びまん性星細胞腫 diffuse astrocytoma WHO grade II

  • WHOグレード2の悪性腫瘍です
  • 若い成人30歳代にもっとも多いです
  • 小児にもみられます
  • 初発症状は,てんかん発作が多いのですが,行動異常や人格の変化,言語の障害,軽度の麻痺などの気づかれないような,ゆっくり進行する軽い症状で発症することもあります
  • 最近ではMRIなどで偶然発見される無症状のものも多くなりました
  • ほとんどは大脳に発生します
  • なぜだか小脳にはできない腫瘍です,小脳にできた場合には毛様細胞性星細胞腫 グレード1です
  • ゆっくり増大して,脳の中にしみ込むように広がる (浸潤 infiltration) のが特徴です
  • MRI画像でみえるよりも実際はもっと周囲に広がっています
  • 退形成性星細胞腫グレード3膠芽腫グレード4へ悪性化することがあります
  • 逆に,何年も経過を見てもほとんど大きくならないものもあります
  • びまん性星細胞腫は病理組織診断名です
  • 遺伝子診断すると,IDH1/2とATRX遺伝子変異のあるものがほとんどです
  • IDH1遺伝子の変異がないものでは,膠芽腫という高度悪性腫瘍に変化する可能性が高いです

画像上の3つのタイプ

実際には異なった臨床像を示す3種類のびまん性星細胞腫があります。1つ目は悪性化もしやすいし生命予後が悪いものです。ほとんどグレード3と同じような臨床像を示します。
2つ目と3つ目はゆっくり何年もかけて大きくなるし,手術で治る可能性もあるもので,びまん性星細胞腫といってもかなり性質が違います。IDH-1/2の遺伝子変異がある星細胞腫は限局性で十分な摘出ができることが多いとされてきました。

  1. 脳深部に滲むように広がって増大速度が速いもの
  2. 滲むように広がって増大速度がとても遅いもの
  3. 表面にあって境界が明瞭であまり浸潤しないもの

画像所見

  • CTでは,低吸収域で周囲の脳より少し黒っぽく見えます
  • MRI のT2・FLAIR(フレア)画像で淡く白く見える(高信号)のが特徴です
  • 一般的には,びまん性で周囲がはっきりしない脳の中に「にじむような腫瘍」に見えます
  • ガドリニウム造影剤で増強されることはほとんどありません
  • ガドリニウムで増強された場合はグレード3以上の星細胞系腫瘍が混じっていることを疑います
  • 石灰化やのう胞はあり得るのですがとても稀です
  • あった場合には乏突起膠腫か乏突起星細胞腫を疑った方がいいでしょう
  • 平均すると年に6mmくらい大きくなります
  • でも,ゆっくり大きくなって5年くらい見ていてもあまり大きさが変わらないものから,3ヶ月くらいで倍くらいになってしまうものもあります,油断ができません

astrocytomaay1astrocytomaay3astrocytomaay2
左側頭葉のびまん性星細胞腫です。左側のT1強調ガドリニウム像ではほとんど腫瘍は見えません。真ん中のT2強調画像でも見づらいです。右側のフレア画像で白くにじんでいるところに腫瘍があります。どこまでが腫瘍の境界なのかがはっきりしない腫瘍です。左の海馬(記憶の中枢)を侵し,とてもゆっくり大きくなるタイプで,10年以上治療をしないで経過を見ています。

フレア画像です。境界がとてもはっきりしていて限局性です。びまん性 diffuseには見えません。IDH1の変異があり,1p/19qの欠失はないのでびまん性星細胞腫です。上の例とは全く違う臨床像を示しますが,分子病理でも区別はつきません。頑張って早めに全摘出して治してしまった方がいいタイプです。

重要!見つかったら短期間にMRIを繰り返す
  • 病理診断よりも遺伝子診断よりも,MRI画像診断の方が患者さんの予後(命の危なさ)がよくわかります
  • 初診で,びまん性星細胞腫を疑ったら,初期には月に一回のMRIをしてもいいでしょう
  • 2ヶ月間くらいの短期間に大きくなるものか,それとも数ヶ月くらいでは全く変化ないものかをまずMRIで見極めます

