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第5章 生きること、生ききることに向き合う

この章では、大切な人の「最期のとき」を、ご家族としてどのように向き合っていけばよいのか、これからの生活をどのように過ごしていくかについて、まとめています。
混乱や不安の多い時期にしっかりとした心構えをもつことはとても難しいことです。近い将来大切な人を失うことになるというときに、お別れについて考えたくない、目にしたくないということもあります。そんなときには無理をせずに読み進めるのをやめて、この本をいったん閉じていただいても構いません。具体的な生活上のヒントのページ(第6章)などから読んでいただくほうが、受け入れやすく参考になることもあります。

この章のまとめ
  • 身近な人、親しい人とのお別れが近づいているのを受けとめることは、簡単なことではありません。思いを分かち合える人とのやりとりが、助けになることがあります。
  • ご本人とご家族が住み慣れた環境のもとで満足のいく生活を送るために、在宅で生活するときに支えとなる人やサービス、制度が整備されつつあります。周りの医療者、相談窓口に相談してみましょう。

5-1.「最期のとき」について考える

5-1-1.「最期のとき」を受けとめるのは、誰にとっても簡単ではありません

大切な人の「最期のとき」を受けとめるのは、決して簡単なことではありません。大切な人の人生が残りわずかだとわかったとき、そのことを受けとめ、冷静でいられる方は、そう多くはないでしょう。ショックやパニックになったり、無気力になったり、何も信じられない気持ちになったり、または怖くなったり、どうしたらいいかわからなくなったり……。ご本人だけでなくご家族も、さまざまな思いを1日のなかで目まぐるしく感じることもあるでしょう。夢の中にいるような感覚になったり、また現実に戻ったりという、そんな感覚になるかもしれません。
あるいは、やるせなさや悲しみだけでなく、「ああすればよかった」「こうすればよかった」と後悔の念を覚えることもあるかもしれません。
これらの感情は、どんな人にもごく普通に湧き上がってくるものです。今起きていることを現実として受けとめて、これまでとは違う生活を考えるまでには多くの時間を必要とする場合もあります。

5-1-2.「最期のとき」が近づいたとき、家族の生活や心に起こる変化

「大切な人とのお別れの時期が近づいている」という現実を受け入れることは、家族の生活全体に大きな変化をもたらすことでしょう。当然と思っていた日常が、あるときをきっかけに、当然ではなくなります。家族のなかでの役割、人生設計、これからの希望や見通し……。生活上の優先順位の見直しを余儀なくされることもあるかもしれません。ご家族は現在の、そして、これから起こるさまざまな変化に思いをはせ、身近な人の人生が限られているという現実を受けとめられないつらさに加え、生活に関する現実的な不安や悩みが重なり、ご家族や周りの方々の気持ちは不安定になってしまうかもしれません。

5-1-3.受けとめるために、まず一歩進んでみましょう

大切な人と、ともに過ごすことができなくなる、もう二度と一緒に出かけたり、会話を楽しんだりすることができなくなると考えたとき、ご本人、そしてご家族のつらさ、悲しみは、しばらくの間続くことでしょう。時には、今を生きていることに意味を見いだせなくなることがあるかもしれません。
最期のときを迎えることに対する受けとめ方は、一人ひとり異なります。ご本人、あるいはご家族の気持ちを落ち着かせる特別な方法はありませんが、それでも、お互いに話し合ったり、周囲の方が手を差し伸べたりすることによって、つらさや悲しみを和らげることができます
ご家族は自分のありのままの気持ちを認め、ご本人とお互いの不安やつらさ、悲しみを分かち合うとよいかもしれません。そうすることによって、一人きりではないことをお互いに知り、支え、励まし合うことができるかもしれないからです。たとえば、ご本人の気持ちを尊重しつつ、ご家族の希望や考えも伝え、共有してみましょう。どうすれば家族が本人に寄り添ったり、最良の支えになったりすることができるか、これからの見通しや理解がより深まることでしょう。
そして、ご本人と同じように、ご家族の方へのケアも大切と考えられています。最近では、「ご家族も支える」ことを重視した支援やケアの考え方が広がってきています。
日々起こったことだけでなく、つらい気持ちなど心の内を日記に書き留めておくことは、気持ちの整理に役立ちます。友人や親しい人など信頼できる人に気持ちを打ち明けてみるのもよいかもしれません。また、すべてを自分一人で背負い込む必要はありません。ご家族だけの努力では難しいことがあるときには、周囲の人々からの助けを得ることも大切です。

掲載日:2024年06月20日
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