つれづれなる概説

◆PFOSの胎児移行性


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妊娠中の高感受性集団におけるPFOS曝露の評価

雑誌名 Environmentanl Health Perspectives
刊号 112(11):1204-7
件名 Perfluorooctane sulfonate (PFOS) and related perfluorinated compounds in human maternal and cord blood samples: assessment of PFOS exposure in a susceptible population during pregnancy.
(和訳) ヒト母体・臍帯血試料におけるパーフルオロオクタンスルホン酸PFOSと関連パーフルオロ化化合物:妊娠中の高感受性集団におけるPFOS曝露評価
著者 Inoue K, Okada F, Ito R, Kato S*, Sasaki S*, Nakajima S*, Uno A*, Saijo Y*, Sata F*, Yoshimura Y, Kishi R*, Nakazawa H. (星薬科大学薬品分析学教室、*北海道大学大学院医学研究科公衆衛生学分野)
抄録本文  Fluorinated organic compounds (FOCs), such as perfluorooctane sulfonate (PFOS), perfluoro-octanoate (PFOA), and perfluorooctane sulfonylamide (PFOSA), are widely used in the manufacture of plastic, electronics, textile, and construction material in the apparel, leather, and upholstery industries. FOCs have been detected in human blood samples. Studies have indicated that FOCs may be detrimental to rodent development possibly by affecting thyroid hormone levels. In the present study, we determined the concentrations of FOCs in maternal and cord blood samples. Pregnant women 17-37 years of age were enrolled as subjects. FOCs in 15 pairs of maternal and cord blood samples were analyzed by liquid chromatography-electrospray mass spectrometry coupled with online extraction. The limits of quantification of PFOS, PFOA, and PFOSA in human plasma or serum were 0.5, 0.5, and 1.0 ng/mL, respectively. The method enables the precise determination of FOCs and can be applied to the detection of FOCs in human blood samples for monitoring human exposure. PFOS concentrations in maternal samples ranged from 4.9 to 17.6 ng/mL, whereas those in fetal samples ranged from 1.6 to 5.3 ng/mL. In contrast, PFOSA was not detected in fetal or maternal samples, whereas PFOA was detected only in maternal samples (range, < 0.5 to 2.3 ng/mL, 4 of 15). Our results revealed a high correlation between PFOS concentrations in maternal and cord blood (r2 = 0.876). However, we did not find any significant correlations between PFOS concentration in maternal and cord blood samples and age bracket, birth weight, or levels of thyroid-stimulating hormone or free thyroxine. Our study revealed that human fetuses in Japan may be exposed to relatively high levels of FOCs. Further investigation is required to determine the postnatal effects of fetal exposure to FOCs.
和文抄録  ペルフルオロオクタンスルホン酸塩(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)およびペルフルオロオクタンスルホン酸アミド(PFOSA)のようなフッ素で処理された有機化合物(FOC)は、服、革および室内装飾品産業におけるプラスチック、エレクトロニクス、織物および建築資材に製造に広く使用される。FOCは人間の血液試料で検出されている。
 ある研究では、FOCが甲状腺ホルモンレベルへの影響を通して、げっ歯類の発達に有害かもしれないことを示している。この研究では、私たちは、母体と臍帯血液試料中のFOC濃度を求めた。
 妊娠女性(17-37歳)が被験者として登録された。15対の母体と臍帯血液試料中のFOCは、オンライン抽出・液体クロマトグラフィー・エレクトロスプレー質量分析法によって分析された。ヒト血漿あるいは血清中のPFOS、PFOAおよびPFOSA定量範囲は、それぞれ0.5、0.5および1.0ナノグラム/mLであった。この方法は、FOCの正確な濃度決定を可能にし、ヒト曝露モニタリングにおけるヒト血液試料中のFOC検出にも適用することができる。
 母体血清試料中のPFOS濃度は4.9〜17.6ナノグラム/mLの範囲であった。しかし、胎児試料中では1.6〜5.3ナノグラム/mLの範囲であった。対照的に、PFOSAはいずれの試料でも検出されなかった。しかし、PFOAは母体試料中で、15の内4つで検出され、0.5以下のものから2.3ナノグラム/mLの範囲であった。
 私たちの結果は、母体と臍帯血中のPFOS濃度の高い相関性を明らかにした(r2=0.876)。しかしながら、私たちは、母体と臍帯血試料のPFOS濃度と年齢層中、出生児重量あるいは甲状腺刺激ホルモン、遊離チロキシンレベルの間で有意な相関性を見いだせなかった。私たちの研究は、日本のヒト胎児がPFOSに比較的曝露されるかもしれないことを明らかにした。FOCへの胎児曝露が出生後の影響を決定するかを明らかにするためにさらなる調査が必要である。
PDF Full text  Available On-line(EHP Online)
 久々の論文紹介です。最近は海域でのPFOS・PFOA汚染、ヒト血液中、母乳中のPFOS汚染などの数がそろってきました。毒性では発達影響が注目されております。PFOSによるホルモンバランスの変化としてエストラジオールと甲状腺刺激ホルモンでの変化が動物実験見られています。そうすると胎児への影響も懸念されてくるわけです。そのとき、ヒトではどれくらい母親から胎児へPFOSやPFOAなどが移行するのかが一つの問題になってきます。
 この研究では母親と臍帯から血液を採取して分析し、どれだけPFOSやPFOA、PFOSAが移行するのか、またその濃度とホルモンとの関係について報告しています。

