先日NHKのラジオ深夜便だっかと思うが、ある解説者がとつとつと話をしていて聞いていると、「知識の深い人の話は面白い。広がりがあって引き込まれる。」という話をしていた。そこで思ったのが、以前このブログでも触れた谷口君のことである。彼の話はとても面白かった。蘊蓄が深いし、話が逸れてもそっちの方も深〜〜〜〜く話をしてくれる。彼の手記に百科事典を子供の頃読み漁ったということが書いてあった。その癖でなんでもとことん調べないと我慢ならないたちだったんだろう。
別に人から「話が面白い」と思われることが目標でも目的でもないが、医師として、教育者としては、話は深く知っておいた方が良い。ま、精度は少しくらい間違ってもそこはお愛嬌。
先日5年生のClinical clerkshipで総括をした。総括では、それぞれが読んできた論文の内容について話をしてもらい、それに続いて、関連のある事を、深く?また広く掘り下げるという事をしようと心掛けている。
例えば、学生の一人が虚血疾患のある患者で抗血小板剤を服用している人に脳出血が起こった場合、抗血小板剤を1日中止した後に再開するか?止めておくか?という英国で行われたRESTARTという論文を読んできた。結果は抗血小板剤を再開しても再出血のリスクは増加せず、また虚血性の発作も変わらなかったというもので、抗血小板剤は虚血性疾患2次予防薬として有用性が証明されているので、抗血小板剤は脳内出血が落ち着いてたら再開すべき。という論文である。
さて、その事で、日本ではどんな抗血小板剤がある?と聞くと。全く出てこない。。4人のうち一人がアスピリンと答えた。量は?―???
アスピリンは何の薬? ―――????
米国ではオーバーザカウンターで購入できる頭痛薬(解熱・鎮痛薬)だということ。300錠くらい入って10ドルくらいの安いお薬だという話をする。それですこしは印象に残ってくれたかなと思う。
アスピリンの作用には抗血小板としての作用と抗炎症薬としての作用があり、抗血小板の機能は100mgで良いので、バイアスピリンという100mgの処方薬ができていてそれを使っている。一方で脳動脈瘤のある人にアスピリンを飲ませると、出血を助長するよりも出血を防ぐ効果があるらしい。それはCOX阻害による抗炎症作用によるもので、そのために330mを飲まないといけないらしい。という話を(これはこの手の論文をよく書いているIOWA大学のD Hasanという友人から聞いた話だが) 日本人はアスピリンを使った臨床試験をすると数%に輸血を必要とする様な消化管出血をきたす場合があるので、日本ではなかなか上記の様な脳動脈瘤出血予防の研究はできないんだ。という話をする。ついでに現在はバイアスピリンと胃のお薬を合剤にしたタケルダという薬まででているくらい。という話もする。その他にクロピドドクレルという薬剤もある。これは日本人では抗血小板効果が少ない人が25%くらいいる(ちょっと記憶が不正確)ので、薬が効いていないことがあるので要注意。などという話をする。
加えて、ではアスピリンなど抗血小板剤を飲んでいる人が消化管の内視鏡手術をすることになったんだけどどれくらい前に止めるの? と聞くと、、、?? 5日くらいとさっきアスピリンと答えた学生。◯もうちょっと長く7日くらいの方が良いかな。
なんでそんな期間??―――????
抗血小板剤の薬理の知識が必要で、アスピリンもクロピドクレルも血小板の凝集能に関わる酵素に不可逆的に作用するので、一度投与されると血小板の寿命(7日程度)の期間、効果があることになる。という話をする。巨細胞が止血に十分な新しい血小板を作ってくれるまで待てば、手術は可能になるという話をする。
もしずぐに治療しないといけない場合は何か薬ある?――――???
血小板輸血だね。。
皆さんも復習が必要であれば下記のサイトなどが役立ちます。
ちなみに皆さんは抗血小板剤がなぜ心房細動の血栓形成にはあまり効果がないのか?椎骨脳底動脈系の虚血には抗凝固剤が用いられるのかご存知ですか?
