ACPは地球を救う!
ACP日本支部長 上野文昭
いまさらですが,ACPの存在価値はどこにあるのでしょうか.ACPには多くの優れた内科医,研修医,医学生が入会し,世界最大の医学系学術団体を構成しています.ACPはその会員に対し,豊富な教育リソースを提供しながら内科系医学の知識と技術の向上に寄与し,高い水準の医療で社会に貢献することを責務と考えています.ACPのミッションを達成するために,7つの具体的なゴールが明記されています.いずれも内科医の質の向上を目指したものですが,うち3つに”public”や”patients”というキーワードが含まれています.すなわちACPは会員だけを考えているわけではなく,よい内科医を育んで社会全体の健康を改善しようという意図を明らかにしています.最近変わったACPのロゴに,Leading Internal Medicine, Improving Livesというコピーがあります.後半部分にACPの強い意志が感じ取れます.
ほかの学会だって同じではないかという反論もあるでしょう.最先端の治療技術を開発し,学会員を適切に教育しているではないか.これが世の中のためでなくて何なんだという反論です.決定的に異なる点が2つあります.一つには他の学会はACPほど明確に社会のために活動するという意識や行動を前面に出していません.学会は学会員がその領域の学問を研究する場であるという認識が主体ではないでしょうか.ですから時折市民公開講座を主催することや患者向けガイドラインを作ることなどで,お茶を濁しているわけです.ACPの役員会議の議題の約半分は社会に関連したもので,少なくともACPのリーダーたちはこのゴールをしっかりと把握しています.
もう一つ忘れてはならない点があります.世界の医療はValue Based Medicineへと急速に舵を切り始めました.患者の価値観は重視されて当然ですが,患者を含めた社会の価値観も同様に大切です.つまりコストの問題です.医療資源は有限です.患者の自己負担だけでなく,社会全体の負担を真剣に考えないと,国の財政が破綻する恐れが出るほど医療費は高騰しています.これは一つの国だけでなく,われわれの地球が破滅する危険さえ感じられます.世の中の学会は新規診療技術の開発に没頭しています.一部の患者はその恩恵にあずかっていることは喜ばしいのですが,臨床応用された新しい高価な技術が医療費高騰の一因でもあります.多くの学会はそれぞれの分野の新規技術を何とか承認させて国庫負担にさせることで,学会の存在感をアピールしようとしているだけです.世の中も「新しい医療=よい医療」という勘違いに気づいていません.ACPの示している姿勢は正反対です.Value Based MedicineのACP流解釈がHigh Value Careであり,ここでは患者のアウトカム改善と同時にコスト意識が重視されています.ACPのHigh Value Care Initiativeは臨床医,教育者,患者に具体的なウェブ情報を提供し,コストを抑えたよい医療(多くは新しくはない)を実践することを支援しています.
ACPの活動は,医師を適切に教育し,患者と社会に貢献するだけでなく,さらに地球を救うことに繋がるのではないかという気がしてなりません.