つれづれなる概説

◆フライパンとPFOA


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生活用品中のPFOA:

雑誌名 Environmentanl Science and Technology
刊号 39(11): 3904-10
Web Release Date: 20-Apr-2005; (Article) DOI: 10.1021/es048353b
件名 Exposure Assessment and Risk Characterization for Perfluorooctanoate in Selected Consumer Articles
(和訳) 選択された民生品中のペルフルオロオクタン酸の曝露評価とリスク性質決定
著者 Stephen T. Washburn, Timothy S. Bingman 1, Scott K. Braithwaite, Robert C. Buck 2, L. William Buxton 3, Harvey J. Clewell 4, Lynne A. Haroun, Janet E. Kester, Robert W. Rickard 4, and Annette M. Shipp.
(ENVIRON International Corporation, 1 デュポン企業改善部, 2 デュポン化学事業部, 3 デュポンフッ素製品部, 4 デュポンHaskell研究所)
抄録本文 An exposure assessment and risk characterization was conducted to better understand the potential human health significance of trace levels of perfluorooctanoate (PFO) detected in certain consumer articles. PFO is the anion of perfluorooctanoic acid (PFOA). Concentrations of PFO in the consumer articles were determined from extraction tests and product formulation information. Potential exposures during consumer use of the articles were quantified based on an assessment of behavior patterns and regulatory guidance. Health benchmarks were developed and then compared to the exposure estimates to yield margins of exposure (MOEs). A simple one-compartment model was also developed to estimate contributions of potential consumer exposures to PFO concentrations in serum. While there are considerable uncertainties in this assessment, it indicates that exposures to PFO during consumer use of the articles evaluated in this study are not expected to cause adverse human health effects in infants, children, adolescents, adult residents, or professionals nor result in quantifiable levels of PFO in human serum.
和文抄録 ある生活用品中に検出されたペルフルオロオクタン酸(PFOA;PFO)の痕跡レベルの潜在的ヒト健康影響への重要性をよりよく理解するために曝露評価とリスク性質決定が行われた。 PFOAはペルフルオロオクタン酸(PFOA)の陰イオンである。 生活用品における、PFOA濃度は溶解試験と製品組成情報から決定した。生活用品の消費者の使用の間の潜在的曝露は行動パターンと行政文書で定められた評価法に基づいて定量化された。 健康基準(Health Benchmark)が作成されて、曝露マージン(MOEs)を算出するために曝露推定量と比較された。 また、潜在的消費者の曝露が血清中PFOA濃度に与える影響を見積もるために、単純である1-コンパートメントモデルが開発された。 この評価にはかなりの不明確なことがあるが、それは、この研究で評価された生活用品の消費者の使用によるPFOA曝露が幼児、子供、ティーンエイジャー、成人一般住民、または専門職業人で有害ヒト健康影響を引き起こさず、ヒト血清中PFOAへの定量化可能なレベルでの影響をもたらすと予想されないことを示した。

注目点:
 テフロン加工フライパンに関連して米国での集団訴訟が起こされました。
 PFOAがテフロン製造に必要な添加剤であることは最近では比較的知られるようになっていますが、これが最終的にテフロンに残留しているかについては報告はありませんでした。デュポン社自体はこれまで最終製品には残留しないので安全であると繰り返し主張してきました。それについて学術的な報告が初めて出されたことで注目される報告です。

概略:

 まず、日用品などからのPFOAの検出を試みています。
 対象製品はフッ素テロマーとフッ素ポリマー製品です。
 フッ素テロマーというのはCF2-CF2を単位としたフッ素化アルキル鎖を持つもので長さは様々ですが、撥水作用を持たせる場合はおおむね3-6単位(C6-C12)のフッ素化アルキル鎖になります。これをその他のポリマー骨格に結合させて利用されたりします。
 フッ素ポリマーはやはりCF2-CF2を単位とするものですが、非常に長いものとなっています。いわゆるテフロン(R)です。

 PFOAが不純物として混入するおそれがテロマー、ポリマーともにあるとされます。

 テロマー含有製品
 カーペット処理、アパレル、医療用不繊布、タイル、木材のシーリング剤、ワックス、ラテックスペイント、ホームクリーナー、

 フッ素ポリマー含有製品
 アパレル用膜、PTFE処理フライパン、スレッドシールテープ

 これらの製品について溶出試験を、テロマー製品では製品の原液中のPFOAも試験しています。
 製品原料中濃度と最終製品中濃度それぞれが算出されています。
製品グループ フルオロテロマー製品原料中PFOA濃度
(mg-PFOA/L)
検出限界 最終製品中推定濃度
(micro g-PFOA/kg-製品重量)
検出限界 最終製品溶出試験
(ng-PFOA/cm2-製品面積)
検査製品数 検出限界
フルオロテロマー含有製品
工場加工処理絨毯 30-80 200-600 未検出c to 23 >60 (<0.2)
カーペット保護液処理絨毯 1-50 200-2000 28-50 14
衣類 未検出 to 40 (<1) 未検出 to 1400 (<20) 未検出 to 12 >100 (<0.01)
室内装飾品 未検出 (<1) 未検出 (<34) 0.4-4 3
家庭用織物 未検出 to 40 (<1) 未検出 to 1400 (<20) 未検査d 未検査
専門職用織物 未検出 (<1) 未検出 (<34) 未検査 未検査
医療用不織布衣類 未検出 (<1) 未検出 (<34) 未検出 6 (<0.02)
石材・タイル・木製品用シーラント 未検出 (<1) 未検出 (<100) 未検査 未検査
産業用床ワックス・ワックス除去剤 5-120 0.5-60 未検査 未検査
ラテックス塗料 50-150 20-80 未検査 未検査
家庭用・オフィス用クリーナー 50-150 5-50 未検査 未検査
フルオロポリマー含有製品
衣料品用膜 NA NA 0.008-0.07 20
焦げつかない調理器具 NA NA 未検出 >40 (<0.1)
スレッドシールテープ NA NA 0.02-0.08 20

