膠芽腫(こうがしゅ)

WHO グレード4の悪性腫瘍
  • グリオブラストーマ,業界用語でグリブラといいます
  • 英語では GBM (glioblastoma multiforme) ジービーエムといいます
  • 脳の神経細胞を支える神経膠細胞(星細胞,グリア)が腫瘍化したものです
  • 大脳に発生して、周囲の脳に滲み込むように広がります(浸潤)
  • 成人グリオーマ の40%くらいと頻度が高く,最も悪性の腫瘍です
  • 悪性脳腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍です(頭蓋内腫瘍の10%弱)
  • ですから,世界中で注目をあびて研究されています
  • 小児ではとてもまれで,高齢者になるほど頻度が高いです
  • 多くの患者さんは60歳以上です
  • 2017年現在でも,5年生存割合は10%ほどです
  • 平均余命は2年くらいだと考えてください
  • 進行が早いのでMRIで見つかってから2週間くらいで倍くらいの大きさになってしまうこともあります
  • 世界標準治療は,開頭手術で可能な限り摘出して,病理診断が確定したら,放射線治療(30回分割で60グレイの局所照射)とテモゾロマイド(テモゾロミド,テモダール TMZ)化学療法を行って,退院後に外来でテモゾロマイドを月に1回維持療法として追加することです
  • 初発の患者さんはオプチューンという装置を使うことができます
  • 手術でガドリニウム増強される部分が95%以上切除されると生存期間がのびるというのが定説です
  • それ以下だと,摘出度と生命予後の関係ははっきりしない考えられます
  • 右の側頭葉にできた膠芽腫は手術摘出度があがりますから,視床にできた膠芽腫よりも生存期間が長いです
  • ですから,膠芽腫が発生した場所で,生命予後が大きく変わります
  • 患者さんの年齢が高い(高齢者)ほど悪性の経過をだどります(予後が悪いと言います)
  • 再発したときには様々な治療法が提案されていますが,これが良いと標準化された治療方法はありません
  • 再発(正確には再燃 relapse といいます)すると余命は1年以内くらいです
  • 余命に関係する遺伝子は,MGMTメチレーションとIDH変異なのですが,それが解っても治療法が変わるというわけではありません
  • もう一つ,症例が多い病院 (high-volume hospital 年間23例以上の膠芽腫)で治療すると予後が良いことが知られていますが,日本にはそういう施設はありません
  • 高齢者や状態の悪い患者さんでは手術も何もしないで緩和ケアを選ぶこともあります

診断:MRIでの特徴

  • 診断はMRI検査をします,それだけで十分です
  • ガドリニウム造影剤で腫瘍の周辺が白く造影されます
  • いびつな形になるのが特徴です
  • しかし,ほんとうの腫瘍の広がりは,T2強調あるいはFLAIR(フレア)という画像で,白く滲むように写る部分すべてです
  • 手術でガドリニウム増強される部分が全部取れると,お医者さんは全摘出できたといいますが,それは間違いです
  • FLAIR画像で白く見える部分が全て取れてはじめて,画像上での全摘出と言えます
  • それでもなお,隠れた腫瘍細胞は周囲に滲み込んで残っています
  • カテーテルを用いる脳血管撮影はあまり役に立ちません,お金もかかりますし脳梗塞などの合併症もある侵襲的な検査です
  • 入院検査の予定を立てているうちに増大してしまって,手がつけられなくなるような進行の早い腫瘍です

典型的な膠芽腫のガドリニウム増強画像です。右の側頭葉から発生したために目立った症状が無く,この大きさで発症しました。何となくボッとしていると言うのが訴えでした。腫瘍の周囲がガドリニウムで白く増強されて,内部は壊死で低信号(黒っぽい)になっています。


左がガドリニウム増強像で,手術ではこの部分が取れれば全摘出といわれるのですが,実際は右側のフレア画像で白っぽく見える所には腫瘍が滲み込んでいます。この部分を全て摘出してはじめて,画像上の全摘出といいます。全摘出は無理でしょう

2018年時点で科学的に推奨度の高い治療方針:標準治療 Stuppレジメン

  1. 初発膠芽腫では開頭手術で症状を悪化させないように可能な限り摘出する
  2. 手術後できる限り早期に放射線治療 (60グレイ/30-33分割/6週間)をする
  3. 放射線治療開始と同時にテモゾロマイド (75mg/m2)の投与を開始する
  4. 放射線治療終了後テモゾロマイド (100-200mg/m2)の投与を6コース行う

治療に対する有効性のエビデンスレベルの高いものは,放射線治療,手術摘出,テモゾロマイド化学療法の順です。これは2005年からは世界標準治療となっています。

おそらく日本で広く行われるかもしれない治療法(初回治療のみ)

高度の悪性度を有する腫瘍であり,最大限の抵抗をするために,次のような治療法が導入されています
  • 膠芽腫と画像診断されたら,できる限り早く開頭手術で可能な限り摘出します。進行が早い病気なのでここを急がないと意味がありません。
  • 手術中に迅速病理診断をして,悪性神経膠腫の診断が得られれば,腫瘍を摘出してしっかり止血した後に,ギリアデルを腫瘍摘出腔に貼りつけます。最大8枚(1枚あたりBCNU 7.7mg含有)です。
  • 病理確定診断を急ぎます。同時に患者さんの手術からの回復を急ぎます。また同時に放射線治療計画を行います。これは2週間以内に終えます。
  • 放射線治療 (60Gy, 1.8-2Gy/day, 10Gy/week, generous local field)の開始と同時に,テモダール (75mg/m2/everyday,経口)を投与します。
  • その後に,テモゾロミド (100-200mg/m2/every 4 weeks),経口投与)を可能な限り長期に投与します。
  • これらを終えてなお状態の良い患者さんではオプチューンを装着するかどうか?を考えます
ここで大切なこと
これが日本でできる限界の治療手段でしょう。

オプチューンについて(ここをクリック)

世界中で,すごくたくさんの新しい治療薬が開発中ですから,膠芽腫をコントロールできる薬が出現する可能性は高いです


重要情報

 アバスチンは膠芽腫の生存期間を延長しない(臨床第3相試験)

