森田明夫教授のご退職に寄せて
富山大学脳神経外科
黒田 敏先生
森田明夫先生、このたびはご退職おめでとうございます。そして、長い間、お疲れ様でした。心より労いとお祝いの意を表したいと思います。
森田先生のことを初めて知ったのは、森田先生が米国に留学していらっしゃった1990年代後半、森田先生自ら編集されたホームページ上だったと記憶しています。Clinical fellowから始まってresident, assistant professorになるまで大変なご苦労をされたと思います。その頃には数多くのskull base surgeryを経験されていて、しかも料理の腕前もよいという恰好良さでした。日本に帰国されてからの東京大学、NTT東日本関東病院、そして現在の日本医科大学でのご活躍は皆様がよくご存知の通りです。
森田先生は、microvascular decompression, vestibular schwannoma, meningiomaなどのskull base surgeryをはじめとして数多くの外科治療で社会に大いに貢献するとともに、学際的にも確かな足跡を残されました。特筆すべきは、UCAS-Japanによる日本人の未破裂脳動脈瘤の自然歴を明らかにした仕事でしょう。これも相当なご苦労の産物だったとは思いますが、これまで誰にも成し遂げられなかった偉業と言っても過言ではありません。さらに、次世代の外科治療を視野に入れたロボット手術の基礎研究にも一石を投じています。
また、森田先生は、医療行為と関連したmorbidity & mortalityの問題にも精力的に取り組まれてきました。たまたま、黒田が富山大学に赴任してから6ヶ月ごとに続けてきたMorbidity & Mortality Conference (MMC)に着目して下さり、北海道大学、日本医科大学、富山大学による脳神経外科M&Mカンファランスの開催を提唱されました。2018年2月に第一回を富山で、そして2019年2月に第二回を東京で開催して数多くの知見を参加者で共有することができました(Fig. 1-3)。その後はCOVID-19 outbreakのため開催できないまま、森田先生のご退職を迎えてしまったのが大変残念です。
もう一点。森田先生は現役の日本の脳神経外科医としては大変珍しくなった米国脳神経外科専門医のお一人です。日本脳神経外科学会では国際委員会の委員長としてその責務を果たしていらっしゃるほか、World Federation of Neurological Surgery (WFNS)でも、その中心人物のお一人として精力的に活動していらっしゃいます。特に昨今のWFNSは以前では考えられなかったような混沌とした状況に陥っており、自己主張の強い各国の代表者たちと丁々発止の交渉を進めなければならないご心労は相当強いものと推察します。一方で森田先生のご活躍とご苦労は、森田先生個人のみならず、日本脳神経外科学会のプレセンスを示す絶好の機会になっていると信じています。
今回、森田先生は、制度上はとりあえず一旦ご退職されますが、まだまだこれからも国内外で縦横無尽にご活躍されることと思います。これからも健康に気を配られながら、これまで通り、われわれを力強く導くとともに、今までやりたくてもできなかったことにも取り組まれて第二、第三の人生を謳歌してほしいと願っております。ありがとうございました!
これからもご指導のほど、よろしくお願いします!
Fig. 1 第一回脳神経外科M&Mカンファランス(2018年2月、富山)
Fig. 2 第二回脳神経外科M&Mカンファランス(2019年2月、東京)
Fig. 3 San DiegoでのAANSにて(2019年4月)