◆学会報告というより雑談
◆SOT:Society of Toxicology米国トキシコロジー学会第43回年次総会 報告
今年度の米国トキシコロジー学会は2004年3月21-25日でメリーランド州ボルチモアで開催されました。環境衛生学分野からは3題のポスター発表を出しました(ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)・ペルフルオロオクタン酸(PFOA)による日本の表層水汚染、PFOS・PFOAによるヒト曝露の長期傾向解析、ヒト試料バンキングとメチル水銀曝露の長期傾向)。
この学会は参加者が6000人規模で、主に米国とカナダからの出席者が大半であるものの、欧州、アジアからの参加者もそこそこに見かけられました。当初、PFOS類の2題のポスターはTCDD、POPs類のセッションに登録していましたが、PFOA類というセッションが追加され、そちらに移動しました。このほかにもPBDEsも多環芳香族炭化水素も新設されており、注目の高い分野になってきているようです。
とはいえ、PFOA・PFOS類のセッションのポスター数は6題であり、少ない感じでした。USEPA(米国環境保護庁)によるPFOSの経気道曝露による新生仔の肺障害と経口曝露による甲状腺ホルモンの攪乱についての動物実験の2題はすでにペーパーになっているもので、これということはありませんでしたが、発達毒性に重点を置いていました。あと私たちの2題のほかは、デュポン社のポスターで、PFOA類の経気道曝露と血清中PFOA濃度の関係、PFOA類の生理学的薬物動態モデルの構築でした。やはり関心はなぜヒトにこれほどPFOA・PFOSが蓄積するのかという点で、経気道も揮発性フルオロテロマーアルコールなどの影響があるかもしれないということも一つでしょうか。ただ薬物動態モデルについてもヒトでの知見は乏しく、ほとんどラットなどの動物実験の結果を利用しているのでこれがどこまで妥当なものかについてはかなりの検討が必要でしょう。同様に、私たちのポスターでは、ヒトでの男女による血清中濃度が大きく異なるということについて関心が高いもので、動物実験でも雄で多く蓄積するというものの、その程度はヒトの場合はずっと少ない(ほぼ2倍)ということのメカニズム研究が急がれます。
このセッション以外でもPFOS関連のポスターもありましたが、3Mとロチェスター大学のN-EtFOSE(PFOS-N(-Et)-EtOH)のP450代謝産物の研究とデュポン、クラリアント、ダイキン工業、旭硝子の8:2フルオロテロマーアルコールの反復投与による代謝研究の二つがあり、いずれも様々な製品に用いられているPFOS関連化学物質の生体内での挙動についての研究です。N-EtFOSEの代謝を肝ミクロソーム抽出液で処理したものでは、アミド部分の脱アルキル化、アミドの分解の後、最終的にPFOAとなるのか、PFOSとなるのかという点で、ヒト曝露への寄与、動向の把握の上で重要性が高いものといえます。8:2フルオロテロマーアルコールについては、1ヶ月、2ヶ月というスパンでありますが、アルコール部分の代謝が見られ、カルボン酸として検出されておりました。しかしこの代謝は必ずしもPFOAへ行き着くわけではなく、PFNA(PFOAより炭素一つ分長いもの)も産生されるというもので、野生生物でも奇数のペルフルオロアルキルカルボン酸の蓄積が確認されており、その由来はテロマーアルコールということ可能性もあるといえるしょう。
さて、余談ですが、今回のSOTミーティングの開催地ボルチモアというところは合衆国建国の地としても知られ、国歌や星条旗が誕生したのもここだということです。ウォーターフロントの眺めがよく、インナーハーバーの周りには見所も多くあります。水上タクシーにのってまわって最初はカワサキカフェのすぐ前で、このカワサキカフェというのは川崎市のカワサキで、ボルチモアとは姉妹都市で、それが由来なのです。お昼をとっていなければここでお寿司を食べてもよかったのですが。この周辺の町並みは昔ながらのもので、道のまんなかにはレールがあり、かつては馬車による交通がなされていたということで、このような町並みを残っているというのも感動的です。ほかにもダウンタウンにあるレキシントンマーケットもこれまた古くて、1800年以前からということで開拓時代からということで、ここは雑貨店のほか、露店が立ち並んでいるのも昔のままと聞きました。京都の町屋が消えつつあるのとは大きな違いです。
お隣のワシントンDCにもよりましたが、日本より少し早く桜は開花していました。ポスター演題は以下の通り。
雑誌名 Toxicologist(SOT第43回年会抄録集) 刊号 78 件名 A LONG - TERM TREND OF SERUM LEVELS OF PERFLUOROOCTANE SULFONATE ( PFOS ) AND PERFLUOROOCTANOATE ( PFOA ) IN JAPANESE 発表者 K.Harada; A.Koizumi; T.Yoshinaga; K.Inoue; N.Saito Health Environmental Sciences, Kyoto University Graduate School of Medicine, Kyoto, Japan PDF Full text あり 件名 PERFLUOROOCTANOATE AND PERFLUOROOCTANE SULFONATE CONCENTRATIONS IN SURFACE WATERS IN JAPAN 発表者 N.Saito2; A.Koizumi1; T.Yoshinaga1; K.Harada1; K.Inoue1 1. Health Environmental Sciences, Kyoto University Graduate School of Medicine, Kyoto, Japan; 2. Health and Environmental Sciences, Iwate Environmental Institute, Morioka, Japan
[2004/04/25]