 この中でまともに検出されたのはカーペット処理、アパレル、ワックス、ラテックスペイント、ホームクリーナーで、カーペットがもっとも高いことになりました。
 量としては最大50ng/cm2 of articles となり、一方フライパンなどの調理器具では0.1ng/cm2以下という結論としています。
 これをもとに生活用品からの曝露を推定し、MTE典型的曝露、RME妥当的最大曝露として計算しています。これは大人ほど低くなります。それは子供ほどカーペットなどをなめることで曝露すると考えられるからです。
 このMTEを総合すると成人ではおよそ0.05ng/kg体重/dayとなり、60kg男性では3ng/dayのPFOA摂取となります。


 最後にMTEのPFOA摂取は0.05から0.25ng/mLの血液中濃度の上昇を引き起こすとしています。

疑問点:

 ここで著者らは動物実験での毒性発現投与量との比、MOE曝露マージンを評価しています。すると10の6乗、100万も違い、そして安全である可能性が高いと主張します。しかし、実験動物ではPFOAの体内動態が大きく異なることはすでに我々が証明しており、経口投与で単純に比較することは危険であると考えられます。少なくとも100万の曝露マージンがあるとは考えられません。ここで体内濃度を用いた曝露マージンを引用しておりますが、既報の下方ベンチマーク体内濃度LBMIC10に対するMOEは9万にまで下がってしまいます。体内動態の研究がこの不確実性を打破するために必要であるでしょう。
 しかしここで用いられた体内動態パラメータのうち、分布容積を1.25から6L/kgとしており、この分布容積は研究により大きく変動しています。著者らは慢性毒性試験で得られたパラメータであることを理由に採用していますが、ある論文では0.3L/kgとされ、その場合、1ng/mLの上昇とされ、米国平均から見れば、2割の汚染源となりうると言うことになります。
 分布容積を算出したデータでは投与する濃度が高くなるにつれて、血液中濃度は比例して高くはなりますが、投与量が高くなりすぎると血液中濃度は比例しなくなります。これは消化管での吸収が飽和するなどの問題が生じるからです。またこのような現象は野生のカメでの研究でも見られています。つまり、一般人口での体内濃度を考える上では、それになるべく近いデータを用いるべきですが、(あえて)高い濃度における分布容積を採用することにより、生活用品中からのPFOA曝露の影響を過小評価しています。
 ここで、摂取量の絶対評価を行うことで、生活用品の寄与がどれくらいかの参考になりますが、論文中では一切触れておりません。
 日本における飲料水などの調査から見れば、3ng/dayのPFOA摂取は比較的汚染が高い京都での飲料水や大気からの推定摂取量に匹敵するものです。さらに京都市のボランティアの尿中排泄量は1日20ngほどですから、決して少ない量ではないと考えられます。
 さらに調理器具からは検出できなかったとしております。
 フライパンが普通に表面積100cm2とすれば、検出限界0.1ng/cm2から10ng以上を検出できなかったという意味になります。しかし、10ngというのは決して少ない量ではないというのは前述の通りです。論文の補助データには検出限界の半分の量が仮に存在するとして、毎日の摂取量を推定しています(Table S42 Ingestion of Food that Contacted Cookware)。
Hypothetical Lifetime Average Intake from Ingestion of Food in Contact with Cookware
(ng/kg-day) (ng/60kg-day)
MTE Professional 3.70E-04 0.02
MTE Infant 1.90E-02 1.14
MTE Child 1.10E-02 0.66
MTE Adolescent 6.10E-02 3.66
MTE Adult 2.90E-02 1.74

ここで予想される摂取量は上で推定されたMTE0.05ng/kg体重/dayと極めて近いものです。
つまり、フライパンなどからは検出されなかったけれども、それが他の製品に比べてより少ないということを意味しないのです。検出できなかっただけであり、すなわち分析手法が不十分であるだけなのです。著者らはRMEについて調理器具は他の推定値よりも少ないと言うことで分析が十分としていますが、調理器具ではRMEとMTEは大きな差は生じません。それゆえ、RMEでは調理器具が低くなってもMTEからみれば、調理器具は依然、高い位置にあるのです。

この論文では総じて、一般人での寄与と、高曝露群で起きうるリスクとを混同した論理展開がなされており、これにより安全性あるいは曝露評価が確認できたと言うことは問題があると考えられる。

関連記事「Comprehensive Scientific Study Confirms Consumer Articles with DuPont Materials are Safe for Consumer Use」
(包括的で科学的な研究が、デュポンのPFOAを用いた日用品が消費者用に安全であることを確認した)

[2005/08/07]


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