千葉大学医学部附属病院 総合診療科の鋪野 紀好先生から、ACP日本支部2018年次総会 黒川賞(若手医師部門)受賞の報告を頂きましたので、PRC委員会から広報いたします。(PRC 宮内隆政)
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ACP日本支部2018年次総会 黒川賞(若手医師部門)を受賞して
千葉大学医学部附属病院 総合診療科
鋪野 紀好
この度は、ACP日本支部2018年次総会で黒川賞を頂き、大変光栄です。2018年度から”Best Abstract”は「黒川賞」に変更となり、最初に黒川賞を受賞できたことを大変名誉に思います。
研究の経緯
今回研究を行うきっかけとなったのは、眼底鏡診察を、自信を持って実施できる内科医は少ないと感じたことである。自分の周りも見回しても、我が師匠である生坂先生を除いて、眼底鏡を実際の診療で積極的に活用している医師はほとんどいなかった。共同研究者である菊川誠先生(九州大学大学院医学研究院 医学教育学講座)が発表されているが、初期研修医、内科専攻医、内科指導医のいずれも、約90%は眼底鏡を利用していないまたは2、3ヵ月に1回の使用頻度とされる。その理由としては、眼底鏡診察が苦手というのがほとんどの理由であった。
自分が眼底診察を教えてみると、なぜ観察が難しいのかに気付いた。それは、学習者と指導者が同じ画面を共有できないことにある。学習者からすれば、今確認しているものが、本当に正しいのかについてフィードバックを受けられず、確証が得られない。また指導医も、なぜ確認できていないのかを指摘するのは至極難しい。そんなジレンマを感じていた。
研究の転機
研究の転機となったのは2017年3月のスタンフォード大学医学部内科への視察であった。そこで、エロル・オズダルガ医師と出会い、眼底鏡の教育にiExaminer systemを用いた教育手法について学んだ。彼とは、この教育手法を日本に持ち帰り実践したいこと、また教育効果についてリサーチしたいことを語りあい、快く承認してくれた。
千葉大学医学部クリニカル・クラークシップへの導入
まず、このiExaminer systemを用いて実際の教育を行ったところ、学生からの満足度は高く、今後の臨床実習でも積極的に使っていきたいという声が相次いだ。次に、本当にスキルが向上するかを確認するために、本学のシミュレーションセンターである、クリニカル・スキルズ・センターへ眼底鏡シミュレータの協力を仰いだ。教育の前後で評価することで、教育効果を明確にするためだ。題材は何にするか、問題数はいくつにするかなど、共同研究者とのやり取りは白熱した。特に今回の研究は「観察力」の評価だったので、そこに「解釈力」の評価が混入しないように腐心した。また、教員による教育効果は二重盲検化がデザイン的に困難であったため、最小限にするための工夫を行った。
今後の期待
今回の研究では、iExaminer systemを用いることで、眼底鏡診察の診断精度が向上し、かつ観察時間が短縮されることが示された。iExaminer systemは約8000円のアダプターと、今日だれもが携帯しているiPhoneさえあれば、フリーで利用できるため明日からでも実施可能である。この教育手法が広まることで、自信を持って眼底を診察できる医師が1人でも増えることを祈ってやまない。
写真:黒川賞演題候補としてのプレゼンテーション
写真:スクリーンに自分の名前が映し出された時には心が震えた瞬間であった
写真:右からBA Muruganathan先生、Jack Ende先生、筆者、黒川 清先生
写真:応援に駆けつけてくださった千葉大学医学部附属病院 総合診療科 メンバーと