森田教授の人材育成論
日本医科大学武蔵小杉病院 脳神経外科病院教授
足立好司先生
森田教授の下で、私、足立は少しばかりですが、大学教育論を囓りましたので、その面から在大学医局員最年長者として森田教授の人材育成について一文を認めたいと思います。
私たち医局員は、日本医科大学脳神経外科医局という職能共同体の中で脳神経外科学を学んでいます。些か古めかしい言い方かもしれませんが、師匠に弟子入りして学ぶのが大学での臨床医学だと思います。今風の言い方をすれば、認知的徒弟制 cognitive apprenticeship [Collins A] ということができましょうが、これにより、私たちは、医局で脳神経の機能解剖・生理と脳外科手術などを学びます。そして、全人格を巻き込むような正統的周辺参加論 legitimate peripheral participation [Lave J, Wenger E] のプロセスにより一人前の脳神経外科医になっていきます。つまり新人は、経験のある森田教授のような先輩たちの知識(脳外科でいえば脳神経の不思議・魅力)や技術(脳外科でいえば手術の厳しさ・楽しさ)だけでなく、その立ち居振る舞い、生活様式、価値観、人格などあらゆる面について学ぶことになります。森田教授からは、具体的には、国内外の脳神経外科の先達あるいは最先端研究の scientist との交流、高難易度手術への積極的取り組み、研究マインドの醸成と夢のある研究 collaboration、体力作り、料理・旅行・骨董趣味など Morita-ism を大いに学ぶことができました。実際にその謦咳に接しなくとも、医局通信の毎月のコラムでも十分にその魅力は伝わってくるものと思います。
日本医科大学脳神経外科は、中澤教授が基礎を作られ、寺本教授によって飛躍的に成長してきました。そして森田教授の下で成熟の時期を迎えようとしているように思えます。私たちに職能共同体の一員としてのアイデンティティー形成と、成長に伴う役割変容を起こしていただいたからです。既に十全的参加 full participation で日本医科大学医局や日本の脳神経外科を牽引することのできる後輩が何人も育っております。医局員を代表して感謝申し上げます。
今後は側面から私たちを見守っていただけるようお願い申し上げます。長年のご指導、ありがとうございました。