アバスチン

アバスチン Avastine 

分子標的治療薬ベバシズマブ  bevacizumab

  1. 脳内部からでるグリオーマ(悪性神経膠腫)の治療に使われる薬です
  2. 膠芽腫とか退形成性星細胞腫とかいろいろな悪性脳腫瘍に有効とされます
  3. グリオーマの腫瘍血管が増えることを妨害する薬で,腫瘍にいく血液の流れを止めて,腫瘍が大きくならないようにします
  4. 腫瘍細胞そのものを殺す力はありません
  5. アバスチンを投与するとすぐに数日以内に,腫瘍がとても小さくなって見えることがあります
  6. お医者さんも患者さんも喜ぶのですが,これは見せかけ効果であって,腫瘍が小さくなっているわけではありません
  7. アバスチン単独では腫瘍が治るということはないと考えた方がいいでしょう
  8. おそらく今後は,悪性神経膠腫(グレード3とグレード4)のfirst line therapy(初発時の第一選択治療)に使用されます
  9. 手術摘出して,放射線・テモダール・アバスチンを併用する方法です
  10. 退院してからも外来でテモダールと併用して使います
  11. 再発した時にも使います
  12. 副作用は少ない制がん剤といえるでしょう
  13. 高額な治療薬です
  14. 入院でも外来でもアバスチンを使うと高額医療になりますから,自己負担限度額までの支払いとなります

なぜ悪性グリオーマに効くのか

この20年で,悪性神経膠腫が成長するために必用とする分子(サイトカインなどのタンパク質や受容体)がたくさん知られてきました。かつては実験室の中でのお話でしたが,現在ではたくさんの薬(分子標的治療薬)が患者さんに使用されています。

アバスチン Avastine(商品名:正式にはベバシズマブ bevacizumab)は,VEGFという腫瘍血管内皮細胞増殖因子の働きを抑える単クローン抗体です。通常の抗がん剤ではありません。
VEGF (vascular endothelial growth factor)という血管増殖因子にくっついて,その作用を抑制します。膠芽腫はたくさんのVEGFを産生するので,血管増殖が旺盛で,脳の血管からの豊富な血流を引き込んで,急速に腫瘍細胞が増えていく悪性腫瘍です。大事なことは,アバスチンは悪性神経膠腫の増大速度を遅くする作用があるのですが,腫瘍細胞を殺す作用 cytocidal effect がないことです。ですから,この薬剤単独で腫瘍が治るという期待は極めて低いものです。
大腸がん,肺がん(腺癌と扁平上皮癌),乳がん,卵巣がん,腎がんにも使用されています。

日本でのアバスチンの保険診療は2013年6月14日に承認されました

澤村も日本で最初の治験に参加しました。
初発でも再発でも悪性神経膠腫であれば保険診療で使用ができます。医師や看護師などがこの薬剤の使用に関して十分な知識を有することも条件となります。保険診療が認められても薬剤費だけで月に数十万円ですから,高額医療費の対象となります。自己負担額は患者さんの年収によって違いますが,通常の収入がある一般的な3割負担の患者さんで,外来では毎月8万から10万円弱近い負担となると考えてください。

使用量のおよその目安

☆ 初期治療(初発時)

初期治療で放射線治療とテモダールと併用する時(放射線 6週間)
  1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
放射線治療後にでテモダールと併用する時(テモダール 6コース)
  1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
その後の維持療法でアバスチン単独で使う時
  1回15mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静脈内注射

☆ 再発時

再発時にアバスチン単独で使う時
  1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
再発時にテモダールと併用する時
  1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射

副作用(有害事象)

  • 頻度は低いながらも,生じると重い副作用があります。
  • 肺出血(喀血),血栓塞栓症(静脈血栓),消化管出血(穿孔),創傷治療の遅延,血圧上昇(高血圧性脳症,高血圧性クリーゼ),可逆性後白質脳症症候群,蛋白尿などがあげられます。
  • 脳腫瘍特有のものとしては,dehiscenceといわれる開頭部位での創傷治癒遅延,脳腫瘍内出血(脳出血)などが最も注意するべき副作用です。
  • 開頭手術から日が浅く,傷が十分治っていない時期(4週間以内までくらい)にアバスチンを使用すると傷が開いてしまうことがあります。
  • テモダールとは異なり,副作用としての骨髄抑制が軽いので,テモダールとの併用が可能です。でも白血球数には要注意です。

