放出されることで始まります。
- 研究グループは、FAEE量が増大すると、カルシウムが特異的なカルシウム貯蔵庫から2型、3型IP3受容体を通って細胞質に放出されることを見いだした。
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軽症膵炎
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中等症
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重症膵炎
- 重症の場合全身の血圧が極端に低下し死亡することもある。
- 重症急性膵炎では膵臓だけではなく、肺、腎臓、肝臓、消化管などの重要臓器にも障害を起こしたり(多臓器不全)、重篤な感染症を合併し、10%ほどの方が亡くなられる重い病気で、「難病」に指定されている。
- 重症で:
1.筋性防御(+)
2.膵臓壊死
3.多臓器障害(multiple organ failure:MOF)を呈する。
- 重症化した臓器不全を合併すると30%が死亡する。
- 救急診断では、
- 苦痛に対する応急処置
- 膵炎の確定診断(膵酵素、画像診断)
- 膵炎治療(膵酵素外薬、補液)
- 重傷度判定と集中治療室管理 などが必要である。
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[急性膵炎の症状]
- 腹痛、背部痛(膵臓姿勢)
- 悪心、嘔吐
- 発熱
- 横断
- 腹水・胸水
- 腹部腫瘤
- 膵性脳症
- Cullen徴候、Grey Turner徴候
- 結節性効紅斑皮疹
| [急性膵炎の原因]
- アルコール ↑
- 胆石
- 膵損傷:外傷、手術
- 薬物:抗腫瘍薬(L-アスパラギナーゼなど)
副腎皮質ホルモン 利尿剤(フロセミドなど) 抗痙攣薬(バルプロ酸ナトリウム) ルファ剤サ(サラゾスフファピミジンなど)
- 毒物・毒素:有機リン、サルモネラ中毒など
- 代謝異常:副甲状腺機能亢進症、高脂血症
- 膵液流出障害:腫瘤、回虫迷入、Lemmel症候群、輸入脚症候群
- 家族性・発生異常:非癒合
- 感染:ウイルス(ムンブス、コクサッキー、サイトメガルウイルスなど)、マイコプラズマ
- 原因不明:特発性
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[急性膵炎の痛み]
- 急性膵炎の腹痛発作は背部へ放散するのが特徴である。
- 患者は痛みをこらえるために、前屈起坐位をとることが多い(膵臓姿勢)。
- 膵は著しい圧痛を示し、抵抗や腫大を示す。
[急性膵炎の疼痛対策]
- 応急処置として、補液を開始するとともに、鎮痛薬と制吐薬を投与して患者の苦痛の緩和をはかりながら、平行して診断を進める。
鎮痛薬
○胆石症 cholelitiasis
- 胆石の種類:コレステロール結石、黒色石、ビリルビン結石などがある。
- 所在部位:胆嚢、総胆管、肝内
- 無症候性の胆石---胆嚢の中にできる胆石はそれだけではなんの症状もない。
- 胆石発作---胆石がOddi括約筋部を通過するときに生じる上腹部の疝痛を始め、発熱・黄疸などがみられる。
- 胆石発作の痛み
内臓痛 | 胆嚢の過緊張あるいは痙攣による。上腹部(みぞおち)や右上腹部(あばら骨の下)に差し込むような間欠的な痛み。この状態が長く続いたり、細菌感染が加わると胆嚢炎がおこってきます。 |
体性痛 | 胆嚢の過緊張などの状態が長く続いたり、細菌感染が加わると胆嚢炎が起こる。胆嚢の炎症が周囲の腹膜を刺激し、体性痛が生じる。右上腹部に限局した強い持続痛や右上腹部に圧痛が認められるようになる。 |
関連痛 | 右肩に痛み。 |
○尿路結石症 urolithiasis
- 結石が腎盂から尿管に移動した時に、尿管の正常な蠕動運動がそこなわれ、異常な攣縮状態で尿の流れが阻害され急激に腎盂内圧が上昇したために、側腹部にかけて疝痛とともに悪心、冷汗などの自律神経症状が起こる。
- 強烈な疝痛は、自然排石するような小結石のときに起こりやすく、一方、大きい結石の場合は、鈍痛あるいは無症状で、自覚しないうちに腎機能障害が進行することがある。
- 脱水、副甲状腺機能亢進症、痛風、シスチン尿症あるいは慢性尿路感染などがあると発症しやすい。
○急性間欠性ポルフィリン症 acute intermittent porphyria:AIP
- 急性間欠性ポルフィリン症は、ヘムの合成経路に作用するウロポルフィリノーゲン1シンターゼその遺伝子的欠損によるもので、他のポルフィリン症でみられる光線過敏症を伴わず、腹痛発作がみられる。
- 心窩部あるいは右下腹部あるいは腹部全体に感じる中等度あるいは激しい疝痛が最も顕著な症状である。
- 発作時に便秘、腹部膨満感、嘔吐がみられる。
- ニューロパシーを伴うこともある。
- 発作は間欠的で、数日から数ヶ月間続いた後、発作が全くない間欠期に入る。
- 20〜40歳に多発し、女性に多い(男:女比 2:3)。
- 成人に多い肝性ポルフィリン症と、小児に多い骨髄性ポルフィリン症とがあるが、急性間欠性ポル
- フィリン症は肝性である。
- この疾患では、δアミノレプリン酸(δAKA)とホピニノーゲン(PBG)が体組織中に蓄積し、尿は特有のワイン色を呈する。
- これらの中間代謝産物が内臓神経に毒作用を及ぼして、腹痛を生じる。
- バルビタールなどの毒物やアルコールは、チトクロームP450の誘導合成の原因となる。そのためヘムを使い果たして、ヘムによるALAシンターゼの抑制が解除され、δAKAとPBGが蓄積して発作が促進される。
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