森田明夫のやってきたこと 1982〜2023

脳を透視する

(今回のお話しは一般向けではなく、若手脳神経外科医・研修医向けです)

先日久しぶりに感銘する講演を聴いた。と言っては他の先生には失礼だが、この年になるとなかなか学会の講演を聴いても、これは勉強になったな、、という吸収力の欠如の問題なのか、感動力が薄れているのか?という状況である。でも座長とかしているといくらでも質問はでてくる。座長としてはいつもどちらかというと率直な気持ちで聞きたいことを聞いているというのが常である。多分同じ様に聴衆も聞いているだろうし、敢えて聞かないでいる人も多いだろうからである。

 

さて件の講演であるが、先日Web開催されたCNTT2021の1日目の第二会場ランチョンで旭川医科大学教授に昨年就任した木下学先生の「グリオーマ手術の道理とコツ」という講演である。その中で印象的だったことがいくつもあるのだが、

特に「脳を透視する」という言葉が多用されていた。

手術開始前の患者さんの頭部には、その下にあるべき脳(脳溝や脳回部分まで)や腫瘍、さらにそれを3次元的な視点で描かれている。それをもとに手術プランを立てるわけである。当然ナビなども用いているのであるが、まずは頭蓋骨のランドマークから内部を透視するわけである。

大体みなさんは、中心溝の頂点(通常Superior Rolandic Pointと呼ぶ)がどこにあるか位のランドマークは、認定医試験でよく聞かれるので指し示すことができると思うが、Anterior sylvian pointがどの辺で中心溝をそのまま進めてSylvian fissureと交わるInferior Rolandic pointがどこで、MRI AXIAL 像で中心溝同定に用いられる逆Ωサインで有名なSuperior Frontal SulcusとPrecentral sulcusの交点(中心前回でHand領域であるHand-knobの前方)の位置を頭皮上から指すことができるだろうか?そんなことを安易としてのける。

またMCAが想定されるシルビウス裂よりも下方にあることをきちっと想像すべきこと。それとM1の位置の関係。三角部の内側(正確にはInsular prominenceの前方を進むと)は必ず側脳室前角に当たるはずなので、三角部の腫瘍では脳室まで到達することが当たり前の様な話。

当たり前の教科書的知識と論文等からの知識と、日頃の日常の手術からえた感覚・知識を統合した、解剖の重要性をしてきした点が、凄かった。解剖のところ録画があったらもういちど聞きたいし、もし若い人がききのがしていたら是非聞いて欲しいものである。

手術の技術もユニークだった。まずビデオは編集なしの全ビデオをタイム記録つきで流す。マイクロはあまり使わない、、、?ということもあってか、ものすごく早い。ほぼ50分もかからず腫瘍摘出を終えている。脳表をawakeでしっかり刺激して何も起こらなければ、しっかりと退路を断つつもりで凝固する。その硬くなった脳表を持ち手にしてGyrectomyを行っていく。血管はまずは全て残して、その中でPassingか腫瘍血管かを見極めてゆく。白質の吸引はむしろ非常に丁寧で、刺激を多用しながら、深部のfunctionalな繊維を損傷しない様にしていた。きれいなマイクロ下の手術とは一線を画すが、どちらかというと、実質的な手術が好きな私は大好きな手術であった。でも、多分Orbeyeとかのexoscopeを使うと、マクロ感覚でマイクロ手術もできるのでより一層良いのかなとも思ったが。。

そして、当然チャットに質問したのだが、、

「本日の解剖の部分の情報は、どうやったら手に入るか?先生が教科書を書かれてもいるか?その他はないのか?」

Neurosurgery FocusのRibas先生の論文とRhoton先生のanatomy教科書の最初の脳表解剖のところからのパクリです。という答えだった。Ribas先生の論文はあまり存じあげなかったのだが、非常にたくさんJNSやNeurosurgery他に掲載されている。是非皆さんそれぞれダウンロードして勉強して欲しい。[

Ribas & Microanatomy,] とかでPubMedで引けばすぐに出てくる。

特にFronto-temporalの3つの重要なポイントと脳・深部構造との関係、さらにFrontal, Parietal, Temporal, Occipitalの重要なランドマークは覚えておくと、多分将来の手術感覚が非常に高まる。