アバスチンを最初から使う(臨床第3相試験)AVAglio

AVAglioという国際共同研究の中間解析結果が2012年11月にSNO学会で発表されました。Stuppレジメンにアバスチンを上乗せする併用治療です。60グレイ(1日あたり2Gy照射を6週間)の放射線治療中に、テモダール(1日あたり75mg/m2)連日投与、ベバシズマブを2週間間隔で10 mg/kg投与しました。その後は,3週間隔でアバスチンの投与を継続しました。
921人の患者さんが登録され,アバスチン使用群の無増悪生存期間 PFSは10.6ヶ月,使用しない場合は6.2ヶ月で有意差がありました。全生存期間中央値 OSは,アバスチン使用群で16.8ヶ月,使用しない場合は16.7ヶ月であり,これには有意な差はありませんでした。
ここでも病勢の進行はある程度抑えられるけれども,生存期間の目立った延長は得られないという成績です。

アバスチンを最初から使う(臨床第3相試験) RTOG 0825

AVAglioと同時にヨーロッパのRTOGの第3相試験の報告がありました。673人の膠芽腫の患者さんが登録され,半数ではアバスチンが使用されました。全生存期間中央値はアバスチンを使用しなかった群で16.1ヶ月,アバスチンを使用した群で15.7ヶ月で差がありませんでした。無増悪生存期間7.3ヶ月は逆に,アバスチンを使用した方が10.7ヶ月と有意に延びました。

アバスチン特有の画像所見の変化

  • グレード3やグレード4の悪性神経膠腫は,ガドリニウム増強病変で腫瘍の大きさを評価することが多いです(Macdonald Criteria)
  • アバスチンなどのantiangiogenatic agent (血管新生を阻害する薬)を使用すると,投与数日以内にガドリニウム増強病変が縮小して,一見治療がとても有効なようにみえることが多いです
  • これはT1強調ガドリニウム増強像で評価すれば,アバスチンの効果があるということになります,もちろん悪い現象ではありません
  • これは血液脳関門の透過性が下がってガドリニウムが腫瘍組織内に漏出できなくなるという見せかけの効果をみているだけなのです
  • 注意しなければならないのは,患者さんによっては,同時にFLAIR フレア画像での,高信号病変(白くにじむ領域)がその周囲に拡大してくることです
  • グリオマトーシス 神経膠腫症のような画像へ変化してくることがあります
  • これは星細胞系腫瘍と乏突起膠細胞系腫瘍にみられる現象ですが,腫瘍の浸潤範囲が広がっていることを示します。
  • これは単に腫瘍が進行病変となっているからですし,アバスチンの投与のために悪化しているのではありません

主な報告

テモゾロマイドが効かない膠芽腫にアバスチンとイリノテカンが有効

Herringer U, et al.: Bevasizumab, Irinotecan and radiotherapy versus standard temozolomide and radiotherapy in newly diagnosed, MGMT-non-methylated glioblastoma patients; Updated results from the randomized multi center GLARIUS trial. ECCO-ESMO-ESTRO 2013

ヨーロッパの学会でボン大学からの発表です。MGMT非メチル化の膠芽腫はテモゾロマイドに抵抗性である事が知られています。そのような患者さん170人で,アバスチンとイリノテカン併用と放射線治療,あるいはテモゾロマイドと放射線治療の治療成績が比較されました。6ヶ月無増悪生存割合PFSはそれぞれ78%と41%でした。PFS中央値は,9.7ヶ月と5.9ヶ月です。MGMTのメチル化がないテモゾロマイド抵抗性の膠芽腫には,アバスチンとイリノテカンの組み合わせの方が腫瘍進行を抑制する力が強いという結果を示した中間報告です。でも慎重にこの研究の最終報告を待たなければなりません。

アバスチンを最初から使う(臨床第2相試験)

Lai A, et al.: Phase II study of bevacizumab plus temozolomide during and after radiation therapy for patients with newly diagnosed glioblastoma multiforme. J Clin Oncol 29: 142-148, 2011

手術の後で,放射線治療とテモゾロマイドとベバシズマブ(アバスチン)が併用されました。アバスチンは放射線治療中も治療後も2週間に1度の投与です。70人の患者さんが登録されました。全生存割合OSは19.6ヶ月,無増悪生存期間 PFSは13.6ヶ月でした。結論として,病勢の進行は抑えられるけれども生存期間の延長はないということです。

再発膠芽腫への効果

Friedman HS, et al. Bevacizumab alone and in combination with irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 27:4733–4740, 2009