Gilbert MR, et al.: A randomized trial of bevacizmab for newly diagnosed glioblastoma.  N Engl J Med 370: 699-708, 2014
AVAglio アバグリオ という国際共同研究です。Stuppレジメンにアバスチン(ベバシズマブ)を上乗せする併用治療です。60グレイ(1日あたり2Gy照射を6週間)の放射線治療中に、テモダール(1日あたり75mg/m2)連日投与、アバスチンを2週間間隔で10 mg/kg投与しました。その後は,3週間隔でアバスチンの投与を12サイクル継続しました。637人の患者さんが治療され,アバスチン使用群の無増悪生存期間 PFSは10.7ヶ月,使用しない場合は7.3ヶ月で有意差がありました。全生存期間中央値 OSは,アバスチン使用群で15.7ヶ月,使用しない場合は16.1ヶ月であり,これには有意な差はありませんでした。ここでも病勢の進行はある程度抑えられるけれども,生存期間の延長は得られないという最終成績です。さらにアバスチンを使用した群で,計画時に期待した効果は得られなかった,観察期間の延長とともに症状の悪化・生存の質 QOL の悪化・認知機能の悪化があったとの追記がありました。無増悪生存期間の延長は,アバスチンにスードプログレッションを抑制する見かけの効果があるためであって,真の抗腫瘍効果 true effect ではないという論評もあります。
Chinot OL, et al.: Bebacizmab plus radiotherapy-temozolomide for newly diagnosed gliomblastoma. N Engl J Med 370: 709-722, 2014
ヨーロッパからのもの(RTOG 0825)で,921人の膠芽腫の患者さんを対象としてアバグリオと同様の試験がされました。アバスチン使用群の無増悪生存期間 PFSは10.6ヶ月,使用しない場合は6.2ヶ月で有意差がありました。2年生存割合 2-year OSは,アバスチン使用群で33.9%,使用しない場合は30.1%であり,これには有意な差はありませんでした。アバスチンを使用したほうが,のQOLとPSの維持ができたけれども,副作用(有害事象)が多かったという結果です。アバスチンを使用しても生存期間の延長がないという結論でした。

ACNUとインターフェロン-β

ニドラン(ACNU)は1970年代から,インターフェロン-βは1980年代から日本国に認可されて数十年に亘って使用されてきました。でもこれらの薬剤が膠芽腫に有効であるというエビデンスレベルの高い科学的根拠がありません。ですから,世界では日本だけで膠芽腫に対して “有効であると信じられている” 治療薬と言っていいでしょう。こんなところでもガラパゴス化している日本と言えます。有効かどうか改めて実証するか,それともこれらの薬剤を保険診療から外すかしないと,日本の脳腫瘍学は世界に信用されなくなります。

オプチューンに対する懐疑論

テモゾロマイドで初発膠芽腫の生存期間 OSが15ヶ月となったという驚きは,2005年のものでした。2015年「オプチューンを使用するとOSが20ヶ月にも伸びる!」,すごく驚きませんか?
オプチューンの臨床研究にに登録された患者さんは,診断からランダム化まで3.8ヶ月かかっています。手術,病理,放射線化学療法に時間が費やされいてるからです。この期間にすでに30%の患者さんで悪化 progressionがあり,これら予後の特に悪い早期増悪 early progressionを呈する膠芽腫患者さんが,登録時点で省かれているからです。

膠芽腫の手術

膠芽腫は手術だけで治すことができない腫瘍です,手術の役割は,延命が数週間あるいは数ヶ月であるということに注意して読んでください,重い症状を出すような手術は避けます

開頭手術を受けたほうがいい患者さんの基準(エビデンスクラス I,推奨度 A)

70歳未満の患者さんであり,かつKPS 70以上(介助を受けないで自分の身の回りことができる)という条件があれば,開頭手術が可能であって大きな障害を出さないという条件下で,開頭手術による腫瘍摘出を受けた方がいいとされます。

およそ全ての腫瘍が摘出できた時にのみ生存期間の延長が得られる

大規模な臨床研究の結果,膠芽腫は手術で70-98%くらい摘出できると生命予後が伸びるとされてきました。別な言い方をすれば,腫瘍の大部分が摘出できないと手術の意義は無いということでもあります。2017年,ヨーロッパのEANOガイドラインでは,Although some studies reported gradual improvement in outcome with increasing extent of resection, only gross total resection might be associated with improved outcome.と書かれてあります。たくさん取れた方がいいという報告もあるけれど,結果的に予後を良くできるのは大方全部の腫瘍がとれた時だけであろうということです。

膠芽腫は可能な限り多くの量を摘出するという方針で良いのか?

手術でたくさん取れた方が生存期間が延びるか?

Marko NF, et al.: Extent of resection of glioblastoma revisited: personalized survival modeling facilitates more accurate survival prediction and supports a maximum-safe-resection approach to surgery. J Clin Oncol, 2014
MDアンダーソン癌センターの報告です。accelerated failure time (AFT) modelingという予後解析方法が用いられました。結論として,80%だの95%だのという値 threshhold を持って手術が有用かどうかの議論ではなく,a maximum safe resection? (安全に摘出できるだけとる)という手術戦略に意義があるとしました。手術の前に,個々の患者さんの余命を予測する目的で,このモデルを使うためには患者さんが術後の放射線化学療法を望むかどうかの情報が必要です。要するに,「できるだけとる」というオーソドックスな考え方に権威を与えたともいえるでしょう。一方で,この論文の結論が手術の好きな脳外科医の間で広まると,危険な感じがしますが。

Grabowski MM, et al.: Residual tumor volume versus extent of resection: predictors of survival after surgery for glioblastoma. J Neurosurg, 2014
クリーブランドからの報告です。A statistically significant benefit in survival was seen with a CE-RTV less than 2 cm(3) or an EOR greater than 98%.と書かれています。手術後のガドリニウム増強される腫瘍の量が2cc以下であれば余命が長いということです。旧来の摘出率で言えば98%摘出できた時です。

