○脊髄後角侵害受容ニューロンのNMDA受容体の活性化
⇒1.wind-up
- C侵害受容線維を0.5-2Hzの頻度で繰り返し刺激すると、脊髄後角深層のWDRニューロンのスパイク発射数(興奮頻度)が、刺激毎に時計のネジが巻かれるように増加していく現象。
脱分極が3秒以上続くときに、刺激が反復されると、脱分極が加重されて、スパイク発射数が増加したと考えられる。
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- 細胞内記録では、膜電位が次第に脱分極し、刺激に応じて発火の増加がみられる。その発火は刺激を中止した後もしばらく持続する。
- wind-upによる発火の持続は比較的短時間しか続かないので、可塑的な変化が関与しているとは考えにくいが、痛覚過敏を引き起こす可能性は考えられる。
- wind-upの成因には、NMDA受容体、NK1受容体、PKCγが関与している。
- NMDA受容体は通常Mg2+の遮断作用により働かない。2次ニューロンの脱分極によるPKCの活性化により、NMDA受容体がリン酸化されると、Mg2+の遮断作用が除かれ、イオンチャネルの解放が促進される。
- Aδ侵害受容線維から放出されたグルタミン酸だけでは、2次ニューロンのAMPA受容体を介した脱分極は生じるが、NMDA受容体を活性化できない。
- C侵害受容線維からはグルタミン酸だけではなく、SPなどのペプチドを放出され、SPによる2次ニューロンのの脱分極レベルが増すと、NMDA受容体が活性化される。
→Na+, K+, Ca2+の透過性が高まり、NMDA受容体もEPSPの発生に加わる。
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→脊髄でのwind up
- wind-upの成因に、NMDA受容体以外の要因も係わっている?
・ワインドアップ様の痛み ←→痛み関連LTP/記憶関連LTP
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⇒2.Ca細胞内2+濃度の上昇
- NK1受容体活性化による、PKCを介した細胞内Ca2+の増加によって、NOやPGの合成が引き起こされる。
・細胞内Ca2+濃度の上昇によるNOの増加⇒脊髄後角シナプス部での逆行性の情報伝達
- NMDA受容体活性化により、細胞内濃度が高まったCa2+が、カルモジュリンと結合すると、一酸化窒素合成酵素(NOS)が活性化されて、L-アルギニンからNOが産生される。
- NOは2次ニューロン内で、グアニル酸シクラーゼ(GC)の活性化を介して、cGMPの合成を促進する。cGMPは、それに続くタンパクキナーゼ(PK)の活性化や遺伝子発現などの反応に関与し、痛覚過敏が起こる。
- NOの一部は、2次ニューロンの細胞膜を通過し、細胞外に出て、逆行性に侵害受容線維の終末に働き、末梢から送られてきたインパルスによる伝達物質の放出を増加させる。
- NOの一部は、グリアにも作用し、グルタミン酸の取り込みを阻害する。
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・細胞内Ca2+濃度の上昇によるPGの増加
- 細胞内のCa2+が高まると、PLA2が活性化され、細胞膜中のアラキドン酸からCOXによるPGの合成が引き起こされる。
- PGsも、脊髄後角ニューロンの過敏化を引き起こす。
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○脊髄後角の変化
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○長期増強 Long term potentiation:LTP ←→
ワインドアップ/記憶-LTP
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○脱抑制 (disinhibition)や抑制性の変化
- GABAやグリシンによる抑制が消失することにより、興奮性が増す。
- presynaptic inhibition --- postsynaptic inhibition
- Woolfらは、CCIモデルとSNIモデルで、GABAを介する抑制が減弱し、またGABA合成酵素のGAD65の低下を観察している。これらの変化は、GABAニューロンのアポトーシスによるものではないかと推測しているが、Toddらは、CCIモデルにおいてGABAニューロンの脱落がニューロパシックペインの原因ではないと報告している。
- Cl-トランスポーターによるGABAの抑制を司るCl-濃度の可塑的変化
- 通常では、Cl-トランスポーターによって、細胞内のCl-は外液と比較して低濃度に保たれている。そのため、GABA受容体が活性化されると、Cl-は濃度勾配によって細胞内に移動する。負のイオンの細胞内移動によって細胞内の膜電位は過分極し、抑制性の作用を示す。
- 末梢神経の絞扼モデルでは、脊髄後角第I層の投射ニューロン応答は、本来は抑制性の応答が興奮性、すなわち脱分極の応答に変化することが報告されている。この可塑的変化によって、末梢からの入力に対して抑制性に働いていたものが、興奮性として作用することになり、痛みの情報入力が増大し、痛覚過敏を起こす可能性が示唆されている。
- 井上らは、Cl-濃度の変化にBDNFが関与していることを報告した。
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○シナプスの再構築
- 神経損傷後に残った神経線維の軸索の側芽 (sprouting) 形成
- Woolfらが1992年坐骨神経切断モデルで報告した。 [Pubmed]
- 正常動物では、Aβ線維は脊髄後角の第IIi層よりも深層のニューロンとシナプス接続しているが、坐骨神経切断によって、C線維が変性して脱落すると、Aβ線維がC線維がシナプスしていたII層に側芽を伸ばすことを形態学的に証明した。
- アロディニアの機序の一つと考えられるが、Aβ線維が直接側芽を伸ばし、それが機能しているか疑問が持たれている。
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○サイレントシナプス pure-NMDA synapse
- 中枢神経系には、存在しているが、機能していないシナプスが存在する。
- 幼若動物の中枢神経系ではNMDA受容体のみを発現するサイレントシナプスが存在する。
- NMDA受容体は、平常の状態ではシナプス後細胞の膜電位が低いためマグネシウムイオンにより活動が阻害されている。膜電位を強制的に脱分極させると自発的なシナプス応答が記録できるため、シナプスは形成されていることがわかった。
- より発生の進んだ細胞に形成されるシナプスには,NMDA型受容体に加えてAMPA型受容体も存在するため、平常時でも十分なシナプス伝達が可能である。
- 海馬CA1シナプスではLTPの発現に伴ってサイレントシナプスがNMDA受容体とAMPA受容体を共に発現する。
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- Zhuoらは、幼若動物の脊髄後角浅層にも、NMDA受容体のみを発現するサイレントシナプスが存在することを確認した。脊髄での可塑的変化は、下行性疼痛抑制系によるセロトニン放出によって、サイレントシナプスにAMPA受容体の作用が現れることによって起こるとした。 [Pubmed]
- アダルトでは、サイレントシナプスはほとんど存在しないので、アロディニアの機序である可能性は少ない。
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○グリアの活性化 ←→グリア/神経損傷時のグリアの変化
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