つれづれなる概説

◆環境汚染[河川・飲料水中のPFOSとPFOA]


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河川水・飲料水のPFOA汚染

 これまでPFOSの環境汚染について述べてきたが、当然、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)についても我々の研究グループでは調査している。11月の学会報告に続いて今回、投稿論文が受理されたのでPDFファイルをとりあえず掲載しておく。
 2月4日で刊行されました。[04/02/04追記]
雑誌名 Journal of Occupational Health
刊号 46(1):49-59 (2003年受理、現在出版待ち)
件名 Perfluorooctanoate and perfluorooctane sulfonate concentrations in surface waters in Japan
(和訳) 日本の表層水中のパーフルオロオクタン酸PFOAとパーフルオロオクタンスルホン酸PFOS濃度
著者 N Saito, K Harada,* K Inoue,* K Sasaki, T Yoshinaga,* S Inoue,* A Koizumi* (岩手県環境保健研究センター環境科学部、*京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻環境衛生学分野)
抄録本文  Perfluorooctanoate (PFOA) and perfluorooctane sulfonate (PFOS) are synthetic surfactants widely used in Japan. An epidemiological study of workers exposed to PFOA revealed a significant increase in prostate cancer mortality. A cross-sectional study of PFOA-exposed workers showed that PFOA perturbs sex hormone homeostasis. We analyzed their concentrations in surface water samples collected from all over Japan using LC/MS with a solid phase extraction method. The lowest limits of detection (LOD) (ng/L) were 0.06 for PFOA and 0.04 for PFOS. The lowest limits of quantification (LOQ) (ng/L) were 0.1 for both analytes. The levels [geometric mean (GM); geometric standard deviation (GS)] (ng/L) of PFOA and PFOS in the surface waters were GM (GS): 0.97 (3.06) and 1.19 (2.44) for Hokkaido-Tohoku (n=16); 2.84(3.56) and 3.69 (3.93) for Kanto (n=14); 2.50 (2.23) and 1.07 (2.36) for Chubu (n=17); 21.5 (2.28) and 5.73 (3.61) for Kinki (n=8); 1.51 (2.28) and 1.00 (3.42) for Chugoku (n=9); 1.93 (2.40) and 0.89 (3.09) for Kyushu-Shikoku (n=15). The GM of PFOA in Kinki was significantly higher than in other areas. Systematic searches of Yodo River and Kanzaki River revealed two potential dominant sources, a public water disposal site for PFOA and an airport for PFOS. The former was estimated to release 18 kg of PFOA/day. PFOA in drinking water in Osaka city [40 (1.07) ng/L] were significantly higher than in other areas, suggesting that people are exposed to PFOA.
和文抄録  ペルフルオロオクタン酸( PFOA )とペルフルオロオクタンスルホン酸( PFOS )は日本で広く使われる合成界面活性剤である。PFOAに曝露された労働者の疫学研究では前立腺がん死亡率の有意な増加を明らかにした。またPFOAに曝露された労働者の横断研究は PFOA が性ホルモンの恒常性を不安定にさせることを示している。
 我々は固相抽出法で LC / MSを用いて、日本じゅうから集めた河川表層水での濃度を分析した。検出限界は PFOS、PFOAについてそれぞれ、0.04 ng / L、0.06 ng / Lであった。定量限界は両物質について0.1ng / Lであった。
 表層水中PFOA 、PFOSレベルは、北海道-東北地方(n = 16)で0.97(3.06)、1.19(2.44)[幾何平均(GM)( ng / L);幾何標準偏差( GS )]、関東地方(n = 14)で2.84(3.56)、3.69(3.93)、中部地方(n = 17)で2.50(2.23)、1.07(2.36)、近畿地方(n = 8)で21.5(2.28)、5.73(3.61)、中国地方(n = 9)で1.51(2.28)、1.00(3.42)、九州-四国地方(n = 15)で1.93(2.40)、0.89(3.09)であった。また、近畿地方のPFOA の幾何平均は他の地域より有意に高かった。これを詳細に検討するため、淀川と神崎川の系統的調査を行った。
 2つの潜在的な汚染源として、PFOAについて公共下水処理場とPFOSについて空港を見いだした。前者は18kgPFOA /日を放出していると推定された。大阪市で飲料水中PFOA は40(1.07)ng / Lと有意に他の地域より高く、地域住民がPFOAに曝露されることを示唆する。
 この研究は日本国内における河川水のPFOS、PFOA汚染の様相について、地域間での違い、また特定の汚染源の寄与の大きさについて明らかにした最初の報告である。
PDF Full text  Available On-line(JSTAGE-JOH)
 2月9日に環境省の平成14年度化学物質環境汚染実態調査結果が出てきましたが、その中でペルフルオロオクタン酸(PFOA)・ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)についても報告がありました。サンプリング地点が異なるので簡単には比較できませんが、傾向は同じでしょうか。ただ20地点での調査なので、我々の報告で特に高濃度であった神崎川などは漏れ出ています。それでも測定20地点すべてで定量できたのはさすがでしょう。まあ岩手県環境保健研究センターへの委託であったということなので、その点の保証は我々と同じなのですが。
 最高濃度はPFOSでは石川県犀川河口で24 ng/L、PFOAでは大阪大和川河口で100 ng/Lでしたが、どうもPFOAについては近畿地方で高いというのはありそうです。しかし大和川河口というのは大阪湾からの流入もあるのではないかと思います。これは我々の報告でも淀川河口でも河口部で濃度が急に上昇するという妙な観測結果がありました。
 環境省は主に肝毒性がある化学物質として紹介していますが、肝細胞空胞化、肝腫大、肝腫瘍などはよく知られております。ほかにもホルモンバランスの変化(エストラジオール、甲状腺ホルモン)、甲状腺濾胞細胞腫瘍も動物実験で確認されています。ヒトでは労働者での前立腺癌、膀胱癌のリスクへの影響も示唆されており、今後詳しい調査が急務とされています。
[040210追記]
報道では現在使用されていない化学物質であるとしていますが、確かにPFOSは3M社が製造を2002年に停止したためほとんどないといってよいでしょう。しかしPFOAは必ずしもPFOAそのものから由来するわけではありません。短鎖フッ素化合物のテロメライゼーションによる産物であるテロマーはペルフルオロアルキル基と炭素2個分アルキル基という構造を取ります。(合成プロセス)フッ素化されていないアルキル基は分解、代謝され、PFOAに変換されうるという報告があり、単純にPFOA製造がなくなったとしてもPFOA汚染がなくなるわけではないといえます。またPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のようなポリマーが長期的にどう分解されるのかも注意が必要と考えられます。
[040314追記]
元データはこちら。
Excelファイル:ペルフルオロオクタン酸ペルフルオロオクタンスルホン酸
[041004追記]

[2003/12/29]

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