2009年Friedmanらによって,再発の膠芽腫にアバスチンを単独で使用した場合に,6ヶ月無増悪生存割合が42.6%であると報告されました。これは,直接的な腫瘍増殖抑制のみならず,放射線治療後のpseudoprogressionの改善という画像所見を含んだ評価 (pseudoresponse) でしょうし,良すぎる成績です。しかし,再発した膠芽腫の臨床的増悪をアバスチンが一定期間抑えるというのは明らかな事実となりました。
その後の報告を鑑みて,患者さん側からは再発の膠芽腫にアバスチンを単独で使用した場合には,4割くらいの確率(4/10くらいの患者さん)で数ヶ月間は進行を抑制できるかもしれないと考えてください。

再発悪性神経膠腫へのアバスチンの効果

Nghlemphu PL, et al.: Bebacizumab and chemotherapy for recurrent glioblastoma: a single-institution experience. Neurology 72: 1217-1222, 2009
Norden AD, et al. Bevacizumab for recurrent malignant glioma: efficacy, toxicity and patterns of recurrence. Neurology 70: 779–787, 2008

両者ともあまり重要な論文ではありませんが,有害事象が少ないことと高齢者でのVEGFの発現が高いことから,高齢者に有用性があると書かれています。再発グレード3を含めれば7割くらいの患者さんに縮小効果(ガドリニウム増強部分)があったとされ,再発膠芽腫での6ヶ月無増悪生存割合は42%という高い数字が報告されました。アバスチンが血管新生を抑制するので,腫瘍は血管が豊かな塊として育ちませんから,ガドリニウムで増強される腫瘍は小さくなります。そのかわり一方で,FLAIR画像でわかるように,周囲にしみ込むように浸潤して広がっていきます (infiltrative tumor growth) 。ガドリニウム増強される部分が多い悪性神経膠腫に有効なのでしょう。 ですから,この治療では1990年から汎用されているMacdonald criteriaが使用できません。
Dr. Chamberlainがまた論評しています。分子標的治療は,薬価が高額であり,副作用もあるし,限られたタイプにしか効かないことは明らかなので,predictive marker(有効性の確認できる因子)を調べてから使用するべきであると強調しています。増強されない浸潤性の部分の腫瘍の伸展を促すのではないかとの警告も発しています。いわゆるグリオマトーシスのような腫瘍増大を誘発するというのです。またアバスチンを中止するとリバウンド(急速な再増大)があるので長期間投与が必要であることも指摘されています。

アバスチンではグリオーマを治せない? あるいは逆効果で広がってしまう?

Thompson EM, et al.: The paradoxical effect of bevacizumab in the therapy of malignant gliomas. Neurology 76: 87–93, 2011

アバスチンの効果を過大評価しないようにとの警告です。
アバスチンは放射線化学療法の効果を減じる可能性があるということなどが書かれています。腫瘍血管を正常化することで抗がん剤の到達が悪くなって,腫瘍細胞を殺す力 cytocydal effect のある抗がん剤の腫瘍内への到達が低下するという理論です。また腫瘍細胞の性質 phenotype が変化して浸潤能が高まり,腫瘍が広範囲に広がる可能性もあるとのことです。
ある動物実験では,アバスチンの主な効果は腫瘍による組織浮腫を減らすことであって,それによって実験動物は長生きするけれども,腫瘍体積自体は縮小せずに大きくなっているということも指摘しています (Jahnke K, Neuro-Oncol 2009)。
同様に最近の臨床研究でも無増悪生存期間は延長されるのですが,全生存期間は延びないことが指摘されています。もっと具体的には,ガドリニウム増強される部分の腫瘍はアバスチンの投与で縮小するのですが,FLAIR画像で描出される浸潤腫瘍の広がりはアバスチン投与で逆に増大してしまうかもしれないという指摘です。またガドリニウム増強病変の消長で効果を判定するMacdonald criteriaという方法で治療効果を判定してはいけないと強調しています。

アバスチンとイリノテカン

ベバシズマブ(アバスチン, Bevacizumab)とイリノテカン(CPT-11)の併用の論文がたくさん出ました。

Friedman HS, et al.: Bevacizumab alone and in combination with irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 27: 4733-4740, 2009
165人の再発膠芽腫患者さんに,ベバシズマブ(アバスチン)10mg/kg単独,あるいはベバシズマブとイリノテカン 125-340mg/m2の投与がなされました。6ヶ月無増悪生存割合はベバシズマブ単独で42.6%,イリノテカンとの併用で50.3%でした。生存期間中央値は,それぞれ9.2ヶ月と8.7ヶ月です。