Kreth FW, et al. Gross total but not incomplete resection of glioblastoma prolongs survival in the era of radiochemotherapy. Ann Oncol 2013
ミュンヘン大学からの報告です。ほぼ全摘 GTRを受けた患者さんでのみ予後が改善され,開頭部分摘出 incomplete resection の価値には疑問が残るとしています。

Sanai N, et al.: An extent of resection threshold for newly diagnosed glioblastomas. J Neurosurg, 2011
サンフランシスコ大学からの論文です。MRI画像のガドリニウム増強される(白く写る)部分を,どの程度摘出できていると生存期間が延びるかが調査されました。8割程度 (78%) 以上が摘出できると生存期間が延びると報告されています。しかし,この結論には異論が多くあり,かなりコンセンサスのあるところでは,95%以上の摘出で予後が改善するとの考え方の方が標準的です。逆に,40%摘出しても70%摘出しても,膠芽腫の予後はほとんど変わらないということは真実です。だから,手術は無理をしない。もう一点,そもそも手術で摘出しやすい場所の膠芽腫は浅く表面で,手術できない膠芽腫は脳の深部にあるので,手術摘出できるかどうかは腫瘍の発生部位で決まっているのです。

膠芽腫の放射線治療

  • 放射線治療をすることによって,生命予後がおよそ2倍に伸びます
  • 60グレイを1日あたり1·8–2·0グレイで照射します
  • 1週間に5回ですから,治療には6週間くらいかかります
  • 70歳以上の状態の良い患者さんで線量を絞りたい時には,50グレイ(1·8グレイ/日)でも効果はあります
  • MRIで腫瘍があると判断される部分より,全周 2cmくらい幅広く放射線を当てます(generous local field)
  • 初期治療においての,ガンマナイフ(放射線外科治療)やサイバーナイフ(定位放射線治療)は有効ではありません

高齢者の膠芽腫

  • もともと膠芽腫は高齢者に多い悪性腫瘍です,半数くらいが65歳以上に発生します
  • 高齢者膠芽腫の余命は若い患者さんよりさらに短くなります
  • 2012年Lancet Oncologyの報告で手術放射線治療を受けても平均余命は8ヶ月から10ヶ月程度です,2017年のNew Eng Medの報告で7ヶ月から9ヶ月です
  • ですから,高齢者には無理な治療をしないという考え方も広がっています
  • 例えば,75歳以上の膠芽腫患者さんには開頭手術をしないという選択肢などです
  • KPSが60%以下の状態の悪い患者さんは,予後がとても短いので手術を含めた積極的な治療を控えるのも選択肢です
  • その場合には,緩和ケアを選んでなるべくつらい思いをしないように介護しましょう
  • 高齢者には,25グレイを5分割して1週間(40グレイを15分割して3週間,あるいは34グレイを10分割2週間)で終えるという短期間放射線治療 short course radiation therapy が勧められます
  • この場合は,副作用を考えてテモダールも積極的には使用しません
  • とくにMGMTメチレーションのない高齢者の患者さんにはテモダールを使用しません
  • でも逆に,病理診断でMGMTメチレーションがある患者さんでは放射線治療をしないでテモゾロマイド(5日間投与)を12ヶ月投与しますが,それと放射線単独治療の成績は変わらないとされています
  • 逆のことも言えます,高齢者でも全身状態が非常に良くて,症状がとても軽くて,腫瘍が摘出しやすい部位にあり,MGMTメチレーションがあるときには,若年成人と同様に,通常の60グレイ照射とテモダール治療をした方がよいかもしれません(かなり限られた例です)

テモゾロマイドはいつまで続けるのか

  • 世界標準治療では放射線治療後に6コース(約6ヶ月)となっています
  • 7コース以上継続できても生命予後は改善しないとされています
  • しかし,MGMTメチレーションのある膠芽腫では,12コースまで続けるべきだとの意見は強いです
  • でも,日本では現実的に,可能であれば24コースまで継続されることが多いでしょう
  • なぜなら,保険診療でも制限されていませんし,止めると急な腫瘍再燃が生じることがままあるからです

IDH変異のある膠芽腫の治療はどうする

IDH-mutant 膠芽腫は,IDH-mutantの退形成性星細胞腫と同じ方針で治療されるようになってきています。しかし,IDHの遺伝子検査結果が100%正しいわけではないこと,かつてIDH-mutantは膠芽腫として治療されてきましたが10年生存がほぼ0%であったことを考えれば,今までどおり膠芽腫として治療を続けるべきであるという意見も強いです。

生存期間が長い膠芽腫の患者さんの条件

予後因子と言います。 2011年のInt J Radiat Oncol Biol Phys論文では,年齢,術前の全身状態 PS,手術摘出度,神経症状(機能)の4つです。要するに,若くて元気で,症状も軽くて腫瘍が発見されて,手術でかなりの腫瘍が摘出できれば予後が良いということです。逆に,高齢で全身状態が悪くて症状も重くて,手術でほとんど摘出できない膠芽腫の患者さんの余命はかなり短い(RPA class Vで7ヶ月)と言えます。当たり前と言えば当たり前のような^-^; 下のほうに書いてある,腫瘍のIDHとMDMT遺伝子によっても生命予後が変わります。

10年以上生存する患者さんはいないのか?

答えは,「います」。超長期生存報告の条件でもっとも重要なのは腫瘍の部位で,右前頭葉や側頭葉の先端部とか,腫瘍を周りの正常脳を含めてかなり広範囲に手術摘出できるものとされています。2013年に東京の国立がんセンター病院から,24歳で発症して21年間生存している膠芽腫患者さんの報告があり,最長生存例の一人とのことです。Fukushima S, et al.: A case of more than 20 years survival with glioblastoma—-. Neuropathology 2013

