つれづれなる概説

◆フッ素テロマーの概略


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 いきなりであるがフッ素テロマーである。
 これまではPFOA、PFOSを中心とした化合物の話をしてきたが、最近の注目が高くなっている関連物質なのでここで概略をまとめておこう。

1.いわゆるフッ素テロマーとは

 フッ素テロマー、フルオロテロマー、フロロテロマーとかいろいろ表記される。必ずしもすべての水素がフッ素に置換されていないため、ポリフッ素化(ポリフルオロ)化合物とも呼ばれる。
 米国でのテロマー研究計画(Telomer Research Program)に参加している企業は
 AGC Chemicals Americas, Inc..; Daikin America, Inc.; E.I. duPont de Nemours & Company; Clariant GmbH
 旭硝子、ダイキン、デュポン、クラリアントであり、つまりテロマーの製造者である。

 フッ素テロマーの用途は、フェデラルレジスター[Federal Register: July 8, 2005 (Volume 70, Number 130)][Rules and Regulations][Page 39623-39630]によれば
FTBPs are the major chemical constituents of telomer-based polymeric products (TBPPs), which are used in many industrial and consumer products. TBPPs are applied as soil, stain, and water resistant coatings to textiles, carpet, leather, stone and tile products; as grease, oil and water resistant coatings on paper products; and, as surfactants and intermediates.

フッ素テロマー由来物質(FTBPs)はテロマー由来ポリマー製品(TBPPs)の主要な構成化学物質である。多くの産業用、消費者用製品に用いられている。
TBPPsは以下のものに使われている。
土汚れ、色汚れ、水を撥くコーティングとしてテキスタイル、カーペット、皮革製品、石材、タイル製品に、
グリス、油、水を撥くコーティングとして紙製品に
界面活性剤や合成中間体に
 米国での検討対象になっている素材は次のものである。
 ECA(強制力のある同意協定) の下で指定されるように、2つのFTBPs組成混合物がECAの対象である。そしてECA と ECA を含む指令の下で試験される。
 付録Aと ECA の第24部(個別の会社署名ページ)が細部を提供する:
 テキスタイルそして/あるいはペーパー製品に特異的に用いられているTBPP化学物質が2つの調合剤に代表されることについての合理性、それぞれの調合剤を調合するために使われる FTBP 化学物質の名称、それぞれの調合剤を調合するためのプロシージャ、それぞれの会社がECA の条項の下で義務を負っている FTBP 化学物質の検討にどのように貢献するかのプロシージャがある。
 付録Aと ECA の第24部で指定されるように、ペーパー用調合剤は3つの FTBP 化学物質を含んでいるであろう。 付録Aと ECA の第24部で指定されるように、テキスタイル用調合剤は6つの FTBP 化学物質を含んでいるであろう。 ECA と ECA を含む命令の適用を受けているペーパーとテキスタイル用調合剤の中に調合されている9つの FTBP 化学物質以下のように確認されている:

 ペルフルオロアルキルエチルアクリル酸コポリマー:Perfluoroalkylethyl acrylate copolymer, EPA-designated accession number (ACC) 171790
 ペルフルオロアルキルアクリル酸コポリマー:perfluoroalkyl acrylate copolymer, ACC 158022
 ペルフルオロアルキルメタクリル酸ポリマー:perfluoroalkyl methacrylate polymer, document control number (DCN) 63040000037A;
 ペルフルオロアルキルエステル置換メタクリル酸・プロペン酸:substituted methacrylate, propenoic acid, perfluoroalkyl esters, DCN 63040000033B
 ペルフルオロアルキルアクリル酸ポリマー:perfluoroalkyl acrylic polymer, DCN 63040000037C
 ポリ-β-フルオロアルキルエチルアクリル酸・アルキルアクリル酸:poly-.beta.-fluoroalkylethyl acrylate and alkyl acrylate, ACC 174993
 ポリ(β-フルオロアルキルエチルアクリル酸・アルキルアクリル酸):poly(.beta.-fluoroalkylethyl acrylate and alkyl acrylate), ACC 70430
 多置換アクリル酸コポリマー:polysubstituted acrylic copolymer, ACC 157381
 ペルフルオロアルキルアクリル酸コポリマーラテックス:perfluoroalkyl acrylate copolymer latex, ACC 70907.

