グリオーマ glioma 神経膠腫

注意! グリオーマ(神経膠腫しんけいこうしゅ)は病名ではありません
  • グリオーマ(神経膠腫)は脳腫瘍の2割くらいを占める腫瘍です
  • どの国でも,10万人に6人程度の発生率です
  • 悪性腫瘍が多いです
  • 脳の神経細胞の働きを助ける役目の細胞(グリア)が腫瘍になってしまったものです
  • ですから,脳の中にしみ込むように発育します
  • ですから,手術では簡単にとれません
  • グリオーマと言われたら命が危ないと考えてください
  • 半年くらいで命を失うことも,30年経っても何でもないこともあります
  • グリオーマといっても何十種類もあります
  • グリオーマというのは診断名ではないのです
  • グリオーマでは解決がつかないので,なんと言うグリオーマが予想されるか質問してください
  • それでどういう治療が最善なのかの想像がつきます
  • それに答えられないのは脳腫瘍を学んだ脳外科医ではありません
  • 毛様細胞性星細胞腫(生命を失うことはほとんどない)
  • びまん性星細胞腫(1年から60年の生存期間)
  • 乏突起膠腫(5年から60年の生存期間)
  • 膠芽腫(3ヶ月から5年の生存期間)
  • などなど,
  • 組織診断ではなくて遺伝子診断もできるようになりました
  • たとえば,第1染色体と第19染色体に欠失があるものだけを,乏突起膠腫として治療するなどです
  • 治療の最優先目的 high priority は,生活の質 QOL を保って生存することです
  • 社会復帰を目指すのであって,グリオーマを根絶することではありません
  • もちろん,グリオーマでも治ってしまう患者さんはたくさんいるので,診断と治療を慎重に選択しましょう
最大の特徴は脳にしみ込むように広がることです

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びまん性星細胞腫の組織像です。黄色い矢印は神経細胞で,点のように見えるのがほとんどすべてグリオーマ細胞です。左の画像の被殻という神経細胞 (spindle / large round neuron) のあるところ,右画像の白質というところは正常に機能している脳です。ここにある腫瘍細胞を手術で全部とろうとすれば,この働いている脳(神経細胞と神経線維)もいっしょに取ってしまうことになります。ですから,グリオーマは全部取れないのです。手術だけでは治らないかもしれないと考えて下さい。

脳外科医が会話と説明で使うグリオーマ

  • 脳神経外科医は日常会話で,”びまん性グリオーマ diffuse glioma” (びまん性神経膠腫) を『グリオーマ』といいます
  • 次の,5つの腫瘍がふくまれます
1. びまん性星細胞腫
2. 退形成性星細胞腫
3. 膠芽腫
4. 乏突起膠腫
5. 退形成性乏突起膠腫

グリオーマの新しいWHO分類はここをクリック


遺伝子診断をしなければならなくなったこと

IDHという遺伝子と,1p/19qという染色体をみなければ,びまん性グリオーマの診断はつけられないことになりました。しかし,保険適応もないので日本の一般的な病院ではできるところは多くはありません。


悪性かどうかついてはここをクリック

それぞれの脳腫瘍が治りやすいか治りにくいかを示す指標です。グレード1,グレード2,グレード3,グレード4があります。患者さん側の観点からはグレード1だけが良性といえるでしょう。

グリオーマ(神経膠腫)と言われてまず最初に聞かなければならないこと

  • グリオーマ 神経膠腫というのは脳から発生する腫瘍の総称です
  • ですから,グリオーマだからといっても何がなんだかわかりませんし,グリオーマだから手術するとか放射線治療が必要だとかいう説明は通じません
  • どのようなグリオーマ(神経膠腫)ですかと質問します
  • 予想される病理組織診断を教えてくださいと言います
  • そこで答えられないなら,別な脳神経外科医を選びます
  • そうしないと命が危ない病気です