再発(再燃)を考える ;緩和ケアも選択肢です

  • 2015年の第3相試験の報告でも無増悪生存期間 PFS は4-7ヶ月ほどですから,半数以上の患者さんは放射線治療が終了して1年以内で再燃します
  • 膠芽腫の10年生存割合は0%に近いです
  • ですから,初期治療が成功してもいつか再発すると考えなければなりません
  • 再発すると平均的な余命(生存期間中央値)は1年以内です
  • 再発に対する治療法は確立されていません
  • 医師からは,開頭手術,さまざまな種類の抗がん剤(化学療法),ロムスチン CCNU,ニドラン,アバスチン,インターフェロン,サイバーナイフ,ガンマナイフなどの定位放射線治療,ウィルス療法,免疫治療(ワクチン療法)などなどが勧められるかもしれません
  • 再手術を行うことはあまりないと考えてください
  • 科学的根拠は別として,実際の臨床の場では,再発腫瘍がMRIでみて境界が明瞭で,摘出すれば症状の寛解が得られることが期待できるケースでは,「まれに」手術摘出が行われます
  • 米国では,多くの患者さんが新たな薬剤の臨床試験 clinical trial に参加しますが,日本では難しいです
  • 治験というのは新しい薬剤(化学療法)などが,膠芽腫の再発に有効かどうかわからないので患者さんで試験をするという意味です
  • 「新しい」ということと「有効」だということは異なるので気をつけてください
  • 例えば最近かなり期待されたオプジーボは,2017年に再発膠芽腫には有効性がないことが第3相試験でわかりました
  • まず,これ以上さらに追加治療するかどうか,それとも緩和ケアを選ぶのかを考えましょう
  • 膠芽腫は高齢者に多く,初期治療では手術と60グレイの放射線治療,さらに再発腫瘍によって,認知症(高次脳機能障害)になっていることが多いですから,どうしたらよいか本人には判断できないことも多いです
  • アバスチンを使用すると一時的な症状の寛解を得られることがあります,でも生存期間の延長はないとされています
  • MGMTのメチレーションがある例ではテモダールの再投与 rechallengeをします
  • 他の化学療法としてはニトロソウレアが用いられることが多いです,ニドラン,ロムスチンなどです
  • でもこれらの追加治療の成功率は低いです,ロムスチンの6ヶ月PFSで15-25%くらいです
  • 行うとしても身体や生活,大きな金銭的な負担にならないようにします

再発したらまた手術することによって生命予後がのびるか?

  • 2017年時点でもさまざまな意見がありますが標準的な指針はありません
  • はっきりした利点が見えないときは原則的には再手術はしません
  • 欧米では,手術は再発膠芽腫の患者さんの20-30%で行われています
  • 日本では再発膠芽腫に対する手術の頻度が高すぎるかもしれません
  • 「症状を悪化させない」という条件下で大部分の容積の腫瘍摘出ができて,数カ月以上の有意な生活が期待できるときに考慮します
  • ガドリニウム増強される腫瘍病変が全摘出できると判断される時にのみ行います

Suchorska B, et al.: Complete resection of contrast-enhancing tumor volume is associated with improved survival in recurrent glioblastoma-results from the DIRECTOR trial. Neuro Oncol 2016
膠芽腫の初回再発で手術が行われた71例の解析です。ガドリニウム増強される病変が完全摘出された患者さん(N = 40) とできなかった患者さん (N = 19) では,再発後の生存期間PRS (post-recurrence survivalが,それぞれ12.9ヶ月と6.5ヶ月で有意差があり,生存の質も良かったとされています。逆に,不完全摘出で終わった患者さんのPRSが手術を受けなかった患者さんより短かったということです。

再発したらまた放射線治療をするのか

  • 原則として再照射は行いません
  • 理由は,効果が得られないことがほとんどだからです
  • 「きわめて稀に」小さなターゲットを制御することで予後が期待できるときには,放射線外科治療 SRS (single dose 15-20Gy) を選択することがあります
  • 少分割定位放射線治療では30-36Gy (5-6Gy/day)が用いられることがあります
  • いずれも,再照射した部位には高率に脳壊死が生じます

再発した時に新薬を試すことができるか?

膠芽腫に対する臨床試験(治験)というのが世界中で常に行われています。薬剤の毒性を調べる様な第1相試験から,効果の確実性を確かめる第3相試験まであります。
National Brain Tumor Siciety
National Cancer Institute
というような患者さん向けの臨床試験情報を提供しているページを見ると,常に最新の治療法開発の治験情報が載っています。
残念ながら日本語での情報提供はありませんし,日本独自のものはなくて欧米が中心です。
この50年間で数百を超える治療法が提案されましたが,実際に患者さんの生存期間が延長できると証明された薬剤は,テモゾロマイドだけでした。ですから,あまりお金をかけたり遠方へ行って大切な時間を使ってしまうことはお勧めできません。

smalllake

これから下はかなり専門家のための知識です

 

 WHO 2016年 膠芽腫の分類 すべてグレード4です

Glioblastoma, IDH wild-type IDH変異のない膠芽腫
   Giant cell glioblastoma 巨細胞性膠芽腫
 Gliosarcoma 膠肉腫
 Epithelioid glioblastoma 類上皮膠芽腫
Glioblastoma, IDH mutant  IDH変異のある膠芽腫
Glioblastoma (遺伝子診断がされてない組織診断だけのもの)

これらの異型で治療方法はおなじですが,IDH変異のある膠芽腫のみは,グレード3(退形成性星細胞腫)として治療する方向にあります


膠芽腫の病理(別ページにあるのでここをクリック)


治療後の評価と再発

  • 治療抵抗性で放射線治療も効かずに進行悪化してしまう例もあります
  • しかし,多くの患者さんで,テモゾロマイドと放射線治療で一時的な寛解期が得られます
  • テモゾロマイドが標準治療となってから,治療後12週以内に生じるスード・プログレッションが問題となりました
  • ガドリニウム増強される病変が増大して脳浮腫も一見悪化するのですがまた寛解します
  • 2016年時点で,スード・プログレッションと再発(再燃)を正確に見分ける検査法はありません
  • 現実的には頻回にMRI検査をして再燃かどうかを見分けます
  • アバスチンの投与で腫瘍が一時的に縮小することも真の評価にはつながりません
  • 学術的な治療効果はRANO criteria を用います
  • T1 Gd, MRI T2/FLAIR, 新病変の有無,ステロイドの量,臨床症状で評価するもので,単純ではありません
  • 膠芽腫ではCRという結果はありません
  • 実際には,アバスチンを投与するとMRIで膠芽腫病変が小さくなって浮腫も引いて良くなっているという所見は一時的効果であるかもしれないこと,テモダールと放射線治療をして3ヶ月以内に著名な病変拡大があってもスード・プログレッションかもしれないのでアバスチン投与して我慢するということが大切です