 EPAは公的に、会社の CBI を守る義務があり、ペーパー・テキスタイル用調合剤の内容について詳細を確認することができない。
 基本となるテロマーとは比較的短い重合化合物を指し、そこからさらに化学的な修飾が行われる。

 以下にデュポンのZonyl(ゾニル)に用いられている物質を示す。
Series Chemical Structures
FSA RfCH2CH2SCH2CH2CO2Li
FSP, FSE (RfCH2CH2O)P(O)(ONH4)2, (RfCH2CH2O)2P(O)(ONH4)
UR (RfCH2CH2O)P(O)(OH)2, (RfCH2CH2O)2P(O)(OH)
FSJ Proprietary
FSN RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH
FSN-100 RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH
FSO RfCH2CH2O(CH2CH2O)yH
FSO-100 RfCH2CH2O(CH2CH2O)yH
FSD Proprietary
TBS RfCH2CH2SO3X (X = H and NH4)

ペルフルオロアルキル基:Rf = F(CF2CF2)3-8
 赤字で示したのが基本的なフッ素テロマー骨格である。

2.フッ素テロマーの製法

 なぜテロマーと呼ばれているのか。たとえばペルフルオロオクタン酸PFOAは場合によればフッ素テロマー化合物である。
 すなわち、テロマーとは製法上の由来を示すものである。PFOAやPFOSは大きく二つの製法がある。
 一つは電解フッ素化(ECF: Simons Electro-Chemical Fluorination)であり、あらかじめ特定の鎖長の炭化水素化合物(オクタン酸、オクタンスルホン酸)を用意し、フッ化水素との溶液中に電流を流して反応させる。これにより炭素水素結合が、炭素フッ素結合に置換される。この製法では炭素鎖が様々な形態に変えられる。直鎖の化合物から開始しても、30-45%しか直鎖PFOA(実際にはPFOAフロリド(PFOF))は得られない。不純物には、炭素鎖の長い、または短いホモログ、分岐鎖PFOA、分岐鎖ホモログ、環状ペルフルオロアルカン、エーテルがある。
 もう一つがテロメリゼーションプロセスである。テトラフルオロエチレンによる伸長反応により炭化フッ素鎖を得るもので、基本的に直鎖化合物のみを得られ、炭素鎖は2の倍数となる。蒸留により比較的純度の高いものが得られる。不純物として奇数の鎖長の化合物が混じる。

 しかし、PFOAをテロマーとして扱うことは希であり、むしろ、テロマーアルコールと呼ばれる物質がフッ素テロマーの代表である。
 RfCH2CH2OHがテロマーアルコールである。テロマーBA(Zonyl BA)ともいわれる。EPAの対象9物質はテロマーアクリル酸が多いが、テロマーアルコールが構成成分である。
 ダイキンでもパーフルオロアルキルエチルアクリレート(PFAA)を用いている(ユニダイン製品紹介)。
 RfCH2CH2OC(=O)CH=CH2
 このペルフルオロアルキルエチルアクリルレートは加水分解によりアクリル酸とフッ素テロマーアルコールに分解される。
 RfCH2CH2OC(=O)CH=CH2 ---> RfCH2CH2OH + CH2=CHC(=O)OH

 テロマーアルコールは以下のように合成される(第11回ダイキンフッ素化テクノロジーメールマガジン資料より)。
 ペルフルオロアルキルヨージド(パーフルオロアルキルアイオダイド, perfluoroalkyl iodide)をもとにエチレンを付加させ、ヨウ素を水酸基に変えることでフッ素テロマーアルコールになる。テロマーの意味からすれば、RfIがフッ素テロマーである。


 同様にテロマーからPFOAを作るとすれば次のようになる。
 カルボン酸の場合はRf炭素鎖は1短くなり、カルボン酸になる。


 ではフッ素テロマーRfIそのものはどのように合成されるのか。
 テロメリゼーションTelomerizationは次のように定義される。
 「多量の連鎖移動剤(Telogen)の存在下で連鎖反応によって行われるオリゴマー化で、連鎖移動剤の断片が生成ポリマーの末端基になっているような反応をテロマー化 (telomerization) という。」

 この反応では分子量分布の制御は困難であるが、Telogenの濃度により重合度を1〜20に制御可能とされる。

 反応様式は連鎖重合(ラジカル付加重合)に準じる。ラジカル重合を起こすモノマ−は、ほとんどエチレン誘導体であり、総称してビニルモノマ−と呼ばれる。フッ素テロマーではテトラフルオロエチレンである。

 EPAでは、「Telomerization is the reaction of a telogen (such as pentafluoroethyl iodide) with a polymerizable compound (such as tetrafluoroethylene) to form a low molecular weight polymer with few repeating units, known as ``telomers.''」とあるように
 Telogen: Pentafluoroethyl iodide CF3CF2I
 Polymerizable compound (Monomer): tetrafluoroethylene CF2CF2
 である。

 ラジカル付加重合反応の概観
 開始反応 I → 2R・(kd
       R・+M → R−M・(=P・) (ki
 成長反応P・+M → P・(kp
 停止反応 2P・→ P或いは2P (kt
 連鎖移動反応P・+A → P+A・(ktr