しっかり参考にして欲しい。

 

実は木下先生とはFB友で、messengerで感動をお伝えしたら、その他にもいろいろな情報をくれ、彼がまとめて机の前に貼っているRibas先生のanatomy図、講義のビデオなどもいただいた。ありがたい話である。FB友も、なんかオレ・オレ!みたいなことばかり書く先生もおいでだが、木下先生たるや、旭川に赴任して(多分単身赴任)作っているフランス料理などをFBにあげている。すごい料理の腕である。(写真も添付)

自分も料理がやや得意なのを何度もこのブログに書いているが、(自分の手術がどうこうというわけではないが)、料理は物事の手順の建て方、流れの予想の仕方、化学反応の予想、道具の使い方など、手術のアイデアや技術を作るのにとても役に立つ。

 

さて以下は彼の話とそのごRibas先生の論文を少し読んで、まとめようとしたものである。Nasion-Inionの中点から2cm後方(またはBregmaから後方に5cm:こちらの方が簡便)にUpper Rolandic Pointがある。これはCentral sulcusの頂点である。さらにInferior Rolandic PointはSquamous sutureの最も高いところ、または耳介前部のPreauricular depressionから上に4cmのところにある。central sulcusの下はUにシルビウスの上壁を作るわけだが、その場所を示すことができる。それをもとにした中心溝の位置を示すことができる。すなわちBregmaから5cm後方と耳介前部のdepressionから4cm上を結ぶ線が中心溝となる。写真にRibas先生が講義中に自分の中心溝はこの辺と指しているところを掲載する。その辺に怪我をすると大変なことになるというわけである。

次にシルビウス裂の重要なランドマークとしてanterior sylvian pointがあり、ここはシルビウス裂が最も開いている部分であり、通常三角部の下方となる。三角部の後方はU型となったPars Opercularisがあり、必ずPrecentral sulcusがそのUの中心で終端する。Anterior Sylvian Pointは個人差があるが、広く開いていることが多くそこからシルビウ裂を開放してゆくことが多い。部位は通常Squamous sutureの前方部分(Anterior Squamous Point)にあって、ややPterionより後方となる。すなわちシルビウス裂の上にはV型の三角部の後ろ(V型になっている)に3つのUがあって最初はPars Opercularis(Precentral sulcusの下端のU)、次がInferior sylvian pointでCentral sulcusの下端のUと,

最後がPostcontral sulcusの下端のUとなり、後方にC型のSupramarginal gyrusが上側頭回とmergeすることになる。

またFront-temporal areaでもう1つ重要なランドマークとしてcoronal sutureとtemporal line の交点Stephanionの下少し後方にはinferior frontal sulcusとprecentral sulcusの交点があり、この直後のprecentral gyrusは顔面の動作部分となる。

さらに上に行くと、正中から3cm,Coronal suture 2cm後方に先ほどあげた逆Ωmの前方のSuperior frontal sulcusとprecentral sulcusの交点がある。この後方は手の領域となる。

後方に目をずらす。Lambda sutureとSagittal sutureの交点の下は何かというと、ほとんどの症例でParieto-occipital fissureの頂上となるという。側脳室Antrumの腫瘍へのInterparietal approachに重要なInterparietal sulcusとPostcentral sulcusの交点はlambdaの6cm上方、5cmh外側にあるとのことである。またSupramarginal gyrusは側頭部で最も尖って外側に出ているところEuryon(Mastoid tipの後方とsquamous-masutoid sutureの合流点を上に伸ばした部分にある)の下となるなるとのこと。すなわちSylvian fissureの末端を囲むSupramarginal gyrusの頂点がこのあたりになるということであり、そのすぐ下が角回となる。

また皆さんOpisthocranionをいう言葉をご存知か、、Inionの上、後頭部で最も出っ張ったあたりを指すらしい。私の絶壁頭ではよくわからないが、欧米人はよくわかるらしい。ここは後頭葉の頂部がおさまっているところで、すなわち直下にCalcarine fissureがある。

皆さん自分の頭を触りまわして、その下に何があるか(前頭葉とか側頭葉とかではなく、◯◯sulcusとか、△△gyrusとか)、さらにどの手術でどこをどう掘れば脳室のどのあたりに出るとか、想像してみてください。

 

取り止めのない話ですが、皆さん 脳を透視できる様に、そしてそれを元に手術のプランを立てられる様に、しっかりと解剖と料理を学びましょう。

 

参考文献:

1: Ribas GC. The cerebral sulci and gyri. Neurosurg Focus. 2010 Feb;28(2):E2. doi: 10.3171/2009.11.FOCUS09245. PMID: 20121437.