注意! ネットや雑誌の宣伝に惑わされてはいけないこと

  • ある程度,ある場合には,有効かもしれないけれど,科学的に生存期間の延長が証明されていないものが多いです
  • 学会などで発表されて,最新あるいは必須の治療法,先進医療のように宣伝されますが,実際のところは長期生存割合には大きく影響しないものです
  • しっかりした英語の論文でレベルの高い学術誌に掲載された信頼するに足る科学的な実績」はなくて,患者さんを引きつけるための宣伝が多いと考えた方がいいでしょう
  • このような科学的根拠というものはエビデンスレベルというもので評価されますから,「日本語で自前の良い成績」が書かれていても何の証明にもなりません
  • もちろん,病院のホームページに自書で載せてある成績は認められません
  • 例えば,アミノレブンリン酸(ALA)を使うことで,悪性度の高いグリオーマの摘出率が向上するというのは証明されています,話が難しいのですが摘出率と生存期間というのは一致するものではありません
  • 澤村はALAを使用して手術していますが,患者さんには,それによって延命効果が得られるとは説明しません
  • オプチューン NovoTTFは,膠芽腫患者さんの生存期間中央値を延長しますが,かなり限られた条件での使用となります
覚醒下手術
免疫治療(自己樹状突起細胞,ワクチン治療,リンパ球活性化治療)
アミノレブリン酸(ALA)による可視化と光線力学治療(PDT)
重粒子療法,中性子補足療法
NovoTTF
遺伝子(分子)診断による治療薬の選択(選べる薬があるわけではないこと)
術中MRI

生検術(せいけんじゅつ)とは

  • 生検術というのは腫瘍のほんの一部をちょびっと取って,病理診断することをいいます
  • 腫瘍に近いところの頭蓋骨に12mmくらいの穴を開けて,そこから太い針みたいなもの(鈍針)を脳の中にずーとゆっくり差し込んで,腫瘍のかけらを採ってくることです
  • CTとかMRIの画像をもとにしてコンピューター・ガイドでするので場所は間違わないです(定位生検術といいます)
  • 局所麻酔(簡単な全身麻酔併用)でしますから,眠っているうちに短時間で終わります
  • でもしかし,グリオーマは病理診断を間違いやすいので,ごく小さな腫瘍片だと誤診してしまうことがあります
  • ですから,開頭手術で広めに開いて,多めの腫瘍を採取するという生検術の方が診断は正確です(開頭生検術といいます)
  • 開頭生検術の欠点は,手術時間がかかることと,傷が大きいので治るのに時間がかかって,放射線治療などの開始時期が遅れてしまうことがあることです

グリオーマ摘出手術の原則:2017年ヨーロッパのガイドライン

The goal of surgery is to remove as much of the tumour as safely possible to improve neurological function. The prevention of new, permanent neurological deficits is more important than extent of resection as gliomas are not cured by surgery, because tumour cells infiltrate far beyond the lesion and demonstrate network-like growth, both of which are hallmarks of diffuse gliomas. It remains uncertain whether extent of resection truly matters.

日本語訳:目的は脳神経機能を回復させるために安全性を確保しながら,より多くの腫瘍を摘出することです。新たなあるいは回復しない神経脱落症状を出さないように手術することが,より多くの腫瘍を摘出するよりも重要なことです。なぜなら,グリオーマは外科手術だけでは治らない病気だからです。腫瘍細胞はMRIでみえる領域を超えて浸潤していますし,網の目のように増殖しています。これがグリオーマというものです。手術摘出の程度が真に問題かどうかははっきりしていないかもしれません。