Bokstein F, et al.: Treatment with bevacizumab and irinotecan for recurrent high-grade glial tumors. Cancer 112: 2267-2273, 2008
19人の再発グリオーマの患者さんに,ベバシズマブ(アバスチン)5mg/kgとイリノテカン125mg/m2が2週間間隔で投与されました。2人の患者さんで腫瘍が消えて(CR),7人の患者さんで腫瘍がかなり小さくなりました(PR)。奏功率は47%にもなります。でも中央値4.7ヶ月でまた腫瘍は大きくなったそうです。出血や塞栓などのひどい合併症はなかったとのことです。6ヶ月時点で病気が進行しないで生存していた患者さんは25%でした。

Sathornsumetee S, et al.: Tumor angiogenic and hypoxic profiles predict radiographic response and survival in malignant astrocytoma patients treated with bevacizumab and irinotecan. J Clin Oncol 26: 271-278, 2008
45人の再発グリオーマの患者さんが第2相試験で治療されました。27人は膠芽腫の患者さんです。26人(58%)の患者さんで画像上での腫瘍は小さくなりました。VEGFという受容体の発現が高い腫瘍で画像上での有効率が高かったようですが,生存期間とはあまり関係ないとされました。低酸素状態で誘導されるCA9という酵素が高い腫瘍では生存率が低かったようです。

Vredenburgh JJ, et al. Bevacizumab plus irinotecan in recurrent glioblastoma multiforme. J Clin Oncol 25: 4722-4729, 2007
再発した35人の膠芽腫の患者さんに対する治療です。ベバシズマブは10あるいは15 mg/kgで使用され,イリノテカンと併用されました。6ヶ月間進行しないで生存した患者さんは46%で,21人の患者さん(57%)でかなり腫瘍が小さくなったそうです。1人の患者さんで脳出血が生じ,4人の患者さんで肺塞栓などが起こったそうです。

解説のかわりにこれを読んで下さい
Chamberlain NC, et al.: Bevacizumab plus irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 26:1012; author reply 1013, 2008
これは評論的な論文です。まずイリノテカンが単独では再発の膠芽腫に効かない薬剤であるということを確認しています。なぜベバシズマブとの併用を行ったのかの根拠が希薄であるといってます。また,まだ100人にも満たない患者さんにこの治療が試されたという報告しかないのに,患者さんのこの治療に対する要求がすでにかなり高まっているそうです。またこの治療の料金がものすごく高額であるとしています。ワシントン大学では一回あたりの投与に,イリノテカンで4000-9000ドル,ベバシズマブで9000ドルかかったそうです。当時の日本円にすると1コースの投与で1,800,000円です(┯_┯)。6ヶ月の投与ですと,169,000-234,000ドル,2千万円くらい o(^o^)o なんだこりゃ!高すぎるから保険会社がお金を出さないので,保険は利かないし,使える患者さんが決まっている治療です。さらに続けます,血管新生が妨げられるので,開頭部位の破綻 dehiscence が生じることが少なくないとのことです。

文献

  • Bokstein F, et al.: Treatment with bevacizumab and irinotecan for recurrent high-grade glial tumors. Cancer 112: 2267-2273, 2008
  • Chamberlain NC, et al.: Bevacizumab plus irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 26:1012; author reply 1013, 2008
  • Friedman HS, et al.: Bevacizumab alone and in combination with irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 27: 4733-4740, 2009
  • Herringer U, et al.: Bevasizumab, Irinotecan and radiotherapy versus standard temozolomide and radiotherapy in newly diagnosed, MGMT-non-methylated glioblastoma patients; Updated results from the randomized multi center GLARIUS trial. ECCO-ESMO-ESTRO 2013
  • Lai A, et al.: Phase II study of bevacizumab plus temozolomide during and after radiation therapy for patients with newly diagnosed glioblastoma multiforme. J Clin Oncol 29: 142-148, 2011
  • Nghlemphu PL, et al.: Bebacizumab and chemotherapy for recurrent glioblastoma: a single-institution experience. Neurology 72: 1217-1222, 2009
    Norden AD, et al. Bevacizumab for recurrent malignant glioma: efficacy, toxicity and patterns of recurrence. Neurology 70: 779–787, 2008
  • Sathornsumetee S, et al.: Tumor angiogenic and hypoxic profiles predict radiographic response and survival in malignant astrocytoma patients treated with bevacizumab and irinotecan. J Clin Oncol 26: 271-278, 2008
  • Thompson EM, et al.: The paradoxical effect of bevacizumab in the therapy of malignant gliomas. Neurology 76: 87–93, 2011
  • Vredenburgh JJ, et al. Bevacizumab plus irinotecan in recurrent glioblastoma multiforme. J Clin Oncol 25: 4722-4729, 2007
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