東京大学医学部附属病院 心臓外科・呼吸器外科

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東大呼吸器外科の特色(臨床)

  • 1年間に400例を超える肺・縱隔(じゅうかく)手術を行っている国内有数の施設です
  • 肺移植は、脳死・生体をあわせ、国内で最も多くの症例を実施しています
  • 胸腔鏡手術、ロボット支援手術を積極的に行い、術後早期の機能回復に努めています

当科で扱う疾患

以下の疾患については、当科では多数の方を治療しています。

  1. 原発性肺癌・転移性肺腫瘍・縦隔腫瘍に対する外科治療を中心とした集学的治療
    肺がんに対する手術その他の治療解説
  2. 特に原発性肺癌に対する胸腔鏡下診断および胸腔鏡下またはロボット支援肺葉切除・区域切除
    Da Vinciによるロボット支援下手術
  3. 触知困難肺結節に対する気管支鏡バーチャル3D肺マッピング(Virtual-assisted lung mapping: VAL‐MAP※)法を用いた精密胸腔鏡下縮小手術
    VAL-MAPによる胸腔鏡下精密縮小手術
  4. 胸腺腫瘍・重症筋無力症に対する拡大胸腺全摘術
  5. 自然気胸・他良性疾患や高齢者・低肺機能患者に対する胸腔鏡手術
  6. 肺気腫に対する胸腔鏡下肺容積減量手術(Volume reduction surgery)
  7. 末期呼吸不全に対する肺移植(生体肺移植・脳死肺移植)
    肺移植について」「肺移植後の長期フォロー

VAL‐MAPは2018年3月より保険適応となりました。

などを中心に、肺・縱隔疾患の治療を行っています。特に、心臓外科をはじめとした各臓器疾患のスペシャリストがそろった病院であるという特長を生かし、複数の疾患に罹患された方のために最適な呼吸器外科治療を行います。

当科で扱う検査

  • 肺癌・転移性肺腫瘍に対するCT、
    FDG-PETを組み合わせた画像検査
  • 悪性腫瘍が疑われる肺内小腫瘤に対する
    胸腔鏡診断と同時手術による早期治療
  • びまん性肺疾患に対する
    胸腔鏡下肺生検法

当科で扱う治療

  • 肺癌・転移性肺腫瘍に対する
    胸腔鏡下低侵襲手術
  • 進行性肺癌に対する拡大手術
  • 進行性肺癌・再発肺癌に対する、
    分子標的治療薬および
    免疫療法を組み合わせた治療
  • 縱隔腫瘍に対する、
    EBMに基づいた治療法
  • 胸腔鏡による漏斗胸・手掌多汗症などの
    低侵襲手術
  • 心疾患など合併症を有するハイリスク患者
    に対する呼吸器外科手術
  • 肺移植

診療方針

非小細胞肺癌に対する治療

肺葉切除・標準リンパ節郭清が原則ですが、術前肺門・縦隔リンパ節転移陽性診断例に対しては化学療法・放射線療法を併用した集学的治療ならびに拡大手術を考慮いたします。胸腔鏡補助下またはロボット支援肺葉切除(VATS/RATS-lobectomy)を行います。胸壁・大血管浸潤例に対しては心臓血管外科の技術を生かした拡大切除を行います。

早期の小さい肺癌に対する手術

術前未診断肺内腫瘤(肺癌疑診)に対しては、胸腔鏡下肺生検を行い、迅速病理診断の結果から肺癌であれば続けて肺癌に対する治癒手術を行います。また触知困難、術中同定困難と予想される肺内結節に対しては、積極的に気管支鏡バーチャル3D肺マッピング(virtual-assisted lung mapping: VAL‐MAP※)法を用いた最先端の精密胸腔鏡下縮小手術(肺部分切除、区域切除、複雑区域切除)を行っています。このような早期の小さい肺癌に対する手術の術後成績は非常に良好です。

