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塩酸リトドリンの薬物動態理論による投与プロトコール

塩酸リトドリンの薬物動態理論による投与プロトコール

                                 (2018年5月20日 室月淳)

塩酸リトドリンのshort tocolysisについてやや専門的に解説させていただきます.この内容については長崎医療センターの安日一郎先生にいろいろとご教示いただいております.

塩酸リトドリンが登場した1980年代,アメリカでは loading および weaning regimen として Caritis protocol が基本でした.すなわち投与開始 50μg/分,20分ごとに50μg/分ずつ増量し,子宮収縮が抑制されたらその量で1時間維持,その後は20分ごとに減量し,有効最低投与量を12時間維持したあと,48時間以内で投与を中止するというプロトコールです.

この方法は,(もちろん1980年代ですから)臨床的エビデンスにもとづいたものというよりは,塩酸リトドリンを長期間投与するとβ受容体のdown regulationがおこるという薬物動態理論にもとづいて,有効性を最大にしながら,かつ副作用の発生を最小にするという観点から提唱された投与法でした.基本的に循環作動薬である塩酸リトドリンは,開発当初から副作用がつよい薬剤ということがしられていたため,最大投与量(極量)を350-400μg/分としながら,投与は短期間で終了するというコンセプトで使用されることになりました.

一方,わが国ではなぜこのCaritis protocolというコンセプトがはいらず,導入当初より低用量長期持続投与(最大投与量 200μg/分)でもちいられたかは,いまになってははっきりしたことがわからないのですが,当時日本ではテルブタリン持続療法がおこなわれていて,おそらくリトドリンがそのテルブタリンの代用のような役割をするようになったのではないかと推測しています.

その後欧米では,β2 stimulantの有効性について多くのRCTがおこなわれ,48時間までの早産減少効果を認めたのですが,それ以上の有効性はなしという結論になっています.北米ではすでに塩酸リトドリンの承認は(その副作用の多さのため)取り消され,ヨーロッパでは投与を48時間内にときびしく制限されていて,近年はあまり使用されなくなっています.また経口剤については有効性なしということで欧米ではいっさい使われておりません.

塩酸リトドリンの副作用については,欧米では容量依存性で出現する頻脈,心不全などの報告が多いのですが,国内でよく知られているのは肺水腫,肝機能障害,横紋筋融解,顆粒球減少といったいわゆる慢性期副作用といわれるものが主です.これはあきらかに国内では塩酸リトドリンが低用量でありながら長期にわたって持続で使用されているためと考えられます.

子宮収縮抑制にたいして安全な代替薬(たとえば欧米で使われているオキシトシン受容体拮抗剤であるアトシバンなど)があれば,塩酸リトドリンの薬事承認を取り消して別な方法でのトコライシスをすべきと考えていますが,残念ながら本邦ではいまだ未承認の状態です.せめてエビデンスがあり,欧米でもおこなわれていた塩酸リトドリンのshort tocolysisに,国内でもきりかえていくべきというのがわたしの主張です.

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カウンタ 1133(2017年5月20日より)