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震災日記7

震災日記7(2011年6月1日〜30日)

このページは、本ホームページの管理人である室月淳の,東日本大震災後の日々のひとりごとを書かせていただいています.報道は徐々に原発事故が主体となり,地震や津波による被害のことは遠いできごとになってきた雰囲気があります.しかしすべてはこれからです.

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3度目のK市立病院へ - 2011年6月2日(木)

これまで当院が支援をいただいていた国立成育医療研究センター周産期診療部部長である左合治彦先生をお連れして,K市立病院の視察にまいりました.夕方は市内の被災地である鹿折地区をまわって帰ってきました.

左よりS先生,U科長,産婦人科研修中のレジデント,成育医療センターから視察に来られた左合治彦先生,わたしです

津波で河口から川へ押し流され,川岸に乗り上げた漁船

市内鹿折地区は津波の後に火事で壊滅し,いまだに瓦礫の山がほとんど片づいていません

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今日からN先生が気仙沼入り - 2011年6月7日(火)

気仙沼市立病院の支援として,本日から埼玉医大のN先生が直接気仙沼入りする予定です.心よりお礼を申し上げます.

N先生とは先月の日本超音波医学会でご挨拶してお話しすることができました.無事に病院に着かれましたでしょうか?

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総選挙,結果が出ました! - 2011年6月9日(木)

あっちゃん1位に返り咲き.押しメンのきたりえは,これも13位に復帰です.この話題は震災と関係あるようでまったくありません,のでおしまい(^_^;)

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今日で3か月 - 2011年6月11日(土)

亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます.

3か月たっても復興は遅々として進まないとばかり思っていましたが,国外のメディアでは,「3か月でのこの復興の速さ!」というニュアンスの報道が多くなされていてびっくりします.たまには外国での報道を読んで,少しだけ自信と誇りを取り戻すのもいいかも知れません.

下の写真は,イギリスのインターネットメディア"Daily Mail"からの引用です.左側の船に見覚えがあるので,ここは鹿折地区に近いところだったと思います.こうやって見比べてみればやはりだいぶ違うものですね.

Back from the dead: Astonishing pictures show how Japan is recovering just three months after tsunami

By Emily Allen

Last updated at 3:58 PM on 10th June 2011

被災直後と3か月後.勝手に転載してしまいました

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Facebookでの呼びかけ - 2011年6月12日(日)

現在,当宮城県立こども病院産科では東北大学病院産婦人科とも相談しながら,地震と津波の直接の被災地であるK市立病院を支援しています.

これまで個人的なつながりで産婦人科医に呼びかけてボランティア希望者を募り,毎週の平日の3-4日間ずつ,交代で手伝いに行っております.もし一度お手伝いしても構わないという先生がいらっしゃいましたら,ぜひともわたしまでお声をかけていただけませんでしょうか.

K市立病院の常勤医は2人で,9年目の科長と6年目の医師の若手コンビですが,ふたりとも元気によく働いています.しかし津波の被害により市内の開業医2軒が壊滅し,その分の分娩と産婦人科救急,産婦人科一般診療が集中しています.5月からは婦人科の定期手術も再開しましたのでなかなかたいへんな状況です.分娩も最近は少し緩和された状態になってきましたが,月50件弱くらいのペースです.

本当は常勤医が3-4名くらい必要なところですが,どこも人的余裕がなくなかなか厳しい状況です.日産婦学会がK市立病院への支援を終了した4月上旬以降は,毎週土日の週末を東北大から,平日数日間を当科を中心に個人的なボランティアによってお手伝いを続けてきました.これまで全国から来られたボランティアの先生方には心より感謝申し上げています.

6-7月の応援の目途はついているのですが,8-9月は今のところまだ何も決まっていません.先生方の中で,8月か9月のどこかの火曜日〜金曜日の3-4日間をお手伝いいただける方はいらっしゃいませんか?

仕事内容はまったくふつうの産婦人科医の仕事です.午前中の外来(主に妊健),夜の分娩の宅直が主な仕事になります.バイト代はでません(申しわけありません)が,往復の交通費は支給,宿泊は病院そばの官舎で,三食は病院内の食堂で出ます.

K市立病院は築40年の古い建物ですが,500床の地域中核病院です.若いレジデントが多く,院内は非常に活気にあふれています.病院は市街地ですが,小高い丘の上にあったため,ギリギリ津波の被害に遭わずにすみました.