de novo (primary) glioblastomaとsecondary glioblastoma

  • 膠芽腫には2種類あります
  • 9割くらいの膠芽腫は,高齢者に発生するデ・ノボタイプ(de novo)です
  • de novoとは,いきなり癌が発生することを意味します
  •  残りの10%くらいの膠芽腫は,低悪制度のびまん性星細胞腫(グレード2)か退形成性細胞腫(グレード3)から悪性化して生じるので,これをセカンダリー(secondary)タイプといいます。
  • 星細胞腫の悪性転化 transformationともいいますが,実際には多いものではありません
  • セカンダリータイプの年齢層は若いです
  • セカンダリータイプは,前頭葉に多くて,組織像で壊死の量が少ない,グレード2の星細胞腫が混じっているという特徴があります
  • セカンダリータイプではIDH1という遺伝子の変異が見られます
  • セカンダリータイプの方が治療が有効で予後が良いことが知られています
  • 予後が良いといっても,星細胞腫に対して放射線治療を行った後に生じたセカンダリータイプ GBM の生命予後は長くはありません
IDH wildtype プライマリー

膠芽腫のほとんど90%くらいはこれです。年齢中央値62歳くらいで,突然発生します。数ヶ月前にMRI正常だったのにというタイプです。男性に多くて,テント上に発生します。ガーランド形状(Garland shape; 腫瘍の周囲が縁取りされるようにガドリニウム増強される)を示して,腫瘍内部の壊死が大きいです。手術放射線化学療法をしての生存期間中央値は15ヶ月です。TERT promotor変異が72%,EGFR増幅が35%,PTEN変異が24%にみられます。

IDH mutant セカンダリー

10%くらいで,星細胞腫 grade II or III が悪性化するものです。年齢中央値は44歳と若い。手術放射線化学療法ができて1,中央値 31ヶ月くらいの生存期間です。画像では,前頭葉に多くみられ腫瘍内壊死は少なめ。TP 53変異が81%,ATRX変異が71%と高率です。

セカンダリー・グリオブラストーマ: secondary glioblastoma(グリオーマの悪性転化)の実例はここをクリック

giant cell glioblastoma 巨細胞性膠芽腫 WHO grade 4

まれに小児もみられるもので,de novoで発生します。病理組織で多核巨細胞がたくさんみえるものです。TP53変異,AURKB発現がありますが,EGFR増幅が稀です。MRI画像では,境界が明瞭で皮質下にあり,転移性脳腫瘍の画像ににています。通常の膠芽腫よりは,少しだけ生命予後が良いとされています。giosarcomaと同様に全摘できることが多いからです。

Gliosarcoma 膠肉腫と Epithelioid glioblastoma 類表皮性膠芽腫 WHO grade 4

小児から若年成人にも発生する膠芽腫で,de novoです。膠芽腫の variantなのですが,MRI画像をみると膠芽腫ではないように見えてしまって,手術後に膠芽腫だったのかと思うことがしばしばです。理由は腫瘍の境界が明瞭でくりんと見えるからです (sharp demarcation)。いわゆるPNETみたいに見えます。脳表に発生した時には,硬膜に接して硬膜血管を引き込んで悪性髄膜腫に見えたりします。完全摘出できるチャンスがあるものです。

glioblastoma with primitive neuronal component WHO grade 4

glioblastoma with PNET-like componentとして報告されていた例です。神経細胞系への分化を示す未分化な細胞がみられます。大きな特徴は,髄液播種する可能性がとても高いということです。臨床的にはPNETのようなものです。

分子マーカー

MGMT : 治療反応性が予測できますから一部の試験で治療法選択に応用されています
IDH1/2 : 生命予後をある程度予想することができます
1p/19q
EGFR, EGFRvIII
p53
PTEN mutation or deletion
PDGFR
PIK3CA 

以下の分子マーカーが注目されて臨床試験の中で調べられています,要するに基礎研究のターゲットですが,2016年時点で、これらが解ったからといって患者さんに役に立つという訳ではありません。臨床的な観点からは,MGMT statusをみることが有用であると考える研究者はごく一部といえます。「MGMT metilationとIDH mutationくらいは病理診断の時にみておいてもいいかな?」くらいです。

Pro neural type
Neural type
Classical type
Mesenchymal type

遺伝子変異発現をもとに予後と治療効果をみるために細分類されたものです。proneural typemesenchymal typeではIDH1 wild-typeである前者の方が治療反応性がよいとされます。2016年の時点ではこれが分かったいっても患者さんに役に立つ新たな治療法はありません。

名古屋大学脳外科がグリオーマの遺伝子診断はじめました

グリオーマは病理組織診断ではなく遺伝子診断されるようになってきました。主治医の先生にお願いして手術で腫瘍の凍結標本を保存していただければ,名古屋大学脳外科で解析していただけます。ただし,手術前に主治医の先生にお願いしなければなりませんし,それを名古屋大学に持っていくあるいは郵送できる方法を確保する必要があります。高度先進医療ですから実費が5万円かかります。標本を渡してから2週間以内に解析結果がでます。


文献情報

治療の後の復職

Stamoni D, et al.: Returning to work after multimodal treatment in glioblastoma patients. Nurusurg Focus 2018
フランスからの報告です。就労可能年齢(平均48歳)の膠芽腫の患者さん125人の予後追跡です。治療後に21人 (18%) の患者さんが働けていましたが,ほとんどはパートタイムでした。

インターフェロンは有効ではない

Wakabayashi T, et al,: JCOG0911 INTEGRA study: a randomized screening phase II trial of interferonβ plus temozolomide in comparison with temozolomide alone for newly diagnosed glioblastoma. J Neurooncol 2018
名古屋大学が中心となって長く日本で行われた試験の結果です。インターフェロンの上乗せ効果はありませんでした。

