侵害受容反応  ←→侵害受容/痛みの伝導系/行動/疼痛抑制系
  1. 組織に、侵害刺激が加わる or 組織が損傷により炎症が生じると、


  2. 組織損傷に伴う炎症反応が大きいと、痛みの性質が変化し、痛みは病態生理学的な痛みとなる。


 侵害受容後の反応は3相に分けられる。
●第1相:急性期の痛み
●第2相:亜急性期の痛み 
●第3相:回復期の修復過程の痛み
 ┏侵害刺激の受容┓→痛み情報の伝達
 ┗組織損傷   

 ┏軸索反射による神経性炎症
 ┣後根反射
 ┣脊髄反射=屈曲反射=逃避反射
 ┗体性交感神経反射
 →痛みの認知
 →疼痛抑制系の活性化
炎症による痛み

 →生体防御行動


 →痛み行動


●第1相:急性侵害受容反応
侵害刺激が加わると、侵害受容器が興奮し、活動電位が伝導路を上行する。その過程で様々な修飾が加わる。
 ←→伝導路/痛みの分類/刺激法/テスト法
  • Sir Charles SherringtonP 1857~1952, イギリスの生理学者)は、「組織を実質的に傷害するか、あるいは傷つける可能性のある刺激」を侵害刺激と定義した
    [痛みを引き起こす可能性のある外来刺激]
    • 生体外から加わる侵害性機械刺激、熱刺激、化学刺激
    [痛みを引き起こす可能性のある内因性の刺激]


  • すべての組織の侵害受容器に対する適刺激(=侵害刺激)は、同じ刺激であるとは限らない。
    [皮膚の侵害受容器に対する適刺激] [筋肉の侵害受容器に対する適刺激]
    • 侵害性機械刺激---針で刺す、有鉤ピンセットでつまむ
    • 侵害性熱刺激---15℃以下の冷却、43℃以上の加熱 ←→熱痛覚過敏
    • 侵害性化学刺激---刺激性化学物質
     →筋肉痛/筋肉に分布する神経線維
    • 侵害性機械刺激
    • 侵害性熱刺激
    • 侵害性化学刺激

    • 虚血、局所の圧上昇や侵害受容性の化学刺激にも応じる。
       →血流が減少している筋肉を収縮させると、侵害刺激を加えなくても、痛みが生じる。
    [内臓に対する適刺激] →受容器/内臓痛腹痛
    • 皮膚の侵害受容器に対する適刺激が他の組織の侵害受容器に対する適刺激になるとは限らない。
    • 内臓は、切っても焼いても、痛みを感じない。(?)
    • 閉塞に逆らって、内容物を移送するために、強い収縮や伸展が起こると、強い痛みが起こる。
    • 侵害性化学刺激---刺激性化学物質←炎症など

組織損傷による発痛物質の産生
  • 皮膚や皮下組織が傷害されてコラーゲンが露出すると、ブラジキニンなどの発痛物質が産生される。発痛物質が侵害受容線維を興奮させ、痛みを感じる。
  • ブラジキニンにより、プロスタグランジンなどの発痛増強物質が産生される。発痛増強物質により発痛物質による痛みが増強される。
  • 組織が損傷されると、細胞内カルシウム濃度が高まる。Ca2+は、細胞内の制御タンパク質カルモジュリンと結合して、細胞膜のPLA2を活性化する。PLA2が、細胞膜のリン脂質にエステル結合したアラキドン酸を遊離すると、アラキドン酸カスケードによりプロスタグランジンが産生される。
軸索反射による神経性炎症→
  • 軸索反射とは、反射経路が1次求心性神経の軸索のみで生じる反射である。
  • 侵害受容器で発生した興奮は、脊髄終末部に伝わるだけではなく、
    軸索分岐部から他の分枝にも逆行性に伝わり、末梢終末からP物質CGRPが放出され、これらは付近の血管や白血球などに働き、様々な変化を引き起こす

    細動脈血管拡張 (←→血管作動物質
    細静脈血管透過性亢進
    →血漿タンパク出漏出
    →発痛物質(BK, セロトニン)の遊離
    肥満細胞ヒスタミン放出
    →血管拡張
     他の炎症細胞の活性化
 Lewisの3重反応Sir Thomas Lewis P 1881~1945, ロンドン)
  • 皮膚に障害を与えると、Lewisの3重反応が起こる。
      発赤 Rubor: 血管拡張によって損傷部位が赤くなる。
      小さな腫れ Wheal: 発赤を中心とした2-3mmの範囲に浮腫を伴った腫れ。
      フレア Flare: 腫れの周辺数cmの範囲にも血管拡張による紅潮。
      ---フレアは、軸索反射による!