もちろんヨーロッパの先進国で,下に書いてあるような最新の外科技術を駆使した上で,さらに重要な原則として記述されています。

手術で用いられるもの

  • 一般的に,グリオーマは手術で完全摘出すれば治るという原則があります
  • でも完全摘出をできる例は多くはありません
  • 少しでも多く摘出したほうが,元気に暮らせる期間が長くなる PFS,生存期間が長くなる OSという原則もあります
  • でも手術だけで治らないものもたくさんあるので,障害を出してまで無理して摘出しないという方針が選択されることが多いでしょう
  • 手術で用いられるもっと重要な手法として,ナビゲーション,術中 iMRI,MEPモニタリング,機能的MRI画像 (functional MRI)による運動野・言語野の同定,DTI-FTによる錐体路・視路の同定,MEGによる優位半球決定,SEPによる一次感覚野・中心溝同定,覚醒下手術などいろいろな技術があります
  • でもこれらも常時ではなく,あくまでも時には有用というものです
  • いずれも全く非侵襲的(行うことによって害がない)という訳ではありません
  • それぞれに副作用(合併症)もあり,お金もかかり,術前検査と手術時間が長くなり,さまざまな問題があるものです
  • 特に問題が多いのは覚醒下手術です,あまりにも根拠ない例で使用されています
  • 左前頭葉の言語野など,覚醒下手術の利点がかなり期待できるグリオーマに限定的に用いられるべきです
  • 覚醒下手術で,グリオーマの20%くらいを摘出されている術後の患者さんをみることがありますが,なんのために覚醒下手術をしたのかさっぱり理解ができません
  • 小児のグリオーマに覚醒下手術を積極的に行うということには,倫理的な問題もあります
  • てんかんの焦点を明らかにするという目的での,硬膜外電極の埋め込みのために開頭手術を勧められた時も拒否した方がいいです,グリオーマの治療とはなんの関わりもありません
  • 執刀医の経験と技術に裏打ちされていて,使用しないで済むのであればその方がいいでしょう
  • そもそも解剖生理学的に取れない位置にあるグリオーマは,覚醒下手術でも,術中MRIでもALAで可視化できても,生理学的なモニタリングをしても摘出できません
  • ちなみに私は,ALAもナビゲーションも使用していますし,覚醒下手術も経験しています,MEPモニタリング,機能的MRI画像による運動野・言語野の同定,DTI-FTによる錐体路・視路の同定,MEGによる優位半球決定,SEPによる一次感覚野・中心溝同定,術中の表面深部脳波モニターも全部したことあります o(^o^)o
  • 応用できて価値のある手段は利用しますが,これがあれば生存率が上がるという考え方はしません

手術後の評価

  • グリオーマの摘出を正確に把握するためには,手術後24時間から72時間の間にMRIをします
  • 必要があればガドリニム増強MRIと拡散強調画像 DWIを撮影します
  • 手術が午後に終わる時が多いので,翌日の午後にMRIをするか,2日後にMRIをするということになります。

放射線治療(詳しい内容はここをクリック)

  • 目的は,生活の質を保って生存期間を延長することです
  • いつ行うか timing,どの程度の線量を使うか dosing,スケジュール schedulingを決めます
  • 病理診断,予後推定,年齢,KPS(一般状態),外科摘出度が判断基準となります
  • 標準的には,局所照射で50-60グレイ,1日線量 1.8-2.0グレイです
  • 予後の悪い患者さんや高齢者には,回数を少なくして線量をあげる低分割照射が用いられます,たとえば1日2.67グレイを15回に分けて治療するなどです
  • グリオーマは浸潤生の腫瘍ですから,MRIでみえるグリオーマ病変から1cmあるいは2.5cmくらい離れたところまで放射線治療の範囲に含めます
  • どのくらい離れたところまで照射領域に含めるかということはグリオーマの悪性度と病理診断を踏まえて決めます,膠芽腫であれば2.5cmは欲しい
  • マージンを含めるというのですが,治療計画するとこれがかなり広い範囲になります
  • 放射線治療計画はとても複雑で難しいので,グリオーマの治療に慣れた放射線治療医が行います

治療薬

  • テモダール(テモゾロマイド)アバスチン(ベバシズマブ)ギリアデル(グリアデルなどの抗がん剤が使用されています(名前をクリックすると見れます)
  • 最も有効性が高いのがテモゾロマイドです
  • CCNU(ロムスチン),ACNU(ニドラン,ニムスチン),BCNU(カルムスチン),FTM(フォテムスチン)などのニトロソウレア系薬剤はセカンドラインとして用いられます
  • 日本ではニドランだけが保険診療で使えます
  • ヨーロッパでは低悪性度グリオーマ全般にPCV化学療法が使用されますが,日本では使えません
  • ロムスチンはグリオーマに有効ですがネット通販で買う必要があります,使用は混合診療となるので医師の協力が得られず,現実的には使えません,薬価は1錠300円と激安
  • オブジーボ(ニボルマブ)はグリオーマには効きません,しかも年間で2000万円くらいかかりますから使わない

ここから下は難しいです

臨床医のための分かりやすいグリオーマ遺伝子診断:ここをクリック
(2017年ヨーロッパの基準)


以下をクリックすれば各グリオーマの詳しい説明が見れます

星細胞腫系腫瘍

毛様細胞性星細胞腫 グレード1,毛様粘液性星細胞腫 グレード1
上衣下巨細胞性星細胞腫 グレード1
多型黄色星細胞腫 グレード2
星細胞腫(びまん性星細胞腫) グレード2
退形成性星細胞腫 グレード3
膠芽腫 グレード4
神経膠腫症 グリオマトーシス グレード4