再発種膠芽腫にロムスチンと併用するとわずかながらPFSの延長がある

Wick W, et al.: Lomustine and Bevacizumab in Progressive Glioblastoma. N Engl J Med. 2017
Phase III EORTC 26101の結果報告です。膠芽腫の再発にロムスチン CCNU単独とアバスチンの併用が試験されました。ロムスチン単独のPFSは1.5ヶ月,ロムスチンとアバスチンを使用すると4.2ヶ月という結果です。
わずかな無増悪生存期間の延長です。この結果を持って米国では再発膠芽腫への使用が認可されました,しかし,これはCCNUとの併用なので,日本ではできない治療です。

テモゾロマイドを7コース以上継続しても生存期間の延長は得られない

Blumenthal D, Gorila T, Gilbert MR, et al. Is more better? The impact of extended adjuvant temozolomide in newly-diagnosed glioblastoma: a secondary analysis of EORTC and NRG Oncology/ RTOG. Neuro Oncol 2017
過去に行われた大規模試験で膠芽腫2214例が解析されました。6コースのテモゾロマイド維持療法の時点で無増悪であった624例のうち,291例で維持テモゾロマイドが継続さえれ,333例では中断されました。テモゾロマイド継続例で生存期間の延長があるという事実はなかったとのことです。結論としては,膠芽腫の初発例ではテモゾロマイドは6コースで打ち切るということです。しかしこの中で,MGMTメチレーションがある群ではやや無増悪生存期間が長いとのことです。

Gramatzki D, et al. Limited role for extended maintenance temozolomide for newly diagnosed glioblastoma. Neurology 2017
142人の患者さんのうち61人でテモゾロマイドが7コース以上投与されました。7コース以上の投与で,無増悪生存期間も全生存期間も伸びなかったという結論です。MGMTメチレーションのある患者さんでもテモゾロマイドの長期投与の効果は認められないとしています。

2017年のこの2つの大きな論文は,テモゾロマイドの7コース以上の投与を否定しました。しかし,MGMTメチレーションのある例では現実的に12コース以上の投与が行われることが多いでしょう。状態が良くテモゾロマイドを問題なく服用している膠芽腫の患者さんでテモゾロマイドを中断すると,急激な腫瘍増悪をみることが経験的にあるということを脳腫瘍の専門家は知っているからです。

ABT414の臨床試験

Reardon DA, et al.: Efficacy and safety results of ABT-414 in combination with radiation and temozolomide in newly diagnosed glioblastoma. Neuro Oncol, 2016
一部の膠芽腫は変異型EGFRというタンパクを発現しています。それにくっつく抗体 ABT-806に腫瘍細胞の分裂を阻害するMMAFという抗がん剤をくっつけて,静脈内から投与する治療法で,MMAF-antibody-conjugatesといいます。2017年5月時点で,米国では第2相試験があり,再発したグレードIIIとIVの悪性神経膠腫への第1相治験は日本でも行われています。参加条件は変異型EGFR増幅がある膠芽腫であることが病理学的に証明できる患者さんで,テモダールを併用します。

再発膠芽腫にオプジーボ Opdivo (nivolumab)は有効ではない

2017年に,注目の再発膠芽腫に対するOpdivo (nivolumab,PD-1 checkpoint抑制剤)の第3相試験 CheckMate-143の結果がわかりました。生存期間の延長は得られませんでした。

高齢者でもテモゾロマイドを加えると生存期間の延長がある

Perry JR, et al.: Short-Course Radiation plus Temozolomide in Elderly Patients with Glioblastoma. N Engl J Med 2017; 376:1027-1037
65歳あるいは70歳以上の高齢者には短期間で放射線治療を行うというのが一般的です。65歳以上の562人の患者さん(年齢中央値73歳)に,40グレイ15分割の放射線治療のみ,放射線治療にテモゾロマイドを加える第3相試験が行われました。全生存期間中央値は放射線単独で7.6ヶ月,テモゾロマイドを加えると9.3ヶ月でした。無増悪生存期間はそれぞれ5.3ヶ月と3.9ヶ月です。MGMTメチレーションのある患者さんでは,テモゾロマイド併用で13.5ヶ月です。
「解説」よくよく考えると,放射線治療をしてテモゾロマイドを加えても,腫瘍が再燃しないまでの期間は5ヶ月にしかなりません。通常のオンコロジーの概念からは,緩和ケアというのが選択肢として有力となるはずで,これらの治療をするかどうかということが治療開始の前に検討されなければなりません。

テモゾロマイドが効かない膠芽腫にアバスチンとイリノテカン?

Herrlinger U, et al.: Bevacizumab Plus Irinotecan Versus Temozolomide in Newly Diagnosed O6-Methylguanine-DNA Methyltransferase Nonmethylated Glioblastoma: The Randomized GLARIUS Trial. J Clin Oncol 2016
ヨーロッパからの報告です。MGMT非メチル化の膠芽腫はテモゾロマイドに抵抗性である事が知られています。そのような患者さん182人で,アバスチン (10 mg/kg every 2 weeks)とイリノテカン併用 (維持療法 125 mg/m2 every 2 weeks) と放射線治療,あるいはテモゾロマイドと放射線治療の治療成績が比較されました。6ヶ月無増悪生存割合PFSはそれぞれ79%と43%でした。PFS中央値は,9.7ヶ月と6.0ヶ月です。MGMTのメチル化がないテモゾロマイド抵抗性の膠芽腫には,アバスチンとイリノテカンの組み合わせの方が腫瘍進行を抑制する力が強いという報告です。しかしやはり,全生存割合は16.6ヶ月と17.5ヶ月であり有意差がありませんでした。またQOLを変えることもできませんでした。MGMT非メチル化を証明してイリノテカンを使用しても延命はできないし生存の質も改善しないということです。

IDH-1の変異のない膠芽腫にはアバスチンの有効性がある

Sandmann, T, et al. Patients with proneural glioblastoma may derive overall survival benefit from the addition of bevacizumab to first-line radiotherapy and temozolomide: retrospective analysis of the AVAglio trial. J Clin Oncol. 2015
膠芽腫を間葉系 (mesenchymal type)と前神経 (proneural type)に分けた場合,proneural IDH1 wild-typeの初期治療ではアバスチンを使用すると全生存期間 OS が延長する (17.1ヶ月 vs プラセボ 12.8ヶ月) という結果です。僅かな差なのかもしれませんが。