それは血小板の作用を知っていれば答えられます。血小板は流れの早い流域での血栓を構築する作用がある。だから抗血小板剤は流れの早い部位での血栓形成を抑制する。流れの遅い心房細動の心房や椎骨動脈領域では抗凝固剤の方が効果が高いのです。
先日の合同カンファランスでは話を抗凝固薬の作用や、服用者の手術時の対応まで話を広げた。ワーファリンとDOACの違いと、対応の違いも。
一方でこのイギリスの研究での話に合わせてであるが、日本人と欧米人の止血機能の違いについて話をした。日本人の手術ではよく出血するが、欧米人は皮膚を切ってもほとんど血が出ない。
青魚をよく食べる日本人はもともと血が固まりにくい。一方で肉ばかり食べている欧米人は本当に出血しない。これは私の米国留学の経験に基づく経験の話だが、未確定情報として下記の様な話もする。
日本人は、昔から農耕民族で、冬はじっとしているし、たんぼとかで怪我もする。そうしたら血が固まりにくい人の方が、生き残りやすかった。一方で欧米人は狩猟民族で、よく獣に噛まれたり、頭に斧が刺さったり?するので血が固まり易い方が生き残ったんだ!と思う。。。など。
この祖先の生業の話はあながち ガセではなくて、狩猟民族と農耕民族の差は歴然である。米国ワシントンでよく地下鉄で通勤していた時に本当に驚いたことに。地下鉄で居眠りしているのは東洋人(特に日本人)だけである。なぜわかるかというと、髪の毛に寝癖がある。一方で欧米人というのは全く居眠りをしない。なぜかって? 欧米の社会では居眠りすると寝首をかかれるからさ。って考えている。日本人は人前でもそんなに緊張せず居眠りもできる。昔からムラで生き、周りは安全な人が多い環境で生きてきた。欧米人は違う。ということだ。日本には「果報は寝て待て!」なんということわざもあるくらいで。これは欧米人には通じないコンセプトだ。
寝癖についても1つ。欧米人に寝癖のある人は趙少ない。最近は日本人も1980年代頃からの朝シャンプーの宣伝のおかげで朝シャワーや風呂に入ってくる人も多いと思う。特にJKや若い女性では朝のシャンプーは普通かな。。(セクハラではありません) 会津の民謡の大原庄助さんの歌にある様に、日本では旧来「朝湯」は贅沢の極みだった。一方で、Mayo Clinicの手術場で雑談をしている時、私はあんまり朝シャワーは浴びない。って話をしたら。急に看護師たちが、『Ui~~~~I yak』って言って私から少し距離を置く様になった。Yakっていうのは、本当に汚いもの・嫌なものを見た時に発する言葉である。欧米人は体臭がきついので、朝シャワーを浴びるのがエチケットなのだ。日本人は体臭が強くないんだよ、、って言ってもわかってくれなそうなので、それからは零下30度の冬でも朝シャワーを浴びてから病院に行く様にした。なので寝癖は少なくなった。。。髪の毛は凍るが。
ついでに。欧米人にとって汗(Sweat)というのは糞便に近い汚いものという印象がある。そこでポカリスエットは、、すごく喜ばれる欧米へのお土産になる(わけがない)。日本人は汗を飲むのか??ってものすごい形相で聞かれたことがある。ちなみに韓国や中国ではPocariSweatは普通に売っている。大塚は韓国では大きなシェアを持っている。東洋人には「汗」という印象は近いのかもしれません。“手に汗して”、とか頑張っている印象に使われることが多いですね。
とまあ話は飛びましたが、医学教育は、非常に狭い表面的な知識偏重になっていて、今なぜ??とか話を深めない。臨床のことが、生理や薬理と切り離されてしまっている感がある。物事には全てその奥があり、突き詰めてゆくと、どんどん奥があって、生活文化や人類の話にまでつながる。
私自身谷口君に比較すると知識が浅い方だが、何とか深めて、自分がこれまで経験してきた事を、本当の事実とてらし合わせて、検証してゆこうと思う。
今、自分は日本経済新聞に凝っていて、毎日きりはりしているのを医局の先生方は知っていると思うが、本当に深い知識が満載で、朝刊夕刊合わせるととても1日で吸収できる以上の知識に溢れている。夏目漱石の千駄木の家、西方の家の描写もすごくて、千駄木に家はこの日医の橘桜会館のところにあったし「吾輩は猫である」と「坊ちゃん」はその家で書かれたという事だから、なにか感慨深い。
医学教育や皆さんの知識についても、学生にも研修医にも、専門医受験の先生にも、なるべく深い知識。「なぜ?」、「どうして?」 まで訊いて、教えてあげましょう。そのためには、自分たちも知識を深くしないといけないのは当たり前ですが。。
いつも「なぜ?」を自問していることが重要なのかなと思います。
欧米人に会うときは、朝シャワー浴びて行きましょうね。汗シートでごまかさず。。