 この報告の印象は、どちらかというと分析法を開発しましたというところが一つの売りなのでしょう。オンライン抽出と併せて、簡便、正確にというのと、LC/MSでも測定できるということです。HansenやOlsenらはLC/MS/MSを用いていているわけですが、どこにでもある測定機ではありません。抽出法ではHansenらのイオンペア抽出法はとてもよくできているのですが、血清分離や抽出操作があり、大量サンプルの処理の手間があるということです。とはいえ、不可能なわけではなく、実際数百サンプルを処理した報告もなされています。ハイスループット化は続報の大規模胎児曝露調査に活かされると思います。

 さて定量限界ですが、PFOS、PFOAで0.5ng/mL(0.5ppb)ということで、PFOSについては十分ですが、PFOAについては難しくなってきます。そのため、PFOSに絞って報告されていきます。

 被験者は札幌東豊病院の産科に訪れた日本人女性15人ということです。38週から41週の間に母体から採血、産後直後に臍帯の臍静脈から採血。身長と妊娠前体重、出産時体重を調査。

 その結果、PFOSについて、母体、臍帯すべてで検出されています。それに対して、PFOAは母体血液中わずか3例(抄録では4例ですが誤りのようです)でしか検出されませんで、PFOSAはまったく検出されませんでした。PFOSの母体血液と臍帯血濃度は相関があり、母親の濃度の1/3程度になりました。体重や性別との関係は見られていません。また遊離チロキシン、甲状腺刺激ホルモンとの関係も見られませんでした。

 コメントとしては、まず試料の収集が北海道であることですが、我われの水系汚染調査では北海道は汚染が少ない地域です。血清中PFOS濃度は平均8.09(S.D.3.64)ng/mLとなっています。京都に比べれば低く、秋田、宮城よりは高めとなっています。しかし不思議なのが、PFOAがほとんど検出されていないことです。我われの血清中濃度調査では秋田、宮城でも2ng/mL以上となっています。もう少し検出されてもいいものですが、曝露源が北海道では少ないのかもしれません。
 さて、臍帯血と母血液中PFOSは比例関係であるのは、動物実験での母体と胎児肝臓中濃度の関係からも支持されることで、胎盤関門を通過すると考えられますが、完全ではなく1/3程度まで抑えられているようです。
 この後PFOA、PFOSAの話に移っていくのですが、臍帯血中のPFOAが0.1ng/mL以下と唐突に出されています。おそらくLOD以下ということなのでしょうか。さらに別の研究で21人中15人で0.5<から4.1ng/mlの範囲で検出されたことから胎児のPFOA曝露はトレースレベルであると結論づけます。さらにPFOAは血清アルブミンと結合することから胎盤関門を通過できないと考えます。