胸腔鏡手術

自然気胸など良性疾患に対しては極力低侵襲である胸腔鏡手術による治療を行います。

転移性肺腫瘍

原発巣が治癒している事を条件として、肺転移に対して外科治療を行います。胸腔鏡による低侵襲手術を優先して行います。肝臓転移合併例に対しては当院肝胆膵外科との協力の下に、肝臓・肺転移の両方を外科的切除します。これまで切除困難だった5mm以下の比較的小さな転移性肺腫瘍、転移性肺腫瘍に対する化学療法後の残存小病変に対しても気管支鏡バーチャル3D肺マッピング(virtual-assisted lung mapping: VAL‐MAP※)法を用いた精密胸腔鏡下縮小手術を行うことがあります。

VAL‐MAPは2018年3月より保険適応となりました。

肺移植

内科的には治療困難な進行性呼吸不全に対し、一定の基準を満たした場合、肺移植を考慮します。当院は現在、国内で最も多くの肺移植を実施している施設のひとつとなっています。

診療実績

東大病院呼吸器外科では、肺癌などの肺悪性腫瘍、胸腺腫などの縦隔腫瘍、気胸などの胸膜疾患、肺移植など、年間380件前後のさまざまな手術を手がけています。2023年、肺移植レシピエントは42件を実施しました。また患者さんの身体への負担の少ない低侵襲手術に力を入れており、従来の胸腔鏡手術のほか、単孔式胸腔鏡やロボット支援手術を行っています。

入院患者数、手術件数の推移

当科の手術件数はCOVID-19で一時減少したものの、引き続き増加傾向にあります。

東大呼吸器外科 手術実績

2024年の手術のうちわけ

2024年は総手術件数が468件と過去最多になりました。うちわけでは、原発性肺癌が146件と最も多く、転移性肺腫瘍56件、肺移植(レシピエント)44件と続いています。縦隔腫瘍や気胸、膿胸などさまざまな外科治療を行っています。気管支内レーザー照射やステント留置など、気道疾患にも対応しています。
肺癌などの悪性疾患を中心に、気胸から肺移植まで、様々な手術を行っています。

東大呼吸器外科 2024年手術実績

低侵襲手術(Minimally Invasive Surgery)

肺悪性腫瘍手術の約9割が低侵襲な胸腔鏡手術です

東大病院呼吸器外科では低侵襲手術に力を入れています。肺悪性腫瘍手術の約9割が、体への負担の少ない胸腔鏡手術で行われています。手術術式の選択は患者さんの病状等により大きく異なる可能性があります。詳しくは担当医にお尋ねください。

胸腔鏡手術の様子
胸腔鏡手術の創部

東大呼吸器外科では、従来の胸腔鏡手術よりもさらに身体への負担が少ない、単孔式胸腔鏡手術も取り入れています。具体的には重症筋無力症や早期の胸腺腫に対する剣状突起下アプローチによる胸腺摘出術や、肺癌などに対する一部の肺葉切除、区域切除が対象になります。手術術式の選択は患者さんの病状等により大きく異なる可能性があります。詳しくは担当医にお尋ねください。

DaVinciによるロボット支援手術

東大病院呼吸器外科では、2021年1月から本格的にロボット支援手術を開始し、2024年は計56件と過去最多となりました。大部分は従来のDaVinciを用いた手術ですが、2024年は国産のHinotoriを用いたロボット支援手術も開始しています。肺切除(区域切除、肺葉切除等)、縦隔腫瘍切除が主な対象ですが、手術術式の選択は患者さんの病状等により大きく異なる可能性があります。詳しくは担当医にお尋ねください。

東大呼吸器外科 ロボット支援手術件数

肺マッピングとナビゲーション手術(Lung Mapping and Navigation Surgery)