びまん性星細胞腫の病理分類

  1. Diffuse astrocytoma (grade II), IDH mutant  IDH変異あり
           Gemistocytic astrocytoma, IDH mutant
    2. Diffuse astrocytoma IDH wild-type  IDH変異なし
    3. Diffuse astrocytoma, NOS 遺伝子検査を行っていないもの

  • 病理診断ではとにかく,IDH1/IDH2遺伝子変異のあるなしを調べなければなりません(日本ではまだ一部の施設だけで可能)
  • IDH1 codon 132とATRXの免疫染色をして変異があれば診断がつきます
  • 必要であれば,IDH2 codon 172 missense mutationをみます
  • 病理形態学的診断もあわせて整合性を確認します
  • WHOは,びまん性星細胞腫のほとんどにIDH変異があるとしています
  • 逆に,野生型 wild-typeはほとんどない
  • 野生型であった場合は,最悪の膠芽腫ということを念頭に入れて治療します
  • また逆に,変異がなければ,神経節膠腫, 毛様細胞性星細胞腫という良性腫瘍の部分像をみているかもしれません
  • 乏突起膠腫との鑑別のために,ATRX遺伝子発現がないことを免疫組織染色で確かめます,ATRX欠損があれば1p/19q染色体を調べなくても星細胞系腫瘍と診断できます
  • 日本では保険診療でそれを調べることができないから,当分,正確な病理診断は無理!ということになります
  • また,文献を調べてもIDH変異のあるびまん性星細胞腫にどのような治療法が選択されるべきなのかは全く出てきません,臨床研究が追いついていないのです
  • 組織診断でgemistocytic variantだけは区別する必要があります

この例では,IDH1 R132Hの変異あり,IDH2の変異はないという解析結果です

治療

  • まず治療をするべきかどうかを考えます
  • 数年以上MRIで経過観察できるものがあります
  • 診断だけをはっきりさせたい時は,生検術(腫瘍をちょびっと採る)をします
  • 治療の目標は「社会復帰ができる」ことです,単なる延命ではありません
  • 限局性で完全摘出できるものは,頑張って完全摘出します,それだけで完治することがあります
  • 40代より若い患者さんでは,全摘出できれば放射線治療を加えないで経過を見ても良いでしょう
  • 欧米の大きな臨床研究では,びまん性星細胞腫(グレード2)に対しての放射線治療の有効性(生存期間の延長)ははっきりしませんでした
  • しかし,無増悪生存期間(症状が悪くならないで生存できる期間)は延長できると考えられています
  • 現在では,手術後に腫瘍が増大したとき(再燃)に50グレイ前後の放射線治療をするべきだと考えられています
  • 残念ながら,化学療法(制がん剤)で有効性を証明されたものはありませんし,テモゾロマイドも同様です
  • ですから一般的な治療は,もしできれば全部摘出する
  • 無理しない手術 (maximal-safe resection) で腫瘍が残れば経過観察で様子を見る
  • 星細胞腫を60%摘出しても,70%摘出しても,80%摘出しても生命予後は変わりません
  • より多くを摘出した方がいいという”単純 naive” な考え方はできません
  • 80%摘出した時点で,あと10%摘出を加えて90%摘出にするために,後遺症(神経脱落症状といいます)を出すリスクを侵すべきではありません
  • 残った腫瘍が大きくなりそうな場合、50グレイ前後の放射線治療をします
  • しかし,手術で残った腫瘍が明らかに大きくなるのがわかる(強く予想される)ときもありますので,この時には,しかたがないので手術後に放射線治療に移ります
  • 放射線治療がとても広い領域に必要となる場合には,放射線治療後にゆっくりですが知能(認知機能)の低下が生じることがあります
  • なぜ膠芽腫のように60グレイを用いないかというと,びまん性星細胞腫では長期生存が期待できるからです
  • 60グレイという大きな線量は,かなり高率に脳の機能を落としたり(認知機能低下),脳壊死を生じたりするからです
  • 手術や放射線治療を受ける前に副作用をしっかり聞きましょう
  • テモゾロマイドを含めて化学療法は有効ではないとされています
  • しかし,実際の診療では放射線にテモゾロマイドが併用されることが多いと言えます
  • 放射線を加えないテモゾロマイド単独治療では腫瘍の進行を抑えきれません

