つれづれなる概説

◆環境汚染[大気中のPFOS]


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国内:大気中のPFOS

 水についてこれまで述べてきたが、今度は大気である。なぜ大気なのかというと、PFOSは世界的な拡散を見せているが、その経路がよく分かっていない。普通に考えれば、海洋経由か大気経由か、もう一つ農水産物、製品の輸出入だろう。ほかの難分解性物質でDDTなどではある程度揮発することから、蒸発した蒸気が風により遠隔まで運ばれ、低温により凝集沈降するグラスホッパー効果が考えられている。PFOSは揮発しにくいことが知られているが、PFOS誘導体では揮発性が高く、拡散のおそれが指摘されている。
 そのような中、われわれは大気粉塵中のPFOSについて測定を行った。
雑誌名 Bullitin of Environmental Contamination and Toxicology
刊号 71(2)408-13(2003年8月)
件名 Impacts of Air-borne Perfluorooctane Sulfonate on the Human Body Burden and the Ecological System
(和訳) 空気中パーフルオロオクタンスルホン酸PFOSのヒト負荷量と生態系への影響
著者 K Sasaki, K Harada,* N Saito, T Tsutsui,# S Nakanishi,# H Tsuzuki,# Akio Koizumi* (岩手県環境保健研究センター環境科学部、*京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻環境衛生学分野、#京都府保健環境研究所大気課)
抄録本文  なし
PDF Full text  あり
 1999年3MレポートによるとPFOSカリウム塩の物理化学的特性は融点400℃以上、沸点・不明、蒸気圧3.31x10-4Pa(20℃(3.27x10-9atm)、純水中空気/水分配係数:0(2x10-6未満)であり、PFOS自体は大気中へほとんど移行しないと考えられる。
 PFOS誘導体というのはPOFS(ペルフルオロオクタンスルホン酸フロリド)、PFOSA(ペルフルオクタンスルホン酸アミド)、n-EtFOSA(N-エチルペルフルオクタンスルホン酸アミド)、n-EtFOSE(N-エチルペルフルオクタンスルホン酸アミドエタノール)、n-MeFOSEなどのPFOSのスルホ基を修飾した化学物質群である。PFOSはそれ自体が使用されているのではなく、これらの誘導体が用いられており、それらの最終分解産物としてPFOSあるいはPFOAが生成する。PFOS誘導体は揮発性の高く、PFOS誘導体が大気中を移動し、分解されてPFOSが拡散しているのではないかとされている。
 Martinらは上記のような考えからカナダのトロントとロング岬で大気中の揮発性PFOS誘導体および8:2FTOHのようなテロメライゼーション化合物を測定している(Martinら2002)。その中でいくつかについて取り上げるとn-MeFOSE、n-EtFOSE、8:2FTOHはそれぞれトロントで101、205、55pg/m3、ロング岬で35、76、32pg/m3である。ロング岬は郊外を代表するとしている。それぞれの全体量は491、189pg/m3であった。つまりN-EtFOSEが主要な構成物である。また都市部でのPFOS関連物質の使用が発生源になっている証拠でもある。
 PFOSの大気拡散は北極、南極、北太平洋で汚染が生じている理由に対して提起されているが、Kannanらの野生生物での汚染についての報告ではテラノヴァやスピッツベルゲンでの汚染は他の海域に比べれば汚染は軽微であった。半世紀に及ぶ陸上からの放出が海洋に及ぼす影響が分かっていないので、直ちに前駆体の大気による拡散と推定できないとも考えられる。また今後PFOS関連化学物質の規制が進んだ場合に、揮発性PFOS関連化学物質はいずれ消失すると考えられ、PFOS自体の動態がよりクローズアップされてくるだろう。
 そのことからPFOSの大気中の存在、またPFOS関連物質の寄与、ヒト曝露への影響などを明らかにするため、今回の研究が行われた。
 分析試料はハイボリュームサンプラーにより京都府福知山市郊外と大山崎町国道沿線で毎月24時間(700m3)、1年間にわたり採集された。これを高速溶媒抽出装置により抽出し、LC/MSで測定している。定量限界は0.14pg/m3であり、ほとんどの試料が定量できた。郊外と国道沿線で大気中PFOS濃度がそれぞれ幾何平均0.6(GSD1.30)、5.3(1.20)pg/m3と一定量の汚染と地域差が明らかにされた。Martinらの報告ではPFOSについての測定が行われていないので比較はできないのだが、PFOS自体の量は少ないようにも思われる。郊外と国道では、粉塵量で補正してもその差は残ったことから、その質が異なると考えられる。粒径ごとの測定も必要かもしれない。さらに季節による若干の変動が見られたが、気温の変化によるPFOS誘導体の挙動との関係も疑われる。いずれにしてもPFOSおよび誘導体の一斉分析による検討が急がれるであろう。
 さて、ヒト曝露については今回の結果から推定して最高でも1日100pgであり、Haradaらによる飲料水を介した曝露に比べて桁違いに低く、一般の曝露については問題にならないと考えられる。

 参考までにCahillらは一般逸散能モデルによる環境運命予測について報告している。100,000km2の仮想の陸上で、1997年のPFOS前駆体生産900tonから米国での人口あたり消費量を用い、100人/km2の人口密度でモンテカルロシミュレーションにより行った。大気中n-MeFOSE、n-EtFOSE、PFOSはそれぞれ110、140、200pg/m3と算定されている。34%のPFOS前駆体がそのままで系外へ移流し、62%がPFOSへ変換し、さらにその86%が表層水で移流すると予測している。
1.Cahill, T.M., I. Cousins, and D. Mackay, General fugacity-based model to predict the environmental fate of multiple chemical species. Environmental Toxicology and Chemistry, 2003. 22(3): p. 483-493. 2.Martin, J.W., et al., Collection of airborne fluorinated organics and analysis by gas chromatography/chemical ionization mass spectrometry. Anal Chem, 2002. 74(3): p. 584-90.

[2003/09/27]

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