先日,三度目のK市入りしてきました.添付写真は鹿折地区といって,震災より3か月近くも立ちますが,瓦礫の山はそのままかなり残っており,復興はかなりゆっくりとしたペースです.

被災直後はDMATなどを初めとした多くの医療支援団がかけつけ,多大な貢献をしていただいたことに深く感謝しています.3か月たった今は,そろそろ自らの力での医療再建を求められていますが,こと産科医療についていえば,震災直後と状況はあまり変わっていません.もともとギリギリの医師数で行っていた地域ですから,開業医の先生方が地域を去り,その分もプラスされた地域中核病院の負担は,今後よくなっていく見込みがいまだあまり立っていません.

世間的には過去のできごとになったかもしれない大震災ですが,被災地への支援はむしろこれからといっても過言ではありません.どこも余裕がないかとは存じますが,一度,被災地をこの目でみたい,そして数日のお手伝いしても構わないというお気持がありましたら,ぜひわたしの方までご一報いただけませんでしょうか.

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講演会「フィラデルフィア小児病院での胎児治療」 - 2011年6月13日(月)

フィラデルフィア小児病院で,胎児治療の研究と臨床の勉強をされてきた遠藤誠之先生に,本日,宮城県立こども病院愛子ホールで胎児治療について講演をしていただきました.参加者は56名で,院内のみならず院外からも多数の参加者がありました.

遠藤誠之先生は,研究としては「胎児の遺伝子治療」を専門とし,また臨床面では胎児診断治療専門医のトレーニングプログラムであるFetal Diagnosis and Therapy Fellowshipを終了された先生です.

講演は,フィラデルフィア小児病院で行われている胎児治療として有名な「脊髄髄膜瘤に対する胎児外科手術」(MOMS trial)の紹介が中心で,「胎児心に対するカテーテル手術」の話にも触れた内容でした.いずれも欧米ではすでに臨床的に始まっている胎児手術です.産科以外の多くの先生方の関心をひきつけました.

夜遅くまで盛り上がりました.遠藤先生は明朝6時の新幹線と在来線で気仙沼入りして,ボランティア支援をしてくださいます<(_ _)>

講演中の遠藤誠之先生

愛子ホールは参加者でいっぱい(参加者総数56名)

文化横丁の寿司本で夜遅くまで盛り上がりました

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エコチル追加調査の打合せ - 2011年6月14日(火)

「エコチル」というのは,およそ10万人の母子を登録し長期間にわたって追跡調査を行うものであり,おそらくわが国での初といってもいい本格的な大規模コホート研究です.妊娠中から出生して13歳に達するまで,定期的に健康調査を行い,化学物質の曝露や生活環境などの環境要因が子どもの成長・発達にどのような影響を与えるのかを明らかにするものです.

本年度から開始する予定でしたが,この震災の影響でスタートが遅れています.われわれは宮城県内の調査において,この震災自体,および避難生活のストレスが母子の妊娠出産過程,成長過程にどういった影響を及ぼすか,それを追加調査として提案しています.

Ducth famineと呼ばれる第二次世界大戦下の飢餓状態のアムステルダムで出生した子が,成長後に高血圧,耐糖能異常,虚血性心疾患の発症率が有意に高かったというDOHaD理論の疫学的データのひとつがあります.同じような意味で,これから宮城県,特に沿岸部で生まれてくる子どもたちの今後の成長過程が注目されます.

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工学系研究科との共同研究 - 2011年6月15日(水)

当講座(東北大学大学院医学系研究科胎児医学講座)は,東北大学大学院工学系研究科の金井研究室と共同研究を行っています.震災の影響により研究が滞っていましたが,しばらくぶりで工学系研究科を訪問し,金井教授,長谷川准教授と研究の打ち合わせに行ってきました.

これまでわれわれは両先生のご指導をいただき,「位相差トラッキング法」という新しい超音波解析システムを用いて胎児循環動態を評価してきました.主に胎児の大動脈,下大静脈,心筋厚み変化などを,正常コントロール群と病的胎児群との両方で計測してきました.

特に双胎間輸血症候群といわれる特徴的な循環動態の変動を示す疾患や,胎児胸水などの症例に,胎児鏡下手術や子宮内シャント術などの侵襲的治療を加えた前後に起こる循環動態の大きな変化が位相差トラッキング法で明瞭に捉えられています.