びまん性橋膠腫 グレード4

乏突起膠腫系腫瘍

乏突起膠腫 グレード2
退形成性乏突起膠腫 グレード3
乏突起星細胞腫 グレード2,退形成性乏突起星細胞腫 グレード3)

上衣系腫瘍

上衣下腫 グレード1
粘液乳頭状上衣腫 グレード1
上衣腫 グレード2
退形成性上衣腫 グレード3

他の神経細胞と神経膠細胞由来の腫瘍

レルミット・ダクロス病 グレード1
DIA/DIG 線維形成性乳児星細胞腫/神経節膠腫 グレード1
DNT 胚芽異形成性神経上皮腫瘍 グレード1
神経節細胞腫 グレード1
神経節膠腫 グレード1
退形成性神経節膠腫 グレード3(ほとんど4)
中枢性神経細胞種 グレード2
第3脳室脊索腫様膠腫 chordoid glioma of the third ventricle グレード1

Embryonal tumors 胎児性腫瘍

髄芽腫 グレード4
PNET グレード4
AT/RT グレード4

発生部位によって特徴付けられるグリオーマ

診断では,Low-grade gliomaという言葉は使わない

  • 低悪性度グリオーマ low-grade gliomaという用語があります
  • 毛様細胞性星細胞腫やびまん性星細胞腫や乏突起膠腫などのグレード1とグレード2のグリオーマを示しますが,これもグリオーマという用語と同じで意味をなしません
  • 診断時にlow-grade gliomaを疑うというコメントは使用してよいでしょう,しかし,治療方針を決める時には使用してはなりません
  • 何故なら、びまん性星細胞腫と毛様細胞性星細胞腫では治療方針が全く異なるからです
  • これらを一緒くたにして,時にはびまん性橋膠腫も含めてlow-grade gliomaとして治療している小児科の先生がいますが,それは大きな誤りです
  • 病理組織が分類されていないlow-grade gliomaの手術成績や放射線化学療法の論文報告も読まない方がよいでしょう

治療法の選択は生存期間だけではない
低悪性度グリオーマ治療のoncofunctional balance

  • 低悪性度グリオーマでは,生存期間の優劣のみで治療方法を選択してはいけません
  • 「命永らえること」と「治療後の生活の質 QOL」は同等に重要な判断材料です
  • QOLは手足の麻痺などが重要視されてきましたが,グリオーマで特に重要なのは,認知機能(知能,人格など)を悪くしないことです
  • 患者さんが治療後に,「社会復帰できる程度の治療侵襲」のみが受け入れられる選択肢となります
  • 学校や職場に戻れないような,積極的な手術や強い放射線治療はしません
  • 分子診断よりも,画像所見による腫瘍増大速度の把握 radiological growth rate の方が生存期間を正確に予想できるので,患者さんの生存期間の予想には画像変化を加えて説明をします
  • その上で治療選択肢を提示します
  • てんかん発作,認知機能,患者さんの希望,経済状態,家族構成などをよくよく考えて治療方針を決めます

分子診断での治療選択

  • 星細胞系腫瘍乏突起膠細胞系腫瘍では,旧来の組織診断が同じでもかなり違った予後になります
  • 治るか治らないか,同じ診断名でばらつきが大きかったということです
  • 最近は,遺伝子診断 molecular diagnosis がそれを補うと期待されています
  • 2017年時点で重要なものには次の3つの分子マーカーがあります
  • これらが検出されると治療が効きやすく比較的に予後が良いとされています
  • 例えば,退形成性乏突起膠腫(グレード3)で1p/19qの欠失があり,MGMTのプロモーターメチレーションがあり,IDH1/2の遺伝子変異があれば,治る期待がもてます
  • これらのマーカーを用いて治療方法を選択しようという意見は2005年ころからあるのですが,一般化しません
  • 検査が面倒でしばしば信頼性に欠けるということも原因です
  • もう一つの大きな理由に,有効性がある化学療法剤がテモゾロマイドしかないという事実があります
  • MGMTメチレーションがないとテモゾロマイドの有効性は低いのですが,だからといって他に何か選択肢があるかというと,無いので,結果的に使用する制がん剤がテモゾロマイドなら,分子マーカーがなんであれ同じ治療選択となるのです
1p/19q chromosomal codeletion

