森田明夫のやってきたこと 1982〜2023

道具について①

道具について①                                                     森田明夫

 

以前脳神経外科速報に料理と脳神経外科というエッセイを書いた。私の就任の会の時にお配りしたので、覚えている先生がたもいらっしゃると思う。

その中で手術そのものが、いろいろ料理と似ていることを記載したと思う。その中でも、私がもっとも似ていると思っているのは道具に関してである。

非常に手術の上手な脳神経外科医の中には極めて少ない道具しか使わない先生もいらっしゃる。京都大学の橋本先生は コードからはずしたバイポーラーの鑷子(これを単純な鑷子として用いる)とマイクロの鋏、バイポーラー(コードつきのもの)しか使わなかった。当然左手は吸引管であるが。バイポーラーの鑷子のみのものは正確な会社は覚えていないが確かラジオニクスの灰色のコーティングがされているやや古いタイプだったと思う(CODMAN BIPOLAR 80-2981だそうです)、この鑷子をつかうのがしっくりくるとおっしゃられていた。道具は突き詰めるとそのように集約されるのかもしれない。

自分はまったくその領域にたっしておらず、毎回これでもかという数の道具をだしてもらい、器械出しの看護師さんにうんざりされているわけであるが。

よく優れた料理人が包丁一本さらしにまいて〜〜。といったメロディーが浮かぶが、脳神経外科医もかくありたいものである。

 

道具はその特性を知り充分に使いこなすことができるようになる必要がある。一番最初にもつメス(ナイフと米国ではいいます)や鋏などはどこが一番切れるのか?どこの刃を使えばよいのかを知る。料理で用いる包丁の中でそば切り包丁と柳刃包丁の違いをいえない人はいただけない。片方は押切るものであり、片方は引き切るものである。刃のつき方、重さ、形その目的と用途のためにできてきるわけである。メスにも10番、11番、15番などそれぞれの特性を生かしてつかう必要があり、鋏も同様である。またいずれの道具も切ることにもかつ剥離操作にも用いることができる。最近はSHARPな剥離と称して切ることによってのみ剥離をすることが最上の技ともっている若者も多い。しかし実際の本家をみると鋏をつかっていてもかなりのところを切る操作ではなく剥離にまたはくも膜を寄せる道具として用いていることに気付く。たしかに1970〜80年代に行われた動脈瘤周囲では鋏使うべからずみたいな手術は今は時代遅れかもしれないが、これは安全を最優先とした鉄則であったのだと思う。どのような道具の使い方にもその心がある。

鋏もそうであるが、使い方で最も差ができるのは、骨から組織を剥離するラスパやジョーカー、コトル等骨膜剥離子といわれる道具である。これらは“骨膜”を剥離するものである。筋肉ではない。一部は筋膜と替えたほうがよいかもしれないが、軟部組織の膜を破らずに剥離することが最重要である。アイスクリームのへらのようにただ軟部組織を引っぱるのではなく骨に固着している組織を剥がすのである。その動作は道具の先に力をこめて(チャクラを込めると筆者はいうが)、手元の柄のところの力は抜くことである。どんな道具もガッチリ握りしめては自由な動作はできないので、軽いタッチで(彼女の手を握るような感覚で?とよく教えてくれた先輩がいたが..)握る。そのうえで道具を離すことなく、力を込めるところには先が効くように力をこめるわけである。その最も良い練習法は豚のリブからお肉を外すことである。それをどのような角度、どのような深さでもできるようになると、当然内耳道周囲やJUGULAR TUBERCLEの硬膜を剥がすことは容易となる。深部で硬く固着した組織をごく近隣の神経を損傷しないように剥がすことができるようになる。

 

次はドリルである。特にスチールバーと呼ばれるタマネギ状のドリルは使い方を間違えると跳ねて周囲の組織を損傷してしまう可能性がある。ドリルを使う場合にはドリルを安全につかえる場をつくることである。それはまず穴を掘ってその中から前後左右、両脇を広げていくことである。穴の周囲の骨組織がドリルが跳ねるのを防いでくれる。先の尖ったところや平な平面にドリルを当てるとスチールでもダイアモンドでも跳ねることが往々にしてあるので、細心の注意を要する。できるだけそのようなものを削らないですむ環境にしてゆくことが重要である。

また基本スチールバーは最大スピードにした時がもっとも安全であり、SWITCHは基本ON-OFFとして用いるのがよい。スピードによって安定した先端の切削力ができ、むしろゆっくりまわしたドリルより不安定にならない。ゆっくり回すと転がす力が働いてしまう。一方でダイアモンドはFOOT SWITCHを用いて調節し低速から高速までのドリリングをうまく調節して用いることが出来る。高速の場合、発熱するので、5秒以上は用いない。良く水で冷やすなどの注意が必要である。ドリルにも特性があるので、上手く使い分ける必要がある。ドリルを用いる際には出し入れが極めて重要である。回しながら術野から出し入れすることは極力控える。切削部の数ミリ手前で回しはじめドリルをし、ほんのすこし外して完全に止めてから術野から引き出す。これが鉄則である。ドリルは道具の中の高値の花などではく東急ハンズなどにいくと手芸用、工作用、工事用を含め様々なドリルがまたドリルの先端が手に入る。練習する手段はいくらでもある。なぜ素振り練習もせずバーターボックスにたとうとするのかよくわからない。手術終った後でもよいので、練習をすることが必須である。

 

今回は主に開頭までの段階の道具について書いた。道具を理解し、使いこなすようになること。それは脳神経外科医、外科医にとって必須である。

 

最後に追加です。村井先生が医局長を今月末で退かれます。村井保夫先生には私が当教室に赴任してからのかなりの期間(2年間)を医局長として補佐していただきました。まだなにもわからない私ではありますが、とても親身に導いていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。今後ともいろいろお世話になりますがよろしくお願いいたします。