NF2、そして東日本大震災
独立行政法人労働者健康安全機構 福島労災病院長
齋藤 清先生
森田明夫先生、ご退官おめでとうございます。これまでのご活躍と数々のご支援、ありがとうございました。
森田先生とは、2004年にシドニーで開催された第4回国際頭蓋底外科コングレス以来、親しくさせていただいてきました。この学会の懇親会でお会いしたときに、「きれいな奥様ですね」などと褒めてくださったので、家内は森田先生の大ファンです。
驚くほど多才な先生は、色々な分野で活躍されてきました。私が専門としていた頭蓋底外科については、米国でSekhar先生に師事され、手術技量の確かさとすばらしい治療成績に当初から感心しておりましたが、現在は日本頭蓋底外科学会理事長として活躍しておられます。昨年7月に会長として開催された第34回日本頭蓋底外科学会は、頭蓋底外科の将来を展望する素晴らしい内容でした。
脳動脈瘤やロボット開発分野でのご貢献は周知のことですが、森田先生には神経線維腫症2型(NF2)についても、大変お世話になりました。私は1995年から、名古屋大学吉田純教授のもとで厚生省特定疾患神経皮膚症候群調査研究班のNF2を担当しておりましたが、ベバシズマブがNF2に効果があることを森田先生に教えていただきました。その後、2010年から臨床治験などを模索し、森田先生と一緒にPMDAの近藤達也理事長や担当の方のところに相談にいったこともありました。長い道のりでしたが、福島県立医科大学の藤井正純先生が、森田先生をはじめとした多くの先生のご協力を得て医師主導治験を実施してくれ、治験は無事終了しました。近日中に良い結果が得られるものと期待しています。
また、聴性脳幹インプラント(ABI)についても森田先生に教えていただき、2007年に名古屋大学で森田先生指導のもと、ABI植え込み術を行いました。福島県立医科大学で2017年にABI植え込み術を行ったときにも、森田先生にご指導いただきました(写真)。さらに、蝸牛神経が残っていれば人工内耳で聴力が再建できることも森田先生から教わり、NF2患者さんが恩恵を受けています。
東日本大震災と原発事故の後の福島復興に関する研究についても森田先生に指導していただきました。吉田純教授の下ではじめて専門医試験の会場係を担当したときの、森田先生主導で食べた豪華な夕食も忘れられません。多くの記憶が蘇りますが、最も思い出深いのは東日本大震災のときに森田先生からいただいたメールです。
福島で経験した東日本大震災と原発事故は、語り尽くせないほど大変な出来事でした。あの時、世界中の友人、知人、恩師からメールで応援をいただき、本当にありがたく励みになったのですが、森田先生から3月18日にいただいたメールが、中でも最も私の心を動かしました。森田先生もご許可くださると思いますので、文面を紹介します。
福島は甚大な被害をこうむり、さらに風評被害などをこれからの復興もとても大変と思います。でもそれこそが新しい福島を作るきっかけになると信じて頑張ってください。
新しい、原子力機器、また事故に備える防災事業・防災基準の作成、防災用品の開発、新しい電力構造、どんな災害でも活躍できるREMOTE捜査のROBOTICSヘリコプターや、飛行機、災害救助ROBOT開発拠点として名乗りを上げるべきと思います。国もそれくらいのことはするでしょう。
農業、漁業、とても美味しい福島の魚やフルーツをなんとか復興して欲しいのですが、若い人の次の活力のために、新しい産業を興すくらいの気持ちを皆さんに持って欲しいと思います。
ぜび頑張ってください。応援しています。
森田先生は、これからも将来を展望して新しい道を拓いていかれることと思います。さらなるご活躍、祈念しております。
福島県立医科大学 手術室にて ABI手術