皆さんの体調のバロメーターは何でしょうか?一日一日が今日も健康だ!と思う時、何が自分の健康度を示すでしょうか?
先日教室の若者に聞いたところ
「痛みがないこと」
「朝しっかり起きれること」
などという返事がありました。
私にとっては、ちょっと汚い話で申し訳ないですが、まずは「快便」であることです。
またしっかり歩けること。気持ちが鬱々としていないこと、などが重要です。
我々医療者は様々なストレスに晒されているわけですが、
多分
快便・快眠・心晴れ晴れ
などが良い指標で、そうでない時には、何かしらの改善方法が必要です。
私にとってそれは週末の散歩ですし、また時に漢方薬などに頼っています。大黄甘草湯や麻子仁丸、防風通聖散などは大黄が入っておい、大黄はセンノシドAというアントラキノン類生薬が入っており、腸内細菌の働きで強い瀉下作用を持つようになると言われており。下痢などの場合には瀉下作用を発揮しない便利な薬です。二日酔いの特効薬とも言われていますが、黄連の入った黄連解毒湯などは、イライラによく効きます。黄連の主成分はアルカロイド系のベルベリンですが、これは分子生物には弱い私でも聞いたことがあるNFκBを不活性化することで抗炎症作用を発揮すると言われています。
わたしの漢方の知識は、ツムラの医療者向けのサイトエッセンシャル漢方医学によりますが、陰陽五行説の話から気・水滞、瘀血、気虚など、薬剤の薬効、重要な副作用など、かなり詳しく解説していますので、参照してください。ツムラ、医療者、エッセンシャルで引けば辿りつけます。
主に日本の漢方薬は植物の根や実、皮などを用いているものが多い(中国では地龍(いわゆるミミズ)とか牛の胆石とかを入れているものもあります)ので、自然に浸っている感じがします。まあ食事の一環(当然ですが、漢方は食前服用です)のようなものです。
話を戻します。さて患者さんを一刻も早く正常の生活に戻してあげるには、やはり自分たちの体調管理と同様な観念に基づいて管理をすべきと考えています。これは私がMayo Clinicにいる時にSundt先生に教わったことでもあります。
毎朝7時から一緒に回診するわけですが、必ず聞かれるのは大便は出たか?でした。術翌日でも同じです。通常米国ではかなり大きな手術をした人でも(SAHや外傷以外)は2−3日で退院しますので、対応はSpeedyでなければなりません。欧米人は基本的に頭に矢が刺さっても逃げて来ないと生きて帰れない人類の歴史を抱えてきた人たちですから、頭の手術をされてもすぐ退院したがります。自ずと農耕に励んでいたアジア人とはちがうわけですが、それでも便通は大切です。
Sundt先生は1985年に多発性骨髄腫にかかっており、半年の命を宣告されていました。私が1st assistantをさせてもらったのは91年ですから、すでに5年以上延命していたわけです(残念ながら翌年亡くなりました)。文字通り命を削って診療するという姿でした。その先生が「便通」が大事というわけですから、それはご自身の経験も含めての深い知識だったのだと思います。米国ではタイレノール(アセトアミノフェン)の500mgを一回2Tくらい飲む(日本人の3倍)のが当たり前、プラスMorphineも自分で押して注射できるようになっていました。したがってどうしても腸の動きが鈍くなるので、便通は無理をしてでも出す必要がありました。
ですから、現在私が、患者さんの管理シートでまず最初にチェックするのは熱などのバイタルの次は「便通があったかどうか?」です。術後3日以上便通:0なんていう人が多いと、イライラしてしまいます。便秘は、漢方でいう瘀血になりますので、術後の慢性硬膜下血腫や下肢静脈血栓などの発生にも関連するのではないかと思っています(いつかこの研究を組んで見たいと思います)。また尿崩症のある人は別ですが、なるべく早くバルーンカテを抜くこと、なるべく早く歩行させることを徹底してほしいというのが口癖です。
でも先ほどの人種の話ですが、先日私はひどい二日酔だったのですが、そんな時は起きるのもやっとです。患者さんもひどい頭痛の時は欧米人と違ってやはり農耕民族は華奢にできているかもしれませんので、あくまで患者さんの体調を見つつということになります。
というお話をしていますと、「女性は便秘の人が多いですが、それでも便をregularに出すようにしますか?」ということを聞かれました。その時に私は、もちろん、便秘を直してあげて快便の習慣にして家に返してあげましょうと返答したのですが、少し考えると、どうしても脳動脈瘤が女性は男性の2倍いて、くも膜下出血も2倍であることと結びつきます。実は脳動脈瘤破裂は瘀血、便秘と関連があるのではないかという考えが湧いてきます。こちらも一度調べて見たいと思います。
便秘は若年者では20−40代の女性に、あとは70過ぎの男女に多いと。男性の4%、女性の5.9%に便秘があるそうです。7人に一人便秘症というデータもあるようです。
患者さんたちが、いっときでも早く健康な生活に戻れるように、細やかな配慮をして、便通!など患者さんの健全な生活のあるべき指標にも注意して診療をしてゆきましょう。