びまん性星細胞腫に対するヨーロッパ EORTCのガイドライン:2017年

  1. Watch-and-wait 経過観察,ようすを見る
  2. resection, as feasible 経過を見て必要があると判断すれば,可能な範囲の腫瘍摘出を行う
  3. radiotherapy followed by PCV 放射線治療とその後のPCV化学療法
  4. temozolomide plus radiotherapy followed by temozolomide 放射線治療とテモゾロマイド化学療法

エビデンスレベルII,推奨度Bです,術後のfirst-line treatmentとして 3を優先します。日本ではPCVは使えませんからテモゾロマイドとなります。この根拠となったN Eng J Medの論文は,びまん性星細胞腫と乏突起膠腫が混在した母集団を解析したものですから,びまん性星細胞腫グレード2において真実なのかどうかははっきりしません。

限局性のびまん性星細胞腫があります

astrocytomakh4

無症状で発見された若年成人のびまん性星細胞腫 IDH mutant, 1p/19q-intact です。脳の表面にあり,一つの脳回に限局するタイプでsingle gyrus gliomaといいます。 これでもびまん性星細胞腫なのかなと考えてしまうようなものです。迷わずに開頭手術での摘出を勧めました。手術後何年か経ちますが幸い再発はありません。

病理は,星細胞に特有の胞体を有しグリア線維が明瞭なびまん性星細胞腫です(クリックすると拡大で見えます)

予後

  • 手術で摘出できるとなしいびまん性星細胞腫は治癒するので,手術後は普通の人と同じ人生です
  • また腫瘍がありながらも手術や放射線治療で20年,30年と暮らしていける患者さんもいます
  • でも,治りにくいタイプがあります
  • 全体としては,3年生存割合は70%くらいです
  • 短期間に増大傾向がはっきりするもの,6cm以上の大きなもの,脳幹部を侵すもの,中高年のもの,両側大脳半球に及ぶもの,発症時から症状が悪いものなどでは,3年以内に3割くらいの患者さんが死亡します

IDH野生型のびまん性星細胞腫

  • 多くは,にじむように淡く広がる腫瘍です
  • 膠芽腫グレード4のような悪性の臨床経過をたどることがあります
  • 特に高齢者では病気の進行は早いでしょう
  • しかし,真の膠芽腫グレード4ほどはアグレッシブではありません