乏突起膠細胞系腫瘍のマーカーです,第1染色体単腕と第19染色体長腕の欠失があるものには化学療法と放射線治療が良く効きます。

O(6)-MGMT promoter methylation

MGMTメチレーションがあるとテモダールなどの化学療法剤が効くことが知られています。メチレーションがない例では逆に薬剤が効きません。メチレーションの有無の判定は難しく免疫組織染色での信頼性は低いですが,日本ではほとんど免疫組織染色に頼っています。

mutations of isocitrate dehydrogenase (IDH) 1 and 2

IDH1 codon 132, IDH2 codon 172 missense mutationをみます。IDH遺伝子変異があるグリオーマは組織型によらず予後が良い(治りやすい)ことが知られています。MRSという検査でこの変異の有無が予測できる可能性があります。IDH変異があるグリオーマでは手術で摘出できる確率が上がります。

loss of nuclear ATRX expression

免疫組織染色で判定できます。星細胞系腫瘍に特徴的ですから,IDH変異があってこの欠損が認められれば1p/19qの染色体検査をしなくても星細胞系腫瘍と判定できます。逆に,治りにくいグリオーマの指標とも言えます。

名古屋大学がグリオーマの遺伝子診断はじめました

グリオーマは病理組織診断ではなく遺伝子診断されるようになってきました。主治医の先生にお願いして手術で腫瘍の凍結標本を保存していただければ,名古屋大学脳外科で解析していただけます。
ただし,手術前に主治医の先生にお願いしなければなりませんし,それを名古屋大学に持っていくあるいは郵送できる方法を確保する必要があります。高度先進医療ですから実費が5万円かかります。標本を渡してから2週間以内に解析結果がでます。

患者さんの全身状態の指標 Performance Status (PS)

この指標値が高いと積極的な治療をしない,低ければ強い化学療法も行うという判断基準になります。脳腫瘍の領域では,ECOGというヨーロッパの指標がよく用いられます(原典はここをクリック)。

0  問題なく社会活動できる。 発病前と同じ生活が制限なく行える。
1  軽度の症状があり,肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行、軽作業,座っての作業は 行うことができる。例えば軽い家事、事務。
2  歩行ができ,自分の身の回りのことできるが,軽作業ができない。日中の50%以上は起床して過ごす。
3  自分の身の回りのある程度のことしかできず,しばしば介助が必要。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4  ほどんど動くことができず, 自分の身の回りのことは全くできない。終日ベットか椅子で過ごす。

KPS  (カルノフスキー・パーフォーマンス・ステイタス,カルノフスキーの一般全身状態スコア) 正常を100として,労働することはできないのが70,動けなくて介護や医療が必要な状態を40,PSを10段階に分けるスケールです。

グリオーマ治療のエビデンスレベル

いろんな情報がどこまで信じられるかをレベルに表したものです。1〜4とか1〜6とかに分類されます。専門家個人の意見の意見ではなく,根拠に基づいた客観的な治療を選ぶための指針です。例えば,免疫治療,ウィルス治療,ワクチンで悪性脳腫瘍が治るというのは,レベル5で,最低ランクの情報なのです。

グリオーマの免疫治療(詳しくはここをクリック)

 

ここから下は専門家むけ

文献

  • Ellingson BM, et al. Consensus recommendations for a standardized brain tumor imaging protocol in clinical trials. Neuro Oncol 171188–1198, 2015
  • Gozé, C, Blonski, M, Le Maistre, G et al. Imaging growth and isocitrate dehydrogenase 1 mutation are independent predictors for diffuse low-grade gliomas. Neuro Oncol 16, 2014
  • Mitchell DA, et al.: Tetanus toxoid and CCL3 improve dendritic cell vaccines in mice and glioblastoma patients. Nature 519: 366–369, 2015
  • Mohammadi AM, et al.: Use of high-field intraoperative magnetic resonance imaging to enhance the extent of resection of enhancing and nonenhancing gliomas. Neurosurgery 74: 339-348, 2014
  • Pallud, J, Blonski, M, Mandonnet, E et al. Velocity of tumor spontaneous expansion predicts long-term outcomes for diffuse low-grade gliomas. Neuro Oncol 15, 2013
  • Pichlmeier U, et al. ALA Glioma Study Group: Resection and survival in glioblastoma multiforme: an RTOG recursive partitioning analysis of ALA study patients. Neuro Oncol. 10:1025-1034, 2008
  • Wen PY, et al.: Updated response assessment criteria for high-grade gliomas: response assessment in neuro-oncology working group. J Clin Oncol 28: 1963–1972, 2010

