2019年 ACP日本支部講演会 Women’s Committee企画報告
Women’s Committee委員長 山本典子 やまもとクリニック院長 FACP
Women’s Committee 委員長;山本典子 副委員長;川嶋乃里子
メンバー;新井桂子 森島祐子 松本衣里 三木綾子
「Healthcare Reformを考える。」2019年6月9日 日曜日 11時55分より14時 京都大学 時計台百周年記念講堂 国際交流ホール2
- Opening Remarks :川嶋乃里子先生
- 働きたくなる病院へ:イージェイネット代表 瀧野敏子先生
- How the maternity leave system works in the US and how to keep work-life balance?:Sapporo Tokusyuukai Hospital Dr.Shadia Constantine
- 飯塚病院緩和ケア科のダイバーシティマネージメント:飯塚病院緩和ケア科部長 柏木秀行先生
- 東京女子医大の取り組み、これまでとこれから。学生から再教育、再就職まで生涯にわたる人材育成と働き方改革:東京女子医大成人病センター教授 岩崎直子先生
- キャリア支援×患者安全=働き方改革 岡山大学の12年の取り組み:岡山大学大学院医歯薬総合研究科 地域医療人材育成講座 片岡仁美先生
まず瀧野先生は NPO法人をつくりホスピレートという病院評価を行うことをなさっています。これを始めたきっかけなどのお話があり、女性医師が働きやすい病院の評価ということで始めたということですが、若い医師たちのワークライフバランスを重視する人が多くなったという変化や女性医師が時短などの条件で入職し働いても、患者さん重視でなく帰るころには患者をみないとか、自分の生活重視に偏り男性医師に迷惑がかかったりするようなことも出てきて、最近は保育所や時短などの条件面だけではなく、医師がモチベーションを高く持って輝けるようにするということを評価にいれていくよう考えているとのことでした。 また女性医師が働きやすいと、女性ナースやスタッフの定着率もよく、良い人材が集まりやすいということです。またそのために患者さんも増え、収入もあがり、病院としても個人としても豊かになる、という効果があるというお話でした。
次にパナマで医学部を卒業されUSで研修を受けられたDr.Shadia Constantineです。3人のお子さんがおられて ご主人が主夫をなさっているということでした。アメリカには法律としての産休はありませんが、大学や大きな病院ネットワークには規定があり、給与をもらいながら平均8週間くらいは産休を取ることが多いということです。ただし産休をとるのは5分の2くらいということでした。USでの比較検討などのペーパーを示していただきました。
3人目は唯一の男性、飯塚病院の柏木秀行先生です。医師でありながらMBAや社会福祉士の資格もお持ちです。最初に柏木先生は、今までの勝ち組思考はもう通用しないと断言されています。科としての理念、ビジョン、ミッションを明らかにしてその実現を追求していくこと、部下をエンゲージメントする、マインドセットを刺激する、Whyの共有などを実行されているということでした。おみこしを5人で担いでいてなんとかなっていたところ、2人がさらに来た。少し楽になったかと思っていた。でもなんだか重いと思ったら、うち2人がぶら下がっていたということがありうるというお話もありました。難しいこともできることから始めていこうということでした。
4人目は東京女子医大の岩崎直子先生です。日本で唯一の女子だけの医学部ですので、大学としての理念や医師になるための意識教育についての話から始まりました。学生のうちから医師としての自覚、ライフサイクルを考えたキャリア形成、離職しても再教育・再就職できるようにということでセンターを立ちあげて応募者の話を聞き、背中を押し、技術の再教育なども行っているとのことでした。印象的だったのは、なぜ医師になりたいのか、医師として働き続ける意思を持つこと、その中で自分が何をやりたいのかなどを学生の間から実習として先輩の姿を見させたり。、同窓生のアンケートをとり現状を把握したりすることを続けておられることです。特に医師になるということについての動機がないとだめだと主張されていました。また働き方改革としては、早く帰ること、当直明けは早く帰って休むことなどを実行されているということでした。