ここから下は難しくなります

びまん性星細胞腫の手術所見

  • 表面にあるものでは,脳が腫れて,脳表が平らになっています (gyrus flattening)
  • 色は正常の脳と同じで見分けがつかないことが多いです
  • 腫瘍が大きくてコンパクトにある部分では,灰色がかったり少し黄色っぽかったりして正常脳とは異なる色調のことがあり,やや硬く弾性があって粘りがあり,膠(にかわ)腫と呼ばれる腫瘍の特徴を示します
  • 黄色透明の液体を含んだ大きなのう胞が見られることがあります
  • また,腫瘍のコアの部分では小さなのう胞形成が集簇する部位もあります
  • 微小のう胞が多い部分ではゼラチン様に柔らかくなり,吸引器でズルズル吸えます,T2強調画像で強い高信号となっているところは薄い灰色で柔らかくドロドロしています
  • 出血は正常脳と同じでほとんどありません
  • 石灰化は非常に稀で,砂粒体 psammomaが観察された場合は,乏突起星細胞腫の可能性を考えた方がいいでしょう
  • 乏突起星細胞腫は,びまん性星細胞腫よりも放射線化学療法でコントロールできる可能性が高いものですから,それを考慮に入れて摘出の程度を判断します
  • 腫瘍を摘出していくと,吸引管バイポーラで触った感じがやや弾性がある firmness, elastic firmもしくは脳より柔らかい softening部分があり,星細胞腫があることが認識できます
  • でも,境界に近づくと正常脳と全く区別がつかない触感と色になります。色調は正常でも,「ほんの極わずかな粘りのあるところ」を摘出しきる腫瘍のコアの部分は摘出できています,これが星細胞腫摘出のテクニックの真髄です
  • 実際には,腫瘍(脳)の切断面を吸引管でちょっと引っ張ってみます,吸えてこないで粘っと引っ張られるようならそこは腫瘍です
  • 正常脳は吸引管のある程度の吸引力で吸えてしまうので,その限界点を指先の感覚として記憶しておくとこの操作ができるようになります
  • しかし,深部の正常脳への浸潤境界では,正常脳との識別はまったくできなくなります
  • これは病理組織所見を考えれば当たり前のことで,腫瘍細胞 neoplastic astrocytes は,脳の正常構造(神経細胞や軸索)を破壊すること無くもぐりこむように広がっています
  • ここは術中MRIにも写らず,ALAでも見えません
  • ですから,腫瘍を取りきったと判断してから,可能であればさらに数mmの正常脳と思われる部分の切除を加えます
  • 更に摘出を続けることにどれだけの意味があるのかをよくよく考えるところです

放射線治療をするべきか

  • 科学的には答えが出ていません
  • そもそもが放射線治療があまり効かない腫瘍です
  • 生命予後の有意な延長は証明されていません
  • 手術で完全摘出できたと判断されれば放射線治療をしません
  • 大きくなっていることが明らかな腫瘍で,部分摘出しかできなかった場合は放射線治療をします
  • ヨーロッパのガイドラインでは,手術後に残存腫瘍があり,40-45歳以上であれば放射線治療をします,逆にそれ以下の若い年齢では腫瘍が残っていても経過観察します
  • 手術後に再発した時や,残った腫瘍が経過を見て大きくなれば放射線治療をします
  • 放射線の治療範囲は,MRIで見える範囲 (GTV) を20mmほど広く取った領域 (CTV) に行います
  • 一般的な放射線量は50グレイです
  • 照射領域の広さによっては,45 – 46グレイを23 – 25分割(1日線量1.8 – 2グレイ)から54グレイを30分割(1日線量1.8グレイ)の範囲で行います
  • 線量は論文によって様々ですが,50.4グレイを1日線量1.8グレイで,28分割するのが平均的かもしれません

放射線治療を待機する根拠になった有名な論文

van den Bent MJ, et al.: Long-term efficacy of early versus delayed radiotherapy for low-grade astrocytoma and oligodendroglioma in adults: the EORTC 22845 randomised trial. Lancet 366: 2005
1986年に開始され約20年かかって結論が出されたものです。157人の患者さんが術後早期に54グレイ(一日線量1.8グレイ)の放射線治療を受けました。対して別の157人の患者さんは腫瘍増大などが生じるまで放射線治療が待機されました( wait-and-see)。無増悪生存期間中央値 PFSは,放射線治療を受けると5.3年,待機すると3.4年でした。しかし生存期間中央値は7.4年と7.2年で変わりありませんでした。症候性てんかんのコントロールは早期放射線治療が優ったとのことです。しかし当然ながら,放射線治療による脳機能低下が生じる可能性は早期治療群で早まるはずです。結論として、状態の良い患者さんには放射線治療を延期できるであろうとのことでした。
「解説」正確にはびまん性星細胞腫,乏突起膠腫,乏突起星細胞腫,毛様細胞性星細胞腫が含まれているので,びまん性星細胞腫の治療成績とは言えません。でもこのデータしかないのでこの論文が放射線治療の選択のために今でも引用されます。もう古くなりましたがこの論文を治療の根拠に使用されている脳腫瘍の専門家も多いです。同じ臨床試験を行おうとしても,今後さらに20年以上待たなければ結果は得られません。永遠の命題と言えるでしょう。

