肺移植について
2021.12.31
肺移植とは?
肺移植は、進行した呼吸不全に対する唯一の救命手段となることが多い治療法です。亡くなった方(脳死肺移植)や身内の方(生体肺移植)から肺を提供していただくことによって、劇的に生活の質と生命予後を改善できる可能性があります。一方、肺移植はとても大きな手術であり、肺移植を受けた後は、一生涯免疫抑制剤の内服が必要になるなど、多くの制限もあります。ここでは肺移植一般の紹介と、現在では国内で最も多くの肺移植を実施している施設の一つとなっている東大病院の取り組み、肺移植が適応となる基準などを紹介します。
お薬や酸素吸入などの治療ではどうしても、進行を抑えることのできない肺の病気に対して、肺移植という治療法が残されています。移植が生命を救うだけでなく、患者さんの日常生活を大きく改善すると予想される場合に肺移植を考慮することになります。
脳死状態の方、またそのご家族の善意で提供された肺を、病気の肺と取り換えて移植することを「脳死肺移植」と言います。脳死肺移植は現在欧米諸国を中心に年3,800例ほど行われていて、確立された治療法と言えます。日本の脳死肺移植では、片肺移植は登録時60歳未満、両肺移植は登録時55歳未満(移植時の年齢ではありません)の年齢制限が設けられています。
一方、健康な方(多くは家族など近親者)から肺の一部(“肺葉“と言います)の提供を受けて移植を行うことを「生体肺移植」と呼んでいます。現在欧米ではほとんど行われていませんが、わが国では脳死肺移植を待つことができないくらい病状がすすんでいる患者さんに対して行われています。生体肺移植のドナー、レシピエントの基準は施設によって異なりますが、東京大学では、
- 生体肺移植ドナー:20歳以上60歳以下、レシピエントの配偶者または3親等以内の血族
- 生体肺移植レシピエント:65歳以下
という基準を設けています。またドナーとレシピエントは、血液型が一致または適合(輸血ができる組み合わせ)であること、肺のサイズが適合すること、などさまざまな条件があります。
東大病院は2014年に肺移植実施施設として認定を受けたことで、関東地区の患者さんを中心に肺移植医療を提供できることになりました。以降、当院での脳死肺移植の待機登録患者数は、新規登録・他移植施設からの変更とも増加傾向となっています。2015年4月に最初の肺移植を実施して以来、2022年7月23日までに123名の患者さんに肺移植(生体肺移植26名、脳死肺移植97名)を実施し、また脳死肺移植登録待機患者数は約130名となっています。
東大病院における肺移植実施件数と脳死肺移植待機登録者数の推移肺移植は非常に高度なチーム医療です。呼吸器内科や循環器内科、アレルギーリウマチ内科を始めとする内科系診療科、心臓外科、麻酔科、集中治療部、医療機器管理部など手術関連科、また移植手術後の治療看護にあたる集中治療部や看護部が一体となって、当プログラムの充実に日々取り組んでいます。心臓・肺移植の専任コーディネータがきめ細やかなサポートで患者さんの疑問や心配にお応えしています。
肺移植の対象となる病気
- 原発性肺高血圧症、アイゼンメンジャー症候群、慢性血栓塞栓性肺高血圧症
- 特発性肺線維症(特発性間質性肺炎)、膠原病などに合併する肺線維症
- 肺気腫、α-1アンチトリプシン欠損型肺気腫、肺リンパ脈管筋腫症(LAM)、閉塞性細気管支炎
- 気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、嚢胞性肺線維症
- 肺サルコイドーシス、肺好酸球性肉芽腫症、じん肺、多発性肺動静脈瘻
- その他の進行性肺疾患
以下に該当する場合肺移植の対象とならないことがあります
- 肺以外に活動性の感染がある
- 肺以外の内臓にも治療困難な障害を抱えている(例えば悪性腫瘍、骨髄疾患、冠動脈疾患、高度胸郭変形症、筋・神経疾患、肝疾患、腎疾患)
- 栄養状態がよくない
- 喫煙者、喫煙がやめられない
- 極端な肥満
- リハビリテーションが行えない、その能力が期待できない
- 精神・社会生活上問題がある
- アルコールなどの薬物依存がある
- 本人、家族の理解と協力が得られない
- 有効な治療法のない各種出血性疾患や凝固異常
- 胸膜に広範な癒着や瘢痕がある場合
- HIV(human immunodeficiency virus)抗体陽性
肺移植を考慮する、または当院にご紹介いただく時期について
わが国では脳死の方からの臓器提供数に比べて、移植を待っている患者さんの数の方がとても多いことから、移植待機期間が年単位となることがまれではありません(平均2.5~3年)。
そこで、内科的治療がまだ限界ではないが、数年先にはそうなる可能性がある患者さんをご紹介いただくことをおすすめいたします。ご紹介をいただくことが、すなわち移植待機の準備につながるわけではありません。患者さんの病状が安定していて、日常活動性が保たれている時点でご紹介いただくことで、以下のメリットがあると考えています。
- 患者さん・ご家族が治療の選択肢として肺移植の十分な知識を得られる
- 移植が適切な治療となり得るのか、時間をかけて調べることが可能になる
- 移植が適応となる場合に、患者さんが抱えている種々の医学的、社会的問題に一緒に取り組むことが可能になる
- 予想される待機時間や、患者さんの病状進行に応じて、移植待機登録の良いタイミングを見極めることが可能になる
- もし移植の対象にならない可能性が高い場合、それを患者さんにお伝えできることで、先々の治療に対する患者さん・ご家族の理解が深まる
ご紹介いただければ、肺移植全般、現状、種々の手続きやそれに関わる費用、また移植を受けた後予想される生活のことなどを、当院肺移植担当医師・肺移植専門コーディネーターが外来で説明いたします。
患者さん・ご家族の方で肺移植について詳しく知りたい、またご自分(もしくはご家族の方)が将来的に肺移植の対象になるのか知りたい場合、ご自身の主治医の先生にご相談ください。紹介状とともに当科を受診いただければご説明いたします。肺移植初診外来は、毎週水曜(此枝)と木曜(佐藤、山谷)に開いています。
病状や遠方である理由から外来受診が困難な場合、出張往診もご相談ください。
連絡先
呼吸器外科肺移植外来担当 佐藤雅昭
(診療情報提供書FAX 宛先 東大病院臓器移植医療センター03-5800-9257)
肺移植地域ネットワークの構築
当科では、関東における肺移植医療の普及、肺移植患者または候補患者の診療にあたる多くの施設との肺移植地域ネットワークの構築を目的として、同じく関東地域での肺移植実施施設である獨協医科大学、千葉大学と協力し、関東肺移植研究会を主宰しています。年3回(3月、7月、11月)の定例会を基本とし、2019年までは当院で開催していましたが、昨今の新型コロナウイルス感染症の広がりを考慮し、第2020年7月4日開催の第20回関東肺移植研究会からは、オンライン開催への移行を予定しています。
詳しくは当会web siteをご参照ください。今後はオンライン開催と現地開催の併設、録画した研究会のオンデマンド配信を通じて、いままで以上に幅広く情報発信をしていきたいと考えています。