つれづれなる概説

◆最近の動き[消火訓練場跡の地下水からPFOSが検出]

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とりあえず、最近発表された論文の抄録を一つ。
雑誌名 Journal of Environmental Monitoring
刊号 5(2):341-5(2003年4月)
件名 Occurrence and persistence of perfluorooctanesulfonate and other perfluorinated surfactants in groundwater at a fire-training area at Wurtsmith Air Force Base, Michigan, USA.
(和訳) Perfluorooctanesulfonate(PFOS)とその他のペルフルオロ化界面活性剤の、アメリカ合衆国ミシガン州Wurtsmith空軍基地の消火訓練場における地下水中での発見と残留
著者 Moody CA, Hebert GN, Strauss SH, Field JA. (アメリカ合衆国97331オレゴン州Corvallis オレゴン州立大学化学科)
抄録本文  水性膜形成泡消火剤(AFFFs)を含めて様々な組成の消火剤が、ミシガン北東のWurtsmith 空軍基地(WAFB)が1993年に放棄されるまで、1950年代からの消火訓練の演習の一つとして用いられた。過去の消火訓練の演習の結果として、発火燃料や溶剤、その他の物質を含んでいる AFFF を満載した廃水が前処理なしで直接地下水に混入した。 ペルフルオロ化界面活性剤はいくつかのAFFFの組成では、主成分となっている。この研究では、地下水中のペルフルオロ化直鎖炭化水素スルホン酸(Perfluoroalkanesulfonates)とペルフルオロ化直鎖炭化水素酸(Perfluorocarboxylates)を分析した。Perfluoroalkanesulfonatesは陰イオン静電場噴霧式イオン化質量分析法(ESI-MS)を使って、直接検出した。Perfluorocarboxylatesは誘導体化して、電子衝撃法ガスクロマトグラフ-質量分析法(EI-GC-MS)を使って、間接的に検出した。
 消火訓練場FTA-02地点の周りの井戸から汲み出した地下水から、3〜120microgram/Lもの4種のペルフルオロ化界面活性剤(perfluorooctanesulfonate(PFOS)、 perfluorohexanesulfonate(PFHxS)、perfluorooctanoate(PFOA)、perfluorohexanoate(PFHxA))を検出した。
 PFOSは最近動物プランクトンから霊長類に及んで、生体に有毒であることを示されている。この研究は、PFOS が測定可能な量で、最後に使用されてから5年間以上、いまだ地下水に存在していることを示す最初の報告である。
 さて、ここで問題になっているのは、PFOSと関連物質の用途であるといえる。PFOSが消火剤に使われるとして、まさにそれは放出されることで役割を果たすからである。このほかの撥水剤として使用する場合も、吹き付けて使う。その後は流れに任せて拡散するだけである。
 3M社が製造を始めてから数十年にもなるが、それらはすでにどこかへ拡散してしまったと考えられる。「どこへ?」というのは不明である。製造は2002年で米国3M社に限っては終了したが、環境中に一度広まったものを処理するのは困難である。それゆえにPFOSやその関連物質の環境動態を知ることがどうしても必要である。
 Moodyらは今回の論文で空軍基地の消火訓練跡地で調査を行ったのは、PFOSを用いるのは特殊消火剤で、航空機火災に用いられるものであるからである。組成としては数%含むくらいだそうだが、汚染物質としてそれだけ放出すればかなりの量と考えられる。これらが使用されて地下水中へも混入したと考えてよいだろう。分解がまずされないということはともかく気になるのは、どのように残留しているかである。元々の総量が多いから5年後もこのような高い濃度なのか、それとも土壌への残留性が高く、じわじわと溶出しているのか。後者なら当分の間、土壌と地下水の汚染が持続するだろう。もう一つ、今回測定された物質でペルフルオロ化アルカン酸は、どれだけがペルフルオロ化アルカンスルホン酸の分解産物であるかである。もとの組成が分からないのではっきりしないが、長期的に汚染の進行を見る場合にどちらの物質がよりよい指標になるかということである。毒性についても異なる点があるので重要だと思う。
 ところで、1リットルあたり3〜120マイクログラムといわれてもピンとこないかもしれないので補足しておく。アメリカ合衆国のテネシー川の表層水の調査では、PFOSなどの製造工場よりも上流で1リットルあたり32ナノグラム(標準偏差11)にくらべても桁違いである。ちなみに我々は日本の主要な河川水についてのPFOS濃度を測定したが、その結果は1リットルあたり2.4ナノグラム(標準偏差4.2)であった。(ナノ:10の9乗分の1、マイクロ:10の6乗分の1)
 今回の論文は高濃度汚染地域を発見したと言うことで、ただちに地球環境が汚染されたということではないが、同様のシチュエーションがあれば、局所的高濃度汚染の可能性があるということであろう。
 ついでであるが、Moodyらは以前にもトロントのEtobicoke湾やオンタリオ湖でのPFOSやPFOA汚染についても報告しているグループであるので、関心があればそちらも参照されるとよいだろう。

[2003/05/10]

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