がんの在宅療養 地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクトfacebook

5-2.家で最期を迎えることについて考える

5-2-1.最期のときを過ごす「ところ」を考える

人生の最終段階の時期を過ごす場所として安心でき、落ち着いて過ごせるところは、どこでしょうか。それは各家庭の事情や、ご本人とご家族の気持ちによって異なります。
住み慣れた自宅、介護福祉施設、そして専門医療を提供している病院を比べたとき、医療やケアの内容について、必ずしも病院のほうがほかの場所よりよいとは限りません。受けられる医療やケアの選択肢には、あまり差はないのが実情です。一方、「生活する」という視点でみた場合には、治療を行う施設として設備やスタッフが整備されている病院にはない環境が、在宅では得られることがあります(第4章コラム「病院と在宅での医療、それぞれの特徴」参照)。
確かに、病院は機器や設備が整い、スタッフの配置も比較的充実しているので安心かもしれません。一方で、この時期に必要とされる医療や介護の内容は、痛みやつらさなどの苦痛を取り除くことや、日常生活のケアが中心です。それらは在宅でも十分に行うことができます。むしろ、住み慣れた自宅や生活環境の充実した療養施設で過ごしたほうが、ご本人もご家族もリラックスできるかもしれません。家に帰って一時的に食欲が回復したり、体が動かせるようになったりすることも珍しくないようです。QOL(生活の質)や自分らしい過ごし方などを第一に考えるのであれば、在宅の環境のほうが、よりよい療養場所となる可能性が高いとも言えます。
とはいえ、環境の制約やご家族の介護に必要な準備など、家庭によっていろいろな事情もあると思います。最も優先すべきは、ご本人とご家族の気持ちです。どちらか一方を選ばなければいけない、一度決めたら変えられない、ということもありません。どの選択が「正しい」とか「向いている」という「正解」はなく、その時々の状況に応じた「最適な方針」を、その都度考えていく、というくらいの心積もりがよいかもしれません。一度決めたことでも、時に見直したり、改めて話し合ったりすることで、よりよい方法を見つけられることもあります。

自宅での介護

5-2-2.満足できる在宅での生活を送るために

現在、地域の医療施設や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所などが連携し、在宅で療養する患者さんや家族を支える仕組みが各地でつくられています。
急性期や回復期・慢性期の医療を提供する医療機関(病院など)から、治療が一段落したところで、療養型の施設や在宅で過ごすこと、そして、住み慣れた環境での看取りは今後、さらに一般的になっていくと思われます。
その一方で、こうした時代の流れのなか、ご本人やご家族の希望や意向を十分に確認しないまま、退院、および在宅での療養を勧められる場合もないとは言えない実態もあります。
在宅療養においては、ご本人やご家族が前向きに考えて受け入れられるか、納得して準備をすることができるかどうかで、その後の療養生活の質が変わってきます。
病院の担当医に今後の見通しについて十分説明を受けるほか、療養については病院の患者相談窓口、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターや地域医療連携室などから情報を収集し、在宅での看取りの利点や、家に帰って心配なこと、今後解決すべき課題を整理していくことから始めてみましょう第4章参照)。

5-2-3.家で生き、家で最期を迎える人と家族を支えるチームがいます

在宅での療養は、介護するご家族にとって必ずしも容易なものではありません。あらかじめ心の準備と、態勢づくりも必要です。では、苦労ばかりなのかというと、そうではありません。大切な人の人生の総仕上げの時期に、その人と一緒に暮らしてきた場所でじっくり向き合うという経験は、病院の中では得られない思い出や充足感を、ご本人とご家族にもたらすこともあります。
人生の最期の時期を在宅で過ごすことを選んだご家族は、みな「ずっと自宅で」と最初から強い決意をもって取り組んでいる方ばかりではありません。最初は「イメージできない」「自信がない」というご家族も結構いらっしゃいます。始めてみて、「やっぱり病院で」と揺れ動いたり、迷ったりすることもあります。でもいざやってみると、ご本人が見せる笑顔や安心した表情に励まされ、在宅でのケアを続けていく気持ちになるご家族も多いようです。そのようなご本人とご家族を支援していくのが、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャーなどで構成される「在宅支援チーム」です。

これまでもお伝えしたように、在宅での療養は「家族だけでがんばり続けなければならない」というものではありません。看取りまでを見据えた在宅療養では、穏やかな最期を望むご本人を中心にして、ご家族、在宅支援チームが一緒になって歩むイメージで捉えていただければと思います。

在宅支援
掲載日:2024年06月20日
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