VAL-MAP法で過不足のない肺切除を実現します

東大病院呼吸器外科が中心となって行ってきた、微小肺病変切除支援のための気管支鏡下肺マーキング(virtual assisted lung mapping: VAL-MAP法)は先進医療を経て、2018年3月正式に保険診療として認められました。
さらに電磁誘導気管支鏡によるリアルタイムナビゲーショを用いたVAL-MAP(ENB-VAL-MAP)を行うことで、さらに正確かつ身体的負担の少ないVAL-MAPを実施しています。こちらも2020年12月、保険診療で実施可能となりました。

VAL-MAPによる肺マッピング。複数の色素マークにより肺に地図を描き、過不足ない切除を実現します

さらに高感度の蛍光ナビゲーションを導入

従来のVAL-MAPでは、肺の炭粉沈着などで色素マーキングが見えにくいことがあったため、蛍光胸腔鏡下で高感度に視認可能なインドシアニングリーン(ICG)を併用したVAL-MAP dual-staining(VAL-MAP DS)を導入しました。さらに確実なVAL-MAPとナビゲーション手術が提供可能となっています。
VAL-MAP法の詳細についてはこちらのページもご覧ください。

蛍光(赤外線)胸腔鏡下で、より鮮明に視認可能となるインドシアニングリーン併用によるVAL-MAP

肺移植(Lung Transplantation)

2015年の臨床肺移植開始以来、2024年12月末までに221件の肺移植(生体肺移植30、脳死肺移植191)を実施し、2020年以降は毎年日本で最も多くの肺移植を実施しています。
脳死肺移植待機登録患者数は180名前後となっており、日本全国から患者さんのご紹介を頂いています。

東大病院における脳死肺移植登録患者数と実施数

東大病院の肺移植実施数

東大病院における肺移植レシピエントの原疾患

肺移植は、間質性肺炎、肺気腫、肺高血圧症などによる終末期呼吸不全に対する最後の砦です。
東大病院呼吸器外科で肺移植を受けた患者さんの疾患は、特発性間質性肺炎が最も多く、肺高血圧症、骨髄移植など造血幹細胞移植後の肺障害、その他の間質性肺炎、気管支拡張症(びまん性汎細気管支炎、嚢胞性線維症を含む)、慢性閉塞性肺疾患(COPD、α1アンチトリプシン欠損症を含む)、リンパ脈管筋腫症(LAM)などと続いています。

突発性間質性肺炎 36%
その他の間質性肺炎 9%
造血幹細胞移植後肺障害 11%
肺高血圧症 14%
気管支拡張症 8%
COPD 8%
LAM 4%
その他 10%
当院の肺移植の取り組み

チーム医療(Teamwork)

呼吸器内科・放射線科協力して行う集学的治療

東大病院呼吸器外科では、毎週の呼吸器キャンサーボードなど呼吸器内科・放射線科と連携して、診断から集学的治療までseamlessに肺癌その他の呼吸器疾患の治療を進めています。

呼吸器外科・呼吸器内科・放射線科合同で毎週行う呼吸器キャンサーボードの様子

心臓外科と共同で行う高度な外科治療

東大呼吸器外科では元々ひとつの胸部外科だった心臓外科とは毎朝の合同カンファレンスなど、常に連携しています。肺移植をはじめ、ECMO、人工心肺下の肺手術や、心臓・肺の同時手術など、当院ならではの高度な手術を数多く実施しています。

心臓外科協力のもと人工心肺を用いて行った肺移植手術の様子

各部門の高度なチームワーク

ICU、PICUなどの集中治療部門や、看護師、薬剤師、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、管理栄養士、臨床心理士など、高い知識・技術をもった専門家が高度なチームワークを発揮し、肺移植をはじめとする高難度な診療を支えています。

医師、肺移植コーディネーター、病棟看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などで毎週行っている病棟肺移植カンファレンスの様子

手術を選択肢の一つ、全体の治療の一部と考え、他の専門家との協力や議論を惜しまず、患者さんの治癒、予後・QOLの改善、そして何より患者さんに満足していただくために様々な可能性を追求していきます。

呼吸器外科