がんの在宅療養 地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクトfacebook

第2章 通院で治療を始める・続ける

この章では、通院でがんの治療を始める方・続けていく方に、在宅で療養しているときに役立つ情報をまとめています。
医療者がいつも身近にいる入院とは異なり、ご本人やご家族などによる自己管理がいっそう重要となる通院治療において、心配ごとや疑問点などを解消できるよう、治療が始まる前にしておきたい生活上の準備や心構え、医療者やご家族とのコミュニケーションのほか、実際に治療(薬物療法・放射線療法・手術療法)を受ける際の留意点、副作用や後遺症への対応なども併せて紹介しています。

この章のまとめ
  • がんの治療を通院で続けることが多くなってきています。
  • がんの治療や通院は、多くの場合、長く続きます。治療の目的や、起こりうる副作用・後遺症、治療後の通院の必要性などについて理解し、納得したうえで治療を受けていくことがとても大切です。
  • 一人で抱え込まず、医療者やご家族、信頼できる人に相談したり、利用できる公的・民間の資源を活用して、治療中の生活を整えていきましょう。
  • 治療の副作用や後遺症について、心配な点や疑問があれば、担当医や看護師、薬剤師などに遠慮なく尋ねるようにしましょう。また、緊急時の連絡先についても確認しておきましょう。

2-1.治療を続けながら家で過ごす人が増えています

2-1-1.変わりゆく「がん治療」と「療養の場」

第1章でもお伝えしたように、がん治療は今、飛躍的に進歩してきています。
たとえば、かつては一般的に行われていた、お腹や胸を大きく開いて行う手術は、多くの場合、体にいくつかの小さなあなをあけて行う「鏡視下きょうしか手術」で行えるようになったり、がんの性質に応じて分子レベルで効果を発揮するがん治療薬が次々に登場したり、よりピンポイントでがんを狙い撃ちできる放射線療法の開発が進むなど、わずか10年前と今とを比べるだけでも、がん治療は大きな進歩を遂げています。また、がんに伴う痛みやつらさ、治療の副作用や後遺症を最小限に抑える医療(緩和ケアや支持医療)も、心身に負担の少ないがん治療や療養を下支えする重要な方法として確立されてきました。

こうしたことを背景に、多くのがんは「長く入院して治療するもの」から「できるだけ普段に近い生活のなかで治療や療養を続けていくもの」になり、おもな療養の場が、病院から在宅へと変わってきました。

次に紹介する「 Tさん」も、おもに通院でがん治療を受けていくことになった一人です。通院治療に向けた準備について、相談員の「Nさん」とのやりとりをみながら、通院治療や生活上の心配ごとなどについて、一緒に考えてみましょう。

通院でがん治療を受けることになった Tさん

Tさん(42歳、女性)Tさん(42歳、女性)は、夫と2人の子どもをもつ会社員です。検診で行ったマンモグラフィ検査をきっかけに左胸に乳がんが見つかり、自宅から比較的近い病院(がん診療連携拠点病院)で治療を受けることになりました。最初、がんと診断されたことに大きなショックを受けましたが、夫や担当医とよく話し合い、「根治の可能性が最も高い治療を受けたい」「仕事を辞めたくない」と希望し、まずは通院で薬物療法を開始し、その後、入院して手術を受け、さらにその後に放射線療法などの治療を受ける予定になりました。

家族
ご本人の体験談

山口県 60歳代/男性告知からの心の変化 そして検査と治療へ(1)

山口県 60歳代/男性

私は数年前に前立腺がんの告知を受けました。告知を受けるまでの私はがんになったら仕事からも社会生活からも遮断され、余命のない患者は緩和ケア病棟へ行き終末を迎える、との認識をもっていました。
医師から「前立腺がんの疑いが濃厚で、すぐに治療に入るべきです」といきなりのがん告知を受けました。突然の告知に私は大変なショックを受けました。「自分はがんにはかからないと思っていた。何かの間違いじゃないの?」と。
「すぐ治療に入りましょう」との言葉で少し冷静になりましたが、それでも涙は止まらず嗚咽。涙を拭いながら妻に車いすを押され病室に入りました。そこには、にこやかな新人看護スタッフがいて「大丈夫ですか? 患者さんががんばる気持ちになってもらえないと私たちもがんばれないですよ! 一緒にがんばりましょう、何でも言ってくださいネ」と明るい声で言われ、やっと我に返りました。((2) へ続く)

愛知県 40歳代/女性自宅と緩和ケア病棟が私の「居場所」

愛知県 40歳代/女性

私は、AYA 世代でがんになり、その後進行がんの患者となりました。進行がんの患者になる前から緩和医療科や精神腫瘍科にも通院しており、主治医の先生だけでなく、体の痛みやつらさ、心のつらさを診てくださる先生方やその他多くの医療者の方に支えていただきながら治療を続けています。
がんそのものの治療は主治医の先生に診ていただいていますが、治療の副作用で倦怠感が強く出たり、食事が摂れなくなったりしたとき、心がしんどくなってしまったとき、心身ともに疲れてしまったときなどは、一時的に緩和ケア病棟に入院させていただくことができ、心と体がまた元気を取り戻したら自宅に退院し日常に戻っていくということを繰り返しながら暮らしており、自宅と緩和ケア病棟が私の今の「居場所」になっています。
緩和ケア病棟に入るのは最期のときだけではないし、自宅に退院してしまったらもう入院できないわけではなく、病院と在宅を行き来しながら治療を続けることができます。

AYA 世代: 特にがん医療において用いられる語で、思春期・若年成人( おおむね15 歳~ 30 歳代) の世代を指す。AYA はadolescent and young adult の略。

掲載日:2024年06月20日
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