ACP日本支部 2019年次総会 黒川賞(若手医師部門)受賞によせて
東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科 松尾裕一郎
この度は、栄誉ある黒川賞をいただき、大変光栄に思います。今回の私達の研究「健康診断を受診する患者は、自身の心血管病リスクを過大評価する」は、私達が普段の外来診療で感じていた疑問、違和感を検証したものです。健康診断では、一般にLDLコレステロールが120mg/dLを超えると「軽度の異常」という判定になります。では実際に、それらの患者がその後10年でどのくらいの確率で心血管病を発症するかというと、問題が軽度の高LDL血症だけであれば数%以下程度です。しかしながら、患者自身はリスクがもっと高いと考えており、心血管病発症を必要以上に心配しているのではないか?というのが私達の疑問です。結果は私達の予想通り、Suita Scoreにより計算される患者の心血管病リスクは3%程度であるのに対し、患者自身が予測するリスクは30%程度である、というものでした。このことから、日本における脂質異常症などの生活習慣病診療が、患者の誤解のもとに行われている可能性、自身のリスクについて医療者と話をする機会の無い患者が、不必要な不安を抱えている可能性などを、間接的に示すことができたと考えています。
今後、このリスクのずれが患者の受療行動、意思決定、満足度、予後などの重要な指標とどのように関連するか、より臨床場面に直結する疑問に答えていけるよう、検証を進めていきたいと考えています。
改めましてこの場をお借りし、今回の研究の立案、計画、発表に至るまで多大なるご指導をいただいた当科部長の平岡栄治先生に御礼を申し上げ、私に発表の機会を与えていただいた米国内科学会日本支部総会の関係者の皆様に感謝の意を表したいと思います。