つれづれなる概説

◆第15回環境化学討論会の感想


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PFCに関連する発表の感想:

久しぶりに研究がらみで書き込みます。

2B-9 ○佐々木和明,八重樫香,齋藤憲光(岩手県環保研センター),金一和(中国医科大学公共衛生学院),原田浩二,小泉昭夫(京都大院医)
中国におけるPFOS 及びPFOA の汚染の現状
 水、ヒト血液中PFOA・PFOSの調査を行っています。
 水については揚子江を広く調査しており、上流から下流にかけて1桁pptのレベルで検出されています。PFOA・PFOSとも河口付近で3pptほど。部分的には2桁、3桁になっています。平均流量21,790 m3/sということですが、1pptとして21.79mg/s = 1.88 kg/dayといったところでしょうか(L-Q式は無視:-()。日本の安威川のPFOAポイントソースでは18kg/dayくらいのものがあります。
 また瀋陽の中国医科大学病院で保存されていた血清を分析しています。
n PFOS (ng/ml)
1987年 15 0.12
1990年 33 0.17
1999年 68 2.08
2002年 54 12.9
 90年代後半からの急激な増加が見られており、米国、日本におけるPFOSの経年変化とは大きく異なったトレンドとなっています。経済開放などの影響ではないかとされています。また2005年の集団では男性(n=36)、女性(n=83)について、PFOS 6.94, 16.98 ng/mlとなっており、女性が高い結果になりました。日本ではほぼ一貫して女性が低い結果を得ましたが、曝露とライフスタイルの間に違いがあるのかもしれません。
2B-10 ○高澤嘉一(国立環境研)
大気中フッ素テロマー類の分析法に関する研究
 PFOAの地球規模での拡散は揮発性前駆体のテロマー類、特にテロマーアルコールFTOHによるものではないかと考えられております。
 これまでそれらの分析の報告(トロント大学のScott Maburyなど)がありましたが、大気捕集、抽出については方法はばらばらで、やや面倒なものもありました。今回の発表ではいくらかの方法を検討しています。
 粒子相はこれまで石英繊維フィルターでの捕集でこれまで報告してきましたが、問題はガス相のものでした。
 典型的にはPUF(ポリウレタンフォーム)プラグで捕集するのですが、気温により捕集効率に大きな差が生じていました。カナダの冬期の場合は低温なのでPUFでも問題はないのかもしれませんが、日本程度ではほとんどが通過してしまいました。このためXAD-2樹脂での捕集もこれまで試みられていましたが、今回は活性炭素繊維フィルター(ACF)を用いたところが新しいです。捕集効率と事前の洗浄の簡便さで有利と思われます。
 抽出方法は溶媒浸漬、超音波、ソックスレー、高速自動加圧抽出装置で検討していますが、これまでの研究ではソックスレーが多かったのですが、溶媒浸漬で十分という結果を得ています(Maburyらも特にこの方法を用いています)。
P92 ○芹澤滋子(国立環境研),金東明( Pukyong National University, Korea),磯部友彦(愛媛大),堀口敏宏,白石寛明(国立環境研)
PFOS およびPFOA の東京湾への河川流入負荷の特徴
 東京湾へ流入する河川や周辺の下水処理場の影響を評価していますが、PFOAとPFOSでのパターンが異なるという結果を得ています。具体的にはPFOAは主に河川からの流入が多く、PFOSは周辺の下水処理場からの流入が同程度ということになっております。また東京湾の東部と西部での流入量にも違いがあり、排出源が地域ごとの特色を持ちうることが示唆されています。
P93 ○服部晋也,宮田雅典(大阪市水道局)
LC/MS によるPFOS 及びPFOA の分析方法の検討と河川水中の実態調査
 大阪付近での調査となっています。水道水の原水について、柴島の取水上付近ではPFOSよりもPFOAが高濃度であり(25-181ng/L)、近畿でも大阪などで水道水中、血中PFOAが高いことと関係がありそうです。淀川、桂川の調査ではほぼSaitoら(2004)の結果に近く、下水処理場の放流水が排出源の一つであるとされました。
P94 ○竹田智治,小高良介,花井義道,益永茂樹(横浜国大院環境情報)
河川によるPFOS 関連物質の東京湾への輸送
 鶴見川での調査を行っており、ペルフルオロカルボン酸PFCAについて、C6-C10までカバーしております。PFOSが特に多いですが、おもしろいことにPFOAよりPFNA(C7)が多く検出されております。いわゆる8:2FTOHテロマーアルコールからはPFOAが多いとされていますが、日本ではPFNA単独での利用もあると言うことなのでそれとの関連があるのかもしれません。またこれらは主に下水処理場の放流水が排出源ですが、それらのない上流でも同様のパターンを示すことから大気中、未処理排水などの関与もありそうということです。
P95 ○西野貴裕,大野正彦,佐々木裕子(東京都環科研),高澤嘉一,柴田康行(国立環境研)
都内水環境におけるPFOS の汚染実態
 東京湾での底質コアを採取し、1950年代以降のトレンドを明らかにしています。
 0.2 ng/gほどから1.5 ng/gほどに1950年代から1990年代にかけて増加傾向がPFOA・PFOSで見られました。特に70年代以降の伸びが顕著でした。
P96 ○横山佳幸,竹田竜嗣,神谷健太,生嶋一貴(近畿大農),森田全律(近畿大共同利用センター)坂上吉一,米虫節夫,沢辺昭義(近畿大農)
奈良県内の大和川水系におけるPFOA,PFOS の動態調査とエストロゲン活性
 FTOHにエストロゲン活性が見られたことはEnvironmetnal Health Perspectivesに掲載されていましたが、PFOA・PFOSについてはネガティブな結果でした。今回の研究ではPFOSには活性はやはりない、かなり高濃度10mM以上でなければ見られませんでしたが、PFOAについては10micro Mで活性が確認されており、EHPでのテロマーアルコールと同程度のレベルから活性が見られております。
 EHPの結果を確認しましたが、確かにピークエフェクトは低いものの活性を示すようなデータがありました。EHPの著者らはテロマーアルコールがより顕著としていますが、濃度で見ればPFOAがより高いのでこちらも重要ではないかと考えられます。
 ちなみにPFNAはEHPのデータでは活性がなく、近い構造でも受容体との結合は違うようです。またEHPではMCF-7を用い、この研究では酵母two-hybridアッセイということもあるのでピークエフェクトの違いがあるのかもしれません。
P97 ○ Keerthi S. Guruge (National Institute of Animal Health), Pathmalal M. Manage(University of Sri Jayewardenepura), Leo W.Y. Yeung (City University of Hong Kong), Noriko Yamanaka(National Institute of Animal Health), Hiroshi Hoshiba(Kagoshima Central Animal Hygiene Service Center), Shigeru Miyazaki (National Institute of Animal Health), and Nobuyoshi Yamashita (National Institute of Advance Industrial Science and Technology)
Gene and biochemical response in PFOA treated rats
P98 ○堀久男,山本亜理,忽那周三(産総研)
過硫酸塩を光酸化剤として用いた水中のパーフルオロオクタン酸(PFOA)の迅速分解
 業務用ワックス中のPFNAの分解を例にして分解法の有用性を示していました。
 どちらかというとワックス中のPFNAに興味があります。

以上のような発表がありましたが、まだまだ排出源の特定に向けた研究がこれから必要ではないかと思いました。
ナイトミーティングでは今後の有機フッ素化合物の規制もにらみ、関心を持たれている方が多くいらっしゃいました。

[2005/06/27]


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