最後は岡山大学の片岡仁美先生でした。12年にわたり岡山大学で医療人キャリアセンターMuskatセンターでの活動をなさっておられます。働き方改革を行おうとすると地方だと人がどんどん増やせない現状なので、今働いている人をこれ以上やめないで、事情があっても働けるというようにすることが必要と考えられたそうです。ですから現在は女性医師だけではなく、男性や子育てだけでなく介護で時間が必要な人も対象にしているそうです。過労や働く時間が長いと診断エラーも増えるので、医師自身もうつや自殺企図など健康を損なわれることもある、でも目の前に患者さんがいれば やらなければいけない、自分たちがやらなければ医療が崩壊する、若手の研修も十分にできないなどの状況の中で、患者安全と地域医療の継続性、医療人の健康とバランスをとることが必要とお話されています。プロジェクトは、家族のサポート、上下の理解、同僚の理解、適切な労働力が大事とのことでした。色々な具体例をお示しいただきましたが、6人目の立場での復帰という言葉が印象的でした。5人の定員でその枠内で復職すると自分ができないことやわからないことが多かったり、時間的に早く帰ったりすると周りに迷惑をかけるということで心苦しくなり続かない。定員の増員ということでの6人目なら、本人も周りも受け入れやすいということです。このような活動で 女性医師も増えると女性医師の専門医志向も上がったということでした。
それぞれの先生のお話は、お立場も違い、視点も違い、なさっていることも違うように思いました。長時間のシンポジウムでしたが、あっという間に時間がたっていました。その根底には今までの認識が通用しなくなってきている。だがなんとかしなければ医療が崩壊する、患者さんが困るようなことを絶対に避けたいという患者さんや医療全体を大切に思う気持ちと意思があるように思いました。女子医大の取り組みにしても、岡山大学の人材センターのお話にしても、長い時間がかかっているようでしたので、仕組みを変えることも難しいことですが、その中でも、人々のマインドセットを変えることが一番難しいことだと思います。でも変えなければいけない時期に来ているということだと私は感じました。そういう意識を持ってまた周りや同じ意識をもつ同僚などと協力して、地道にやれることから行動を起こし、それを広げていくことが大切かと思いました。
素晴らしい内容だったのですが、参加者が少なかったのがとても残念です。ACPでは教育的なセッションが多いので、若い先生方はそちらの方が興味を引くと思われますし、働き方改革は上の人のやることと思っていたりするのかもしれません。ですが社会性を持って働くことは大切ですし、自分さえよければよいという立場ではないはずですので、こういう分野にも興味を持ってもらいたいと思いました。働き方改革は女性だけの問題ではありません。瀧野先生がおっしゃっていたように、女性医師が気持ちよく元気よく働ければ、病院内に良い循環が生まれると思います。しかし女性医師自身もプロフェッショナリズムの意識をきちんともち、患者さんのためということを一番に考えて、時短でも週3回でも、高い医療レベルを提供するべく努力するべきだと思います。私たちの仕事は有難いことに、働きながら学ぶことができます。色々な患者さんを診察し、治療して 症例の経験として、自分のものにすることができます。毎日が勉強です。一つでも多くの知識を得て、早く立派に尊敬される医師になろうとするならば、多くの患者さんをみて経験することです。医師としての自分と家庭での親としての役割など、どちらを重視したいかは各人違うと思いますし、特に女性は自分の意志とは別に、子育て中で子供が小さいと時間的にも家庭に多くの時間を取られることになるでしょう。ワークライフバランスは個別的でもあり、また時間的な要素もあり、難しい課題だと思います。でも男性も女性も、より高いレベルの医療を行える医師であるために、研鑽を積むことは常に必要ですし、幸福感を感じる日々を過ごすことも、人間として不可欠なことだと思います。いつも完璧に過ごすことは不可能だと思いますし、我慢する時期もあるかと思いますが、自分で選んで 自分で道を見据えて日々を歩んでいけるように、男女ともに方策を考えて続けることが必要だと感じました。またその根底には、患者さんを第一に考えること、地域医療を守ることなどProfessionalismがそれぞれの医師の心にしっかり根付いていることが必要とも思われました。
さらに男性だから女性だからというマインドセットを変える時代になってきているのかと思います。自身でも自分を縛らず、また性差や人種差などに関わらず、お互いを認め、自由にそして効率的に仕事をし、個人生活を充実させられる時代になることが求められていると思います。
最後に、素晴らしいご講演をいただいた5人の先生方に心よりお礼を述べたいと思います。企画を立ててくれた副委員長の川嶋乃里子先生の行動力と情報ネットワークに感服しましたし、WC委員のメンバーは、各担当を決めて打ち合わせに連絡にと特に指示することなく 各自で考えて行動してくれました。委員会のメンバーにも感謝したいと思います。