つれづれなるままにPFOS総説
原田研究室で行っている研究について、そのバックグラウンドや知見についてなんとなく書いています。(このページは個人運用です。)

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最新記事:米国環境保護庁USEPAがこれまでの飲料水の暫定基準値PFOA 400ng/L, PFOS 200 ng/Lを更新し、生涯健康勧告値(2016 Lifetime Health Advisories)として、PFOS/PFOA合計 70 ng/Lを勧告しました (元記事)。 (2016年5月22日更新


◆まずPFOS問題とは

 PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸)とは人工有機フッ素化合物でC8F17SO3-という、パーフルオロアルキル基(Rf:CF3-(CF2)n-)とスルホ基(-SO3H)からなる化学物質である。
 テトラフルオロエチレンを原料としてテロメライゼーション(テロメリゼーションとも)により、またはアルキル基を電解フッ素化することでパーフルオロアルキル基は製造される。
 Rf基において、Fは強い電気陰性度を持ち、C-F結合はきわめて強い結合となる。Rf基は自然的変化や生物学的代謝を受けないとされており、きわめて壊れにくい物質である。Rf基の構造上の特徴は、直線状で曲がりにくく、配列しやすいという。

 PFOSはフッ素系の表面コーティング剤、界面活性剤などの関連物質が製造され、特に撥水剤として衣類、特殊用紙、建材等、広範に使用されている。PFOSそのものだけでなく、PFOSをさらに化学修飾した物質も利用されている。最終的に大部分がPFOSに分解されてゆくと考えられている(一部はPFOAにもなる)。

 この物質の毒性についてはOECDからの初期調査報告書も出ているが、問題はどれだけ汚染が広がっているのか、またこれから広がるかである。とくに生物中への蓄積が起こりやすいという報告もあり、実際にアラスカ近海の野生生物の血液や肝臓に高濃度で見つかっている。

 現時点でヒトのPFOS汚染はおおまかにいって血液中に10-100nanogram/mLといったところである。すぐに分かるような急激な健康被害はないといわれるが、慢性的にどうなるのかいっさい不明である。また血液中濃度もどうなっていくのか動向が気になるところである。

 米国では30年前の全有機フッ素化合物(PFOS・PFOA以外にもある)の血液中濃度が現在のPFOS濃度とそれほど変わらないと言われているが、PFOS以外も足し合わせると増えているかもしれない。日本では東北地方で25年間の傾向を調べたところ、PFOSが3倍、PFOAで14倍の増加があったとされる。また近畿地方でより高い血漿中PFOA・PFOS濃度を示し、20年間でPFOAは3-4倍の増加を示している。(衛生学会2006年発表資料 PowerPoint Slide)

 このような状況で、毒性についての調査と汚染の調査それぞれが各国で行われているところなのである。日本においてはPFOSと関連化学物質PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は2002年に「化学物質の審査および製造等の規制に関する法律(化審法)」による第二種監視化学物質(旧指定化学物質)に指定されています。このほか、フルオロテロマーアルコール(ペルフルオロアルキルエタノール)・フルオロテロマーリン酸エステルなどの関連化学物質はそれよりも前に指定されています。

◆PFOSの化学的性質(OECDレポートから)

・化学的同一性

化学物質名:
ペルフルオロオクタンスルホン酸(Perfluorooctane sulfonate)(パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルフォナート、過フッ素化オクタンスルホン酸、※「パーフルオロ」は日本語表記の原則では正しくありません。「望ましい日本語表記」
CASナンバーはPFOSアニオンには付いていない。

酸、塩のCASナンバー:
酸(PFOS-H) (1763-23-1)
アンモニウム塩 (PFOS-NH4+) (29081-56-9)
ジエタノールアミン塩 (PFOS-DEA) (70225-14-8)
カリウム塩 (PFOS-K+) (2795-39-3) [MSDS-wako chemical-English]
リチウム塩 (PFOS-Li+) (29457-72-5)[MSDS-wako chemical-Japanese]

組成式:
C8F17SO3

構造式:

