グリオーマ摘出の術中イメージ・テクノロジー
- グリオーマは脳の中に浸み込んでいていて取ることが難しい腫瘍です
- 外科医個人の経験値にもとづく技術がもっとも大切です
- それを補うために手術中に蛍光発色や画像イメージを利用するテクニックがあります
- 術中MRI,5-ALA (アラベル), ナビゲーションなどで,イメージガイド手術と呼ばれます
- 術中MRIは数少ない施設で利用が可能ですが,他のものはどこの病院でもできます
- これらを使用して,果たして患者さんの生存期間や生存の質がほんとうに改善されるのかどうかは,2021年時点では不明です
術中イメージの評価:いづれの方法もエビデンスレベルは低い
Jenkinson MD, et. al. Intraoperative imaging technology to maximize extent of resection for glioma. Cochrane Database of Systemic Reviews, 2018
イメージガイド手術を利用するとより多くのグリオーマ組織が摘出できるかもしれないという報告があります。著者は4つの無作為試験の結果を総括しました。これらの報告の中の摘出率 extent of resectionのエビデンスレベルは,低いあるいはかなり低いと評価されています。いずれのトライアルでも,全生存期間,病勢の進行までの期間,生存の質を評価しうるデータはないと結論しています。
手術で最大切除をめざす
手術中ナビゲーションと術中MRI
- カーナビと同じ原理です
- 手術中に腫瘍がどこにあって,脳のどの部位を操作していることがわかります
- 利点としては,開頭の位置を正確に把握して開頭範囲を必要最小限にできる,脳深部にあるグリオーマに対して最短のルート tragectoryで入るので脳損傷を最低限にできる,同時に深部白質の重要な神経路を選択的に避けることができることなどです
- 注意しなければならないのは,手術前の画像を用いるので腫瘍摘出に伴って形態が変わり位置がずれてくること,髄液排出などで脳全体の位置が動いて術前画像とのずれが生じるためにナビを信じすぎると誤った部位の脳を損傷することがあることです
- この欠点を補正するために,手術前MRIにたよるのではなく,手術中に手術室内でMRIを撮影しながら手術を進めていく方法が広がってきました
- それが術中MRI intraopetrative MRIです
- 一方で,術中MRIの欠点は,手術中に開頭したままの状態で患者さんをMRIに入れるという煩雑さと事故の可能性,手術時間が長時間になること,医療費・経費・設備投資がかなり高額となることです
- これらの欠点のため術中MRIの導入に関して否定的な意見も多いです。
電気生理学的モニタリングと脳機能マッピング ISM
- ISM intraoperative stimulation mapping といいます
- 手術中に脳表面を刺激して一次運動野(手足の動きをMEPでみる)や感覚野(手足の感覚をSEPでみる)の位置を把握するという方法は広く応用されいています
- 深部の皮質脊髄路 corticospinal tract や脊髄視床路 spinothalamic tract の位置も捉えることができ,手術後の麻痺や感覚異常を避けることができます
- 覚醒下手術 awake surgery は,脳腫瘍学と認知機能神経科学 cognitive neuroscienceの融合で生まれた手術方法です
- 脳にはeloquent area (モノを言う領域,重い後遺症を出す領域)と呼ばれる部分があります,例えば一次運動野(手足を動かす)や言語野(言葉を話す脳領域)などです,その部分は個人個人で微妙に異なる位置にあるので,それを手術中に確認しながら脳を切除するという考えです
- 腫瘍摘出中に患者さんの意識を覚まして,意思疎通ができる状態で神経学的な検査をすることによって,運動錐体路,言語発語と理解力, 視覚機能,他の高次脳機能などをモニターしながら腫瘍摘出をして後遺症を避けます
- 目的は,生活の質 OoLを落とすような後遺症を出さないでグリオーマを脳と一緒に摘出することです
- この覚醒下手術には反論もあります,そこまでして,グリオーマの患者さんの生存期間が延びたというデータがないことです
- 例えば,乏突起膠腫で,旧来の方法で30%摘出しても,覚醒下手術で60%摘出しても生存期間は変わりません,倍の量取れているという手術結果が残るだけです
拡散テンソル画像 DTI tractography
神経路(白質路)をMRI画像に投射して可視化した画像です。緑は視路 optic tract (pathway) です。青や赤は皮質脊髄路 corticospinal tract です。脳のどの部分を切除するとどういう機能が失われてしまうのかがわかります。手術中のナビゲーションに応用することもあるのですが,開頭手術で参考にします。右の画像では錐体路ギリギリで腫瘍が切除されていることがわかります。もう少し踏み込むと完全な左片麻痺になる手術でした。
蛍光マーカーでの可視化
(別のページに詳しく書いてあるので読んでください:ここをクリック)
- グリオーマが光って見えるので手術中にわかりやすいという錯覚を覚えます
- 取れるグリオーマの量は増えるけれど,患者さんの長期生存にはほとんど寄与しません
- 澤村自身も使用していますが,過度に依存しないようにとても気をつけています
文献
ISMを使用すると摘出割合が上がり,術後障害が少ない
De Witt Hamer: Impact of intraoperative stimulation brain mapping on glioma surgery outcome: a meta-analysis. J Clin Oncol, 2012
ISMには無作為試験ができないので,メタアナライシスで解析が行われました。2010年までに報告された8,000例ほどのグリオーマの手術が対象です。重い神経症状は,ISMを使用した群で 3.4%,使用しなかった群で 8.2%生じました。術後の画像で全摘出 gross totalできていた割合は,ISMで75%,使用しなかったら58% でした。覚醒下手術での言語と認知機能のモニターも有用であるとしています。
- Duffau H: Mapping the connectome in awake surgery for gliomas: an update. J Neurosurg Sci. 2017
- Engel AK: Invasive recordings from the human brain: clinical insights and beyond. Nat Rev Neurosci. 2005
- Ojemann G: Cortical language localization in left, dominant hemisphere. An electrical stimulation mapping investigation in 117 patients. 1989. J Neurosurg. 2008
- Sanai N: Functional outcome after language mapping for glioma resection. N Engl J Med. 2008
- Southwell DG: Language outcomes after resection of dominant inferior parietal lobule gliomas. J Neurosurg. 2017