つれづれなる概説

◆国内の状況について[全国河川水・沿岸海水の汚染]

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我々のグループで行った調査から紹介する。

 その前にいくらか前置きを。国内の水環境の調査については(独)産業技術総合研究所(旧工業技術院)環境管理研究部門で有明、大阪、広島、金武、石狩、東京湾、琵琶湖、支笏湖を測ったものがある。
雑誌名 Environmental Sciences and Technology
刊号 37:2634-2639(2003年6月15日)
件名 A Survey of Perfluorooctane Sulfonate and Related Perfluorinated Organic Compounds in Water, Fish, Birds, and Humans from Japan.
(和訳) 日本における水、魚、鳥、ヒトのPFOSおよびペルフルオロ有機化学物質汚染の調査
著者 Sachi Taniyasu, Kurunthachalam Kannan, Yuichi Horii, Nobuyasu Hanari, and Nobuyoshi Yamashita(産業技術総合研究所、茨城県つくば市)
 しかし分析の限界値が4.3ng/L(金武、石狩、支笏湖は2.5ng/L、有明は9ng/L)であり、25試料のうち17(16?)試料では測れていないことからも分かるように、比較的汚染が進んでいる地点でしか調査できていない。また、その結果を他の報告と比較するのは、状況が河川と湾、汚染事故の有無と違いすぎる気がしないでもない。さらには東京湾で比較的高濃度であるという彼らの研究から、フッ素化合物の汚染源が工業・流域下水道排水であると書いている。
 しかし、その論拠として引用したのは我々の研究報告であり、その中の多摩川の系統的調査ですでに汚染源について下水処理場放流水の可能性を指摘している。さも、自分らが発見したように記述するのはどうだろうか。仮に海水の測定値だけで判断したというのならとても論理的な判断とはいえない。(我々のデータの一点(下記157ng/L)だけを取り出して、それより東京湾が低いと展開している。他のデータは見えないらしい。)

と、ぶちまけたところで本題へ。(上記の論文は、魚類中の蓄積が本来中心なので、その点は評価しています、とフォロー。)
 さて、上で分析技術についてあれだけ文句言ったからには、こちらはどうなのか説明しておこう。
 分析法は書いてもあまり面白いというひとは少ないので、簡単にいうと、河川水での定量限界は0.1ng/Lであり、彼らの分析法より一桁以上も微量の汚染でも測定可能である(検出限界はさらに微量)。今の日本でこれで測ることができない河川水はほとんどないといっていいだろう。(参考までに岩手県環境保健研究センター年報はこちら
 我々のグループでは、この分析法を用いて、国内での水系の汚染状況とその汚染源について、全国の主要河川・沿岸海水の横断的調査と、特に多摩川と淀川の系統的調査を行っている。国内河川表層水サンプリングでは主要河川95点と淀川24点、多摩川7点総126点、さらに海水サンプリングでは15点から採取した全国的調査である。

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 測定の結果、すべてのサンプルでPFOSを検出した。測定値の範囲は0.2ppt-157ppt(幾何平均2.37ppt)であった。米国の汚染状況といってもHansenらによるテネシー川の系統的調査データしかないので何ともいえないのだが、それに比べると河川水汚染は少ないと思われる。テネシー川の途中、アラバマ州Baker’s Creek上流で平均32ng/L、下流で114ng/Lであるが、この間にフッ素化学工場が建ち並んでいるので下流のデータの一般化は難しい。上流のデータを用いていえば、日本との平均よりさらに10倍以上高い。
 一方で157ng/Lと高い汚染が多摩川にあり、系統的調査により、ある下水処理場の前後で急激に増加していた。また、その地点から下流に流れるにつれて濃度が下がっていった(希釈された)ので汚染源であることが強く示唆された。とはいえ、他の地域ではこれほど高い河川はほとんどないのはおかしい、というより多摩川がおかしいのであるが。淀川水系の測定結果を見てみよう。京都桂川の下水処理場の前後では確かに濃度が変化するがその程度は多摩川にくらべてずいぶん低い。工場などの有無で変化はあるが、生活排水由来の汚染が一定規模であると考えられた。まあ、PFOSの用途からいっても妥当かもしれない。

▲は下水処理場
 沿岸海水は範囲は0.2-25.2ng/Lで幾何平均1.52ng/Lであった。といっても名古屋港、横浜市山下埠頭、博多埠頭、甲子園海岸といったところでは、4ng/Lを超えているのに対して、釧路、青森県むつ、八戸、岩手県宮古、福島県相馬港、広島県元宇品島岸ではいずれも2ng/L以下と対照的である。これも湾の形状も加味しなければならないだろうが、工業化の程度は影響するといえる。
 日本と米国の差といっても米国内のデータがそれほどないのでなんともいえないが、それよりも日本国内での差が顕著であるのは確かなようである。一応これはPFOSについてのことなので、ほかの関連物質についても早急な調査が必要であろう。また3M社がPFOSの製造を中止したとはいえ、いまだ製造している企業もあるので汚染の様態をさらに追求しなければならないだろう(今後PFOSの汚染は進むのかどうか)。とりあえずこの分析法により水環境のPFOS汚染を確実に捉えることができるようになったのは特筆すべきことであろう。

[この研究についての論文はArchives of Environmental Contamination and Toxicology,45号2巻に掲載されました。]

[2003/06/23]

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