CF3-CF2-CF2-CF2-CF2-CF2-CF2-CF2-S(=O)(=O)O

同義語:
1-オクタンスルホン酸, 1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロ;
1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロ-1-オクタンスルホン酸;
1-オクタンスルホン酸, ヘプタデカフルオロ-;
1-ペルフルオロオクタンスルホン酸;
ヘプタデカフルオロ-1-オクタンスルホン酸;
ペルフルオロ-n-オクタンスルホン酸;
ペルフルオロオクタンスルホニックアシッド;
ペルフルオロオクチルスルホン酸

・物理化学的性質

融点: >=400℃
沸点: 計算不可能
蒸気圧: 3.31 x 10-4 Pa (20℃) (3.27 x 10-9 atm)
純水中空気/水分配係数: 0 (< 2 x 10 -6)

溶解度:
純水: 570 mg/L
淡水: 370 mg/L
非濾過海水: 12.4 mg/L
濾過海水: 25 mg/L

比重とpH:
DEA塩: 約1.1 (約7)
アンモニウム塩: 約1.1 (約7)
リチウム塩: 約1.1 (約6-8)
カリウム塩: 約0.6 (約7-8)

ヘンリー則係数(atm m3/mol):
純水: 3.05 x 10-9 (4.34 x 10-7 at 20℃ とする文献もある)
淡水: 4.7 x 10-9
非濾過海水: 1.4 x 10-7
濾過海水: 2.4 x 10-8

・化学物質等製品安全データシート(関連物質含む)
 FC-203CF LIGHT WATER BRAND AQUEOUS FILM FORMING FOAM
 FLUORGUARD. ANT BAIT STATION INSECTICIDE (N-EtFOSA)
 FX-8A FLUORAD (TM) BRAND PERFLUOROOCTANE SULFONYL FLUORIDE

◆PFOAの化学的性質(USEPAレポートから)

・化学的同一性

化学物質名:
ペルフルオロオクタン酸(Perfluorooctanoic acid)(パーフルオロオクタン酸、過フッ素化カプリル酸)
CASナンバーはPFOAアニオンには付いていない。

酸、塩、エステルなどのCASナンバー:
酸(PFOA-H) (335-67-1)
アンモニウム塩 (PFOA-NH4+) (3825-26-1)[MSDS-wako chemical-English] [MSDS-wako chemical-Japanese]
ナトリウム塩 (PFOA-Na+) (335-95-5)
カリウム塩 (PFOA-K+) (2395-00-8)
銀塩 (PFOA-Ag+) (335-93-3)

フロリド (PFOA-F) (335-66-0)
メチルエステル (PFOA-Me) (376-27-2)
エチルエステル (PFOA-Et) (3108-24-5)

組成式:
C8HF15O2

構造式:

CF3-CF2-CF2-CF2-CF2-CF2-CF2-C(=O)O-H

同義語:
1-オクタン酸, 2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフルオロ-
ペルフルオロオクタノアート
ペルフルオロカプリル酸
PFOA

・物理化学的性質

分子量: 414 (Beilstein, 1975)
融点: 45℃ (Beilstein, 1975)
沸点: 189-192℃ / 736mmHg (Beilstein, 1975)
蒸気圧: 10mmHg (25℃) (Exfluor MSDS)

溶解度: 純水: 3.4 g/L (テロマーでは 融点34℃, 0.01 -0.02 mol/L, 4-8 g/L) (メルク、フィッシャー、ChinameilanのMSDS)
pKa: 2.5 (USEPA AR226-0473)
pH(1 g/L): 2.6 (メルク MSDS)

・化学物質等製品安全データシート(関連物質含む)
 Exfluor C8AC
 3M MATERIAL SAFETY DATA SHEET Dyneon (TM) Perfluorooctanoic Acid
 "ZONYL" TA-N Fluorotelomer Intermediate (Fluoroalkyl Acrylate)
 "ZONYL" TELB Fluorotelomer Intermediate (Fluoroalkyl Iodide)
 "ZONYL" BA Fluorotelomer Intermediate (Fluoroalkyl alcohol)

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