森田明夫のやってきたこと 1982〜2023

圧力鍋と低温調理

前回圧力鍋で作る肉料理について説明した。今回は低温調理についてちょっと紹介する。

「ちょっと」というのは、実は私もまだ使いこなしていないのである。どなたか私より先に上達して、ご教授ください。ちなみ北総病院形成外科の秋元先生は熟練者だそうです。

 

この方法はタンパク質を熱で変性(硬く縮む)させずに60度前後で肉にはしっかり火を通して、組織を変性させないという原理に基づいているという。別名真空調理法という方法です(see Wikipedia)。先日「56年目の失恋」とかいう女性コックがタイムトラベルをしてしまうドラマで出てきてました。Ziplockパウチの中に、味付け用の液体(主に油と調味料が多い)と肉を入れて、大量のお湯のなかで空気を抜いてパウチを閉める。そこに低温調理器を入れて、短いもので45分、豚肉の塊とかだと5~8時間くらいそこで同じ温度で温め続けるわけである。タンパク質はWikiにもあるが、63度から凝固初めて、68度で水分を出すとのことなので、大体調理温度は60~65度に設定しておく。私は少し食中毒が怖いので、鶏肉関係は(食中毒はGuillan Barre症候群をきたすこともあるとか、ないとか)65度以上で調理している。豚肉も同様であるが、実は65度以上だとせっかくの調理法が無駄になっていた可能性がある。

これまで作ったのは、鳥の胸肉 いわゆるサラダチキン と鳥の肝のアジア風 とローストポーク、ローストビーフである。

焦げ目はあらかじめつけるか、後で付けないといけないので、なかなか本格的なコゲを愛し、オーブン料理法に熟達している!自分には、特にローストビーフは向いていないと判断した。

しかしローストポークは秀逸である。オーブンで作ると、火が通った頃にはポークはどんな部位を使ってもコチコチになってしまう。しかしこの方法で調理すると、かなりしっとりとした仕上がりになる。

もっと秀逸なのが、鳥のレバーである。これはまるでフォアグラのようであり、それでいてしっかりと火が通った安心感があり、アジア風のエスニックソース(BONIQという低温調理器会社のレシピ ごま油とニンニク、唐辛子、酒、オイスターソース、生姜、醤油、スイートチリ、砂糖)をかけると最高である。そのほか砂肝の赤ワイン煮とか、オイスターソース煮というのもあるので、挑戦してみても良い。

 

ただこの手法、タンパク質を変性させない代わりに、多いに時間がかかる。

先日紹介した圧力鍋とは全く真逆の発想である。

圧力鍋では、ほとんどの素材はかなり繊維が破壊され、ものすごく柔らかくなってしまう。

いわゆる力技であり、時間は非常に短縮できる。

一方で低温調理はもともとの素材のまま、柔らかく仕上げる。とても時間をかけて作る丁寧な方法と言える。

 

さてこんなことを考えていると、前回も触れたが、人はいかに成長するかということに発想が向いてゆく。

ゆっくり時間をかけて、その人の良いところを生かして成長してゆく:低温調理法と

ガッツリとノルマを与えられて、力技で能力を付けてゆく:洗脳型・圧力鍋調理法である。

以前福島先生の記事で触れたが、福島先生や、また他の手術の非常に上手な先生方の教育方針は、主に後者であるように思う。私もどっぷりとその高圧訓練を受けてきたように思う。

自分がこれまで受けてきたと感じる訓練の特徴をまとめてみよう:

高圧訓練法:

1. 毎日毎日同じことを言われる

2. 1週間8日のつもりで働く

3. 自分の目標より、人から与えられた目標に進む

4. 褒められる事(Reward)は必要

5. 仕事(手術)をたくさん与えられる

6. できないと干される

7. 何も考えずに ひたすら前を向く

 

一方で、自分が日本に戻ってきた41歳からは、じっくり自分で考えながら治療をさせてもらっているので、いわゆる低温調理訓練(自分の中で)を受けてきたように思う。そちらの特徴は。

低温訓練法:

1. トイレでも、寝ていても、電車の中でも、通勤中でも、何か思いついたことがあれば書き留める(自ら湧いて来るアイデアを失わない)

2. 気晴らしは必要

3. 日々自らの背中に熱いもの、冷たいものを感じながら向かう

4.全て自分の責任のもとにあると言う自覚が必要

5. ほとんど場合、何かするといろいろな側面を反省し、ちょっとだけ自己満足する

6. 適度な仕事量が必要だが、努力しないと仕事はない

7. いろいろなことを考えながら前に後ろに進みながら方向を定める

自分にとってどちらがより自分を作るのにやくに立ったかというと、、どちらも大切だとしか言いようがない。

どちらも相反するようで、実は「美味しい!?人間」になるためには、どちらの要素も必要なのかなと思う。(だからと言って自分が美味しくなっていると言うわけではないが。)

人それぞれ色々な特性があり、性格も違い、信念も違う。

それぞれに応じて、うまく上記の2側面を取り入れていくことが大事かなと思う。

そのためには、上記をうまく取り入れられるような環境に自分を持ってくる必要があるだろう。人から与えられるものだけではなくて、自らの意思と意欲で、ドボンとその環境に入って行くことが大事なのかなと思います。

 

今時よく言われる働き方改革:(このシリーズでも一度書いたが:記事)、これはすでに確立された人が就労する際に生きる観点かと思うが、医療の育成現場でも導入せざるを得なくなっている。(疲弊しないで)短時間で効率よく物事を習得してもらい、人の役にたつ人間に育成しようと言う背景があるが、なかなか学習・訓練時間の効率化は難しい。

実際には、人の時間の単位は、地球が24時間で一周するようになって、また365日で太陽の周りを回るようになって以来、どうやっても1時間は1時間であり、一つのことをプロのレベルまで達成するには12000時間がかかる。(宇宙人で、非常に早く自転する惑星にいる人は、もしかするとものすごく学習効果や学習能力が高いかもしれないが。。)

圧力鍋で30分でできてしまう料理を、低温調理器で8時間もかけて、、というわけではなく、前者は短期集中型、後者は時間をかけて染み込むように自立を促す訓練だと思えば良い。どちらの時間も重要である。圧力鍋法で12000時間を訓練してもまともな人はできないし、ロボットみたいな手術屋さんしかできないだろう。その前に精神がすり切れるかもしれない。低温調理をうまく組み合わせる必要があるわけである。

取り止めもない考察だが、なんとなくわかって欲しい。

人生にはガムシャラに詰めこむ時と、じっと立ち止まって考える時が必要ということ。

 

皆さんも日常の好きな趣味から、人生の生き方を考えてみては如何でしょうか?

いずれ、人の育成方法ではなくて、実際の手術器具でも圧力器具と低温器具を考えてみようかとも思っています。

 

ちなみに東北大学では下記のような手術器具も開発されています。

パルスウヲータージェットメス

水鉄砲が好きな先生がいるんでしょうね。

 

ちなみに上山先生の水出る吸引装置はお風呂で子供の水鉄砲で遊んでいて思いついたそうです!

 

低温調理法の例です。あまりなくて申し訳ない。後日追加します。

低温調理

 

文京区は紫陽花が見事

紫陽花