森田明夫のやってきたこと 1982〜2023

森田明夫教授のご退任にあたって

順天堂大学 学長

新井 一先生

畏敬する森田明夫教授が定年を迎えられます。まさに「光陰矢の如し」を実感しています。森田先生は2013年に日本医科大学脳神経外科第4代教授に就任されましたが、それ以前から先生が我が国のリーダーとして国内外において幅広く活躍されてきたことは衆人の知るところです。
先生は、1990年代に約10年間米国において脳神経外科の臨床現場で研鑽を積まれました。その間、メイヨクリニックのSundt教授、Piepgras教授、ジョージワシントン大学Sekhar教授といった脳神経外科のレジェンドともいえる巨匠の薫陶を受けられました。国際的な活動が高く評価され、先生は2019年に世界脳神経外科連盟(WFNS)の事務局長(Secretary)に選出されました。WFNSの要として大きな責任を担われることになりましたが、先生のWFNS Secretary就任は我が国の脳神経外科の国際的なプレゼンスを高める結果となり、私達にとっても大いなる誇りとなりました。米国で脳神経外科を幅広く学ばれたためか、先生の守備範囲は非常に広くご専門は脳腫瘍、脳血管障害等々多岐に渡りますが、刮目に値する業績の一つとしてUCAS Japanを挙げなくてはなりません。この未破裂脳動脈瘤の自然経過を調べるための観察研究は、日本脳神経外科学会が総力をあげ実施したものですが、先生はこの研究の取りまとめ責任者としてその重責を果たされました。その成果は2012年にNew Engl J Med誌に掲載され、大きな反響を呼んだことは周知の事実です。UCAS JapanではUMINを活用した電子登録システム(Electric Data Capture)が採用されましたが、全国の施設から約6,700の未破裂脳動脈瘤が登録され、長期間に渡る観察を経て研究は無事に結実しました。先生の尽力より作り上げられたこの症例登録システムとそこから導き出された研究成果は、学会主導で実施される臨床研究における大きな金字塔になったといえます。
先生と私とのお付き合いは、ほぼ同年代ということもあり約20年に及びます。国内外の学会や脳神経外科学会の理事会などで、何回もご一緒させていただきました。また、日本医科大学と順天堂大学は同じ文京区にあり、長きに渡り近しくお付き合いいただいた間柄です。その森田先生が、実は料理、陶芸、絵画など非常に多くの趣味を持たれていることを最近知りました。脳神経外科の診療、研究そして教育に忙殺される毎日を送られている先生が、このように多趣味でらっしゃるのは信じ難いところですが、そこは凡人とは違い時間を作る才能に長けているのだと独り得心している次第です。一度、先生ご推奨の砂肝チャーハン入り鳥のオーブン丸焼きに挑戦したいと思っています。
本年度をもって森田先生はご退官されますが、森田イズムのDNAが教室の皆様に脈々と受け継がれ、将来今以上に大きな花が咲くものと確信しています。脳神経外科のなかで確固たる地位を築かれた先生の経験と見識は、次世代の脳神経外科医さらには我々医療人が進むべき道を照らす光になると思います。今まで以上の働きにより、私達をご指導いただくことをお願いいたします。

最後に、先生、奥様そしてご家族の益々のご健勝をお祈り申し上げます。