      →皮膚に障害を与えると3重反応に伴われる痛覚過敏が生じる。
      一次痛覚過敏 primary hyperalgesia
       3重反応が出現した部位では痛覚閾値が低下し、痛みが増強する。
      二次痛覚過敏は、神経性炎症によるものではない。)

    後根反射 dorsal root reflexによる神経性炎症→     [Pubmed]
    • 1891年Gotch FHorsley Vが初めて記載し、Barron DHMatthews BHCが詳細に研究した(1935年)。
    • 1次侵害受容ニューロンの脊髄内終末は、抑制性伝達物質のGABAによるシナプス前抑制を受けると、脱分極する(=一次求心性線維脱分極 primary afferent depolarization: PAD)。その結果、Na+チャネルが不活性化され、一次求心性線維の終末からの伝達物質の遊離が抑制される(シナプス前抑制)。このとき、稀ではあるが、条件によっては、一次求心性神経の終末で不活性化を免れたNa+チャネルによって、活動電位が発生し、これが逆行性末梢終末のほうへ伝導する。
    • 機能的には軸索反射と同様に、その結果神経性炎症が生じる。
    • 体温が低いときに、末梢から多くのインパルスが到達すると生じやすいとされている。

    臨床上見ることができる逆行性伝導に起因する病態→ABC症候群
    脊髄反射  ←→痛みの悪循環
    ---1次侵害受容ニューロンは、脊髄前角の運動ニューロンとシナプス接続している。
    ---運動ニューロンを介して反射性に筋収縮や筋の持続的収縮を引き起こす。

     屈曲反射による逃避反射
    • 痛み刺激を受けると、痛みから避難するために、刺激部位と同側の屈筋を収縮し、伸筋を弛緩させる。
    • 体のバランスを保つために、対側の屈筋は弛緩し、伸筋は収縮する(交差性伸筋反射)。
    • 屈曲反射は、生体防御のための「痛み反射」である。脊髄反射の中でも、他の反射に優先する強力な原始的反射である。
    • 下等動物においても、「引っ込め反射」として観察される。
    • 行動学的研究のtail flick testなどは、逃避反射を指標としたものである。
    体性交感神経反射←→痛みの悪循環交感神経
    • 皮膚や内臓に痛み刺激が加わると、反射性に、交感神経が緊張し、血圧の上昇、心拍数や呼吸数の増加などを引き起こす。
       体性交感神経反射経路  脊髄→(延髄→脊髄を下行→→)脊髄側角→→交感神経節前線維→→効果器
    • 痛み刺激により、交感神経が興奮させ、その分節の血管を収縮させる。
       →一過性の血管収縮----出血や炎症を防止する防御反応である。
       →一過性の血管収縮→虚血によるアシドーシスを来す。
       →VR1などをもつ侵害受容器の閾値を下げるので、痛みを増強する。ここにもう一つの悪循環が形成される。
         ↓
    • 通常は、これらの一過性の反射性の交感神経緊張が終焉し、血管が拡張して、組織修復のための栄養を与える。
         ↓
    • 何らかの原因により、交感神経系が過剰に反応し、緊張が持続すると、末梢血管が長期にわたって収縮すると、組織が低酸素・アシドーシス・栄養低下状態(ジストロフィー)となり、それがまた痛みを生じ、新たな侵害刺激となって、悪循環となる。
       →これらの変化が続くと→→→CRPS type
     疼痛抑制系の活性化


    ●第2相炎症による痛み
    白血球による炎症---炎症に伴う炎症メディエーターによって痛みが生じる。


    行動
     ⇒生体防御行動 nocifensive behavior
     ⇒痛み行動 pain behavior


    ●第3相:回復期の修復過程の痛み
    • 経過が順調で、組織が広汎な壊死に陥らなかった場合、修復の相に入る。
    • 炎症の媒介物質が中和、分解、除去される。
    • 正常な血流が再開し、フィブリンができて停止したリンパ流も再開する。
    • 死滅した細胞はリンパ流に入って局所のリンパ節で捕捉され、貪食細胞によって除去される。
    • 切開された表皮の再生や線維芽細胞の増殖と、切断された毛細血管や神経線維の再生が始まる。
    • 再生中の神経線維の発芽(sprouting)の部分が自発性興奮を示し、機械刺激とノルアドレナリンに対する感受性を持つようになる場合もある。発芽が神経腫を形成すると、慢性痛の原因となる。
    • 末梢と中枢の侵害受容ニューロンの過敏化により、病態生理学的な痛みが生じることがある。


    痛みと鎮痛の基礎知識[上]基礎編、技術評論社
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