状態が悪いあるいは高齢者の膠芽腫には短期間の放射線治療が適切

Roa W, et al.: International Atomic Energy Agency Randomized Phase III Study of Radiation Therapy in Elderly and/or Frail Patients With Newly Diagnosed Glioblastoma Multiforme. J Clin Oncol. 2015
無作為第3相試験です。状態があまりよくないあるいは65歳以上の患者さん(frail = age ≥ 50 years and KPS of 50% to 70%; elderly and frail = age ≥ 65 years and KPS of 50% to 70%; elderly = age ≥ 65 years and KPS of 80% to 100%)に,25グレイ5日間あるいは40グレイ15日間の放射線治療が行われました。両者の間にOSもPFSもQOLも有意差はありませんでした。対象となる患者さんには治療期間短縮のために放射線治療を1週間で終えるという結論です。

バルガンシクロビル

Söderberg-Nauclér, et al.: Survival in Patients with Glioblastoma Receiving Valganciclovir. N Engl J Med 369: 985-986, 2013
カロリンスカ大学からの報告では,ほぼ全ての膠芽腫 99% にサイトメガロウィルス CMVの感染の痕跡 CMV atigen があるそうです。強い感染がみられる膠芽腫の生存期間中央値は13ヶ月,弱い感染例では33ヶ月です。サイトメガロウィルスの治療薬である Valganciclovir(バルガン,抗ウィルス薬)を膠芽腫の患者さんに投与したら,生存期間中央値が25ヶ月であったと報告されました。非常に権威ある科学誌にびっくりするほどすばらしい治療成績が発表されたと言えます。
ですが,すぐに反論がありました。Hellstrand Kらは,CMV antigenが検出されたとしても,ほぼ全ての膠芽腫でCMVがreplicateしていないと言います。ValganciclovirはCMVのreplecateを阻害する薬剤ですから,replecateがないとすれば効かないはずです??
CMVは膠芽腫の発生原因ではありませんが,増殖を促すような何かの働き (possible oncomodulatory role)をしているのではないかと推定されています。Valganciclovirの臨床的な有用性は確認されないままです。

再発に対するロムスチン CCNU の効果

Batchelor TT, et al. Phase III randomized trial comparing the efficacy of cediranib as monotherapy, and in combination with lomustine, versus lomustine alone in patients with recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 2013
VEGFR-1,2,3に対する経口阻害剤cediranibとCCNU(ロムスチン)の併用効果を試した第3相試験です。再発膠芽腫325例の大規模試験です。cediranibの有効性はありませんでした。ロムスチン投与による6ヶ月PFSは15-25%と評価されています。5人に一人くらいの患者さんがロムスチンによって数ヶ月の寛解延長があるのかもしれません。

60歳以上の膠芽腫患者さんへの治療

Maimstrom A, et al.: Temozolomide versus standard 6-week radiotherapy versus hypofractionated radiotherapy in patients with glioblastoma: Nordic randomized, phase 3 trial. Lancet Oncol 13; Epub, 2012
ヨーロッパでの共同研究です。60歳以上の膠芽腫患者さん291人が,テモダール単独治療(200mg/m2, days 1-5 of every 28 days) ,低分割照射(34 Gy in 3.4 Gy fractions over 2 weeks), 標準的照射 (60 Gy in 2 Gy fractions over 6 weeks)のいずれかの治療を受けました。それぞれの生存期間は8.3ヶ月,7.5ヶ月,6ヶ月でした。70歳以上に限っても同様の傾向であったということです。MGMT promotor methylationがあった患者さんで特にテモダールの有効性は良好でした。結論として,特に70歳以上の患者さんでは標準的な60グレイの放射線治療をするべきでないとしています。その方が余命が有意に短くなるからです。この論文のインパクトは大きいと言えます。
病理診断でMGMTメチレーションがある高齢者はテモダール治療
そうでなければ34グレイ10分割を標準的な治療オプションとするべき
かもしれません。

65歳以上の膠芽腫患者さんの治療:MGMTメチレーションで選択する

Wick W, et al.: Temozolomide chemotherapy alone versus radiotherapy alone for malignant astrocytoma in the elderly: the NOA-08 randomized, phase 3 trial. Lancet Oncol 13; 707-715, 2012
65歳以上の患者さん(膠芽腫と退形成性星細胞腫)373人が,テモダール単独治療(100mg/m2, days 1-7/week, 1 week off cycles) あるいは放射線治療単独治療(60Gy/30fr)を受けました。テモゾロマイド群の全生存期間は8.6ヶ月,放射線治療群の患者さんは9.6ヶ月でした。骨髄抑制などの副作用はテモダール群で明らかに多かったと記載されています。著者は,MGMTメチレーションがあれば,テモゾロマイド単独治療は放射線治療に劣るものではないと結論しています。MGMTメチレーションのある高齢の患者さんでは,放射線治療をしないでテモゾロマイド(5日間投与)を12ヶ月投与しますが,それと放射線治療の成績は変わらないということを報告した論文です。

再発膠芽腫の再手術ははっきりした利益が予想される時だけに行う

Clarke JL, et al.: Is surgery at progression a prognostic marker for improved 6-month progression-free survival or overall survival for patients with recurrent glioblastoma? Neuro Oncol 13: 2011
北米で1998年から2008年に治療された758人の再発膠芽腫の患者さんが統計学的に解析されました。結果として,再発の時に腫瘍の摘出術を受けても受けなくても,6ヶ月無増悪生存割合と全生存割合は変わりませんでした。再手術をすることによって腫瘍の制御も延命も得られないという結論です
「解説」再発した膠芽腫に再開頭手術をする意義は低いということです。日本では再発膠芽腫に対する手術の頻度が高すぎるかもしれないので警告として捉えるべきでしょう。しかし,全ての患者さんに再手術は無効というわけではありません。中には再発した腫瘍の大部分が安全に摘出できて,その再手術をすることによって化学療法を加える時間的余裕ができることもあります。 でも,再手術は患者さんにとって明らかに利益があると予想できた時のみに行なうべきことです。その後2014年,同じ雑誌にイタリアのNava F.が764例の解析結果を発表しましたが,再発に対する再手術は生存に寄与しなかったと結論しています。