ただし今までのシステムは,アナログ時代の超音波診断装置をわざわざ中古で探して改造し,取り出したRF信号を外付けのデスクトップパソコンで解析するシステムです.もともとの超音波装置の解像度がきわめて悪いため,胎児血管の描出すらにも困難を感じることがありました.

胎児治療の前後で認められた大動脈や下大静脈の血管径変化波形にみる特徴的変化については,一度ここで論文にまとめることにして,今年度からはさらに踏み込んだ臨床研究に入る予定です.メーカーの協力もいただいて,最新の超音波診断装置を導入して新しいシステムを構築する予定です.

位相差トラッキング法では血管径変化波形が高い精度で出せるため,それを血圧脈波に見立てて胎児循環を評価できそうなのですが,成人と違って血圧を実測してキャリブレーションする方法がなかなかありません.これまでの周産期医学では「胎児血圧」という概念がありませんでした.それは実測する方法がなかったからです.

しかし妊娠分娩中のストレスにより,胎児が脳性麻痺などの神経学的後遺症を起こすのは,低酸素というよりは中枢神経系への灌流不全,すなわち低血圧によると考えられています.胎児血圧を推定する評価方法が確立したら,周産期の臨床では大きなブレークスルーになる可能性があります.われわれは新しい胎児の評価法を目指しています.

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「致死性」という病名 - 2011年6月16日(木)

「致死性四肢短縮型小人症」という言葉が産科の分野であります."Lethal short-limbed skeletal dwarfism"の翻訳です."dwarf"ということばが差別的なニュアンスをもつということもあり,欧米では早々に使われなくなったのですが,日本では産科医の間で便利な言葉としてずいぶん最近まで使われていたと思います.

超音波によって四肢の骨が極端に短く,生まれてきて多くは生きていけない一連の先天疾患を漠然と指すことばです.時代や筆者によって,その対象は7疾患だったり,11疾患だったりしたのですが,実際に詳細に検討してみると,現在ではその半数以上が長期生存可能な生命予後の悪くない疾患です.きちんとした診断の個別化の必要性や,新生児の呼吸管理の進歩が認識されるようになって,さすがに現在ではあまり聞くことがなくなってきました.

「致死性骨異形成症」に関しては,昨年行った全国調査で1年以上の生存が3割をこえることが明らかになりました.もちろん依然として厳しい疾患であることは間違いありませんが,「致死性」という病名に関しては,ご両親はもとより,産科医や主治医となる新生児科医からの反発が強いことも明らかになっています.

「致死性骨異形成症」は"thanatophoric dysplasia"の翻訳です.Thanatophoricはもともと古代ギリシャ語で,確かにその意味は「致死性」です.「エロスとタナトス」などと言うときの「タナトス」ですよね.ただし欧米の一般人にとってはおそらく難しすぎて,"thanatophoric dysplasia"と病名を告知されたとき,それを"lethal"の意味だとはふつうは理解できません.すなわち単なる固有名詞としてしか響かないのです.ですから欧米では告知に際して,日本と同じような深刻な問題はおきていないようです.

ですから日本語にそれを訳すとき,わざわざギリシャ語の辞書を引っぱりだして調べ,「致死性骨異形成症」とする必然性がありません.これは「タナトフォリック骨異形成症」とそのまま訳せばいいのではないかとわたしは思っています.

これは当事者や家族の要望というよりは,むしろ臨床現場の要請に基づくものです.産科医にとっては,ほとんどの例が妊娠中期に以降に見つかり紹介されるものであり,新生児科医にとっては,今目の前にいる赤ちゃんを治療しているわけです.そういった主治医が家族にお話しするときに「致死性何々症」ということばを使うときの気持を推しはかっていただければ,こういった主張を理解していただけるかと思います.