 

2: Ribas GC, Ribas EC, Rodrigues CJ. The anterior sylvian point and the suprasylvian operculum. Neurosurg Focus. 2005 Jun 15;18(6B):E2. PMID: 16048297.

 

3: Ribas GC, Yasuda A, Ribas EC, Nishikuni K, Rodrigues AJ Jr. Surgical anatomy of microneurosurgical sulcal key points. Neurosurgery. 2006 Oct;59(4 Suppl2):ONS177-210; discussion ONS210-1. doi: 10.1227/01.NEU.0000240682.28616.b2. PMID: 17041489.

 

4.Rhoton AL: Cranial Anatomy and Surgical Approaches. Neurosurgery 2003, Lippincott Williams & Wiklkins

木下先生料理

       RIBAS先生中心溝を示す

 

 

 

Ribas先生他の脳表ランドマークと脳溝・脳回の関連:まとめ

もともとなんで、このようなSulcusとsulcusの交点が同定したいか?というと、脳表では脳溝、脳回などなかなか同定しずらくても、脳溝と脳溝の交点は深く広くなっていることが多いので同定しやすい、ただし静脈が覆っていることがあるので注意とのことである。

中心溝

 

 

 

 

 

 

 

  

脳表とsulcus

 Sulcal landmark

 

 

1)Bregmaから5cm後方に中心溝上端(SRP: Superior Rolandic Point)

2)Squamous sutureの最上部に中心溝からシルビウスへ降りた交点(IRP: Inferior Rolandic Point) 耳前の凹みから4cm上方

3)Coronal suturetemporal lineの交点(Stephanion)はInferior frontal sulcus(IFS)precentral Sulcus(PreCS)の交点:顔面の機能の直前

4) Anterior squamous point (Petrionのやや後方): Anterior sylvian point (ASyP);Pars triangularisの下方でシルビウスがやや広い隙間になっているところ。Inferior Rolandic point(IRP)はこの2cm後ろ。

5) Bregmaの2cm後方、3cm側方:Superior frontal sulcus(SFS)とprecentral sulcus(PreCS)の交点:(Precentral gyrusのhand-knobにあたる逆Ωの直前) これより前がsupplementary motorで前で脳室に入れば体部に到達する

6)Euryon(側頭頭頂部の最も出っ張ったところ)の下はSupramargical gyrus(SMG) (シルビウス末端)

7) LambdaSagittal sutureの交点はParieto-occipital sulcus(POS), External occipital fissure(EOF)の上端

8)その上方6cm, 側方5cmは Interparietal sulcus(IPS)とPostcental sulcus (PostCS)の交点: この後方を分けてInterparitetal approachで脳室三角部に入れる。

9) Opisthoranion(OpCr) Inionの3-4cm上で後頭部の最も突出した部位):Calcarine sulcusの末端

10)Posterior superior temporal sulcus(Post STS)はSquamous-Mastoid suture meeting pointから3cm上方にある。Wernicke Ariaのマッピング、側脳室下角、三角部に側頭葉側からアプローチする場合に必要なランドマークとなる。

以上の10個のランドマークを覚えておきましょう。

 

vUUUC

シルビウス裂上壁のvUUUC:

  • Anterior sylvian pointの上にV型のPars Triangularis,その後方に3つのU
  • Pars opercularis of inferior frontal gyrus:必ずPrecental sulcusの下端が入り込んでU字になる。
  • Central sulcus下端のU PeakはInferior Rolandic Point,
  • Postcentral sulcus下端のU
  • その後方にSylvius裂の後端を囲むC; suporamarginal gyrusとSuperior temporal gyrusの交流がある。