 I:開始剤、R反応剤、M:モノマー、P:ポリマー、A:連鎖移動剤

 ではフッ素テロマーの場合は
 CF3CF2I ---> CF3CF2 + I・
 CF3CF2+ CF2CF2 ---> CF3CF2CF2CF2
 CF3CF2CF2CF2+ CF2CF2 ---> CF3CF2CF2CF2CF2CF2
 CF3CF2CF2CF2CF2CF2 + CF2CF2 ---> CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2

 というように炭素鎖8のフッ素テロマーのできあがりである。
 しかし、このまま反応が進むとずっと長鎖のものになってしまう。
 CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2 + CF3CF2I ---> CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2I + CF3CF2

 というようにラジカル反応が終了する。ここでTelogenを多く用いていれば、鎖長が長くならないうちに反応が終了し、適当な長さのテロマーが得られる。
 定義通り、連鎖移動剤CF3CF2Iが生成ポリマーの末端基CF2CF2Iになっていることを確認しておこう。

 考えてみれば生物でもテロメアが染色体末端にありますが同類といえる。

 このような反応なので、直鎖のものだけが得られる。また偶数のものが得られ、長さの異なるものがいくらか混じるということが理解できる。
 PFOAが分岐鎖のものが検出されるかどうかはどちらの由来かを判断する上で役立つ。

3.フッ素テロマーの問題点は

 フッ素テロマーアルコールはアクリル酸ポリマーから徐々に加水分解して溶出すると考えられている。このフッ素テロマーアルコール(FTOHs)は分解がある程度進む。フッ素テロマーカルボン酸(FTCAs)などを経由して最終的には偶数あるいは奇数のペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCAs)になるのである。これはテロマーアルコールのもとになるRf基の炭素鎖数による。たとえばRf基8:炭化水素基2の組み合わせのフッ素テロマーアルコール8:2FTOHではペルフルオロオクタン酸PFOA、ペルフルオロノナン酸PFNAになると考えられている。
 6:2FTOH ---> PFHxA + PFHpA
 8:2FTOH ---> PFOA + PFNA
 10:2FTOH ---> PFDA + PFUnDA

 CATABOLでの予想分解経路は次のようになっている(Dimetrov et al., 2004)。


 こちらは別の予想。(Lange, 2002)


 となると、結局PFOAあるいはより長鎖のペルフルオロアルキル酸を生じることになる。
 それゆえに問題視されているわけである。特にフッ素テロマーアルコールは少しながら揮発性がある。PFOA、PFOSは不揮発性のため、地球規模での拡散は難しいとされているが、現在の地球規模での汚染はフッ素テロマーアルコールによるのではないかと考えられている(三次元モデリングがフッ素化合物の汚染経路の理論を裏付ける)。

 8:2FTOHの物性は以下のようになっている。
Physical, chemical and environmental fate properties of 8:2 telomer alcohol Parameter 8:2 Telomer OH
Molecular weight 464.12 a
Solubility (mg/L) 0.134 a
Vapour pressure (Pa) 2.93 a
254 b
227 c
Henry’s law constant (atm m3/mol) 0.096 a
Bioconcentration factor 87-1100 a
Hydrolysis t1/2 Stable- pH 1.2, 4,7,9 c
Biodegradation Not readily biodegradable.
Inherent- some defluorination to PFOA and PFHA d

a Hekster et al., 2002
b Stock et al., 2004a
c Lie et al., 2004
d Lange, 2002; Wang 2003, Dinglasan et al., 2004
 このように問題になっているわけである。
 毒性については数は少ないが以下のような報告がある。

Ladics GS, Stadler JC, Makovec GT, Everds NE, Buck RC. 2005. Subchronic toxicity of a fluoroethylalkanol mixture in rats. Drug Chem Toxicol 28:135-158.

Mylchreest E, Ladics GS, Munley SM, Buck RC, Stadler JC. 2005. Evaluation of the reproductive and developmental toxicity of a fluoroalkylethanol mixture. Drug Chem Toxicol 28:159-175.

Kudo N, Iwase Y, Okayachi H, Yamakawa Y, Kawashima Y. 2005. Induction of hepatic peroxisome proliferation by 8-2 telomer alcohol feeding in mice: formation of perfluorooctanoic acid in the liver. Toxicol Sci 86(2):231-238.

Kennedy GL, Jr. 1987. Increase in mouse liver weight following feeding of ammonium perfluorooctanoate and related fluorochemicals. Toxicol Lett 39(2-3):295-300.

Michelle M. MacDonald, P.K. Sibley, M.J.A. Dinglasan, S.A. Mabury, and K.R. Solomon, AQUATIC TOXICITY OF FLUOROTELOMER ACIDS, FLUOROS 2005

Maras M, Vanparys C, Muylle F, Robbens J, Berger U, Barber JL, et al. 2006. Estrogen-like properties of fluorotelomer alcohols as revealed by mcf-7 breast cancer cell proliferation. Environ Health Perspect 114(1):100-105.

 以上を概略とする。

[2006/01/23]


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