  • 2011年6月16日 読売新聞記事

「致死性」病名変更検討を…「骨異形成症」1年以上生存3割

(以下,記事からの引用)

先天的な骨の異常で出産直後に死亡するとされてきた難病の「致死性骨異形成症」について、人工呼吸器で1年以上生存する例が3割あり、「致死性」との病名は妥当でないと考える医師が少なくないことが、厚生労働省研究班(班長・沢井英明兵庫医大准教授)の調査でわかった。

16日から京都市で始まった遺伝医学合同学術集会で発表する。

この病気の子供は胸の骨が正常に形成されず呼吸障害が生じる。2万〜5万人に1人発症するとされる。

研究班は、全国1156施設に、2005〜10年に診た患者についてアンケートし、428施設(37%)から回答を得た。報告のあった51人の患者のうち、24人(47%)が60日以上生存し、うち16人(31%)が1年以上生存。23年生存している例も1人あった。

医師352人に病名の妥当性について尋ねたところ、145人(41%)が「妥当でない」とし、「妥当」の50人(14%)の約3倍あった。沢井准教授は「病名は実態に即しておらず、変更を考えるべきだ」としている。

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遺伝医学合同学術集会 - 2011年6月17日(金)

昨夜に京都入りして,京都大学時計台記念館での上記学会に参加しました.

午前中は「ブロック別出生前診断研究会世話人会」が行われ,各地の出生前診断研究会を統合して,来年,松本で開かれる遺伝カウンセリング学会にあわせて全国研究会を開催する方向で合意ができました.

午後は「日産婦周産期委員会胎児骨系統疾患小委員会」を主催しました.

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雨の湖北 - 2011年6月18日(土)

以前から念願の高月の十一面観音巡礼に行ってきました.

雨の渡岸寺

国宝十一面観音立像

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学会最終日 - 2011年6月19日(日)

決して貼り逃げではありません.これがアリバイです.

宮下進「宮城県立こども病院における羊水染色体検査の現状と問題点」

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本日からS先生が気仙沼入りです - 2011年6月21日(火)

気仙沼市立病院の支援として,本日から埼玉医大のS先生が気仙沼に行かれる予定です.S先生とはご面識もなく,直接あってお礼をいう機会もなかったのですが,改めて心より感謝申し上げます.これからの4日間,無理をせずにお過ごしください.

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講演会「クリーブランドクリニック研修報告」 - 2011年6月27日(月)

兵庫県立こども病院産科の嘉吉賢二先生が当院を訪問され,「クリーブランドクリニック研修報告」という講演をされました.

昨年にスカラーシップを取り,2週間ほどアメリカで産科医療の研修を受けられたそうです.ネット上にアップされたその研修報告が非常におもしろかったので,特にお願いして当院の医師,助産師,看護師のまでお話をしていただきました.

「クリーブランドクリニック研修報告」

わたしが特にに興味をひかれたのは,(1) Preceptorship Program in High-Risk Obstetrics and CardiovascularDisease という研修プログラム,(2) アメリカでの産科医療の実情,(3) クリーブランドクリニックで研修する医師が,年1 回受けなければならないシナリオシシミュレーション研修の内容について,の3点でした.

(1)はとてもいい研修プログラムのようで,もし応募が可能であればだれかにぜひ受けさせたいものです(わたしが行ってもいいくらい).

(3)については,われわれも産科医療の実技講習プログラムの重要性を非常に痛感していて,実はALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)というトレーニングコースを取り入れています.それとはまったく違った別のオリジナルプログラムということで大いに参考となりました.

講演する喜吉賢二先生

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喜吉賢二先生からのメール - 2011年6月28日(火)

室月先生,

朝、なんとか予定通りに気仙沼まで来れました。やっぱり、着くなり、妊婦さんの列が、、、。日頃、ハイリスク外来しかしておらず、数を多くするのは久方ぶりでしたので、少し戸惑いました(--;)

午後は、あまりイベントも無さそうで、むしろ今日、町の様子を見に行かれたらどうですか?とのことで、支援物資の中古自転車で街をうろうろしていました。テレビではわかり得ない惨状、復興の遅れを目の当たりにして、阪神の時とはあまりにも違う震災の規模を実感しました。

ただ、病院近辺はいろいろと復興していて、元気な様子も見れて、そこは安心できました。まだいろいろと書きたいことは思い浮かびますが、だらだらとなってしまうので、この辺にしておきます。

常勤医の両先生にもよくしていただいてます。むしろ迷惑をおかけしているように思いますが、夜はゆっくりしてもらえるようにしたいと思います。

(喜吉先生のご了解をいただいて引用させていただきました.写真もfacebookへの投稿から転載させていただきました)

気仙沼警察署は市街地の港からはやや離れたところにありますが,3月11日は矢印のところまで水がきたというわけです

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カウンタ 4612 (2011年8月1日より)