再発膠芽腫へアバスチンの効果

Friedman HS, et al. Bevacizumab alone and in combination with irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 27:4733–40, 2009
2009年Friedmanらによって,再発の膠芽腫にアバスチンを単独で使用した場合に,6ヶ月無増悪生存割合が42.6%であると報告されました。これは,直接的な腫瘍増殖抑制のみならず,放射線治療後のpseudoprogressionの改善という画像所見を含んだ評価 (pseudoresponse) でしょうし,良すぎる成績です。しかし,再発した膠芽腫の臨床的増悪をアバスチンが一定期間抑えるというのは明らかな事実となりました。
その後の報告を鑑みて,患者さん側からは再発の膠芽腫にアバスチンを単独で使用した場合には,4割くらいの確率(4/10くらいの患者さん)で数ヶ月間は進行を抑制できるかもしれないと考えてください。

小児の膠芽腫は別ページにあるのでここをクリック

 


20年以上 生存したという患者さんからの手紙

超長期生存者がいるかどうかということが学会で議論になります。2000年頃に脳腫瘍学会で10年以上生存している患者さんを調査したことがありますが,結局見つかりませんでした。病理診断を見直したら実は膠芽腫ではなかったとかです。
下の病理写真は,ある患者さんから私に送られたものです。20代で前頭葉の膠芽腫になってから21年経って生存しておられるということです。2度の開頭術と放射線治療と化学療法(複数回)を受けておられます。患者さんに病理診断が間違っているのではないかと返事をしたら,下にある画像を送ってくださいました。病理診断は,一見したところは多形膠芽腫 グリブラに間違いありませんでした。でも,ーーー
(下の画像は患者さんの許可を得て掲載させていただきました)

bizarre! 異様な細胞が混在しています。核多型が目立ち,多核巨細胞も混じる典型的な膠芽腫の像です。下の左の画像は血管内皮の肥厚 endovascular proliferationがあり,下の右のKi-67染色では核濃染像が多く核分裂能が高いことを示します。しかし,——

左のGFAP染色では一部の細胞が染色されません,右のHE染色では豊富な血管増殖の間に空砲 perinuclear halo を有した細胞増殖が見られます。さらに,–

腫瘍の部分像として明らかに乏突起膠腫が混在しています。また,どの部分をみても壊死 necrosisがありませんでした。

従って,この腫瘍の形態病理診断は,退形成性乏突起星細胞腫 anaplastic oligoastrocytoma WHO grade III となります。

まめ知識(術後に放射線治療をしないと)

時は1978年,私が脳神経外科医になろうかなと迷っていた頃に遡ります。Anderson AP先生が,108人の膠芽腫の患者さんを,手術だけの群,手術と放射線で治療する群に分けました。1年後に放射線治療を受けた患者さんの19%が生存していましたが,受けなかった患者さんは全員が亡くなっていました。(Acta Radiol Oncol Radiat Phys Biol. 17: 475-484, 1978)
当時は手術して放射線治療しても1年間生き延びられなかったということです。また,手術後に放射線治療ができない時には,膠芽腫の開頭手術にほとんど意味がないということを明らかにした歴史的な論文です。

まめ知識(BCNUと放射線治療の効果)

Walker MD, et al.: Evaluation of BCNU and/or radiotherapy in the treatment of anaplastic gliomas. A cooperative clinical trial. J Neurosurg 49: 333-343, 1978
Walker MD, et al.: Randomized comparisons of radiotherapy and nitrosoureas for the treatment of malignant glioma after surgery. N Engl J Med. 303: 1323-1329, 1980
1970年から80年代にかけて,Walker博士がグリオーマの補助療法の研究で世界をリードしていました。 大規模無作為臨床試験 prospective randomized studyという統計学を応用する科学的な研究です。この頃の日本では,研究の概念さえも理解されていませんでした (o_o ;)
BCNU カルムスチンという抗がん剤が有効であろうという仮説のもとになされた研究でしたが,結果的にBCNUの有効性は統計学的には証明されませんでした。論文中ではBCNUが有効かもしれないという結論の書き方で,BCNUがこの後も長きにわたり使用されることになります。一方で,放射線治療は統計学的に有意な有効性を示しました。
1980年代の後半に,同様の研究を米国でしていたLevin博士がヨーロッパで公演した時に,”Chemotherapy is useless for glioma.” 「グリオーマに化学療法は役に立たない」と発言したのを聞いて驚いたことがあります。

将来のことですが,膠芽腫を治すためのキーワード

膠芽腫 GBM の最大の特徴は,腫瘍細胞の高い浸潤能 invasion です

  • 私の師匠にあたるDr. Nicolas de Triboletは,GBMは全脳の病気であるといいました。彼が言わんとしていることは,GBMを局所の腫瘍として捉えてはいけないということです。簡単に言えば,MRI画像でみえるところを摘出も決して治る病気ではないということです。
  • そのとおりで,世界中で精一杯の開頭手術による腫瘍摘出術が行われるのですが,GBMの10年生存割合はほぼ0%です。残念ながら現時点では治癒ということは期待できない悪性腫瘍です。
  • 逆に, どのような無理な手術をしても治癒ということがないのであれば,腫瘍をできるだけたくさん取った方が治る確率が上がるという,脳外科医の説明は正しくないということになります。手術は寛解を得る手段に過ぎないのです。多くの脳外科医の先生がこの点を勘違いしています  surgery is palliative, never curative !
  • 局所放射線治療も手術摘出も中性子捕捉療法 BNCTもギリアデルも光線力学療法 PDTも,全脳に有効であるという治療法ではありませんから,決してGBMを治す治療法とはならないのです。
  • また他のがん腫と比較すれば,膠芽腫は転移せず緩徐増大性でG0/1期の細胞割合が高いものですから,抗腫瘍薬に求められるものは高い血中濃度ではなく,効果持続性です。
  • GBMを治すということを期待するのであれば,やはり何かの薬剤の登場を待つしかないのでしょうが,それはピル(経口薬)でしょう く(^.^)ノ 

文献

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