インフルエンザ治療薬に耐性のインフルエンザウイルスのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ

耐性ウイルス

新規インフルエンザ治療薬に耐性を持つというウイルスが、その新規治療薬を使用した患者さんから検出されたという事で、2018.1.25にニュースが流れました。その治療薬は、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ (cap-dependent endonuclease) 阻害薬で、一般名バロキサビルマルボキシル (baloxavir marboxil) と呼ばれる医薬品です。ニュースではどういった検査をして「耐性」を確定したかは述べられていませんでした。ソースの情報によるとターゲット分子であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの変異であるPA I38T、I38F等を監視していることが述べられています。これらの変異はNCBIのデータベースに以前より存在していますので、普通に世の中にいるウイルスが持っていた変異だろうと思われます。そして、治験時には10%弱の被験者にこの変異が見られました。治験の情報によりますと、この変異を持っているウイルスにかかった被験者では、治療5日目、9日目にウイルスが検出された割合が野生型のウイルスにかかった被験者より高くなりました。1

この治験データで少し目に留まるのは、プラセボ治療群より変異ウイルスに対する実薬治療群の方がウイルスが検出される被験者の割合が高くなる様に見える点です。力価のグラフを見ていると、耐性ウイルスは一旦力価が低下した後、6日目あたりに再び力価が上昇するようなカーブを描いて見えます。これらのデータが、臨床的に深刻な問題なのかは何とも言えません。詳しく知りたい方は原著1販売メーカーの資材を見てご検討ください。

PAに耐性変異があると医薬品が全くPAと相互作用しないのか?

PA分子の結晶構造が公開されています2ので、これを利用し耐性のメカニズムに迫る。とか言うたいそうな話ではなく、とりあえず眺めてみました。黄色がbaloxavir acidです。(医薬品のbaloxavir marboxilとは、若干構造が違います)青が活性中心付近に側鎖を出しているアミノ酸残基。そして、ピンクが変異がある場所です。

野生型構造

PA I38T の耐性を有する構造

I38Tの変異があっても、作用点にbaloxavir acidが一見きちんとハマっているようです。水素結合を作っているであろう原子間の距離が微妙に違うので、ファンデルワールス力が違い、結合の強さに差が出るのかもしれません。科学的に厳密なディスカッションは、論文2をご確認ください。

お遊びで、いつもより多めに回してみました。

1.
Hayden F, Sugaya N, Hirotsu N, et al. Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med. 2018;379(10):913-923. [PubMed]
2.
Omoto S, Speranzini V, Hashimoto T, et al. Characterization of influenza virus variants induced by treatment with the endonuclease inhibitor baloxavir marboxil. Sci Rep. 2018;8(1):9633. [PubMed]

2件のコメント

  1. 特定使用成績調査の結果がアムステルダムで開催された欧州臨床微生物学感染症学会議、および2019年8月28日~9月1日にシンガポールで開催されたOptions X for the Control of Influenzaにて発表されたというプレスリリースが発表されました。
    同薬剤使用後の耐性変異を有するウイルスの解析方法には残念な部分があって、使用後の再受診時にウイルスが検出されたヒトを対象に使用後の耐性変異の有無を調べています。その結果で群分けをしたような集計で、耐性変異の検出された群と耐性変異のなかった群での有熱期間(解熱までの期間)が比較検討されています。以下の様な問題点があって、評価が難しいにもかかわらず、「差がない」という主張をしているような報道がなされているのは残念です。
    問題点1.耐性変異あり、なしはともに治療後にわかるいわばアウトカムの一種であって、これを基に分けた群間で別のアウトカムである「有熱期間」との相関を見ている。この両者は関連性が想定されうるアウトカム同士であって、交絡を生じうる。
    問題点2.治療後の再受診時にウイルスが検出されなかったという最も多い集団が比較の対象から除かれている。
    問題点3.耐性変異なし21例、耐性変異有り9例という例数が少ない割にデータにばらつきがある。これで十分評価できるかどうかについての設定が無いので、差がないのか検出力が弱いだけなのかが解らない。
    ただし、こうした解析に対する不満点は使用成績調査一般のものであって、この医薬品、この会社に限ったものではありません。
    あと、プレスリリースの「母数」は誤りなので恥ずかしいです。文脈から読み取ると、母数(parmeter)ではなく、解析対象の集団を意味するcohortあるいは、算術的な分母であるdenominatorが言わんとするところでしょう。

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