治療効果の判定をどうするか RANO criteria

MacDonald criteriaという判定法が使用されてきました。MRIで,ガドリニウム増強される部分の腫瘍を交差する2つの長径で測定する方法です。25%以上の増大で腫瘍進行 PDとします。それに臨床症状とステロイドの使用量を加味して評価します

しかし,この評価方法が通用しなくなってきました。理由は2つあります。第1に,テモゾロマイドと放射線治療を行なうと,3ヶ月以内くらいに一見腫瘍が大きくなったように見えるスードプログレッションという現象が2−3割で生じることで,ガドリニウム増強病変が拡大します。 しかし,この病変拡大は自然に改善します。第2に,アバスチン (antiangiogenetic agent) を使用すると,投与数日以内にガドリニウム増強病変が縮小して,一見治療がとても有効なようにみえることです。でも腫瘍が悪化していると,T2/FLAIRで高信号になる病変だけは拡大していきます。これは血液脳関門の透過性が下がってガドリニウムが腫瘍組織内に漏出できなくなるという現象をみているだけなのです。

MacDonard criteriaを改変したRANO (Response Assessment in Neuro-Oncology) criteriaが用いられます。治療終了12週間以内では,80% isodose lineを越えた新増強病変の出現か再手術によって病理診断されなければ腫瘍進行 PDとはいいません。その後には,25%以上のガドリニウム増強病変の増大,新病変の出現,臨床症状の明らかな悪化,antiangiogenic agentの使用にも関わらずT2/FLAIR病巣が拡大することなどです。

RANO criteria

ranocriteria

分子診断より画像診断の方が予後が良くわかる

Gozé, C, Blonski, M, Le Maistre, G et al. Imaging growth and isocitrate dehydrogenase 1 mutation are independent predictors for diffuse low-grade gliomas. Neuro Oncol 16, 2014
131人の組織学的低悪性度グリオーマの患者さんの予後解析です。107人にIDH1の変異がありました。画像診断では5.4mm/年の平均増大速度でした。無増悪生存期間 PFSは,
IDH1変異があると予後が良いことが知られています。全体で見ると,悪性進行のないPFSは画像上でゆっくりした増大速度を示したもので149ヶ月,IDH1変異のあったもので100ヶ月です。IDH1の変異の有無に関わらず,画像上で増大速度の遅い低悪性度グリオーマの予後は良いということです。
「解説」IDH1変異がないと膠芽腫の可能性があり,かなり積極的な治療を行うという風潮にあります。しかし,しばらく経過を見ていてMRIでかなりゆっくりしか増大しないものの予後は,分子診断で予想するよりもはるかに良いということです。

MRI画像診断で見える予後

Pallud, J, Blonski, M, Mandonnet, E et al. Velocity of tumor spontaneous expansion predicts long-term outcomes for diffuse low-grade gliomas. Neuro Oncol 15, 2013
407人の成人低悪性度グリオーマの患者さんの予後解析です。画像診断では5.8mm/年の平均増大速度でした。7年余りの追跡期間で209人に悪性転化 malignant transformationが生じました。治療前のMRI上での増大速度のゆっくりしたものは,生存期間が長いというはっきりした結果が出たそうです。分子診断だけではなく,治療前の腫瘍増大速度を見ることによって生存期間の予測ができることを再認識するべきでしょう。

豆知識

グリア glia, glialは,ギリシャ語の”glue”に由来します。粘っとしたものという意味です。英語の glue は糊(ノリ)です。実際に手術で摘出しようとするとちょっとねばっとしています。そのわずかな粘り,硬い粘液のような感触を手掛り腫瘍摘出をします。日本語での膠細胞,膠腫の「膠 にかわ」という訳はあまりいただけません。膠ほどには粘性の強いものではありません。

豆知識

遺伝性に発生するグリオーマがあります。神経線維腫症1型 (NF-1),ターコット症候群 (Turcot syndrome),リ・フラウメリ症候群 (Li Fraumeni syndrome)です。NF-1以外は極めて稀なものです。ですから,NF-1を持っている家系でなければグリオーマは遺伝しないと考えます。

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