 ここの論理展開には首を傾けざるを得ません。
 トレースレベルであったことは、機器の問題であって、生体のメカニズムを示すものではないはずです。この研究では「運悪く」母親でPFOAがわずか3例しか定量できずに、ほかの12例では検出さえできていません(N.D.と書いてありますが、定量下限以下の間違いかもしれません。いずれにしろ意味をなすデータとはいえません)。つまり胎盤通過性を推し量ることは不可能なのです。3例の母体中PFOA濃度は平均1.17ng/mL(S.D.0.98)で、一方、対になる臍帯血3例で0.5ng/mLより低いことしか分かっていないのですから。
 3例でしか検出できなかったことをカバーしようとほかの研究での結果を持ってきたところで、意味はないでしょう(参加者が妊婦かどうかもわかりません)。せいぜい親がトレースレベルの曝露であるから子もそれに近いレベルの曝露と予想されるということです。そこを胎盤通過性と混同しているのです。ましてや機器上でトレースレベルであることとリスクの大きさに関係はありません。
 血清アルブミンとの結合性を説明に持ってきていますが、PFOAの血清アルブミン結合性はHanらの報告ですが、同様にPFOSの血清アルブミン結合性についてJonesらが報告しています。どちらも強くアルブミンに結合して存在するということです。なぜPFOSが胎盤関門を通るのか説明できません。

 最後にPFOSと体重やTSHなどとの関係を検討しますが何も見つかりません。わずか15例で、非産業曝露集団で動物実験のような効果が出るとは普通思いません。今後の大規模調査が進行中であるように書いています。その前に検出限界を改善した方がよさそうです。

ここで分かったこと:
 臍帯血中PFOS濃度/母体血中PFOS濃度=0.33
 札幌在住の妊婦のPFOA濃度は低そうである

追記(04/09/07)
 先日のEPAによるデュポンへのペナルティーの話の中で、妊婦へのPFOA曝露と胎児移行について問題にしていて、もう一度読み直すと以下のように報告されていました。
 「1981年4月14日の文書によると、妊婦の血中に78ng/mLのPFOAを検出された。彼女は”正常児を1981年4月に出産し、臍帯血には55ng/mLのPFOAを検出した”と記述されている。」

追記(04/10/10)
雑誌名 Wei Sheng Yan Jiu(衛生研究)
刊号 33(4):481-3
件名 Status of perfluorochemicals in adult serum and umbilical blood in Shenyang
(和訳) 中国瀋陽における成人血清中・臍帯血中ペルフルオロ化合物の状態
著者 Jin Y(金一和), Liu X, Li T, Qin H.(中国医科大学公共衛生学院)
抄録本文 OBJECTIVE:
To study the status of perfluorooctane sulfonate (PFOS), and Perfluorooctanoic acid (FOA) pollution in serum and umbilical blood among general people in Shenyang area.
METHODS:
Concentration of PFOS and PFOA in adult serum and umbilical blood samples was measured by means of liquid phase chromatography/mass spectrograph selective iron monitoring (PFOS: m/z = 499, PFOA: m/z = 413).
RESULTS:
It was showed that geometric mean of serum concentration of PFOS of male was 40.73microg/L and that of female was 45.46microg/L, PFOA is 11.53microg/L and 8.97microg/L. Geometric mean concentration of PFOS and PFOA in umbilical blood was 2.214microg/L and 0.264microg/L. There was no correlativity between concentration of PFOS, PFOA and age in adult serum and umbilical blood.
CONCLUSION:
It was suggested that there was PFOS contamination in common group in Shenyang. Also, fetus was exposed in PFOS and PFOA during its embryonic period. There were also PFOS and PFOA pollution in human umbilical blood samples.
和文抄録 目的:
 瀋陽地区における一般集団における血清中・臍帯血中のペルフルオロオクタンスルホン酸、ペルフルオロオクタン酸汚染の状態を研究する。
方法:
 血清中・臍帯血中PFOS・PFOA濃度はLC/MS選択的イオンモニタリングで測定された。
結果:
 血清中PFOS濃度の幾何平均は男性40.73ng/mL、女性45.46ng/mL、PFOAについて男性11.53ng/mL、女性8.97ng/mLであった。臍帯血中PFOS濃度の幾何平均は2.214ng/mL、PFOAについては0.264ng/mLであった。いずれもPFOA・PFOS濃度と年齢との間に相関はなかった。
結論:
 瀋陽地区における一般集団におけるPFOS濃度は高いことが示唆された。また胎児は胚形成期にPFOS・PFOAに曝露されていた。さらにヒト臍帯血試料にPFOS・PFOA汚染があった。

ここでは
臍帯血中PFOS濃度/母体血中PFOS濃度=0.05
臍帯血中PFOA濃度/母体血中PFOA濃度=0.029
になっています。

もっとも妊婦から採血しているのか分からないので何ともいえませんが、PFOAもやはり通過しそうです。さて、血中PFOS濃度が高いことが示唆されていますが、汚染源はどこなのか今後の研究が必要でしょう。

[2004/08/28]

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