私自身 頭蓋骨の細かなSutureやCrest, Foramen, Hiatus一つ一つの正確な名前を言える訳ではないが、頭蓋骨は脳神経外科医にとっていつも傍らにおいてその日の手術を検証し、そして新しい手術をうみだす元となるべきものであると思う。先日若手脳神経外科医(専門医受験前のムントの訓練の一環でだが)を相手に頭蓋骨と頭蓋単純撮影から質問をした。正解は半分位であったろうか?
私が研修医の頃、医局にあった頭蓋骨には手あかがしみ込み、様々な開頭を模擬した線の跡とバーホールの位置が記入してあった。今は現実になろうとしているが、上顎洞からアクセスすれば側頭葉内側は簡便に到達出来るだろうと考えたりもした。今はというとまず医局で頭蓋骨を探すのが苦労である。また見つかったとしても手あかも線も書かれていない。
いくらCTやMRIなど3Dの画像が発達したとは言え、大きさ、堅さや骨のごつごつ、Sutureの見え方を実感できる訳ではない。Foramenの3次元的な位置
頭蓋の中からみる見え方と、口、鼻側(頭蓋底側)から見える見え方や範囲。これはいつも頭蓋骨を手にしていないと実感できないものである。
脳神経のはいっていく孔は脳側からはわかっても、出てくる孔を頭蓋の底側からみて瞬時にわかるものは少ない。そしてその孔が上眼窩裂から舌下神経管の出口まで底側ではいかに集約されているか感じられる事は画像ではむずかしい。たった2~3cmの親指大のスペースに内頸動脈、内頸静脈を中心にV~XIIの神経が集約している。ここに動脈瘤や感染や腫瘍ができればいろいろな症状をきたすのは簡単に理解できる。
頭蓋骨の隆起や突起には全て意味がある。ほとんどが山として筋肉に引っ張られて出来たものか谷として動脈やその他の構造にえぐられてできたものである。孔や裂にも意味があり、必ず何かが通っていたはずである。それが何であるかを予測し知ることは明日の手術に役立つであろう。
それを映した頭蓋単純撮影も極めて重要な意味を持つ。
今の若手はSkull Xpはせいぜい頭蓋骨骨折を見つける画像としか判断していない。それすら見誤ることもある。全ての線に意味があることを知り、それがどういう解剖や病態をしめすのかを検証する必要がある。
呼吸器科の医師が胸部単純撮影をきちっと読めるように脳神経外科医がしっかりと頭部単純撮影をよめないと大変な事態となる。
安易に実質や中身の画像が得られるようになった現在、その影を映す手法は忘れ去られようとしているように思えます。
脳神経外科医の原点は頭蓋骨であり、患者においては単純撮影と思う。
皆さん自分の頭蓋骨を持ち大切にしましょう。いろいろな書き込みをして自分の頭蓋骨を作り上げましょう。
指導医の先生方にはお願いです。頭蓋骨を必ず医局においておくこと。そしてペンやマーカーで翌日の手術を記入すること。記入させること。全ての突起や孔の意味がわかるようにすること。そして頭蓋骨を大切にすることを教えていただければ幸いです。そして頭蓋骨単純撮影の重要さを再認識させるようにしてください。