新聞報道への注釈
・高濃度の有機フッ素汚染 大阪市周辺、京大が確認
動物実験で発がんとの関連などの毒性が指摘されている(参考文献1)、有機フッ素化合物の一種による水質汚染が全国に広がり、中でも大阪市とその周辺では高濃度で(参考文献2)、住民の血中濃度も高くなっている(参考文献3)ことが京都大学の小泉昭夫教授(環境衛生学)らのグループによる調査で二十一日までに分かった。
検出されたのはパーフルオロオクタン酸(PFOA)という物質。調理器具や繊維製品などに焦げや汚れが付かないようにする加工や撥水(はっすい)剤などフッ素関連製品の製造過程から環境中に放出される(参考文献4,5)と考えられている。
大阪市周辺には大きな発生源があるとみられるが、詳細は不明。人への影響などはまだ分かっていないことが多く、小泉教授らは健康影響を含めた詳しい調査の必要性を強調している。
二〇〇三年、北海道から九州まで約八十カ所の河川水を調査した結果、全地点でPFOAを検出。汚染の広がりが明らかになった。ほとんどの地域は水一リットル中に数ナノグラム(ナノは十億分の一)から十数ナノグラムだったが、兵庫県の猪名川で四百五十六ナノグラム、大阪市の淀川で百四十ナノグラムと高濃度だった(参考文献2)。
周辺をさらに調べた結果、淀川支流の安威川にある下水処理場周辺で採取した試料から六万七千-八万七千ナノグラムと、世界的にも最高レベルの汚染が確認された(参考文献2)。また全国十地域で計二百人の血中濃度を調べた結果、京都、大阪、西宮各市の住民の濃度が他地域に比べ目立って高いことも判明(参考文献3)。大阪市の水道水中のPFOA濃度が仙台市など他地域の三百倍にもなったことから(参考文献2)、人体汚染は飲料水が一因とみられるという。
さらに昨年、安威川近くの大阪市内で二つの井戸の水を採取し、大阪府立公衆衛生研究所の協力で測定したところ、水一リットルに八千三百ナノグラムと五万七千ナノグラムのPFOAを検出(参考文献6)。地下水汚染も広がっている可能性が高いことが分かった。
米国では環境保護局と企業側との協定で、五百ナノグラムを超えたら企業が飲料水の浄化などを行うことになっている(参考文献7)。
パーフルオロオクタン酸(PFOA) フッ素を含む有機化合物の一種。動物実験で肝臓毒性や発達への影響、発がん、肥満との関連などが指摘されている。環境中で分解されにくく、日本や欧米などの人間の血液中に蓄積していることが分かって注目された。極域の生物など広範囲の環境汚染が問題化、欧米では生産規制が検討され、日本の3社を含む世界のフッ素樹脂メーカーなどが昨年、米環境保護局と共同で、環境への排出削減に自主的に取り組むことになった。環境省の調査でも河川水、大気、食物などから検出され、水の中の最高濃度は水1リットル中100ナノグラムだった。
参考文献1
PFOAは動物実験がラット(ドブネズミ)で行われている。肝臓がん、精巣Leydig細胞腫瘍、膵臓腺房細胞腺腫の腫瘍を引き起こす(Kennedy GL, Jr., Butenhoff JL, Olsen GW, O'Connor JC, Seacat AM, Perkins RG, et al. The toxicology of perfluorooctanoate. Crit Rev Toxicol. 2004;34:351-384.)。動物での発がん性をヒトに適用できるかについて、米国環境保護庁(EPA)科学諮問委員会はPFOAが”ヒトで発がん性であるらしい(likely human carcinogen)”と判断した(http://www.epa.gov/sab/pdf/sab_06_006.pdf)。EPAの発がん性物質リスク評価ガイドラインにでは”Carcinogenic to Humans”, “Likely to be Carcinogenic to Humans”, “Suggestive Evidence of Carcinogenic Potential”, “Data are Inadequate for an Assessment of Human Carcinogenic Potential”のように順位づけられる。ヒトではフッ素化学工場労働者での前立腺がんの増加が過去指摘されたが(Gilliland FD, Mandel JS. Mortality among employees of a perfluorooctanoic acid production plant. J Occup Med. 1993;35:950-954)、評価は定まっていない。
参考文献2
Saito N, Harada K, Inoue K, Sasaki K, Yoshinaga T, Koizumi A. Perfluorooctanoate and perfluorooctane sulfonate concentrations in surface water in Japan. J Occup Health. 2004;46:49-59. http://dx.doi.org/10.1539/joh.46.49