その後の長期成績:放射線治療の後でPCV化学療法を行う: RTOG 9802

Buckner JC, et al: Radiation plus Procarbazine, CCNU, and Vincristine in Low-Grade Glioma. N Engl J Med. 2016
とても権威の高い雑誌に発表された治療成績です。1998年から2002年の間にグレード2のびまん性星細胞腫あるいは乏突起膠腫の251人の患者さんが治療されました。追跡期間中央値 12年という気の遠くなるほどの長い観察結果です。18歳から39歳で生検術あるいは部分摘出 subtotal resectionを受けた患者さん,あるいはどのような手術結果でも40歳以上の患者さんに,放射線治療の後でPCV化学療法が加えられました。放射線単独では全生存期間は7.8年,PCVを加えると13.3年という大きな差が出ました。10年無増悪生存割合は,それぞれ21%と51%です。乏突起膠腫の組織型で無増悪生存も全生存割合も高かったとのことです。この大規模臨床試験は1998年に開始されており,かなりの乏突起膠腫の混在があります。びまん性星細胞腫 1p/19q non-deletedで真であるかどうか,謎のままでしょう。でも乏突起膠腫においては真の結果と言えます。

3年生存割合は70%くらい

Phase 2 study of temozolomide-based chemoradiation therapy for high-risk low-grade gliomas: preliminary results of radiation therapy oncology group 0424. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 91: 497-504, 2015
RTOGが予後が悪いと判断されるlow-grade gliomaの治療成績を報告しました。予後悪化因子は,星細胞腫である,40歳以上,両側大脳半球への伸展,6cm以上の大きな腫瘍,PSが2以上という因子の中で3項目以上をみたす129例です。放射線治療とテモゾロマイド 54 Gy in 30 fractions and concurrent and adjuvant TMZの治療がされました。3年全生存割合は73%,3年無増悪生存割合は59%でした。この報告には若干の乏突起膠細胞系腫瘍グレード2が含まれています。
「解説」治りにくいと判断されるびまん性星細胞腫の3年生存割合は7割くらい,手術放射線化学療法をしても6割で再発するということです。

組織診断病理 diffuse astrocytoma grade 2

  • fibrirally astrocytoma
  • gemistocytic astrocytoma
  • protoplasmic astrocytoma

伝統的に上記の3つに分類されてきましたが,2016年に削除されました。特に,gemistocytic astrocytomaはグレード3あるいはグレード4へ進行(悪性転化)する性質を有しているとされます

病理は別のページに詳しくあるのでここをクリック


Ki-67という抗体を使った免疫組織染色でMIB-1 indexというものを見ます。平均で2.5%くらい,高くても4%です。それ以上はグレード3の可能性が高くなります。左の写真のMIB-1の染色率 labling index は3.5%くらいで,グレード2のびまん性星細胞腫としてはやや高い値です。MIB-1染色率が高くなると悪性度が高い傾向にあると考えられます。

ここからは専門的な知識

分子診断より画像診断の方が予後が良くわかる

Gozé, C, Blonski, M, Le Maistre, G et al. Imaging growth and isocitrate dehydrogenase 1 mutation are independent predictors for diffuse low-grade gliomas. Neuro Oncol 16, 2014
131人の組織学的低悪性度グリオーマの患者さんの予後解析です。107人にIDH1の変異がありました。画像診断では5.4mm/年の平均増大速度でした。無増悪生存期間 PFSは,
IDH1変異があると予後が良いことが知られています。全体で見ると,悪性進行のないPFSは画像上でゆっくりした増大速度を示したもので149ヶ月,IDH1変異のあったもので100ヶ月です。IDH1の変異の有無に関わらず,画像上で増大速度の遅い低悪性度グリオーマの予後は良いということです。
「解説」IDH1変異がないと膠芽腫の可能性があり,かなり積極的な治療を行うという風潮にあります。しかし,しばらく経過を見ていてMRIでかなりゆっくりしか増大しないものの予後は,分子診断で予想するよりもはるかに良いということです。

