東京大学医学部附属病院 心臓外科・呼吸器外科

東京大学ロゴ

転移性肺腫瘍

2021.02.20

転移性肺腫瘍とは、他の臓器に発生した悪性腫瘍(がん、肉腫を含む)が肺に転移し形成された腫瘍のことを指します。大腸癌、乳癌、腎癌、子宮癌、膀胱癌など様々ながんが肺に転移することが知られています。体内に必要な酸素を取り込むために全身の血液が循環する肺では、他の臓器でできたがん細胞が引っかかりやすく、多くのがんが肺に転移しやすいと言われています。肺の細胞が癌化して生ずる「原発性肺癌」とは異なる病気です。

元の臓器のがんの精密検査中あるいは経過観察中に発見された場合には自覚症状は乏しいことが多いです。しかしながら、転移性肺腫瘍は病状が進むと、息切れや血痰、喘鳴などが出現することがあります。

転移性肺腫瘍の治療方針は原発腫瘍(もとのがん)や拡がりなどによって異なります。多くの場合、治療戦略の基本は化学療法(抗がん剤など)です。局所治療である外科治療や放射線療法の意義は限定的です。しかしながら化学療法でがん細胞の根絶が難しい症例も一定数存在し、その際に外科療法が病気を抑える上での唯一の治療法になることもあります。

あらゆる専門科の揃った私たちの大学病院の中で、当科では数多くの転移性肺腫瘍に対する外科的治療を行ってまいりました。院内はもちろん院外からも、もとの臓器のがんの診療科の先生からご紹介いただき、その診療科と連携しながら外科治療を提供してきました。当科では1984年から2019年までに転移性肺腫瘍に対する手術を約1000件行ってきました。その豊富な診療経験をもとに当科では様々な学術発表を行ってきました。さらに当科の診療経験は他施設とのデータベース研究にも大きく貢献し、我が国における転移性肺腫瘍に対する治療成績向上の一端を担ってきました。

  • Nakajima J, et al. Appraisal of surgical treatment for pulmonary metastasis from hepatocellular carcinoma. World J Surg. 2005; 29: 715-8.
  • Nakajima J, et al. Is thoracoscopic surgery justified to treat pulmonary metastasis from colorectal cancer? Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2008; 7: 212-6; discussion 216-7.
  • Sakamoto M, et al. Resection of solitary pulmonary lesion is beneficial to patients with a history of malignancy. Ann Thorac Surg. 2010; 90: 1766-71.
  • Kitano K, et al. Outcome and survival analysis of pulmonary metastasectomy for hepatocellular carcinoma. Eur J Cardiothorac Surg. 2012; 41: 376-82.
  • Ichinose J, et al. Immunohistochemical pattern analysis of squamous cell carcinoma: Lung primary and metastatic tumors of head and neck. Lung Cancer. 2016; 100: 96-101.
  • Nakajima J, et al. Recent improvement of survival prognosis after pulmonary metastasectomy and advanced chemotherapy for patients with colorectal cancer. Eur J Cardiothorac Surg. 2017; 51: 869-873.

当科では「転移性肺腫瘍」に対する外科治療を行う上で以下の3つを重視しています。

  1. 安全
  2. 確実
  3. できるだけ低侵襲

外科治療を安全に行うために患者さんの状態をしっかり見極めた上で手術の可否を判断いたします。さらに切除後に局所再発(がんが再び肺の切離線に出現すること)を起こさないように、腫瘍から充分に距離を離して肺切除を行うことを心がけています。そして最後に、可能であれば低侵襲な外科治療を提供したいと思っています。具体的には胸腔鏡手術(1か所から4か所のポートの手術)を行うことで、患者さんの身体への負担を軽減したいと考えています。回復が早いと考えられる胸腔鏡手術を行うことで、化学療法など他の治療にも早期につなげられることを目指しています。

上記3つを満たす手術を遂行するため、最近では、気管支鏡バーチャ3D肺マッピング(VAL-MAP)を併用した胸腔鏡下精密縮小手術も行っています。以下の画像は腎癌の肺転移の写真です。従来は小さすぎて確実に切除できないと考えられていた転移性肺腫瘍もVAL-MAPを用いることで安全かつ確実に、そして低侵襲に切除することができるようになりました。

腎癌肺転移(Yanagiya M, Sato M, et al. Surg Case Rep. 2017 より一部改変)

転移性肺腫瘍を有する患者さんに対して、呼吸器外科医の立場からできる限りのことを提供したいと考えていますが、全ての患者さんに対して手術を行える訳ではありません。また手術の内容によっては必ずしも低侵襲な胸腔鏡手術を行えるとは限りません。個々の患者さんの病態や全身状態にあわせて、治療法を提案させて頂きたいと思います。

呼吸器外科