京都大学と岩手県環境保健研究センターとの共同研究。下図1の河川79カ所で採水し、分析が行われた。表のように地域別に平均濃度をみたところ、近畿地方でPFOA濃度が高いことが確認された。さらに近畿地方の代表的河川として、淀川水系と隣接する神崎川を調査した(図2)。
淀川の流下とともにPFOA濃度は高くなっていた。下水処理場付近でやや高くなっていく。河口付近がもっとも高かった。神崎川を調査すると淀川より高濃度で、大阪湾に注いでいることが分かった。そこで、神崎川をさかのぼり、安威川で最大になる点が見つかった。A5は安威川流域下水処理場の放流口が存在する。
京阪神地域での飲料水は琵琶湖、淀川に頼るため、調査を行った。PFOAは大阪、兵庫県尼崎市、神戸市での飲料水で東北地域に比べ高濃度で検出された。
参考文献3
Harada K, Koizumi A, Saito N, Inoue K, Yoshinaga T, Date C, et al. Historical and geographical aspects of the increasing perfluorooctanoate and perfluorooctane sulfonate contamination in human serum in Japan. Chemosphere. 2007;66:293-301. http://dx.doi.org/10.1016/j.chemosphere.2006.05.010
2003-2004における日本国内10地域のPFOS・PFOA濃度調査
健診由来血清試料、男女各10検体、計200検体を分析。
PFOAは近畿地方で特に高く、米国での平均レベルよりも高かった。
過去の血液を測定し、経年変化を追跡。京都大学病院外来患者由来、1983年から1999年までの5時点、男女各10検体、計100検体で、PFOAが16年間で高い伸びを示した。
参考文献4
Prevedouros K, Cousins IT, Buck RC, Korzeniowski SH. Sources, fate and transport of perfluorocarboxylates. Environ Sci Technol. 2006;40:32-44.
PFOAの由来は直接的、間接的な発生源がある。直接的なものは、PFOA製造過程での放出が1950年代から現在まで続いている。フッ素ポリマー製造過程での放出は1951年から現在まで続いている。さらにフッ素ポリマー分散剤製品中に混入している。消火剤としての利用は1965年から1974年まであった。民生品、産業用品には電解メッキ処理、床磨き、光沢剤への利用がある。間接的にはPFOA以外のフッ素化学製造過程で不純物として生成する可能性がある。放出量(estimated total global historical PFCA emissions)は下の表のように推定されている。
参考文献5
日本弗素樹脂工業会「ふっ素樹脂製造メーカーからのPFOA排出量の削減活動についてのお知らせ」http://www.jfia.gr.jp/kouhou/pfoa.pdf
「PFOAとは、パーフルオロオクタン酸(Perfluorooctanoic acid)の頭字語です。一般に広く知られていませんが、ふっ素樹脂製造には重要で不可欠な化学物質」
参考文献6
第80回日本産業衛生学会 小泉昭夫、大野佐代子、原田浩二、浅川明弘、井上佳代子「難分解性Perfluorooctanoic acid(PFOA)による地下水汚染」
平成18 年10 月から11 月にかけて、大阪市東淀川区において2つの井戸から、8L の水を採取した。地点A で測定したサンプル中の濃度は、PFOA:8300ng/Lであり, 地点B で測定したサンプル中の濃度は、57,000 ng/Lであった。2 点とも、PFOA が高濃度に検出され、EPAの設定する基準値の16.6 倍、114 倍と極めて高い値を観察した。A 採取点では、飲料水として不定期ながら使用しており使用を禁止するようお願いした。また今回の2 地点は、高濃度のPFOA による汚染が観察された安威川に近く、付近一帯の地下水汚染が発生している可能性が極めて高い。今後汚染源、汚染の広がりの掌握と健康影響などについての調査が必要である。
参考文献7
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/apr/policy/rr_PFOA.html
http://www.epa.gov/region03/enforcement/dupont_factsheet.html
ウエストバージニアでの水質汚染が規制を受ける。PFOAを使用するデュポン社などが米国環境保護庁と自発的な使用の削減を同意したが、2006年11月に環境保護庁とデュポン社は水質基準値を500ng/Lとすることに同意した。ワシントンワークス工場の近辺で公共水道もしくは私水道で基準値を超えた場合にデュポン社が水質浄化または清浄なペットボトル水を提供することになった。
ニュージャージー州では特に厳しい基準値として、50 ng/Lを打ち出している。