テモゾロマイドと放射線治療のどちらを選択するか

Baumert BG: Temozolomide chemotherapy versus radiotherapy in high-risk low-grade glioma (EORTC 22033-26033): a randomised, open-label, phase 3 intergroup study. Lancet Oncol, 2016
Reijneveld JC: Health-related quality of life in patients with high-risk low-grade glioma (EORTC 22033-26033): a randomised, open-label, phase 3 intergroup study. Lancet Oncol, 2016
477人のグレードIIグリオーマ (astrocytoma, oligoastrocytoma, or oligodendroglioma)の患者さんを対象とした臨床第3相試験です。治療を行った基準は予後が悪そうに思える例で,40歳以上,進行性病巣,腫瘍サイズが5cm以上,正中を超える病変,神経症状があったという基準です。無作為に,放射線治療 (conformal radiotherapy; up to 50.4 Gy; 28 doses of 1.8 Gy once daily) あるいはテモゾロマイド化学療法 (75 mg/m2 for 21 days, every 28 days, maximum of 12 cycles)がなされました。
PFS 無増悪生存期間は,テモゾロマイド群で39ヶ月,放射線で46ヶ月と有意差はありませんでした。また,生存の質 health-related quality of life (HRQOL)にも差はありませんでした。有害事象は全般的にテモゾロマイド治療群で多いです。
ただし,IDH変異があり1p/19q欠失がないもの(いわゆるびまん性星細胞腫)では放射線治療のPFSがテモゾロマイドよりも長かったということです。IDH変異があり1p/19q欠失があるもの(乏突起膠腫)とIDH変異がないものでは両群の間に差はありませんでした。

実例での治療方法の考え方:30代男性の限局性星細胞腫

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無症状で偶然発見された右辺縁回の限局性星細胞腫 well-deliniated or localized astrocytomaと呼ばれるものです。非常に限局性で,T2/FLAIRで強い高信号になり,T1強調画像では低信号で,ガドリニウム増強(下段の2枚)されない腫瘍です。

腫瘍が発見されてから2年半で増大したので開頭手術で全摘出 gross total removal しました。ドロドロの柔らかい腫瘍でしたから,その部分のみを摘出して,周囲の脳には手を付けませんでした。

発病後,5年目です。今度は,右前頭葉の深部白質に滲み込むように腫瘍再発しました。これを開頭手術でまた摘出してから,46グレイ23分割の放射線治療をしました。

その後には,外来でテモゾロマイド内服治療を24コース(2年間)行ないました。

左が再発から2年後,右が再発から8年後です。腫瘍の再増大はありません。発病後すでに15年が経過したことになります。現在も無症状で技師として普通に社会人として生活しています。(この一連の画像は患者さんの許可を得て掲載しました。)

「コメント」右前頭葉の星細胞腫といえども,脳梁や前頭葉深部白質にかかっているものは,腫瘍の周りの脳も含めて摘出するということはできません。下にある画像は同じ患者さんの2014年のものです。上の方の画像は腫瘍のところばかり強調してみせたのですが,下の画像は現時点のものです。前頭葉の深部白質と脳梁膝部が温存された状態で治療が終了していることが解ると思います。だから社会生活ができるのです。

ナビゲーション,手術中MRI,覚醒下手術,ALAによる可視化などの技術を使って,もっと広範囲に脳を切除すれば,もしかすると手術だけで治った限局性星細胞腫だったかもしれません。でもこの腫瘍では,覚醒下手術で術中所見が出ることはないでしょうし,ALAでは浸潤部位の腫瘍が赤く光らなかったでしょうし,術中MRIをすれば摘出範囲をもう1cmくらい広げるべきだと考えたのかもしれません。しかし,それでは,前頭葉深部白質と脳梁膝部の損傷が生じていたのかもしれません。広範囲切除は脳機能の低下を招くので,切除せずに放射線と化学療法で抑え込まなければ患者さんは社会生活を失います。

解剖学的に摘出できない位置にあるグリオーマは,覚醒下手術,ALA, 術中MRIなどを使っても摘出できないです。

びまん性星細胞腫の遺伝子変異

グレード2の乏突起膠腫では第1染色体単腕1pと第19染色体長腕 19qの欠失があることが知られています。多くのグレード2の星細胞腫では TP53とATRXの変異がみられます。また,IDH (isocitrate dehydrogenase)という遺伝子の異常があると治りやすいあるいは生存期間が長いということも知られてきました。逆に言えば,IDH1の変異が無いびまん性星細胞腫では,グレード3やグレード4の星細胞腫のように腫瘍の進行が早くて制御できない可能性が高いということです。さらにIDHの変異のある例では手術摘出率が高い(ある意味では浸潤能が低くて限局性)と言われます。この遺伝子診断も治療の参考になります。


Qi S, et al.: Isocitrate dehydrogenase mutation is associated with tumor location and magnetic resonance imaging characteristics in astrocytic neoplasms. Oncol Lett 7, 2014
グレード2と3の星細胞腫193例の画像診断とIDH遺伝子解析です。IDH1/2の遺伝子変異を示したものは,単一脳葉に限局し間脳や脳幹部に少なかった,両側大脳にまたがることが少なく,境界が明瞭でMRIでの信号も均一性がありガドリニウム増強像も均一性が高かったとのことです。

グレード2のびまん性グリオーマに高線量照射を使っても生存期間は伸びない

Shaw E, et al.: Prospective randomized trial of low- versus high-dose radiation therapy in adults with supratentorial low-grade glioma: initial report of a North Central Cancer Treatment Group/Radiation Therapy Oncology Group/Eastern Cooperative Oncology Group study. J Clin Oncol. 2002
乏突起膠腫を含む203例のグレード2グリオーマに無作為前向き試験が行われました。64.8グレイ/36分割と50.4 グレイ/28分割の2群で治療が行われました。高線量で5年生存割合は64%,低線量で72%となり,線量が低い方が若干5年生存割合が高くなっています。高線量の方が放射線壊死の合併率は高くなりました。

なぜ60グレイを用いないのか

Karim AB, et al.: A randomized trial on dose-response in radiation therapy of low-grade cerebral glioma: European Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC) Study 22844. Int J Radiat Oncol Biol Phys 36, 1996
古い文献なのですが,ヨーロッパで低悪性度グリオーマ LGG 343例で前向き試験がなされました。 45 Gy (5 weeks) もしくは59.4 Gy (6.6 weeks)の照射がされましたが,74ヶ月の追跡期間で,全生存割合 OS にも無増悪生存割合 (PFS 47% vs. 50%) にも有意な差はありませんでした。

文献
  • Buckner JC, et al: Radiation plus Procarbazine, CCNU, and Vincristine in Low-Grade Glioma. N Engl J Med. 2016
  • Qi S, et al.: Isocitrate dehydrogenase mutation is associated with tumor location and magnetic resonance imaging characteristics in astrocytic neoplasms. Oncol Lett 7: 1895-1902, 2014
  • Karim AB, et al.: A randomized trial on dose-response in radiation therapy of low-grade cerebral glioma: European Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC) Study 22844. Int J Radiat Oncol Biol Phys 36, 1996
  • Shaw E, et al.: Prospective randomized trial of low- versus high-dose radiation therapy in adults with supratentorial low-grade glioma: initial report of a North Central Cancer Treatment Group/Radiation Therapy Oncology Group/Eastern Cooperative Oncology Group study. J Clin Oncol. 2002
  • van den Bent MJ, et al.: Long-term efficacy of early versus delayed radiotherapy for low-grade astrocytoma and oligodendroglioma in adults: the EORTC 22845 randomised trial. Lancet 366: 2005
  • Weller M, et al.: European Association for Neuro-Oncology (EANO) guideline on the diagnosis and treatment of adult astrocytic and oligodendroglial gliomas. Lancet Oncol 2017

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